表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇との戦い編
159/178

159話 森の主との再会

 私は怯えたように見えるネフライトに、ゆっくりと向かったのだ。


「舞殿・・・お願いです。

 こちらに来ないでください。

 あなたを傷つける訳にはいかないのです・・・」


 ネフライトは私が近づくたびに、後退りしたのだ。


「ブラックを返して・・・お願い。」


 私はそう言って、ネフライトを真っ直ぐ見たのだ。

 すると、ネフライトはその場に座り込み、顔を背けながら私に左手を向けたのだ。

 的は外れたが、少しだけネフライトの衝撃風が私をかすめたのだ。

 私は優しい青い光に一瞬だけ包まれたのだ。

 ブラックからもらったペンダントの結界のお陰で、私は無傷だった。

 それを見たネフライトは両手で顔を塞ぎ、声を出して泣き出したのだ。

 ずるいかもしれないが、ネフライトが本気で私に攻撃出来ないのをわかっていた。

 そうであれば、ブラックのお守りであるペンダントだけで十分なのだ。

 だが、それは予想以上の効果があったのだ。

 私を取り巻く青い光を見て、ブラックの姿を見たのかもしれない。

 そんな姿のネフライトを見て、胸が締めつけられる思いだった。

 私はネフライトの肩に手を置くと、小さな声で伝えたのだ。


「ネフライト、大丈夫よ。

 あなたをこんな風に悲しませた者を私は知っているの。

 そして、この世界の者でない私なら、何とか出来るかもしれない・・・いえ、必ず何とかするわ。

 それが私の希望でもあるから。

 ネフライト・・・世の中はそんなに割り切れるものでは無いはず。

 簡単に白黒出来る事ばかりじゃ無いわ。

 殆どが灰色でハッキリしない事ばかり。

 何が正解か間違いかがわからないのよ。

 だからこそ、何か行動を起こす時は、あなたの気持ちに正直でいてほしい。

 こんな数十年しか生きていない人間に言われたくないかもしれないけど・・・

 その方がきっと後悔はしない。

 私と違って、まだまだ長い寿命があるのよ。」

 

 私の話を聞くとネフライトは顔を上げ、目を丸くして驚いていた。

 いつの間にか涙も止まったようなのだ。

 私が顔を緩めると、涙で溢れた顔も同じ様に微笑んでくれたのだ。

 そして、小さな結界のキューブを私に差し出したのだ。

 ネフライトはもう、何も抵抗する事は無かった。

 アクアとスピネルは何も言わずに、ネフライトの腕を支え立ち上がらせたのだ。


「さあ、帰ろう。

 ネフライトがいないと、ジルコンが困っている。

 今はとにかく戻ろう。

 後の事は、ブラックが帰ってから考えよう。

 ネフライトが出来る事を、今はやってほしいだけだよ。」


 スピネルはそう優しく話したのだ。

 アクアは黙ったままだったが、反論もしなかった。

 そしてスピネルはひと足先に、ネフライトを連れて戻る事にしたのだ。

 二人が瞬時に消えると、アクアが真剣な顔で私を見たのだ。


「舞、一体何が起こっているのだ。

 舞は知っているのだろう。

 教えてくれないか?」


 私は少し考えた後、ブラックとの融合の話以外を説明したのだ。

 私の前に現れた闇の創造者。

 この世界を手に入れようとしている事。

 その為に、不思議な薬の力を貸してほしいと言われた事。

 理由はわからないが、ブラックを結界に捕えるように指示したのもその者である事。

 人間の国のマキョウ国の裏にいるのも、その者であった事。

 元々闇の創造者が私に話してきた事や、そこから推測出来る事なので、話す事は問題ないと思った。

 私が話し終えた後、二人は難しい顔で黙ったままだった。


「さあ、まずはこの結界からどうやってブラックを出すかを考えなくちゃね。」


 二人とも頷きながら、私の手のひらにあるキューブの小箱を見たのだ。

 それにしても、ここで闇の創造者が何も仕掛けてこないのが不思議だった。

 と言う事は、このキューブに絶対の自信があるのだろうか・・・

 または、こちらを構っている暇が無い状況が起きたのか・・・

 とにかく、私はアクア、ブロムと共にこのキューブの小箱をどうしたら良いかと思案していた。

 するといきなりブロムがキョロキョロと周りを見回し、呟いたのだ。


「周りの木々がざわついていて、何だかおかしい・・・」


 見上げると、確かにさっきとは違う森の様子なのが、私でもわかるのだ。

 一瞬、闇の創造者が頭をよぎったが、そんな気配ではない事はすぐにわかった。

 そして、木々の間に、以前見た事がある大きな扉がゆっくりと出現したのだ。

 扉がギーッと開くと、私は懐かしい顔を見る事が出来たのだ。

 そこにはブロムが森を訪れても全く会う事が出来なかった、この地下の森の主が立っていたのだ。


「舞さん、お久しぶりです。

 お元気でなによりです。」


 私は嬉しくて、扉の中にいる森の主に駆け寄ったのだ。


「また会えて良かった。」


「あの時に会えると言ったではないですか?」


「そうだったわね。」


 私がそう言うと、優しく微笑んでくれたのだ。

 しかし、すぐに真剣な顔になり、私を見たのだ。


「色々な話をしたいのは山々なのですが、急ぎの話が。

 ブラック殿がその中に捕えられているのですよね。

 舞さん・・・思い出してください。

 この森で起きた事なら、過去に戻る事が出来ると。

 ・・・実は、私はこの森で起きた事を全て把握しておりました。

 ただ、私には手が出せない状況であった事を、理解していただきたい。

 しかし、一つだけ私の力で過去に戻れるのであれば、この状況を少し変えられるかもしれません。

 もちろん、この事を依頼した方に気づかれない様にです。」


「どうしてそれを・・・」


「舞さん、私の前にもあの方達がいらっしゃったのです。

 あなたの力になってほしいと。

 そして、今なら気付かれずに事を起こせる状況と言われました。

 戻せる時間も長くはありません。

 もちろん以前に比べたから、長い時間過去に遡ることが出来るようになりました。

 しかし、それでもギリギリかと・・・

 さあ、時間がありません。

 ただし、戻れるのは一人です。」


「一人?

 ネフライトを戻さないとダメということね?」


 すると、森の主はブロムを見たのだ。

 ・・・その場にいたのはブラックとネフライトのはず。

 私もブロムを見ると、ブロムは少し驚いた顔をしたのだ。


「・・・いえ、舞さん。

 多分この森にいた人物はブラック様以外に二人。

 ネフライト殿と・・・

 私がこの森のどこかにいたのかと思います。

 何度か森の中に入っていましたから。

 しかし情けない事に、ブラック様の事を知る事が出来なかった。

 しかし、私ならきっと!」


 ブロムは悔しそうにそう話したのだ。


 過去へ・・・

 この世界においての禁じ手。

 しかし、私は幾度となく、それを経験している。

 ドラゴンが私の為に過去に戻ってくれた事・・・

 そして、この森では私がブラックの為に何度も何度も過去に戻った・・・

 苦い思い出でもあるが、絶対に忘れたくない記憶。

 この森では、その時にここに存在していた者しか過去を遡れないのだ。

 しかし、どうすれば今の状況を変える事が出来るのだろうか。

 それも闇の創造者に気付かれないようにとは・・・


「舞さん、私に良い考えがあります。」


 森の主は私にそう笑いかけたのだ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