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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇との戦い編
161/178

161話 変わらない過去

 マキョウ国の王は自分の失態をどう挽回すれば良いものかと考えていた。


 すぐにでもサイレイ国に出兵し、あの娘を奪い取るしか無い・・・

 そしてその後は、娘の薬の力を盾にサイレイ国に勝利すれば、他の小国は私に従うはず。 

 そうすれば、後は魔人の国のみなのだ・・・

 私は執務室をウロウロしながら、今後の事を考えていたのだ。

 その時、執務室の扉がノックされて王妃が入って来たのだ。

 一瞬見ただけでその者は王妃ではなく、あのお方が降りて来ていることがわかったのだ。

 私は跪きそのお方を見上げると、いつもと違い少しだけ表情が穏やかに見えたのだ。


「申し訳ありません。

 私が不甲斐ないばかりに・・・」


 そう言って、私は頭を下げたのだ。


「焦っているようだな。

 急ぐ事はない。

 あの娘は、自ら我らの元に来る事になるだろう。

 今、事を急げばこちらが不利になるだけだ。

 揺さぶりをかける事は良いが、それだけで良いのだ。

 真正面からあの国と戦うには、戦力差が大きいのだ。」


「承知いたしました。」


 私は、あのお方の話を十分に理解する事が出来なかった。

 しかし、今まであのお方が話した事は全て正しかった。

 だから今回も、その指示通り動く事が私の役目なのだ。

 ただ、あの娘が言った言葉・・・裏にいる者・・・

 あの娘はあのお方の事を、わかっているのかもしれない。

 しかし、それを踏まえてのあのお方の指示なのだろう。

 私は、それ以上考えるのをやめたのだ。


 私は執務室にザイルを呼ぶと、これからの指示を出した。

 サイレイ国に揺さぶりをかけるために、兵を集めるのだと。

 ザイルはいつも通り私の指示を承諾したが、その表情は何か言いたげであった。


「何か問題があるか?」


「いえ・・・何も問題ございません。」


 私は執務室を後にするザイルの後ろ姿を見て、呼び止めようかと思ったのだが、それ以上声をかける事が出来なかったのだ。

 いつからだろう・・・ザイルと私の間に、見えない壁が出来ているように感じたのだ。

 

 それから、あのお方はザイルの身体に入り、私と一緒に自ら先頭に立って兵士達に指示を出したのだ。

 マキョウ国の全兵力を集め、サイレイ国の国境近くまで兵を進めたのだ。

 勿論こちらから攻撃する指示はせず、向こうの出方を見る事にするらしい。

 しかし、あのお方は相手が動くなら迎え討つつもりなのだ。

 あのお方の本当の強さは、他の者の中に入る事ではなく、この世の物全てを自由に動かす事が出来る事だ。

 勿論、自由にできる範囲は限られているらしいのだが、それでも向こうの攻撃をある程度無効化できるらしい。

 それを見ればサイレイ国は我々を恐れ、それ以降戦わずとも平伏すことになると話したのだ。

 だが、あのお方のその力はもうすぐ消滅してしまうとも話してくれたのだ。

 手助けはそこまでしか出来ないと。

 だからこそ、あの人間の娘の薬の力が必要だとも話してくれたのだ。

 私をこの世界の救世主として君臨させる為に、力を尽くしてくれるあのお方の意思に、応じられる者にならなくてはいけないのだ。

 その為には、切り捨てなければならない事もあるのかもしれない。



             ○


             ○


             ○



 黒翼国の地下の森では、ブロムが思い通りにならない事に落胆していたのだ。

 どうしてもブラックが結界に取り込まれる事を阻止したかったのだが、上手くいかなかった。

 ブロムは三回ほど過去への遡りを繰り返していたのだ。

 しかし、最初から決まっているかのように、どうブロムが動いても、ブラックが結界に囚われると言う結果が変わらなかったのだ。

 まるで誰かが、ブロムの行動を阻止する為に動いているようにも感じたのだ。


 ブラックに上手く話を伝える事が出来た時も、ブラックが一人にならないようにその後の行動を共にした時も、そして今回幹部であるネフライトから目を離さないようにした時も・・・必ず予想外の隙が生まれ、結果としてブラックが捕らえられているのだ。

 ブロムは自分の力の無さに、心が折れそうになっていたのだ。

 そしてブロムにとっては、四回目となる過去へ遡る話が出た時、ブロムは初めてその話を聞いた時と全く違って、その役目に自信を持つ事が出来なかった。

 未来に影響があってはならないと言われていたので、ブロムは誰にも話す事は出来なかったのだ。

 そんなブロムの様子を見て、そっと声をかけた者がいたのだ。


「ブロム・・・あなた・・・何回戻ったの?」


「え?

 舞さん、なんで・・・」


「何となく、そんな感じがしたの。

 ブロムにとって、初めて話を聞くようには見えなかったから。

 それに・・・私も何度も戻ったから。

 ・・・話してくれる?」


 舞に声をかけてもらった事で、ずっと一人で抱えていたブロムは少しだけ救われた気分になったのだ。


「舞さん、すみません。

 三度ほど戻りましたが、どうやっても結果が変わらないのです。

 申し訳ありません・・・」


 ブロムは、過去に行った時の状況を話したのだ。 

 そして、悔しそうな表情をして頭を下げたのだ。


「そんな事は無いわ。

 ブロム、ありがとう。

 ほんと、結果が変わらない事がどんなに辛いことか・・・

 良くわかるわ。

 でも今回の件は・・・無理なのかもしれない。

 きっと、その時のブロムの行動を逐一見ている者がいたのよ。

 多分、この世界を自由にできる者の一人。

 ブロム、もう戻らなくて大丈夫よ。

 後は私が何とかするから。」


 舞はそう言って、手に持った結界のキューブを大事そうに握りしめたのだ。

 舞は地下の森の主に向かって、話したのだ。


「やっぱり、それでは無理だわ。

 今大丈夫だとしても、この森にブラック達がいた当時は、すでにあの者がこの森自体を手中にしていたのだと思うわ。

 だから、結果は変わらない。

 その者はこの世界を自由に操れる者なのだから。

 そして、私の手にこの結界のキューブがある事も、想定内なんだと思うの。

 私から、その者に会いに行くようにわざと仕向けたのよ。

 悔しいことに、そうしないとブラックを救えないとわからせるためにだわ。」


 舞は本当に悔しかったようで、唇を噛み締めていた。

 舞の話を森の主は静かに聞いた後、口を開いたのだ。


「舞さん・・・私ができる事は、もう無いのかもしれません。

 しかし、私はいつでも舞さんの味方です。

 今回の事もきっと乗り越えられるはずです。

 あなたは、そんな簡単には諦めないのでしょう?」


 森の主はそう言って、私を優しく見つめたのだ。


「ええ、もちろん。」


 舞はそう言って微笑んだが、良い考えがあったわけではなかった。


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