166話 闇の創造者の力
マキョウ国の部隊は、ゆっくりと防御壁に向かって歩き出した。
進軍による兵士達の足音が、壁の内側にまで響いていた。
しかし、防御壁まで来るとザイルの指示を待つかのように、皆一気に足を止めたのだ。
大穴を開けられた部分の壁は鉱石の効果が失われ、風も炎も発することはなく、もはや防御壁とは言えなかった。
そして、シウン大将とザイルの姿の闇の創造者の間には、緊迫した状況が続いていたのだ。
マキョウ国の国王は、多くの兵士たちに囲まれながら前方にいるザイルの様子を伺っていた。
やはり、あのお方はすごいぞ。
あの壁に大穴を簡単に開けてしまった。
そして部隊を壁の向こうに行けるまでにしてくれたのだ。
このままサイレイ国と戦いに持ち込むなら、勝てる可能性もあるのではと思ってしまう。
ただ、あのお方は先の事を考えているのだ。
今はまだその時では無いと。
ザイルの中にいるあのお方の指示に従えば、問題はないはずなのだ。
そんな素晴らしいお方に認められた私は、なんて幸運なのだろう。
それにしても、サイレイ国はどう出るだろうか。
あの娘もだ・・・
私はゆっくりと高みの見物をさせてもらおうでは無いか・・・
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闇の創造者は考えていた。
目の前にいる者は、サイレイ国に忠誠を誓った立派な兵士なのだろう。
こちらの思うようにはならないと、あの目を見ればわかるのだ。
この者に私が入って、王の元に行くこともできるが・・・
それよりも、ここにいる者達を取引に使う方が得策かもしれない。
そうすれば、サイレイ国の王も、そしてあの黒髪の娘も、私に平伏すだろう。
そうであるなら・・・
シウン大将は腰元の剣に手をかけたのだ。
そして、黒翼国から頂いた氷結の剣を手に持ち構えた。
それを見た他の精鋭部隊もそれぞれの剣に手を掛け、シウン大将の動向を見守ったのだ。
「もう一度言う。
そこから一歩でもこの国に入ってくる事があれば容赦はしない。
それは戦いの合図とみなす!」
シウン大将は、壁の向こうにいるマキョウ国の兵士にも聞こえるくらいの、太い大きな声を響かせたのだ。
「勇ましいな。
まあ、自分が誰を相手にしているか、よく考えるといい。」
ザイルの姿の闇の創造者は、両手を広げると静かに目を閉じたのだ。
すると、シウン大将達が持っていた剣に異変が起きたのだ。
さっきまで鮮やかな光を放っていた剣が、どんどんと色褪せていったのだ。
そして、シウン大将達の立っている地面から鈍い音が響いて来たのだ。
それと同時に、微かに感じられた振動が徐々に大きくなり、シウン大将達の足元の地面が割れるかのようにヒビが入ったのだ。
そしてあっという間に大きな音と共に地面が崩落したのだ。
流石のシウン大将も避ける事は出来ず、その場にいた多くの兵士達と共に、崩壊して出来た穴の中に落ちてしまったのだ。
数メートルの深さがある穴に、兵士が落ちて行く様子を見ていた闇の創造者は、少しだけ満足気な表情をしたのだ。
もっとも、シウン大将の率いる精鋭部隊である為、大きな怪我をする者はいなかった。
しかし、人間である彼等には、よじ登るのは難しい深さであり、冷静さを失うには十分すぎる状況であった。
シウン大将も少しだけ驚いた表情をしたが、すぐにいつもの鋭く冷静な顔つきに変わり、ザイルの姿の闇の創造者を睨んだのだ。
「なるほど、流石であるな。
この状況にも動じぬ精神の強さ。
人間にしておくには本当に勿体無いな。
とにかく、お前達には取引の材料になってもらおう。
そうすれば、王も考えを変えるであろう。」
闇の創造者は、穴に落ちたシウン大将を見下ろしそう話すと、落下を免れた兵士達に、城に戻りこの状況を話してくるように伝えたのだ。
「彼等を助けたくば、王自らここに来るのだとな。
そしてあの黒髪の娘にも・・・」
そう言いかけた時、もうその必要は無い事を闇の創造者は悟ったのだ。
「向こうから来てくれるとは・・・
ブラックも一緒か。
手間が省けたようだ。」
そう言うと、地面が崩落したその先に目を向けたのだ。
すると、その場所に一瞬で現れた者がいたのだ。
そこには、数人の魔人達と結界のキューブを手に持つ舞が立っていたのだった。
舞は目の前の光景に驚き、そして状況を理解すると顔をしかめたのだ。
そして大きなため息をついて、横にいるジルコンと言葉を交わしたのだ。
ジルコンは、周りにある草木に左手を向けたのだ。
すると、優しい光の筋がジルコンへと流れていったのだ。
そしてその左手を目の前の崩落した地面に向けると、土や岩などが浮かび上がり、あっという間に元の状態に戻ったのだ。
もちろん、シウン大将達も無事に地上に降り立つ事が出来たのだ。
周りにいた誰もが、このジルコンの力に驚きしかなかった。
・・・一人を除いて。
そして、力強い舞の大きな黒い瞳は、ザイルの姿の闇の創造者を真っ直ぐに見たのだ。