149話 接触
ザイルに案内されて城の中に入ると、ザイルは歩きながら丁寧に話し出したのだ。
そこには、先日ユークレイスが話したように、怪しい気配は全くと言ってなかったのだ。
以前思った通りの端正な顔つきをしており、落ち着いた雰囲気を持っていた。
やはりザイルの方が、王様らしい品格を備えているようにも見えたのだ。
「皆様、遠い所ありがとうございます。
さあ、我主人の元に案内いたします。
王妃共々お会いできるのを、ずっと楽しみにしておりましたよ。」
「こちらこそ、ご招待ありがとうございます。
しかし、私で良かったのでしょうか?
ご期待に応えられず、がっかりさせてしまうのでは?」
「いえいえ、ご謙遜を。
先日の蜘蛛の件、そして以前の薬師大学校での件と言い、素晴らしい働きがあった事を、私も聞いておりますよ。
我主人は是非舞殿とお話をしたいとおっしゃっておりましたから。
それに、シウン大将や王室の薬師の方までご一緒となれば、舞殿がオウギ王から一目置かれている事がわかりますよ。」
確かに、得体の知れない小娘だとしたら、この二人と一緒に来ている事自体、ありえないのかも知れない。
カクも腐っても、王室付きの薬師であるのだ。
シウン大将は言うまでもなく、軍の顔とも言えるわけである。
マキョウ国の王も、私達に手を出せばただでは済まないと言う事は、承知しているのだろう。
もちろん、それを考えて同行をお願いしたのだが。
だから、滅多なことにはならないと思いたいのだ。
ザイルは私の肩にいた小さなドラゴンに少しだけ目を向けたが、何も言ってこなかったので私もそのまま進んだのだ。
城の中は外と違い、物々しい雰囲気はなかった。
それほど贅沢な作りでは無いものの、品の良い装飾品が置かれていた。
どちらかと言うと、サイレイ国の方が豪華であるように感じたのだ。
この辺が、大国と小国の差か・・・
しかし、今のマキョウ国が軍に国力を注いでいる関係もあるのかもしれない。
少なくとも、贅沢三昧の印象は無かった。
私はキョロキョロしながらザイルについて行くと、ザイルは大きな扉の前で止まりノックしたのだ。
すると、ギーッという重たい音を立てながら、扉がゆっくりと開いたのだ。
ザイルに促されて中に入ると、ギョロっとした目の頰のこけた人物がこちらを見てニヤリとしたのだ。
大きなソファに女性と共に座っていたが、私達を見ると立ち上がり、話し始めたのだ。
「これはこれは、舞殿。
お待ちしておりました。
さあさあ、こちらに。」
その人物を見ると、以前と同じで何だか背筋がゾッとしたのだ。
どうも、生理的に受け付けないとはこう言う事なのかもしれない。
そう思いながらも、以前ヨクに教わった通り王族に向けての挨拶をしっかりとして、ニコリと作り笑いをしたのだ。
そして、私とカクはソファに座ったのだが、シウン大将は護衛で同行したという事なので、部屋の入り口で待機を希望したのだ。
一緒に座るように促したのだが、シウン大将はあくまでも真面目な軍人であったのだ。
そして、ここに案内してくれたザイルも同じように、王から少し離れた所に立っていたのだ。
その部屋はとても明るく、大きな窓から中庭が見渡せる場所であった。
城の中の雰囲気と違い、綺麗な花が咲き乱れる庭を見ると、私の緊張も少しほぐれたのだ。
それに今回、マキョウ国の王妃とちゃんと話すのは初めてだったが、王と違いとても話しやすく好感の持てる方であるのにホッとしたのだ。
私の肩から降りたドラゴンは美味しそうなお菓子を見つけ、それをついばみながら、ソファに寝そべっていた。
周りに関心を持つことも無く、ある意味アクアだったのだ。
予想通り、王からは薬についての話題が中心となった。
その辺は予想していたので、カクと上手く口裏を合わせ、あくまでも研究中の薬であり、細かな事は機密事項であると伝えたのだ。
マキョウ国の王は残念そうな顔をしたが、王妃からの助け舟もあり、それ以上根掘り葉掘り聞いてくる事は無かった。
それに、カクが薬師大学校で講師をしている事を知ると、王は大学の話題に食い付き、私は少しホッとしたのだ。
そんな私を見てか、王妃は中庭へと誘ってくれたのだ。
意外にも大学の話になると、カクが上手く王の相手をしてくれていたので、私は王妃と一緒に中庭に出たのだ。
そこはとても手入れの行き届いた庭園であり、色とりどりの花が咲き乱れた素敵な場所であった。
あの生理的に受け付けない王と話すより、ここは何倍も心地よかったのだ。
どうも王妃の話によると、急に自分の夫が王に即位する事で、自分もこの城に連れてこられた立場であるため、未だに戸惑う事が多いという。
きっと大変な苦労もあるのだろう。
生まれながらの王族と違う事が、私が何となく好感が持てた理由なのかもしれない。
そう思った時である。
横にいる王妃の身体が、急に固まった様に動かなくなったのだ。
同時に、この中庭全体が不快な雰囲気に囲まれるのを感じたのだ。
身体がピリピリと痺れる様な嫌な感覚。
以前も感じた事があるような・・・
私に魔人の様な力は無いのだが、こう言う感覚だけは何故か敏感だったのだ。
そして辺りを見ると、この空間の時間が止まっているかのように、自分以外動くものは無かった。
そんな中、さっきまで固まっていた王妃の身体が少しずつ動き出したのだ。
そしてゆっくりとこちらを向くその顔は、能面の様な無表情であった。
私は何が起きているかを理解したのだ。
いつか接触してくるだろうとは思っていたが・・・
目の前にいるのは、私がまだ会っていなかったもう一人の創造者に違いなかった。