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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇との戦い編
163/178

163話 帰郷

 私は急いで、父のいる元の世界に戻る準備をした。

 カクには足りない漢方薬を取りに行くと話し、すぐに戻る事を話したのだ。

 前回帰ったのはいつだっただろう。

 半年は帰って無かったかも・・・ 

 もちろん、父にとっては数ヶ月しか経ってはいないのだが。

 結界のキューブをあっちの世界に持って行き、闇の創造者が消滅するのを待つという手はどうだろうかと考えてもみたのだ。

 しかし、ブラックがいないのであれば、闇の創造者は不本意ながらも別の者を探すまでなのかもしれない。

 戻ったところで、結界から出してもらえなければ意味はないのだ。

 私が闇の創造者に協力する事を条件に、ブラックを結界から出してもらうしか手は無いのだろうか・・・

 そうしなければ、融合の直前しかブラックを出そうとはしないのだろう。

 きっとそれでは間に合わない。

 もし私が協力しないとなれば、私を消しにかかるかもしれない。

 闇の創造者が手を下せなくても、他の者にやらせれば良いだけだろう。

 その後は薬の事を知っているケイシ家に危険が及ぶかもしれない。

 それは絶対に避けなければならない。

 もちろん、私が生まれ育った世界にもだ。



 私は久しぶりに薬草庫にある転移の魔法陣の上に立ったのだ。

 光の鉱石の粉末を振りまくと、あっという間に霧状の光に囲まれたのだ。

 そして霧が晴れると、そこは私の生まれ育った世界の私の部屋であった。

 半年ぶりの部屋は以前と変わらず、とても懐かしい気持ちが込み上げて来たのだ。

 靴を手に持ち一階に降りると、父が薬華異堂薬局の本店の方で漢方薬の在庫の確認をしているようだった。


「ただいま!」


 私はあまり驚かさない様に、小声で父に声をかけたのだ。


「おお、舞か。

 急にどうした?

 こっちに来ると手紙はもらって無かったはずだが・・・

 まあ、会えて嬉しいね。」

 

「ちょっと、驚かそうかと思ってね。」


「そうか、こんなサプライズならいつでもいいね。

 今日は泊まって行けるのか?

 何か美味しい物でも食べに行くか?」


 そう言って微笑む父の顔を見ると、とても心が痛かった。


「ああ、ある物で私が作るわよ。

 最近お料理してなかったから、ちょっとやらせて。

 お世話になっているケイシ家にはお手伝いさんがいるから、私の出番はないのよ。

 まあ楽だし、何より美味しいから良いんだけどね。」


 私はそう言って、台所に向かったのだ。

 冷蔵庫を開けると、意外にも父が自炊をしているようで、食材はある程度入っていた。

 この世界にしかない食べ物を見て、とても懐かしく感じたのだ。

 その夜は、久しぶりに父と色々な話をしたのだ。

 子供の頃の話、母や祖父の話。

 最近のこの世界の話題や、私の学校生活の事。

 もちろん、今向こうの世界で起きている事は話さなかった。

 しかし、父は私から何かを感じ取ったのかもしれない。


「舞、急にこっちに来たけど、何かあったのかい?」


「何で?

 何も無いわよ。

 勉強は大変だけどね。」


 私がそう言って微笑むと、それ以上父は何も言わなかった。


 私はその夜、中々寝付けなかった。

 水を飲みに行こうと一階に降りて行くと、何となく本店の薬局が気になったのだ。

 中に入ると、閉め切っていたこともあり、そこは昔から大好きだった生薬の匂いに溢れていた。

 私は思いっきり深呼吸をすると、色々な不安が少しだけ減ったのだった。

 明日は、私が知る限りの漢方薬や生薬を持って行くつもりなのだ。

 私は、祖父が残した書物が沢山並んでいる本棚の前に立った。

 厚手の書物をどかすと、以前と同じ様にケイシ家の薬草庫と繋がる扉がそこにはあったのだ。

 そして私は以前見た、祖父や母、そしてハナさんと思われる写真を取り出し、そこに座り込んで見返したのだ。


 ハナさんは、ケイシ家や王族、そしてブラック達魔人を助ける為に、魔人達に別の世界に行く事を勧めたのだ。

 短い一生である人間にとっては、それは最後の別れとわかっていたはず。

 どんな気持ちだったのだろう・・・

 ふと誰かに見られているような感じがして振り向くと、ある女性の姿が浮かんできたのだ。

 その姿に驚きはしたが、恐怖や不快な感覚はなかった。

 何故なら、そこには以前ブラックの記憶にあった優しく微笑むハナさんの姿があったからだ。


「あの!

 私がこれからやろうとしている事・・・

 それが正解なのでしょうか?」


「・・・正解かどうかは、誰もわからない。

 でも、あなたがそうすべきと思ったなら・・・きっと誰もがあなたが行った事全てを、受け入れてくれるはずよ。

 だから・・・大丈夫。」


 目の前にいる少女の姿のハナさんはそう言って、私の頭を撫でてくれたのだ。

 その手はとても暖かく、私はまるで子供に戻ったみたいに、心が暖かくなって幸せを感じたのだ。


 私は気付くと、祖父の難しい書物を枕にして横になっていた。

 私は写真を見ながらいつの間にか眠ってしまったのだろうか・・・

 あのハナさんと話した事は夢だったのだろうか・・・

 夢の中での事だとしても、私の迷いは消えたのだ。


「よし!」


 私は立ち上がって台所に向かうと、朝ごはんの準備に取りかかったのだ。

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