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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇との戦い編
173/178

173話 舞のいなくなった世界

 舞がいなくなってから、半年以上経っていた。

 ブラックは王の仕事をする気にもなれず、自室に籠る事が多かった。

 その為、ほとんどの仕事をジルコンが代わりにこなしていたのだ。

 他の幹部たちもブラックが心配でならなかったが、上手く声をかける事が出来なかったのだ。



「確かに、舞に言われたわよ。

 ブラックに代わって、魔人の国を導くという大事な仕事があるのよってね。

 でもそれは、ブラックがいなくなった時の話よ。

 気持ちは塞ぎ込んでいるかも知れないけど、ブラックは生きているわ。

 まだ、私の出番じゃないでしょ、まったく・・・」


 ジルコンはそうブツブツ言いながら、ブラックの代わりに書類にサインをしていたのだ。

 しかし口ではそう言いながらも、今のブラックを責めることは出来なかったのだ。



 ブラックは、たまにふらっといなくなる時があった。

 その時は決まって、精霊の住む森に出かけていたのだ。

 そこでは、同じように舞を心配する精霊と話が出来る事や、何よりその場所は舞が作る薬の匂いに溢れていたのだ。


「やあ、ブラック。

 少しは元気になったかい?

 まあ、ゆっくりして行きなよ。

 ここにいると、心が休まるだろう?」

 

 そう言うと、木で出来たテーブルと椅子を作り出したのだ。

 森の精霊には、舞から託された大事な仕事があった。

 だからブラックと違い、いつまでも塞ぎ込んでいる暇は無かったのだ。

 舞から貰った生薬を使い、精霊の空間で色々な植物を育てていたのだ。

 この世界に存在しない植物も、精霊に守られたこの空間だけには、元気に育っているのだ。

 だから、舞の生まれた世界に行かなくても、この場所さえあれば、今までと同じように薬は作れるのだ。

 それが舞から精霊に託された仕事なのだ。

 だから、森の精霊は舞に会えなくても、ブラックのように塞ぎ込む事は無かったのだ。

 精霊はこの場所にいると、何だか舞を感じる事が出来たからだ。

 そして、ブラックがここに来るのも、同じ思いがあったからだった。


「ブラック、私はこう思うんです。

 確かにまた舞に会えるかはわからない。

 でも、舞の願いを叶えることが自分のやるべき事だと思っています。

 以前・・・ハナと急に会えなくなった時は悲しかったですよ。

 しかし、長い時間がかかったけれど、私たちの前に舞が現れましたね。

 どんな形になるかわからないけど、少なくともハナや舞を思い出させてくれる人にまた会える気がするんですよ。

 ブラック・・・舞からあなたにも言われた事があるんじゃないですか?

 私は、ライバルと言うべきあなたにもそうあってほしいんですよ。

 まだ決着はついてないと思ってますからね。

 次に舞に会えた時に、自信を持って会えるようにしたいんですよ。

 舞の願いを叶えながら、ゆっくり待とうじゃないですか?

 ・・・私達には長い時間があるのですから。」


 そう言って少しだけ微笑むと、ブラックに温かいお茶を出してくれたのだ。

 ブラックが一口飲んでみると、何故だかとても心が落ち着くような気分になったのだ。

 精霊はお茶の中に、舞の薬をほんの少しだけ入れたのだった。

 ブラックは目を閉じて考えてみたのだ。


 舞の言っていた事・・・


 ブラックは少しだけ前を向けるような気がしたのだ。

 


              ○


              ○


              ○



 人間の国であるサイレイ国では、マキョウ国との緊迫した関係がしばらく続いていた。

 しかし現在は、以前と同じような関係修復への話し合いが持たれているのだ。

 それも、マキョウ国の王がザイルの意見を全面的に受け入れた事が、大きかったからだ。


 舞が闇の創造者と一緒に消えた数日後、ケイシ家を訪れようと転移の洞窟を歩く者がいた。

 今までの彼なら、誰かに相談したり指示を受けていたかもしれない。

 しかし今の彼は、自分の判断でケイシ家に向かっていたのだ。

 

 ケイシ家のお屋敷の前に立って悩んでいたのは、ユークレイスであった。

 舞の指示通り、ケイシ家の二人とオウギ王から舞の記憶を抜き取り、記憶の小石を舞に渡していた。

 そしてそれを持ったまま、舞は自分の世界に行ってしまったのだ。

 すでに、闇の創造者の脅威が去った今、舞の記憶をなくす必要はもう無かった。

 実は誰にも話していなかったが、ユークレイスは小石として舞に渡した記憶のコピーを作り、ユークレイス自身も持っていたのだ。

 だから、ユークレイスが彼らの記憶を元に戻す事が可能だった。

 しかし・・・躊躇していたのだ。

 記憶が戻った所で、舞はこの世界にいないのだ。

 いつ戻ってくるかさえわからない。

 それを知った事で、彼らは辛い思いをするかもしれない。

 それならば、いっそ何も知らないままがいいのでは・・・

 ユークレイスは扉の前で、そう悩んでいたのだ。


 自分だったらどうして欲しいだろうか・・・


 そのまま扉の前でしばらく立っていたが、ユークレイスはケイシ家の扉をノックせずその場を去ったのだった。

 しかし、ユークレイスの目は鮮やかに青く輝いていたのだった。

 


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