175話 精霊との再会
舞はヨクの眠る場所の前に座ると、自分が戻った事を心の中で報告したのだ。
私はヨクがいなかったら、ここでの生活を続ける事が出来なかっただろう。
感謝の言葉を言うことすらできなかった。
最後のお別れさえ言えなかった。
それが心残りだった。
「舞・・・色々考えてしまうかもしれないけど、舞がしっかり前を向いて生きて行く事が大事だからね。」
カクはそう言って、心配そうに私の顔を覗き込んだのだ。
「ええ、わかってる。
また、ここに来ても良いかな?」
「もちろんだよ。」
私は溢れた涙を拭って、カクに微笑んだのだ。
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私はその後、魔人の世界に繋がる洞窟に向かったのだ。
以前と違い、今は誰でも自由に通り抜けが出来るようになっていたのだ。
ここに来るまでにも、馬車から見た街並みは以前と違い、少しだけ近代化が見られた。
人間にとっては長い年月が過ぎた事を実感したのだ。
「舞、昔とだいぶ違うだろう。
でも、安心して。
魔人の世界は殆ど変わってないと思うよ。」
カクが洞窟の入り口まで送ってくれたのだ。
「舞、これからどうするか決まったら教えてくれ。
また、薬師の勉強をしたかったら、以前と同じようにうちに来ると良いよ。
うちはいつでも大歓迎だよ。
孫達なんて、今まで話でしか聞いた事が無かった人物に会えただけで、大喜びなんだよ。
遠慮はいらないからね。」
「ありがとう、カク。
よく考えて答えを出すわ。
ケイシ家がある事で、私はいつでも安心してここに居られるわ。」
私はカクと別れると、洞窟の中をゆっくりと歩いた。
以前はあまり照明もなく暗いトンネルであったが、今はトンネルの内側はかなり明るい照明が付けられていたのだ。
壁には素敵な絵が描かれている事に気づいた。
それはトンネルの奥まで描かれているようで、私はゆっくりと歩きながら眺めたのだ。
するとある事に気づいたのだ。
どうもこの壁に描かれている物は、物語のように繋がっているのだ。
何だか何処かで見たような風景・・・
そう思った時、私は驚いて足を止めたのだ。
そこには金色の光に包まれた、黒髪で黒い瞳の少女が描かれていたのだ。
これって・・・
私はその絵を見ながら歩き進めると、大きな森やドラゴン、翼のある人達、黒い影、地下の森の中の大きな虫達・・・
まるで私が今まで冒険した事が描かれているかのようだった。
そして、黒髪の少女が光と共に必ず描かれていて、どんな暗闇の中でも、光は必ずそこにある事を伝えているかのようだった。
誰が一体これを・・・
そんな事を考えながらトンネルを歩いて行くと、目の前に明るい光が見えたのだ。
そこには私が知っている魔人の国が存在したのだ。
トンネルを出ると、柔らかい風が私の頬を撫でるように吹いていて、とても心地よかった。
そこから見える岩山や草原は私の知っている場所であり、何よりあのエネルギー溢れる森は、以前と同じようにちゃんとそこにあったのだ。
私はブラックにすぐにでも会いに行きたかったが、正直会うのが怖かったのだ。
私のいない五十年の間に、ブラックの気持ちが以前と同じとは限らないのではと心配だったのだ。
だから先ずは、森へと向かったのだ。
森の入り口に立つと、目の前には細い一本道が以前と同じように存在していた。
私は急いで森の中心まで走ったのだ。
そこには大きな木が、生き生きとした枝や葉を茂らせながら存在していたのだ。
よく見ると、その大木の周りには小さな綺麗な花が咲き乱れていた。
私は、その花達を踏みつけないように慎重に大木に近づくと、おでこをくっつけたのだ。
良かった・・・ここは昔と何も変わらない。
そう思っていると、以前と同じように枝や葉がザワザワと動き出し、人一人が通れるトンネルが作られたのだ。
私は躊躇なくその中を急いで走り抜けると、そこには以前と変わらずため息が出るくらい美しい存在が、泣きそうな顔で私を迎えたのだ。
「舞!」
精霊は私の名前を呼ぶと、黙って抱きしめてくれたのだ。
「本当に会えて良かった。
必ず会えると信じていました。
私には、舞から頼まれた仕事がありましたからね。
それを見てもらわない訳にはいかないのですよ。
本当に・・・良かった。」
「心配かけてごめんなさい。
すぐに戻ってくるはずだったのに・・・出来なかったの。」
私はこれまでの事を説明しようすると、精霊は私の手を取りある場所に連れて行ってくれたのだ。
「私も舞にたくさん話したい事があるんです。
ずっと、この時を待っていました。」
精霊はそう言うと、私に素敵な場所を見せてくれたのだ。