124話 魔法陣の先の世界
その場に現れた『ネモ』と言う存在に、誰もが注目したのだ。
その者は何の存在かわからない気配を持っていたが、その風貌は完璧と言えるほどの、とても美しく整った顔をしていたのだ。
舞はその者から目が離せなかったのだ。
「我主がお待ちしております。
主は何でも存じております。
人間、魔人、精霊の方々に、是非我らの世界を見ていただきたいと申しております。
恐れる事はありません。
この魔法陣からいつでも帰ることは可能でしょうから、安心してください。」
目の前にいる『ネモ』と言う存在は、私達に対する態度は執事のように丁寧であり、そして優しく微笑んだ表情は私達を安心させる物であった。
そこには悪意など一欠片も感じる事はなく、その者が言っている事を疑う余地など無いように思えたのだ。
しかし、一人だけその者を表情を変えずにじっと見ている者がいたのだ。
それはブラックと一緒に来たユークレイスであった。
彼はずっとその者の考えを読んでいるようだった。
それを多分ブラックに思念で伝えていたのだと思う。
「ネモ殿。
あなたの主人とは何者なのですか?」
森の精霊がそう聞くと、一言だけ告げたのだ。
「・・・お会いすればわかると思います。」
少しの沈黙の後、カクが口を開いたのだ。
「私は一人でも行きます。
正直何があるかわからないですが、それ以上に行ってみたいのです。」
いつものカクと違い、力強い声で訴えたのだ。
「カク、私も一緒よ。」
私はそう言ってカクの肩に手を置いたのだ。
精霊達は、鉱石に映し出された魔法陣から感じる、創造主の気配が気になっていたのだ。
ブラックは心配しながらも、私が行くなら自分も一緒に行くと言ってくれたのだ。
もちろん、ブラックが行くところは、ユークレイスも一緒なのだ。
つまり、一人を除いてだが、皆一緒に別の世界に行く事を決めたのだった。
「僕が行く理由は無いからね。
行きたいならみんなで行ってきなよ。
僕は情報提供の代わりに自由さえもらえれば良いんだよ。」
「なるほど。
では、今のところは、この鉱山で大人しくしてもらおうか。
自由になれるかどうかは、我らが戻ってからの話にしよう。
我らが戻るまでに勝手な事をされては困るからな。」
私の『指輪に宿りし者』は腕を組みながらそう言って、『闇の鉱石を支配する者』を見下ろしたのだ。
「ちょっ、ちょっと、待ってくれ。
いつ戻ってくるかわからないのに、またここに閉じ込められるのはごめんだね。」
「はは、お前にとっては、ほんの一瞬に過ぎないでは無いか?」
私の『指輪に宿りし者』はニヤリとしたのだ。
「わかった、わかった。
・・・一緒に行くよ。
一度封じられたら、もう二度と自由にさせてくれないかもしれないからね。
それだけは絶対に嫌なんだよ。」
『闇の鉱石を支配する者』はため息をついて、そう話したのだ。
『指輪に宿りし者』達は、再度手のひらに作った結界の中に『闇の鉱石を支配する者』を閉じ込めると、私とブラックの指輪に戻ったのだ。
そして小さくなった森の精霊は、私の肩に乗ったのだ。
私達は『ネモ』と名乗る者と一緒に優しく光る魔法陣の中に立ち、『ネモ』に注目したのだ。
「では、向かいましょう。」
すると、さっきまで優しく光を発するだけの魔法陣が、中心を取り囲むように風の渦が巻き上がったのだ。
その為、あっという間に周りが見えなくなったが、すぐに風が止み、私達は既に違う世界に移動していたのだ。
「私たちの世界にようこそ。
さあ、主の元に案内いたします。」
『ネモ』はそう言って、私達についてくるように話したのだ。
私は辺りを見回すと、息を呑んだのだ。
なぜなら、この世界は、私が以前から知っている世界にそっくりだったのだ。
きっとみんなも同じ事を感じたのだろう。
それもこの世界は、人間、魔人、翼人の住む場所が混ざっているような世界であったのだ。
その為どの場所も、見覚えがあるように感じたのだ。
そしてとても明るく、緑豊かであり、心地の良い風がやさしく吹いていて、素敵な場所に感じたのだ。
『ネモ』の後をキョロキョロ見ながらついていくと、この世界の住民にも遭遇したのだ。
その人達は『ネモ』と同じように不思議な気配を持っていたが、みんなとても整った姿形をしていて、私達を見る表情はとても朗らかであったのだ。
とても素敵な場所に、私は何だかワクワクしたのだ。
ブラックや森の精霊も、私と同じように驚きで周りを見回していたのだ。
しかし・・・カクとユークレイスは私達と違い、表情を崩す事は無かったのだ。
この世界には、カクの両親を死に至らしめた何かがあるかもしれないのだ。
それを知りたいはずなのだ。
そしてユークレイスは彼らの心を読んでいるに違いない。
その事で、何か思う事があるのかもしれない。
彼らを見て、浮かれていた自分を反省したのだ。
少し歩くと、目の前に大きな建物が見えてきたのだ。
それは、まるで人間のサイレイ国の城であるかのような建物であったのだ。
その建物の前で『ネモ』が止まったのだ。
そして振り向いて私達を見ると、微笑みながら話したのだ。
「こちらで主が待っております。
どうぞお入りください。』
静かにその建物の門が開くと、私達は中に進んだのだ。
入った途端、サイレイ国と全く違う事がすぐにわかったのだ。
その城のような建物の中は静まり返っていて、住民はおろか、兵士のような類の者も見つける事は出来なかったのだ。