151話 最後の創造者
マキョウ国の城の中庭では、この国の王妃と舞が向き合っていた。
王妃は終始無表情であり、舞は大きな黒い瞳をより見開き、目の前の王妃の動きを見逃さない様にしていた。
「警戒しているようだな?
・・・と言う事は、私が誰かもわかっていると言うところか。」
「多分私の予想が当たっているのなら、貴方と同じような存在を第四の世界でお会いしたと思います。」
私はもちろん、少し前に二人の創造者から忠告を受けた事は話さなかった。
ただ、あの第四の世界での事は、きっと目の前の『闇』の創造者も承知の事と思いあえてその話をしたのだ。
それにしても話を聞いて間もないのに、早速接触して来たとは・・・
「なるほど。
あの世界か・・・あの二人で想像した世界。
さぞ、つまらない世界であっただろう。
私が関与しない世界など・・・
まあ、それは良い。
私が其方の前に現れた理由はわかるか?」
「いえ・・・」
目の前にいる『闇』の創造者がやりたい事は聞いていたが、確かに私の前に現れた理由は分からなかった。
「この国の王に其方と話す事を勧めたのは・・・私だ。
そして、今回この国に来てもらったわけだ。
まあ、何か危害を加えようと思っているわけでは無い。
今のところはだが。」
「今のところ?」
私はその言葉が引っかかった。
「私はね、もう創造者としてでは無く、この地に足をつけこの世界をまとめたいと思ってね。
自分たちが作った世界ではあるが、どの世界も私の理想とは大きくかけ離れてしまってね。
他の創造者はそれで良いと言うのだが、私はどうもね・・・
それでだ。
其方の作る薬がとても魅力的でね。
是非、私の考えに共感して欲しいと思っているよ。
つまりは、手伝って欲しいだけだ。
その薬を使って、私が世界を一つに治めるためにだ。」
やはり、他の創造者達に聞いた通り・・・
「そんな・・・手伝いなんて、私には出来ない。
それに、創造者が地に足をつけるなんて。
どうして今になって・・・」
私はあえて、なぜ今という質問をしたのだ。
だが、その答えはもらえなかったのだ。
それは隠したいと言う事なのだろう。
「・・・とにかく、良い返事を待っている。
そうでなければ、其方の大事な者が辛い思いをするだけだろうな。
その者には、快く働いてもらいたいのでな。」
「その者って・・・」
本当は聞くまでもないが・・・
きっとそれがブラックという事なのだろう。
「まあ私は気が長いが、私の僕たる者達には気が短い奴もいるのでな。
十分気をつける事だな。」
そう言った後、目の前の王妃はガクンと膝から倒れたのだ。
私はすぐに王妃の身体を支えて顔を見ると、虚な目をしていたのだ。
だが、意識はあるようだった。
「私はいったい・・・
最近、急に意識を失う事が多くて・・・失礼致しました。」
「いえ、大丈夫ですか?
あちらで休みましょう。」
なるほど、この王妃には身体を乗っ取られている記憶は無いのだろう。
だが、さっきの会話に出てきた僕たる者達とは・・・
あの王やザイルの事なのか?
他にもまだ・・・
マキョウ国の王やカクがいるところに向かうと、何やら薬師大学校の話で盛り上がっており、笑いが聞こえたのだ。
一緒に連れて来た小さなドラゴンに目をやると、周りは気にせず美味しそうにお菓子をくちばしでつまんでいたのだ。
どうも、ペットのような立場に喜んで徹しているようなのだ。
そして意外にも、さっきまで不安な事を言っていたカクだったが、自分の専門分野の話になると饒舌になるようだった。
しかし・・・私は一緒に笑う気にはなれなかった。
マキョウ国の王は戻って来た私達を見るなり、顔色を変えて王妃の元にかけ寄ったのだ。
「王妃よ、大丈夫かい。
一体、どうしたのかい。」
「いえ、私は大丈夫ですわ。」
「いや、さっきまで元気だったはずなのに、舞殿と外に出た途端と言うのが・・・」
マキョウ国の王はそう言って、私を睨んだのだ。
「舞殿は不思議な薬を扱っておられる。
王妃にも何か使ったのでは無いのですか?」
「何を言うのです。
舞殿は、そんな事をするお方ではありません。
勝手な想像でお話しするのは問題ですな。」
私が何か言おうとする前に、シウン大将がマキョウ国の王に鋭い目を向け、声を上げたのだ。
「そうですよ。
舞がそんな事をする動機がありませんよ。
今回舞を呼んだのは、あなた方ではないですか?」
カクも青い顔をしながらも、反論してくれたのだ。
「ええ、私は急に具合が悪くなっただけですよ。
たまにあるではないですか?
彼女は関係ありませんよ。」
王妃はそう言ってくれたのだが、王は取り合わなかったのだ。
「いやいや、王妃が気付かぬうちに何か使ったに違いない。
舞殿、このまま帰すわけにはなりませんね。
皆さんにはしばらく、ここにいてもらいましょう。
後で詳しく話をお聞かせ願おう。」
そう言って王はザイルに指示をすると、何人もの兵士がバタバタと部屋に入って来て、私達をあっという間に囲んだのだ。
シウン大将は腰元にある剣に手をかけて、周りを見回したのだ。
しかし、シウン大将がいるからと言っても、今はかなりの人数に取り囲まれた状況なのだ。
今、逃げる事は難しかった。
それに私は誰かが怪我をするのだけは、避けたかったのだ。
「シウン大将、従いましょう。
ちゃんと話せばわかってくれると思います。」
そうシウン大将を諭したのだが、きっと無理な話である事はわかっているのだ。
多分、創造者の僕として動いているのだろう。
「しかし舞殿、これでは・・・わかりました。
私が付いていながら、申し訳ありません。」
シウン大将は頭を下げると、悔しそうな顔をしたのだ。
・・・なるほど。
最初からこの状況に持ち込むつもりだったのだろう。
さて、彼の出番だわね。
私は大人しくお菓子を食べている小さなドラゴンを見つめたのだ。