147話 思惑
ヨクの話は私が予想した通りであった。
あの巨大な生き物が魔人の国からの物では無いかと、殆どの国の人々は疑っていたらしい。
しかし、オウギ王が魔人の国にいる魔獣とは全く違う事や、実際魔人の王が捕えられた人達を助けてくれた事を話し、多くの人達は納得してくれたのだ。
だが、納得できない王が一人いたという。
そう、あのマキョウ国の王であった。
今回の巨大な生き物がどこから来たにせよ、魔人の国の脅威について色々と話し出した様なのだ。
このまま、人間の国と同じ様に付き合っていて良いものかと疑問を投げかけたのだ。
今まで大国であるサイレイ国が、魔人の国との付き合い方を一任されていたのだが、今後については各国の意見を取り入れるべきだと主張したのだ。
ある意味もっともな話なのだが、魔人の国と繋がる洞窟が現れた時、他の国の王様は魔人との関与をあえて避けたときいている。
今更とも思うが、今のマキョウ国の王はそうではないという事なのだろう。
そして、私についても言及したらしい。
人間の娘にしては、この世界には存在しない風貌であり、何か不思議な存在で興味があると話していたようだ。
そして、マキョウ国に招待して、是非ゆっくりと話がしたいと言い出したらしい。
あの王がそんな話をしていたと想像しただけで、何だか寒気がした。
もしかしたら、今回の件はきっかけに過ぎないかもしれない。
マキョウ国・・・何か嫌な流れを感じるのだ。
「なるほど。
確かに、あの巨大な生き物が我々の国から現れたと思うのも納得ですよ。
しかし・・・他の王の話を私にしても良いのでしょうか?
人間の王としての立場もあると理解しますが。」
ブラックがそう話すと、オウギ王は笑いながら話し出したのだ。
「ハッハッハ、正直、今のマキョウ国の王との信頼関係はありませんので。
魔人の王であるブラック様には、今まで色々と助けられております。
我が国にとっては、大事な友好国である事は何も変わりありませんよ。
もちろん、人間の王すべてが同じ思いではないのかもしれません。
今後は国ごとに個別に対応するべきなのかもしれませんが。
それにしても、舞と話したいとは・・・あの王は何を考えているのだろうか。
舞、どう返事をするかい?
もちろん断っていいのだよ。」
オウギ王は心配そうに私を見たのだ。
正直、マキョウ国に行くのに不安が無いわけではない。
しかし、どうしてもあの王や側近のザイルの怪しさが拭えないのだ。
そこに行けば、その疑問の答えがあるのかもしれない。
私は決めたのだ。
「オウギ様、お気遣いありがとうございます。
でも、私・・・行ってみようかと思います。
オウギ様を通してのお話であれば、向こうに行っても何かあるとは思えませんし。
あの王が何を考えているかを知る良い機会かと・・・」
「では、私も一緒に行きますよ、舞。」
ブラックは立ち上がり、声を上げたのだ。
「だめよ。
魔人の王のブラックが一緒では、何の情報も引き出せない気がするわ。」
「いやしかし、一人では危険ですよ。」
ブラックは私の手を取り、心配そうに私を見たのだ。
「確かに一人ではちょっとね。
・・・オウギ様、シウン大将に一緒に来てもらう事は可能でしょうか?
