128話 異変
カクはこの世界の住民を見て、思う事があったのだ。
ここの人達は本当に朗らかで、楽しそうに仕事をしているように見えた。
それを見ていると、両親の事が思い出されたのだ。
忙しそうに働きながらも、いつも楽しそうだった二人。
寂しい思いも沢山したが、色々な人に頼りにされている両親が誇らしかった。
だが、ここにいる住民は違う。
表面的にそう見えるだけだ。
心は空洞。
消えていく人達を見ても、周りの住民には何も感じる事が出来ないのだと、見ていればわかったのだ。
そんな風に作られた彼らを、とても可哀想に感じるのだ。
この世界は・・・なんてつまらない場所なのだろう。
森の精霊はこの世界に入った時から、違和感を感じていた。
全ての物から、一人の者の気配を感じる事が出来たからだ。
それは木や草といった植物、建物、そして住民からもだった。
確かにこの世界の創造者であるのだろうが、まるでそれは全てが繋がっているように感じたのだ。
つまり、全てはその者の意思で動かされているのでは。
だが、そんな事が出来るのだろうか?
確かに私の森に関しても私が関わる事は出来るのだが、殆どはその生命本来の性質に任せてあるのだ。
何か異変があった時のみ私が関与するだけ。
以前、私の森も舞に不自然である事を告げられたのだ。
自然のサイクルが止まっていると。
私も美しい森を作りたかったから、自分がコントロールしていたこともあったのだ。
だが、全ての自然な生命のサイクル、それ自体がとても美しい物だと気付かせてくれたのだ。
寿命の短い人間の舞だからこそ、それを知っていたのかもしれない。
それにしても、森中に自分の意思を張り巡らせるには、大きなエネルギーが必要だったのだ。
だが、この世界全てに関与するとなると、それ以上のとてつもないエネルギーの消費になるはず。
やはり「闇」「光」「大地」の意思を受け継ぐ者は違うのだろうか。
しかし、この世界が彼らの求める世界なのだろうか?
今の私には、美しい世界とは思えなかったのだ。
ブラックとユークレイスは、他の者とは違う事を考えていた。
思念で繋がっていた二人は、歩きながら周りを警戒していたのだ。
ブラックは常に周りに気を配るように、ユークレイスに指示していたのだ。
もしも、この世界があの主の作る領域であるのなら、管理者であるあの者に逆らう事が出来ないのではと、私は不安があったのだ。
だが、ユークレイスは住民の考えを問題なく読む事は出来、私も魔力探知を働かせて周りの様子を伺う事が出来たのだ。
この世界はあの者が創作した世界ではあるが、空間自体は違う事はわかったのだ。
私は舞が傷つく事が無いように、その事を中心に考えていたのだ。
やっと舞の記憶が戻ったばかりなのに、正直こんな所に来るとは思いもしなかった。
だが、舞の思いは良くわかっていた。
家族とも言えるカク殿の味方になるだろうと。
危険だろうが、舞には関係ないのだ。
私はそんな舞を見ているのが好きだった。
だから心配ではあったが、私は舞を必ず守り、舞のやりたい事をさせてあげようと思ったのだ。
ここから元の世界に戻ったら、城で舞とゆっくりしたい。
私にとって今は、それが一番の希望なのだ。
ネモは、先程の住民が消えた事を何でもないように、話し出した。
「では、今度はあちらに行ってみましょうか?」
そう言って指差した先には、大きな森や湖が見えたのだ。
その森の様子から、そこがある場所のコピーでは無いかと、誰もが思ったのだ。
「ここはまるで魔人の世界にある森や湖に似てるわね・・・」
舞がそう呟くと、ネモは微笑みながら話し出したのだ。
「ここには先程の住民達はおりませんが、別の生き物達が暮らしているのです。」
舞達はその森や湖が一望できる場所に立つと、とても美しい光景を見る事が出来たのだ。
森の中には、鳥や小動物に似た物が見え隠れして、綺麗な鳴き声が聞こえたのだ。
湖の中にも、魚に似た生物が泳いでいる影を上から見る事が出来たのだ。
しかし・・・ここにも不自然さは存在したのだ。
湖の色が時間と共に色々な色に変化していき、綺麗ではあるのだが、自然とはかけ離れていたのだ。
それに森の奥から、綺麗な鳴き声とは別の歌のようなものが聞こえてきたのだ。
舞達はその不思議な歌声に耳を傾けていると、おかしな事が起こり始めたのだ。
始めはカクだった。
急に森の中に引き寄せられるように、走り出したのだ。
次にブラックやユークレイス、そして森の精霊までもが、皆無表情となり黙って森の中に進んだのだ。
それを見ていたネモも、微笑みながら一緒に森の中に入って行ったのだ。
「みんなどうしたの?
カク、ブラック、精霊!
ねえ、待って!」
残された舞はみんなの意外な行動に驚き、すぐに声を上げたのだが、誰も舞の声を聞く者はいなかったのだ。
そして森の中から聞こえてくる歌声が大きくなり、舞の声はすぐにかきけされてしまったのだ。