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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第4章 第四の世界編
125/178

125話 争い事のない世界

 外と違い、誰もいない状況に、皆、怪しさを感じたのだ。

 ブラックは魔力探知を働かせ、この建物自体を探ったのだ。

 その中はとても静まり返っていて、不自然としか言いようが無かった。

 実はこの世界に入る前から、ブラックはユークレイスが得た情報を共有していたのだ。


 

 ユークレイスが言うには、あの『ネモ』と言う使者の考えは簡単に読む事が出来たらしい。

 しかし、今まで色々な者の頭の中を覗いてきたユークレイスにとって、『ネモ』の思考は未だかつてなく、不思議なものであると伝えてきたのだ。

 思考と発言が全て一致と・・・

 それは裏がないと言う事で良いのではと思ったのだが、そうではないようなのだ。

 ユークレイスの話では、通常、自分で考えた事の全てを発言する事はないという。

 それに、話していない状況でも、潜在的に頭の中で何かしらの考えが浮かんでは消えて・・・となるものなのだと。

 しかし、ここにいる『ネモ』と言う者が口を開いてない時の思考は『無』としか言いようが無いと言う。

 つまり、頭の中に浮かんだ事を全て話し、何も話さないと言う事は、何も頭には浮かんでいないと言う事。

 それに記憶に入り込もうとしたようだが、何故か自分達に会う前の記憶を探す事が出来なかったらしいのだ。

 そんな者は今まで見た事が無いと、あの冷静なユークレイスが焦っていたのだ。

 つまり、この『ネモ』と言う存在は姿形は我々と同じように見えるが、全く違う存在と言えるのだ。

 

 私は魔力検知により、建物の奥の方から不思議な気配を感じる事は出来た。

 それは特に悪意に満ちているものでは無かった。

 それが『ネモ』の言う主なのだろう。

 

「ここには、警備する人さえいないようですが。」


 私はそう質問すると、『ネモ』は笑いながら答えたのだ。


「我主には、必要ありませんから。

 それにこの世界では、危険な状況や争い事は絶対に無いのです。

 我主が、この世界をそのように作られたのです。

 ですから、警備する者、ましては兵士など必要ないのです。」


 確かにここに来るまでに遭遇した住民は皆朗らかで、好意的な人達ばかりであったのだ。

 しかし、争い事が全く無い世界など存在するのだろうか?

 小競り合いくらいはどの世界でもある事。

 確かに、本当であればとても理想的ではあるのだが・・・


「さあ、こちらに。」


『ネモ』はそう言って、建物の奥にある大きな扉をノックしたのだ。

 

「主、皆様をお連れしました。」


 そう言うと、その大きな扉がギーッと重い音を立ててゆっくりと開いたのだ。

 その室内には大きな窓があって、明るい光が差し込みとても暖かな場所であった。

 そしてその中心に一人の者が椅子に腰掛けていたのだ。

 私達が中に入ると、その者は立ち上がりこちらに歩いて来た。

 その姿形は自分達と同じ人型であるのだが、『ネモ』とも違い、どちらかと言うと精霊に近い存在に感じたのだ。

 すぐにユークレイスから、この者の思考はブロックされていると、思念が送られてきたのだ。

 そして立ち上がり近づいてきた者は、『ネモ』と同じように優しく微笑んだのだ。


「ようこそ、第四の世界に。」



             ◯


             ◯


             ◯



 カクは『闇の鉱石を支配する者』を見た時から、ずっと緊張を緩める事は出来なかった。



 僕は両親の死の真相がどうしても知りたかったのだ。

 正直自分でも驚いている。

 この事は今まで自分の中に閉じ込めてきた事だった。

 誰にも話す事はなく、祖父ともこの件については十数年触れる事は無かったのだ。

 どうする事もできない、仕方のない過去。

 そう納得したつもりだった。

 しかし、自分の幼い時の姿を見た時、閉じ込めていた箱が壊れたかのように、抑える事は出来なかった。

 今まであんなに臆病で安定を良しとして来た自分が、魔人や精霊達を前にしても、これだけは譲れないと思ったのだ。

 今、声を上げなければ、きっと僕は一生後悔する。

 二度と両親の事を知る事が出来ないかもしれない。

 そう思ったのだ。

 そんな風に考えられた事自体、自分でも本当に驚きだった。

 少し前に魔人の世界にやっと一人で足を踏み入れる事が出来たばかりの自分だったが、その勇気は舞から貰ったものなのだ。

 肩に置かれた舞の手はとても温かで、私を力付けてくれたのだ。

 そして今僕は、両親が来ただろう世界にいるのだ。

 何の争い事のない世界・・・それが本当であれば、私の両親が命を落とす事は無かったはず。

 きっと何かある。

 私はそれを見極めねばと思ったのだ。

 



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