142話 怪しき小国
ヨクから詳しい話を聞いた私達は、晩餐会に向けて準備を進めたのだ。
ブラックは幹部達に指示を出し、新しい王やその国の様子を密かに調べる事にしたのだ。
そして私はと言えば、必要なマナーや知識をヨクから教わる事になった。
晩餐会で恥ずかしくない振る舞いが出来るように、私がヨクに頼んだのだ。
オウギ王の前に出る事ですら、いつも緊張しているというのに、他の王様が集う晩餐会などどうして良いかわからなかった。
それに私は魔人の王であるブラックのパートナーとして出席・・・
ヨクは大丈夫と言うのだが、私はブラックに迷惑がかからないように出来る限りの準備をしたかったのだ。
当日は、魔人の国からブラックと一緒に行く事になっていたので、ジルコンに衣装やメイクなど身支度の手伝いをお願いしたのだ。
「舞が私を頼ってくれて嬉しいわ。
あっという間に素敵なレディーに変身させてあげるわよ。」
ジルコンはそう言って、私の髪を嬉しそうにとかしてくれたのだ。
「ねえ、ジルコン・・・
今更だけど、私がブラックのパートナーでよかったのかしら?
勿論、オウギ王からの依頼があるからだけど、人間である私が・・・」
私が鏡越しにジルコンの顔を見ると、少し考えた後ニヤリとしたのだ。
「そんな事気にしてたの?
ブラックが良いと言っているなら、気にする事ないわよ。
大昔も招待を受けて参加していた事があった気がするけど、その時は一人で行ってたかしらねー
もちろん幹部が人間の国まで同行はしていたと思うけどね。
女性を連れて行ったことなんてなかったと思うわ。
ブラックにとって舞は特別なのよ。
・・・さあ、できた。
自信を持ちなさい。」
そう言って私の両肩を叩いたのだ。
今回のドレスもジルコンから借りたものだが、他の人間の国の王族が参加する事を考えて、露出を避け清楚なイメージのドレスを選びたかった。
しかし・・・ジルコンのドレスからその様な雰囲気の服を探し出すのは一苦労だった。
そして結局は上から下までジルコンにお任せしたのだ。
鏡に映る自分を見ると、確かにいつもよりは露出の部分は少なく、ジルコンも考えてくれたようだ。
それでも、背中が大きく開いたドレスであり、流石ジルコンのドレスなのだ。
しかし、ドレス、アクセサリー、メイクも含め、ジルコンのチョイスは完璧で、鏡の中の自分につい顔を緩めたのだ。
支度が終わり、ジルコンと一緒に城の入り口まで降りていくと、すでにブラックと今回一緒に同行するユークレイスとトルマも待っていたのだ。
「ブラック、お待たせ。
どう?素敵に仕上がったでしょう?」
ジルコンはそう言って私を前に押し出したのだ。
私は恐る恐るブラックの顔を見ると、ブラックは何となく照れたような顔をして、私の手を取って微笑んだのだ。
「舞、素敵ですよ。
さあ、行きましょう。」
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○
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舞とブラックが人間の国に向かう、少し前のことである。
ブラックはユークレイスとトルマに指示を出し、ヨクやオウギ王が心配している国について、出来る限りの情報を集めたのだ。
さて、どうしたものか・・・
二人に調べてもらった情報を元に考えると、やはりオウギ王の考え過ぎと言うわけではないようだ。
マキョウ国というその国は、小国ではあるが緑豊かな国で、その場所柄、物流の中継地点となり活気のある国であった。
今までの王も特に評判が悪かったことはなく、代々問題なく王位を継承していたのだ。
しかし、少し前に王だけでなく、王位継承者が次々に病で倒れ帰らぬ人になったのだ。
不審に思った国の重鎮達が色々と調べはしたが、病以外の原因を見つけることはできなかった。
王不在の状況が長らく続くのは問題となる為、王族の遠縁ではある者が王位を継ぐ事になったのだ。
しかし、それからすぐに重要な仕事を任せられていた大臣達が次々に辞めさせられ、大臣の殆どが新しい顔ぶれとなったのだ。
問題はそれからの事だ・・・
新しく王になった者は、国民に対して厳しい政策を始めたのだ。
増税は勿論、国民一人一人の情報管理、そして軍事力強化と思える徴兵制度など。
どこか戦争でも仕掛けるような気配が感じられるのだ。
そしてもう一つ・・・
ユークレイスの話では、マキョウ国の城の周りには魔人に対する結界が張られていたということだ。
まるで、我々が調査に出る事を予測していたような・・・
その為、城の中での情報収集を行う事は出来なかったのだ。
そして何よりも驚いたことは、外に現れた王や取り巻きを見た時、ユークレイスには考えが読めない者がいたらしい。
それどころか、ユークレイスの気配を感知されそうになったと。
脅威は王ではないのかもしれない。
王に常に同行しているザイルと言う男。
王の相談役のようで、大臣などの役職があるわけでは無いようだ。
何者なのか・・・
色々探ってもらったが、王に仕える前の素性がはっきりしないというのが不思議なのだ。
結局、怪しい事は色々あるのだが、それ以上はわからないという。
今できる事は警戒することだけ・・・
私はネフライトを呼び、今回の調査結果をオウギ王に送る事にしたのだ。