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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇との戦い編
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141話 魔人の王のパートナー


『さあ、そろそろ私の為に働いてもらおうかな。

 自分が何者か知る時が来たぞ、ブラック・・・』



 ブラックは執務室での仕事が一段落した後、ソファに横になりウトウトしていたのだ。


「ブラック様、寝ている暇はありませんよ。」


 目を覚ますと、いつの間にかネフライトが横で書類を抱え、ため息をついていた。


「ああ、すまない。

 つい眠ってしまったみたいだね。」


 夢の中で誰かが何か話していたようだが・・・

 ブラックはそれ以上思い出すことは出来なかった。

 所詮は夢・・・

 その時のブラックはそう思っていたのだ。


「無防備すぎますよ。

 さあ、起きて下さい。

 次の仕事がありますよ。」


 ネフライトはブラックを椅子に座らせると、目の前に沢山の書類を積んでニヤリとしたのだ。

 

「そうそう、先程人間の国のオウギ王から親書が届きましたよ。

 目を通して頂けたらと。」


 ネフライトはそう言って、ブラックに手渡したのだ。

 ブラックはそれに目を通すと、みるみる表情が明るくなったのだ。

 ネフライトはその親書をチラッと覗くと、なるほどと思ったのだ。


「舞殿に会いに行く口実が出来ましたね。

 私がケイシ家に手紙をお送りしてもよろしいですが。」


「いやいや、ネフライトは忙しいだろう?

 これも王の仕事ですからね。

 私が直接話しに行きますよ。」


 嬉しそうにそう言うと、ブラックは急いで仕事に取り掛かったのだ。

 それはオウギ王からの即位三十周年の式典の招待状であった。

 どうも、オウギ王から舞を同行させてはどうかと、ブラックにとっては嬉しい話が書かれていたのだ。

 

「しかし、舞殿でしたら王とも面識があり、ヨク殿のはからいで問題なく出席出来ると思われますが。

 何かあるのでしょうかね?」


「さあ?

 人間の世界の事はわからないね。

 まあ、オウギ王の事だ。

 悪い話では無いのだろう。」


 ブラックはそう言うと、とにかく早く仕事を終わらせる事だけを考えていたのだ。

 お忍びで行くなら別だが魔人の王と言う立場で、頻繁に舞に会いに行くわけにはいかなかった。

 それに、舞が学生として勉強に励んでいる事を考えると、自分が邪魔するわけにもいかないと、ブラックは考えていたのだ。


 

             ○


             ○


             ○



 舞はケイシ家の二階の部屋で、明日の授業の準備をしていた。

 勉強が一段落したところで、ベッドに転がり何も無い天井を眺めていたのだ。


 あれから半年ほど経っただろうか。

 私達が第四の世界から戻った後、人間の世界では鉱石の光が失われた事による混乱が、少しの間続いたのだ。

 それでも今は全ての光が復活し、ほぼ以前と同じ生活が出来るようになったのだ。

 私は学校に復帰してからと言うもの、それまで休んでいた時間を取り戻すために、毎日を勉強に費やしていた。

 ブラックに会いたい気持ちもあったが、今は学生として優先するべき事が多かったのだ。

 ここに・・・いやブラックの近くにいるためには、まだまだ勉強が必要なのだ。

 ブラックからもらったペンダントを見ると、あの夜スヤスヤと眠るブラックの寝顔を思い出すのだ。

 あの時、もしもブラックが泥酔では無く、ほろ酔いくらいであれば・・・

 それなら、部屋に入れることもないか・・・

 そんなモヤモヤした事を一人考えていると、部屋のドアがノックされたのだ。

 

「舞、ちょっといいかな?

