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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第4章 第四の世界編
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127話 消去される者

 舞は案内された庭を少し歩くと、この場所は高台のようで、目下に村のような場所を見つける事が出来た。

 さっき来る時には気づかなかったが、この庭以外の場所もどうなっているか、とても気になったのだ。



「下に降りても大丈夫ですか?」


「もちろんです。

 どうぞ、行ってらっしゃいませ。」


 私はネモの了解を得て、少し歩いてみる事にした。

 カクやブラックも同じように考えていたようで、一緒に行ってみる事にしたのだ。

 途中には果樹園や畑を見る事が出来たのだ。

 どの場所も多くの実がなっており、豊かな自然を目にする事が出来たのだ。

 ただここにも枯葉や傷んでいる野菜などを見る事は無かったのだ。

 下に降りると、魔法陣から先程の建物まで歩いた場所と違い、そこには住民の住まいがあったのだ。

 そして、さっきと同じく遭遇する人達全てが美しく、朗らかに挨拶してくるのだ。

 それは子供から老人まで等しかった。

 そして彼らには、まるでやらなければいけない決まった行動があるかのように、同じ事を繰り返していたのだ。

 

 ここはあの三つの世界のコピー・・・

 それが入り混じっている世界。

 そんな風に感じたのだ。

 そして、この世界には時間というものが、無いようにも感じたのだ。

 だから、全てが衰えるどころか、変化さえ無いような・・・

 ここの住民の正確な受け答え、決まった行動・・・

 ちゃんとした実体ではあるが、個々の感情と言うものを感じられないのだ。

 これがあの者が作った生命?

 何だか、とても不自然な気がしたのだ。

 そうだ・・・私の生まれた世界にある人工知能を持つロボットに、何だか似ているように感じたのだ。

 この世界の主が、色々な情報を元に作った世界。


 カクの両親の死につながるものは無いかと考えていたが、今のところ見つける事は出来なかった。

 だが、この不自然な世界。

 私にとってこの場所は、居心地が良く無かったのだ。

 そして、私達がここに招待された理由・・・

 この世界を見てもらいたい?

 本当にそんな理由なのだろうか?

 この世界の存在が知れ渡る事での、デメリットもあるはず。

 私は・・・嫌な予感がしたのだ。


 そう思っていたとき、お店のような場所から大きな音が響いてきたのだ。

 私達はその場所を覗くと、数人の住民が倒れていたのだ。

 何があったのかは良くわからなかったが、私は異様な光景を見たのだ。

 その周りを他の住民が囲んではいたのだが、その表情は先程と同じで朗らかで、心配したり深刻そうな顔をしている者は誰一人いなかったのだ。

 もちろん、倒れた者を起き上がらせたり、テーブルを片付けたりと、必要な行動は行ってはいるのだ。

 しかし、その表情からは、何も感じ取る事は出来なかったのだ。


「いったいどうしたのですか?」


 私はそのお店に集まっている人達に声をかけたのだ。

 すると皆朗らかな表情でこう話すのだ。


「大丈夫です。 

 心配する事はありません。」


「しかし、倒れた人たちは?

 どこかで手当をしないと。」


 私が急ぎ、倒れた人たちに駆け寄ろうとした時である。


「彼らはこの世界での役目を終えて、主の元に帰られるのです。

 ですから、心配はないのですよ。」


 そう後ろから声をかけられたのだ。

 驚いて振り向くと、ネモがこっちに降りてきていたのだ。

 ネモが現れると、他の住民が場所を空けて頭を下げたのだ。

 そして、ネモが倒れている住民を見ると、その者達は徐々に身体が透き通っていき、あっという間にその場から消失したのだ。

 これがこの世界での「死」というものなのだろうか?

 だとして、それを見て悲しむ者はいないのだろうか?

 周りを見ても、特別な感情を示す者は誰一人いなかったのだ。

 私はこの世界に吐き気がしたのだ。



              ◯


              ◯


              ◯



 倒れた住民が消失する少し前の事である。

 他に誰も入ることのない部屋で、一人椅子に腰掛けて目を閉じている者がいた。

 中性的な美しい姿のその者は、目を開くと呟いたのだ。


「上手くいかないな・・・またエラーが起きたようだな。

 より素晴らしい世界にするのは大変だね。

 ・・・ネモ、いるんだろう?

 今から消去する。

 客人が騒がないように頼むよ。」


 すると、その部屋の扉の外に待機していたネモは、静かに答えたのだ。


「かしこまりました。」


 そう答えると、そっとその場を離れたのだ。

 一人椅子に腰掛けていた者は立ち上がると、少しため息をついだのだ。


「やっぱり、新しい情報が必要だな。」


 そう言うとパチンと指を鳴らして、気に入らない自分の創作物を消去したのだった。

 ここは全てこの者が作りし世界。

 作られた物は、その者の望むままに消去できる世界であったのだ。

 そして、その者には全くと言っていいほどの、悪意は存在しなかったのだ。

 全てが素晴らしい世界を作るために必要な事であったからだ。


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