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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第4章 第四の世界編
132/178

132話 創造者

 ネモはさっきまでの気配と全く違っていたのだ。

 私がネモをじっと見ていると、無表情のままネモが口をひらいたのだ。


「この世界を消去します。」


 そう言って左手を高く掲げだのだ。

 すると、周りの景色が歪み、崩壊し始めたのだ。

 それはまるで消しゴムで絵を消したかのように、あっという間に何も無い白い空間になったのだ。

 遠くを見てもどこまでも白い空間が続いているだけで、何も見つける事はできなかった。

 つまり、この空間には外の世界から来た私達と、かつてのこの世界の主、そしてネモしか存在していないように見えたのだ。

 誰もがその状況に驚き、言葉が出なかった。

 しかし少しの沈黙の後、私は聞かずにはいられなかったのだ。


「ちょっと・・・待って。

 ここに生きていた住民達は?

 自然だけでなく、全ての生命も消えてしまったの?

 あなたはいったい何をしたの?」


「ここは、我らが良しと思わない世界。

 消去に値する場所。

 あなた方は・・・元の世界に戻りなさい。」


 ネモは表情一つ変えずに答えると、この世界に入った時と同じ魔法陣を作り上げ、この世界から立ち去るように促したのだ。

 すると、私の指輪から明るい光の塊が出てきて、指輪に宿りし者』が現れたのだ。

 ブラックの指輪の片割れと顔を見合わせると、嬉しそうにネモに向かい頭を下げてひざまづいたのだ。

 それを見て、ネモの体で話している者が、あの『闇』『光』『大地』の意思である事を理解したのだ。

 だからこそ、この世界の全てを無にする事も出来たのだろう。

 そして『指輪に宿りし者』達をはじめ、自然から生まれた者達は皆、ネモを見る目が変わったのだ。

 しかしネモの姿の創造者は、そんなみんなを見ても表情一つ変わる事はなかった。

 

 だが、私は何だか納得がいかなかった。

 良しとしない世界だから、リセットしてまた新しい世界にすれば良いという事?

 ゲームと同じと言うのだろうか?

 この世界には、自分の意思を持っていなかったかもしれないが、色々な生命が存在したのだ。

 それに、この世界を作るために犠牲になった者達もいるのだ。

 ここが何も無くなってしまったら、何のために犠牲になったかわからないではないか。

 私はカクを見て、心が痛んだのだ。

 それなら、その人達が亡くなった事に意味を持たせ、少しでも納得出来るものにしたいと思ったのだ。

 目の前にいる者は尊く、素晴らしい存在なのかもしれない。

 しかし、今やっている事はこの世界の主と同じでは無いか?


「私は・・・この世界に思い入れがあるわけではありません。

 ご存知かもしれませんが、あなた方の作った世界とは別の世界から来た者です。

 そんな私が言うのも何ですが、この世界を作るために犠牲になった者達がいるのです。

 全てが無になったら、その人達は何の為に犠牲になったのかわからないではないですか?

 もう一度だけ、あの者に託してはどうですか?

 あなた方なら、元に戻す事が可能では無いですか?」

 

 ネモの姿の創造者は私に目を向けたが、黙ったままであった。

 その姿を見て、私は不安がよぎったのだ。

 つい勝手な事を言ってしまったが、私達も簡単に消されてしまうのでは?

 余計な事を言ってしまったと今更ながら後悔したのだ。

 精霊達やブラックは緊張した面持ちで、黙ってこちらを見ていたのだ。

 そしてこの世界の主であった者は、この状況に憔悴して座り込んだままであった。

 

 少しして、ネモの姿の創造者は口を開いたのだ。

 それは私にとって、とても長い沈黙に感じたのだった。

 

「あの者が変わらなければ、ここは我らが良しとしない世界のまま。

 あの者にこの世界の主たる資格があるかどうか、見せてもらいましょう。

 もちろん、このままで良ければ何もしなくて結構。

 ただし、今やここは、何も作り出す事ができない世界。」

 

 そう言うと、手を大きく動かして何も無い空間に一つの扉を作り出したのだ。


「決断が出来たら、この扉を開けて中に入ると良いでしょう。」


 ネモの姿の創造者は無表情のまま、かつてのこの世界の主を見たのだ。

 彼は下を向いて黙ったままであった。

 かつてのこの世界の主がどうにかしたいと思わなければ、私が何を言おうがどうにもならないのかもしれない。

 しかし、私はずっと気になっていた事があったのだ。

 それは、ネモと言う存在。


「あの・・・ネモはどうなるのでしょうか?

 彼女も消えてしまうと言う事ですか?」


「この世界で、作り出したものは全て消去します。

 この体は我らの意思を伝える手段として、まだ存在しているのみです。」


 それを聞いたかつてのこの世界の主は、急に顔を上げネモを見たのだ。

 そして意を決したように話し出したのだ。


「やらせてください。

 全てが無くなっても仕方がないのですが、ネモだけはどうか・・・

 私にもう一度機会をお与えください。」


 さっきまで憔悴していた彼は、力強く懇願したのだ。

 やはり、彼にとってネモは特別な存在。

 ただ作り上げた他の住民達とは違うのだろう。

 私は何となくではあるが、彼女自身の意思が存在するように感じていたのだ。


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