126話 創られたもの
舞は、主と言われている者から目が離せなかった。
「第四の世界にようこそ。」
そう言って目の前にいる者は、優しく私達に微笑んだのだ。
私の目にはその者の姿は他の精霊達と同じように、とても美しく神々しく映ったのだ。
それだけでなく、触れたら壊れてしまうような、繊細な存在に見えたのだ。
私がそう感じている中、冷静にじっと見ている者がいたのだ。
森の精霊は黙って私の肩から降りて、小さな姿から私達と同じ大きさになったのだ。
その姿の精霊もとても美しいのだが、彼はどちらかと言えば、人に近い存在に感じるのだ。
だからこそ、彼の行動や話す事に、人間である私は一喜一憂するのかもしれない。
しかし、目の前にいるその存在は、人の姿をしていても別の次元の存在としか思えなかったのだ。
この者が、『指輪に宿りし者』達が言っていた、創造者なのだろうか?
いや多分・・・違うのだろう。
私やブラックの『指輪に宿りし者』が、沈黙を続けたままで姿を現さないと言う事が、その証拠だろう。
彼らにとって、創造者は神のように崇めるべき存在。
それを目の前にして、出て来ないはずが無いのだ。
森の精霊は私の前に立つと、目の前の者と同じように優しく微笑んだのだ。
だがその瞳は少しも笑っているようには感じなかったのだ。
きっと、何か思う事があるのだろう。
「お招きありがとうございます。
一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか?
この世界は我々の知っている世界に、とても似ている部分があるような・・・」
森の精霊はそう言うと、この世界の主と言われている者は一瞬顔を強張らせたように見えたが、すぐに優しく微笑んだのだ。
「その通りです。
この世界を作るにあたって、あなた方の世界を参考にさせていただきました。
その世界にある素晴らしいと感じる物を、取り入れたのですよ。
それは自然や建物ばかりではありません。
この世界では、争い事の起きない平和な世界を目指す事にしたのです。
・・・正直、あなた方の世界では、そうとは言えないでしょう。
ですから私は理想と言える、誰もが安心して平和に暮らせるこの世界を作ったのです。
言葉で言っても分かりづらいと思いますので、良かったらこの世界を少し堪能してからお帰りください。」
それを聞いた森の精霊は、納得がいかなかったようだ。
「・・・そんな素晴らしい世界があるとは。
しかし、あなたは私と同じような存在。
世界を創るまでの力があるとは・・・驚きです。」
「そうですね。
私も自然から生まれし存在・・・しかし、私は最後に生まれた存在なのです。
それも『光』『闇』『大地』の意思を直接受け継いだ者であるのです。
だから、私には少し特別な力が存在するのだと思います。」
そう話し、自分の手に目を落としたのだ。
すると、手のひらの中に何か光る物が作られ、それはあっという間に一つのりんごに変わったのだ。
「私には何かを攻撃するような、強い力はありません。
しかし私が得た情報から、同じような物を作り出す事が出来るのです。
そうして、この世界を創造する事が出来たのです。
この世界にある物全て、私により生み出された物と思ってください。
三つの偉大なる存在は、彼らのような創造の力を私に与えてくれたのです。」
さっきまで、とても繊細で儚げな存在に感じていたのに、生き生きと話しているその姿は、全くの別の者に感じたのだ。
そこに悪意を感じる事は無かったのだが、何故だか私は全てが善良であるとは思えなかったのだ。
「私からも質問させて頂きます。」
急にカクが前に進み、主と呼ばれる者を真っ直ぐに見たのだ。
いつもだったら緊張で声も出ないようなカクが、同じ人間と思えないくらい、はっきりとした口調で話し歩み出たのだ。
「私たちの世界から、この世界に人間などが迷い込んだりする事はなかったでしょうか?」
この世界の主と呼ばれる者は、少しだけ考えると口を開いたのだ。
「・・・どうでしょうね。
そちらの世界の情報を得るために、転移の魔法陣を使い行き来はしていましたから・・・
もしかしたら、紛れた事があったかもしれませんね。
しかしそれに気づけば、すぐに元の世界に戻していたはずですが。
何か気になる事があったのでしょうか?」
「・・・いえ
それなら結構です。」
カクはあえて、言葉を濁したのだ。
正面から聞いたところで、何も知る事は出来ないと思ったのだろう。
「では、皆さんこちらで少しゆっくりしてください。
ネモ、後はお願いしましたよ。」
そう言って微笑むと、この世界の主は姿を消したのだった。
ネモは主の言葉を聞いて頭を下げていたが、主が姿が消えると立ち上がり、私達を案内してくれたのだ。
「主はお忙しいので、ここからは私が案内いたします。」
その部屋にある大きな窓から中庭に出れるようで、私達はネモの後を続いたのだ。
そこにはテーブルや椅子が置かれており、美しい庭をゆったりと眺める事が出来たのだ。
庭に目を向けると、大小様々な草木が植えられていたのだ。
一見とても美しい場所なのだが、私は自分達の世界の植物と何か違うように感じたのだ。
私は目の前の大きな木の幹に触れて、上から下まで眺めた。
そして周りを良く見回すと、以前も感じた事がある不自然さに気付いたのだ。
「この庭の植物達・・・
何かおかしいと思っていたけど、わかったわ。
ここには枯れた花や葉が一枚もないわ。
昔、精霊の森でも見た事があったわね。
美しく・・・操作されている。」
「この世界は全て主が作った物です。
全ての物がいつでも美しく保てるように、主が気にかけているのですよ。」
ネモはそう言って、私達にお茶やお菓子など振る舞ってくれたのだ。
私はそんなネモを見て、ふと思ったのだ。
・・・ネモも創られた物?