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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇との戦い編
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144話 忠告

 マキョウ国の王は舞を舐める様に見た後、ニヤリとしたのだ。


「よくご存知ですね。」


 私は顔をしかめて、一言だけ低い声で答えた。

 すると、マキョウ国の王はニヤニヤしながら小声で話し出したのだ。


「ああ、実は先日起きた、薬師大学校での件を耳にしたのですよ。

 近隣諸国で起きた騒動などは、なるべく把握する様にしておりましてね。

 その時の黒髪の少女があなただと、すぐに分かりましたよ。

 こんな綺麗な黒い瞳と黒髪の女性を、この世界で見た事がありませんからね。

 魔人の王が羨ましい限りですよ。」


 確かにあの時は、多くの人の前で薬を使った訳で、魔人達と行動を共にしていた事を考えると、他の国にも情報が伝わっていてもおかしくは無いのだ。

 ただ・・・この王様の言い方がなんだか引っ掛かるのだ。

 私がどう返事をしようかと考えていると、ブラックが話し始めたのだ。


「マキョウ国のお話もこちらに届いておりますよ。

 即位後は色々と改革されている様で。」


 ブラックはそれ以上具体的な事は話さず、マキョウ国の王の目を見て微笑んだのだ。

 すると、一瞬表情をこわばらせた様に感じたが、すぐにまたニヤニヤと私たちを見たのだ。


「いえいえ、まだまだですよ。

 新参者にはなかなか大変でしてね。

 でも、これからなんですよ。

 ・・・私のやりたい事はね、ハッハッハ。

 では、王妃が待ちかねておりますので、失礼。」


 そう言うと、マキョウ国の王はその場を離れたのだ。

 私はその姿を見て少しだけホッとし、ため息をついた。

 他国の内情まではわからないが、今回はオウギ王の考えすぎだったのでは。

 私がそう思った時である。


 さっきまで、ガヤガヤと話をする声や食器の擦れる音など、色々な音に溢れた部屋が、一瞬で無音になったのだ。

 そして誰も微動だに動く事は無かったのだ。


「ブラック、見て、みんなが・・・」


 そうブラックに言葉をかけたのだが、隣にいるブラックでさえ動く事は無く、固まった様な状態で私はどうしていいかわからなかった。

 しかし、この雰囲気はあの時と同じでは無いかと思ったのだ。

 そう、第四の世界に行った時である。

 この世界の創造者達が作った扉の中の世界。

 別の場所に移動するときには、自分たち以外は時間が止まった様に動かなかったのだ。

 そんな事を思い出していると、無音だった世界に前の方からカッカッと足音が聞こえてきたのだ。

 よく見ると、固まっている人々を避けて歩いてきたのは、オウギ王であった。

 しかし・・・その表情や、この状況に驚いてさえいないオウギ王を見て、中には違う者が入り混んでいる事は明らかだった。

 

 無表情で私の前で止まると、いきなり話し出したのだ。


「伝えたい事が・・・異世界からきた娘よ。

 魔人の王を守れるのはそなたしかいないだろう。

 『闇』が彼を狙っている。

 私達に出来る事は忠告しかないのだ。

 それも、『闇』が人の中に入っている時でないと、我々の忠告もばれてしまう。」


「あの・・・あなたは以前お会いした創造者ですね。

 創造者には 『光、大地、闇』の三者がいる事も知っています。

 しかし・・・今のあなた方は・・・」


「そう、我らは『光』と『大地』。

 我らは意思としての存在。

 しかし、我らも永遠ではない。

 寿命というものがあり、消滅の時間が近付いたのだ。

 それが自然の摂理。

 意思である我らは自由であり、物質的な拘束などに興味はないのだ。

 だが・・・『闇』は違ったのだ。

 時が流れるにつれ、色々なものの進化や繁栄を見ている傍観者では無く、その中に身を置き支配者となる事を望む様になったのだ。

 だから、自分が消滅する直前に、より強い者との融合を考えたのだ。」


「それがブラックだというの?

 でも、なぜ今になって・・・」


「今という訳では無く、『闇』は以前から計画を練っていたのだよ。

 長寿の種族を創造する事に、いにしえから力を注いできたのだ。

 そして自分の寿命もつきかけ、時が熟したという事だな。

 ここに作られた三つの世界の中で、一番強い種族が魔人である事は、誰もがわかっているはずだ。

 だが、魔人の王は他の世界を侵略しようとは考えてはいない。

 やろうと思えば出来るのにだ。

 まあ、必要と感じないのだろうが。

 しかし・・・『闇』と融合するとなると、変わってしまうだろう。

 今の我らの様に、一時的に身体を借りる事と融合は全くと言って違うのだ。

 ただ身体の中に存在するだけであれば、自分の寿命が来れば消滅する事となり、何も変わらないのだ。

 ここで長寿である魔人と融合すれば、物質的な拘束はあるが、消滅を避ける事が出来る。

 そして、『闇』は支配者として生きるつもりなのだろう。

 しかし、そんなシナリオは我らの望んだ世界では無い。

 だが、我々は対等な立場であり、『闇』に干渉できない。

 そんな『闇』に抗う事が出来るのは・・・異世界から来た其方しかいないのだ。」

 

「どうやって私がそんな存在に・・・」


「私たちの出来る事は、創造する事と消滅させる事のみ。

 先日の第四の世界は我ら二者で作ったものであったが、ここは三者で創造したもの。

 つまり、三者の同意のもとでの創造、消滅なのだよ。

 見ているだけしか出来ない・・・あくまでも、傍観者なのだよ。

 傍観者が舞台に上がる事は許される事では無いのだ。

 それが我らの意思であったはず。

 融合を何としても、阻止して欲しい。

 ・・・もう時間だ。

 そして、大事なのは闇に気付かれない様にする事。

 気付かれてしまえば、他の者を使い其方を消しにかかるだろう。

 注意するのだ。」


 オウギ王の姿の創造者はそう言うと、また来た方向に歩き出したのだ。

 いきなり聞いた話を全て理解するには、あまりに時間が足りなかった。

 それに、気付かれたら消されるとは。

 とても恐ろしい事をさらりと言われたような・・・

 まだまだ聞きたい事があったので、呼び止めようとして声を上げたのだ。


「待って、急にそんな事を・・・」


 しかし、私の声はこの部屋に溢れる色々な音に、あっという間にかき消されたのだ。


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