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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇との戦い編
150/178

150話 裏切り者

 魔人の国の執務室では、ブラックが王の仕事をしながらも、ある事が気になっていたのだ。


 サイレイ国に現れた巨大な蜘蛛・・・どう考えてもおかしいのだ。

 結界に閉じ込めて小さくなった蜘蛛を見て、私は考えていた。

 これは黒翼国の地下の森にいる、巨大化した生き物なのだ。

 何故それがあの時現れたのか。

 誰かがわざと仕掛けたとしか思えない。

 だが、いったい誰が・・・

 この出所を知っているのは一部の者だけなのだ。

 その事が頭から離れず、仕事に集中する事が出来なかった。

 私はこの国と翼国とが繋がる湖の岩場に行って、確かめたい事があったのだ。

 そう思った時、執務室の扉がノックされたのだ。

 

「ブラック様、お出かけでしょうか?

 もう、書類に目を通していただけましたか?」


 ネフライトが入るなり、仕事の進行状況を確認してきたのだ。


「ああ、実は・・・」


 今から出かけてくると言いづらかったが、ネフライトに自分の思う事を話した。

 

「・・・なるほど。

 そう言う事なら、私も一緒に参りましょう。

 たまには城から出て、ブラック様のお手伝いをするのもいいかもしれません。

 それに、その蜘蛛をずっと執務室に置かれても、少し気になりますので。」


 普段のネフライトは他の幹部に比べ、城で私の秘書のような仕事をする事が中心であった。

 たまにはネフライトに付き合ってもらうのも良いのかもしれない。


「そうですね、ネフライト。

 では、一緒に行くとしましょう。」


 ジルコンに私の留守を頼むと、湖の近くにある岩場に向かったのだ。

 そこにある翼国と繋がる転移のトンネルは、特に問題がないように思えた。

 以前から、他の者が勝手にこのトンネルを使わないように、私が結界を張っておいたのだ。

 この結界は翼国からこちらの国に来る事は出来るようにはなっていたが、向こうの世界でもそこは管理されているはずなのだ。

 それに、翼国人がこの世界に長く留まっていられない身体を考えると、そんな簡単に来ようとする場所では無いのだ。

 翼国人の話では、この魔人の世界では半日もすると身体の異変が起きてくるらしい。

 そして、実際結界が破られた訳でも無く、この岩場自体に我々以外の他の者の痕跡も感じる事は出来なかったのだ。


「ブラック様、問題ないようですね。」


「・・・そのようだね。」


 私とネフライトは岩場の暗い転移トンネルをゆっくりと降りると、目の前には翼国人の世界が広がっていた。

 相変わらず不思議な場所で、大きな木の様な植物の上に国が存在しているのだ。

 トンネルを降りた場所には、黒翼国の兵士が数人警備しており、やはり簡単に出入りできる場所では無く、しっかりと管理されていたのだ。

 兵士達は、私達の事を認識していたようで、すぐに敬礼をして迎えたのだ。

 多分、ブロムが私や幹部については問題なく通す様に話が通っているのだろう。

 さすが、黒翼国の王子なのだ。

 私は後ほど、ブロムや王に挨拶に行く事を伝えてもらうように頼み、先に地下の森に向かったのだ。


 そこは相変わらず、暗く怪しい雰囲気に包まれていたが、以前と違い攻撃的な気配は感じられなかったのだ。

 きっと、この森の主のお陰なのだろう。

 舞が私を助けてくれた場所。

 そして、森の主を舞が回復させた事で、巨大な生き物はそのままではあったが、この森も落ち着いた場所になったのだ。

 私は小さな結界に囚われていた蜘蛛を放すと、すぐに元の巨大な蜘蛛に戻り、ガサガサと言いながら森の奥の方に消えていったのだ。


「ネフライトはここが初めてでしたね。

 今は森の主がちゃんと管理しているようなので、危ない事は無いようです。

 さあ、とりあえず黒翼国の城に向かいましょうか?

 挨拶だけはしておきたいので。」


 私がそうネフライトに向いて話すと、ネフライトは俯いたままであった。


「どうしました、ネフライト?」


 私がそう声をかけると、ネフライトはとても辛そうな顔でゆっくりと私をみたのだ。


「・・・ブラック様。

 私は長年貴方様に仕えておりました。

 とても尊敬しておりますし、崇拝すべき方でもあると今も思っております。

 そして、もっと素晴らしい存在に変わるべきお人だと信じております。」


「ネフライト、いったい何の話だ?」


「・・・これから私が行う事をお許しください。

 全てはブラック様の為でございます。」


「?」


 ネフライトはそう言い終わると、手のひらに小さな簡易結界のようなキューブを乗せたのだ。

 そして、私は黒い煙に包まれると、いつの間にか何も無い白い空間に囚われたのだ。


「ネフライト、いったい何をした!」


 私は完全に油断したのだ。

 あのネフライトが私に何かを仕掛けてくる事などあり得ないからだ。

 そして何も無い空間に、ネフライトの思念だけが届いたのだ。


「ブラック様。

 そこはただの結界ではありません。

 魔力を吸収する結界である為、ブラック様がどんなに強いお方でも、そこから出る事は出来ません。」


「ネフライト、これを誰から渡されたのですか?

 こんな物の存在は初めて知った。

 正直、人間や魔人が作れる物の域を超えている。」


「・・・ブラック様申し訳ありません。

 しかし、私が貴方様に対する気持ちは、昔も今も変わっておりません。」


 ネフライトはそう伝えたきり、返答が無かったのだ。 




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