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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇との戦い編
155/178

155話 『闇』の創造者の思惑

 少し前までは『闇』の創造者の思惑通り、事は進んでいた。

 自らの消滅が近い事がわかってから、どんな形にせよ生きながらえたかった。

 他の創造者のように、自然の摂理を受けれる事は出来なかったのだ。

 そして『闇』の創造者は、ブラックの身体を手に入れこの世界の頂点に立つには、あの人間の娘の薬の力が欲しくなったのだ。

 しかし、この世界の物でない限り、創造者の自由にはならないのが問題であったのだ。

 舞はブラックの身体を得るには邪魔でしかない存在ではあったが、別の世界の物質を得る為にも、舞の存在は重要であったのだ。

 しかしその手段さえわかれば、『闇』の創造者にとって、舞は必要では無いのだ。


『闇』の創造者はマキョウ国の王妃の中に入り込み、他に誰もいない部屋に王を呼び出すと、これからの事を指示したのだ。

 時にはザイルの中に入り、行動を共にした事もあった。

『闇』の創造者にとって、この男はとても使いやすい駒であった。 

 側から見ても、王と王妃が二人きりでいることは、何ら怪しい事はないのだ。

 しかし、今回舞を拘束する事は、『闇』の創造者の意図するものではなかった。

 マキョウ国の王に、舞との接触を促したのは事実だが、まだ拘束する必要はなかったのだ。

 それを先走ってしまった事で、『闇』の創造者は再度計画を練り直さねばならなかったのだ。

 これがきっかけで周辺諸国との亀裂が大きくなるのは事実だが、当初の計画より少し早まっただけであり、大きな問題では無かったのだ。

『闇』の創造者の意思は、最終的に全てを自分の手中に収められれば良かったのだ。



             ○


             ○


             ○



 マキョウ国の王は膝を着きながら、大きなドラゴンが飛び去った空を震えながら見ていた。


 まずい、まずい、・・・このままではまずい。

 せっかくあのお方に喜んでもらう為に、あの娘を差し出すはずだった。

 だが、これは何だ。

 城を壊された上に逃げられるとは。

 確かに、今回はあの娘との接触のみで良いと言われていたのだ。

 しかし、娘をここに留める事が出来れば、あのお方の信頼をより得られるはずであったのだ。

 それなのに、あの娘が連れていた小さなドラゴンがあんな巨大化するとは。

 なんという失態。

 魔人よけの結界も張っていたはずなのに。

 こんなはずでは無かった・・・


・・・運命の悪戯か、平民と同じ生活をしていた私が、いきなりマキョウ国の王に即位する事を強いられたのだ。

 そこには、私の意思は・・・無かった。

 王と言っても名ばかりで、私は城に来ても何もわからず、周りの大臣達に言われるがままに過ごしているしか無かったのだ。

 これからの事を考えると、恐ろしく夜も眠れぬ日々が続いていた。

 そしていつものように眠れぬ夜、夜風を浴びようとバルコニーに出たのだ。

 すると、私同様いきなり王妃となった私の伴侶も、起きてきたのだ。

 彼女も私と結婚した事で、思わぬ運命を辿る事となり、申し訳ないと思ったのだ。

 とても優しく聡明な彼女にどれだけ助けられたことか。

 そして私のそばにいて、いつも私の盾となってくれるザイル。

 この二人がいたから、私は何とかここに立っていられたのだ。


「どうした?

 眠れないのかい?」

 

 星明かりに見えたその表情は、私が知る温和な王妃の顔では無かった。

 彼女の中にいた創造者に、その時初めてお会いしたのだ。

 

 創造者は私を王にする為のレールを作ってくれた事や、今の世界が創造者の理想とする世界ではないと話してくれたのだ。

 今の世界には救世主が必要であり、それには何故か私が適任であると言ってくれたのだ。

 そして、今後私が人間の世界をまとめ上げる存在になる事が、創造者の意思と教えてくれたのだ。

 いずれは、魔人の国も従えるほどの力を与えてくれると、創造者は言ってくれたのだ。

 当初は恐ろしい魔物の様な存在かと思い、不安や疑問があっても逆らう事など出来なかった。

 しかし、その創造者の言う通りに動く事で、全てが上手く行き始めたのだ。

 以前と違い誰もが私に敬意を払い、名ばかりの王ではなくなったのだ。

 そして今の私は、創造者の期待に応えたいと思っているのだ。

 それなのに・・・



 

「王!大丈夫ですか?」


 瓦礫を避けながら、ザイルと数人の兵士が駆け寄って来たのだ。


「早くこちらへ」


「ザイル、すぐに出兵の準備だ!

 城を破壊されて、こちらには出兵の大義名分はあるぞ。

 必ずあの娘を捕えるのだ。

 今度は客人では無いぞ。

 城を破壊した罪人としてだ!」


 マキョウ国の王は膝をついたまま血走った目を見開き、ザイルの服を掴んだのだ。


「・・・わかりました。

 しかし先ずはこちらに避難を。

 ここも、まだ崩れる可能性があります。」


 ザイルは破壊された城の一部を見上げて話したのだ。

 彼女は簡単に拘束されるような者では無いのかもしれない。

 ザイルはマキョウ国の王を起き上がらせて思ったのだ。

 王の後ろに何者かがいるように、彼女にも多くの協力者がいるのだろう。

 魔人の国やサイレイ国の者達は、きっと彼女を守る事だろう。

 もう、私が何か影響を及ぼす事が出来ない状況なのかもしれない。

 それでも、私は最後まで彼の近くにいる事を強く誓ったのだ。

 願わくば、以前の臆病で優しかった彼にまた会いたいのだ。

 

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