 お客様だよ。」


 ドアの外からヨクが声をかけたのだ。

 私は急いで起き上がりドアを開けると、ヨクの後ろにブラックが立っていたのだ。

 ブラックと会うのは数週間ぶりだろうか。


「え?どうしたの急に。」


「舞、久しぶりですね。

 少しだけいいですか?」


 ブラックはそう言うと、私が返事をする前に部屋に入り込み、すぐにドアを閉めたのだ。

 そして驚く私を優しく抱きしめたのだ。


「ブラック、何かあったの?」


「今はまだこのままで・・・」


 私はさっきまで考えていた人が急に目の前に現れた事に、驚きしかなかった。

 しかし、ブラックに抱きしめられ頭を撫でられるうちに、何だか身体が溶けていくようで、幸せな気分になったのだ。


「舞、オウギ王の今度の式典の話は聞いていますか?

 舞を同行してはどうかと話が来たのですよ。」


 ブラックは私の頬に触れながら顔を見て、嬉しそうに話し出したのだ。


「いいえ、初耳だわ。

 式典がある事は知っていたけど・・・

 ヨクなら詳しく知っているかもしれないわね。

 下に行って聞いてみましょう。」


 私がそう言うと、ブラックは私の唇に指を置き、耳元で囁いたのだ。


「久しぶりに会ったのだから・・・

 もう少しだけ二人でいさせてください。」


 ブラックにそんな風に言われると、最近の私は拒む事など出来なかった。

 それだけブラックが魅力的であり、そして私も同じ気持ちだったからだ。


 少しした後、私達は一階に降り、ヨクに話を聞く事にしたのだ。

 

「ただのお忍びと言うわけではなかったのですな。

 ・・・オウギ様から連絡があったのですね。

 実は、舞を同行させると良いのではと提案したのは私なのですよ。」


 その話になると、さっきまでと違いヨクの表情が曇ったのだ。


「色々と事情がありそうですね。」


 ブラックはすぐに何かを感じたようだった。


「流石、魔人の王ですな。

 舞も一緒に聞いておくれ。

 実は今度の即位三十周年の式典だが、夜に晩餐会が行われるのです。

 そこには友好国の王族のみが出席出来るのですよ。

 部下や側近、警備に至るまでその会場の中には入る事が出来ない。

 もちろん外で待機しているのですがな。

 まあ、そういう慣例で・・・

 先代の時まではそれで問題なかったのですが・・・」


「今回は問題があるのですね。」


「人間の国が何ヶ国かある事は存じているでしょう。

 サイレイ国のように大きな国では無いのですが、ある国の王族が流行病で皆亡くなったと知らせが来たのです。

 その後すぐに遠縁の者が王に即位したようなのですが、あまり良い話を聞かないのですよ。

 正直、怪しい話ばかりで・・・

 王族が全て亡くなったという話も、どこまで本当なのか・・・

 警戒すべき相手と言っておきましょうか。

 しかし、オウギ様の立場上、そんな話があっても招待しない訳にはいかないのですよ。」


「なるほど。

 もしかしたら、晩餐会で何かあるかも知れないと懸念しているのですね。

 はるか昔に、たしか・・・出席した事がありますね。

 我らの国とも友好関係にありましたからね。」


 ブラックはそう言うと私を見たのだ。


「オウギ王をはじめ、各国の王族が出席されるのです。

 少し舞には危険かも知れませんが、舞が作る薬があれば、いざという時にも対応できるかも知れません。

 魔人の王の同行者として中に入る事が出来ればと。

 私どもでは入れませんからね。

 まあ、魔人の王には、舞を守っていただく事になるのですが。

 ・・・舞、勝手に話を進めてすまない。

 王からもう連絡が行っているとは思わなかったよ。」


 ヨクはそう言い私を心配そうに見たのだ。


「そういう事だったのね。

 私にできる事があれば、何でもするわ。

 心配ないわよ。

 ブラックがいるのだから。」


「ご老人、私がついてます。

 問題ありませんよ。

 それに、舞と出席出来るなんて嬉しい限りですよ。」


 ブラックがそう言うと、ヨクも少しだけ顔を緩めたのだ。

 私はヨクの心配をよそに、不謹慎だがブラックのパートナーとして出席できる事が楽しみになったのだ。

 

 

  

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