160話 防衛
舞は地下の森の主の話を聞いた時、少し不安な部分もあったが、上手くいけば闇の創造者を出し抜けると考えていた。
ブラックがネフライトの持つ結界に取り込まれる場所は、森の主がわかっていた。
ブロムはその指示された場所に、急いで行く必要があった。
勿論ブロムが近くにいれば、魔人の二人に探知されないはずがないのだ。
しかし、今回はあえて探知される必要があった。
ブロムが偶然遭遇した事にするのが、重要だったのだ。
そして、ブロムに気づいたブラックは、必ず声をかけるはず。
その時にブラックに上手く伝える事が出来れば・・・
後はブロムに任せるしかないのだ。
私は頷くと、森の主はブロムに向き直った。
「・・・では、手筈はわかっていますね?
あなたの意識だけが過去に戻ります。
戻ったら、急いで私が指示した場所に向かってください。
そしてブラックに会ったら、上手く伝えるのです。
過去に戻ると、この事を知る者は私を含め誰もいない世界ですからね。
そして、行動には注意をしてください。
あなたが行った事で、色々な所に影響が出るかもしれません。
それを忘れないように。」
森の主はブロムにそう言うと、以前見た時と同じように、光の集合体に変わったのだ。
そして、その光はブロムを包み込んだのだ。
ブロムは自分を取り囲む光が落ち着くと、今いる場所が先程と違う事がすぐにわかった。
ブラック達が森に入っていた時に、ちょうどブロムも森を探索していたのだ。
地下の森の主の言う通り、ブロムは意識のみ過去に戻る事が出来たのだ。
とにかく、森の主が示した場所へ急がなければならないのだが、そこは今いる場所からは、近いとは言い難い場所であった。
ブロムは大きな黒い翼を広げると、羽音を響かせながら上手く森の木々を避けて飛ぶ事が出来たのだ。
もう一度森の主や遺跡を探そうと、時間がある時はこの地下の森を良く飛び回っていたのだ。
その甲斐もあり、森の主が指し示した場所までの最短ルートは頭に入っていた。
ただ、行ってみないと間に合うかどうかはわからない状況であった。
ブロムは言われた場所に急いで向かうと、まだブラック達が来ている様子はなかった。
ブロムはとりあえず安堵したが、ブラックにどう危険を伝えるかが難題であった。
一緒にいるネフライトに悟られずに伝えなくては行けないのだ。
色々と出来る事を考えていた時、草木がザワザワと音を立てたかと思うと、聞き覚えのある声が聞こえたのだ。
「ブロム殿では無いですか?」
振り向くと魔人の王であるブラックと幹部の魔人が立っていたのだ。
魔人は瞬時に移動出来る事を分かってはいたが、ブロムは急に現れた二人に正直驚いたのだ。
「ブラック殿ではないですか?
こんな所でお会いするとは。
驚きましたよ。」
ブロムは驚きと喜びの笑みで二人を見たのだ。
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人間の国であるサイレイ国では、予想通りの事態が起きていたのだ。
それは、舞とアクアがサイレイ国を出発してから、数日後の事であった。
舞からマキョウ国での事情を聞いた後、すぐにオウギ王はマキョウ国のちょっとした動きにも、警戒を怠らないようにと、シウン大将に指示していたのだ。
サイレイ国の城の中を、早歩きで王の執務室に向かう者がいた。
その者は、いつも以上に鋭い視線を周りに送りながら、大股で急ぎ歩いていた。
しかし、王の執務室の前に立つと息を整え、静かに扉をノックしたのだ。
「オウギ様、マキョウ国が予想通り動きました。
現在、出兵に向けて、続々と城下に兵士達が集まっております。
もう、時間の問題かと・・・」
「シウンか・・・なるほど、予想通りだな。
だが、こちらからは決して動くでないぞ。」
「はい、承知致しました。
ただ、軍の方はどう対応すべきかと。」
「いつでも、危機に対応できるようにして欲しいが・・・
まあ、念の為街中を巡回する頻度は増やして欲しいというくらいだな。
マキョウ国が本来やろうとしている事は別にあるはずだ。
今回の事はデモンストレーションに過ぎないはずだ。」
オウギ王がそう言うと、シウン大将は黙ってビシッと敬礼し、すぐに部屋を退出したのだった。
オウギ王の横では、いつものようにヨクが相談役として控えていた。
普段から気難しい顔に見えるヨクだが、今日はますます顔をしかめていた。
「オウギ様、大丈夫でしょうかね。
魔人の王のお考えの通りなら、確かにこの国と敵対することは得策では無いはずで・・・
まあ、歳を取ると何でも心配しすぎるかもしれませんな。」
そう言って険しい顔を少し緩めたのだ。
「確かにあのマキョウ国の王なら、感情ですぐにでも出兵しそうだがな。
しかし、あの王の後ろに何者かがいるはずなのだ。
先日会った時に確信したのだよ。
あの王一人では、今までの事を企む技量は無いと思う。
そう考えると、裏には賢い者がいるはずなのだよ。
魔人の王の言う通り、本来の目的は魔人の国との敵対だと思うのだ。
だが、その先のシナリオも何かあるのかも知れない。
まあ、慎重に行くしかないが、ここは挑発に乗ってはならない場面であろう。
まあ、マキョウ国の軍が、もしこちらとの国境を越えてくることがあるなら、我が国の防御壁に苦しむことになるだろう。」
実は、このサイレイ国の城下に入るためには、取り囲んだ壁を乗り越えなくてはならない。
しかし、この壁には魔鉱石を使った魔法道具が数多く存在していたのだ。
普段はただの壁でしかないのだが、いざという時に発動する作りになっており、昔から外敵からの防衛に役立っていたのだ。
以前ケイシ家のお屋敷が襲われた時に、防御として活躍したのもその一つであった。
他の国でも鉱石を使った道具を使用されてはいるが、他の小国と違い大国であるサイレイ国ならではの鉄壁の防衛なのだ。
もちろん魔人のような強力な力を持った者には歯が立たないのだが、普通の人間との戦いであれば問題なく大きな効果があったのだ。
魔人に対しては結界で守るしかなかったが、魔人の国を友好国としている今のサイレイ国には、必要のない物となっていた。
「それにしても、あれから舞から連絡が無いのが心配なのだが。
魔人の王の件はどうなったのか・・・」
今度はオウギ王が、さっきとは違い深刻な顔をしてヨクを見たのだ。
「ご心配ありがたいですな、オウギ様。
舞の事だから心配はないでしょう。
魔人の幹部の方々もついている事ですし。
向こうの事はお任せして、今はこちらの事を一番に考えましょう。
オウギ様は、この国の王として考えるべき事が多いのですぞ。」
ヨクは和かにそうは言ったものの、舞の事がずっと気がかりではあり、カクに魔人の国の情報を出来るだけ得るように指示していたのだった。