それに、カクにも同行してもらえらば安心だわ。」
「確かに。
舞がそれでよければ、私は構わないよ。
では、私の方から返事をしておく事にするよ。
くれぐれも気をつけておくれ。」
オウギ王はそう言うと、シウン大将とヨクを見たのだ。
ブラックは私の言葉に、とても残念そうな顔をしていたが、マキョウ国が魔人への結界を城に施していた事を考えると、やはり一緒に来てもらうわけにはいかないと思ったのだ。
それにいざとなったら森の精霊に助けを求める事は出来るし、ブラックにもらったペンダントが守ってくれるはず。
結局、式典や晩餐会は終了となり、各国の王族は自分の国に帰ることになった。
魔人の王国への不信感もオウギ王の言葉で払拭され、大きな問題とはならなかったようだ。
もちろん、一人納得いかない王がいたのではあるが。
私はブラックと魔人の国に戻ることにしたのだ。
マキョウ国に行く日程は、後日オウギ王から連絡が入る予定なので、それまでに色々と準備をする事にしたのだ。
魔人の城に戻ると、ブラックは執務室に幹部たちを集めた。
そして今回の件をみんなに報告したのだ。
「まあ、そう言うわけで、何故か翼国の地下の森に存在していた大きな蜘蛛が現れたのですよ。
危うく、我ら魔人のせいにされそうになりましたよ。
あんな生き物はこの国にも存在しないのですがね。
オウギ王の言葉で、我らへの不信感は無くなったと思うのですが、一人だけ・・・あのマキョウ国の王だけは納得がいってなかったようです。」
「ブラック様、そのマキョウ国についてよろしいでしょうか?」
ユークレイスが冷静な物言いで、話し始めた。
「今回ブラック様が晩餐会に出席されていた時、私とトルマで他国の側近達と一緒の部屋で待機していたのですが・・・
マキョウ国の側近のザイルという男。
以前は、その男の考えを読む事はできなかったのですが、今回は全く問題無かったのです。
不思議な事に、ただの人間としか考えられませんでした。
いったいどういう事なのか・・・」
「・・・それは不思議ですね。
実は舞がマキョウ国の王から招待を受けて、今度城に行く予定なのですよ。
やはりそれまでに、もう少し情報を集めた方が良さそうですね。
ユークレイス、引き続き探ってください。
今回、シウン大将が同行する予定なので大丈夫と思うのだが、本当は私が行ければ・・・」
ユークレイスが頭を下げると、トルマが嬉しそうに話したのだ。
「シウン大将が一緒であれば問題ないですよ。
その辺の魔人よりもすごい人物ですからね。」
トルマは人間離れしたシウン大将の凄さを一番知っている魔人なのだ。
よく一緒に、武人としての稽古をしたり、手合わせをお願いしているようで、トルマが一目置く存在なのだ。
「それがわかっていても、ブラックは心配なのよね。
自分が一緒にいけない事が残念でならないのでしょう?」
ジルコンがニヤニヤしながら話すと、ネフライトがブラックを諭すように話したのだ。
「ブラック様、自分の立場を考えてください。
あなた様はこの国の王であり、大事な身なのですから。」
「ああ、わかっているよ。」
ブラックはそう言いながらも、やはり納得いかない顔をしていたのだ。
その時、ドラゴンの民であるアクアが執務室の扉を勢いよく開けて入ってきたのだ。
「みんな、見てくれ。
面白い事が出来るようになったぞ。」
アクアは目を輝かせて声を上げたのだ。
「アクア、遅いぞ。
それに、扉を開けるときは静かにノックしてから・・・」
スピネルの言葉は耳に入っていないようで、相変わらずマイペースに話を始めたのだ。
「まあ、まあ、見てくれ。」
そう言うと、アクアの身体がみるみるドラゴンの姿に変わったのだ。
ここまでならいつもと同じなのだが、本来ドラゴン化をこの部屋で起こす事はありえないのだ。
今までアクアは何メートルもの巨大なドラゴンに変化していたのだ。
ここでそうなれば城が破壊されてしまうはず。
しかし、目の前にいる変化したアクアは、とても小さなドラゴンであったのだ。
「え?アクア。
そんな小さな姿になれるの?」
私は猫を抱き上げるように、アクアを抱っこしたのだ。
可愛い・・・
小さい頃に飼っていた猫を思い出したのだ。
そんなアクアを見て、私は自然と顔を緩めた。
そうだ、この姿なら。
「ねえブラック、マキョウ国にアクアを連れて行っていいかしら?」