155話 『闇』の創造者の思惑
少し前までは『闇』の創造者の思惑通り、事は進んでいた。
自らの消滅が近い事がわかってから、どんな形にせよ生きながらえたかった。
他の創造者のように、自然の摂理を受けれる事は出来なかったのだ。
そして『闇』の創造者は、ブラックの身体を手に入れこの世界の頂点に立つには、あの人間の娘の薬の力が欲しくなったのだ。
しかし、この世界の物でない限り、創造者の自由にはならないのが問題であったのだ。
舞はブラックの身体を得るには邪魔でしかない存在ではあったが、別の世界の物質を得る為にも、舞の存在は重要であったのだ。
しかしその手段さえわかれば、『闇』の創造者にとって、舞は必要では無いのだ。
『闇』の創造者はマキョウ国の王妃の中に入り込み、他に誰もいない部屋に王を呼び出すと、これからの事を指示したのだ。
時にはザイルの中に入り、行動を共にした事もあった。
『闇』の創造者にとって、この男はとても使いやすい駒であった。
側から見ても、王と王妃が二人きりでいることは、何ら怪しい事はないのだ。
しかし、今回舞を拘束する事は、『闇』の創造者の意図するものではなかった。
マキョウ国の王に、舞との接触を促したのは事実だが、まだ拘束する必要はなかったのだ。
それを先走ってしまった事で、『闇』の創造者は再度計画を練り直さねばならなかったのだ。
これがきっかけで周辺諸国との亀裂が大きくなるのは事実だが、当初の計画より少し早まっただけであり、大きな問題では無かったのだ。
『闇』の創造者の意思は、最終的に全てを自分の手中に収められれば良かったのだ。
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マキョウ国の王は膝を着きながら、大きなドラゴンが飛び去った空を震えながら見ていた。
まずい、まずい、・・・このままではまずい。
せっかくあのお方に喜んでもらう為に、あの娘を差し出すはずだった。
だが、これは何だ。
城を壊された上に逃げられるとは。
確かに、今回はあの娘との接触のみで良いと言われていたのだ。
しかし、娘をここに留める事が出来れば、あのお方の信頼をより得られるはずであったのだ。
それなのに、あの娘が連れていた小さなドラゴンがあんな巨大化するとは。
なんという失態。
魔人よけの結界も張っていたはずなのに。
こんなはずでは無かった・・・
・・・運命の悪戯か、平民と同じ生活をしていた私が、いきなりマキョウ国の王に即位する事を強いられたのだ。
そこには、私の意思は・・・無かった。
王と言っても名ばかりで、私は城に来ても何もわからず、周りの大臣達に言われるがままに過ごしているしか無かったのだ。
これからの事を考えると、恐ろしく夜も眠れぬ日々が続いていた。
そしていつものように眠れぬ夜、夜風を浴びようとバルコニーに出たのだ。
すると、私同様いきなり王妃となった私の伴侶も、起きてきたのだ。
彼女も私と結婚した事で、思わぬ運命を辿る事となり、申し訳ないと思ったのだ。
とても優しく聡明な彼女にどれだけ助けられたことか。
そして私のそばにいて、いつも私の盾となってくれるザイル。
この二人がいたから、私は何とかここに立っていられたのだ。
「どうした?
眠れないのかい?」
星明かりに見えたその表情は、私が知る温和な王妃の顔では無かった。
彼女の中にいた創造者に、その時初めてお会いしたのだ。
創造者は私を王にする為のレールを作ってくれた事や、今の世界が創造者の理想とする世界ではないと話してくれたのだ。
今の世界には救世主が必要であり、それには何故か私が適任であると言ってくれたのだ。
そして、今後私が人間の世界をまとめ上げる存在になる事が、創造者の意思と教えてくれたのだ。
いずれは、魔人の国も従えるほどの力を与えてくれると、創造者は言ってくれたのだ。
当初は恐ろしい魔物の様な存在かと思い、不安や疑問があっても逆らう事など出来なかった。
しかし、その創造者の言う通りに動く事で、全てが上手く行き始めたのだ。
以前と違い誰もが私に敬意を払い、名ばかりの王ではなくなったのだ。
そして今の私は、創造者の期待に応えたいと思っているのだ。
それなのに・・・
「王!大丈夫ですか?」
瓦礫を避けながら、ザイルと数人の兵士が駆け寄って来たのだ。
「早くこちらへ」
「ザイル、すぐに出兵の準備だ!
城を破壊されて、こちらには出兵の大義名分はあるぞ。
必ずあの娘を捕えるのだ。
今度は客人では無いぞ。
城を破壊した罪人としてだ!」
マキョウ国の王は膝をついたまま血走った目を見開き、ザイルの服を掴んだのだ。
「・・・わかりました。
しかし先ずはこちらに避難を。
ここも、まだ崩れる可能性があります。」
ザイルは破壊された城の一部を見上げて話したのだ。
彼女は簡単に拘束されるような者では無いのかもしれない。
ザイルはマキョウ国の王を起き上がらせて思ったのだ。
王の後ろに何者かがいるように、彼女にも多くの協力者がいるのだろう。
魔人の国やサイレイ国の者達は、きっと彼女を守る事だろう。
もう、私が何か影響を及ぼす事が出来ない状況なのかもしれない。
それでも、私は最後まで彼の近くにいる事を強く誓ったのだ。
願わくば、以前の臆病で優しかった彼にまた会いたいのだ。