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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第4章 第四の世界編
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124話 魔法陣の先の世界

 その場に現れた『ネモ』と言う存在に、誰もが注目したのだ。

 その者は何の存在かわからない気配を持っていたが、その風貌は完璧と言えるほどの、とても美しく整った顔をしていたのだ。

 舞はその者から目が離せなかったのだ。



「我主がお待ちしております。

 主は何でも存じております。

 人間、魔人、精霊の方々に、是非我らの世界を見ていただきたいと申しております。

 恐れる事はありません。

 この魔法陣からいつでも帰ることは可能でしょうから、安心してください。」


 目の前にいる『ネモ』と言う存在は、私達に対する態度は執事のように丁寧であり、そして優しく微笑んだ表情は私達を安心させる物であった。

 そこには悪意など一欠片も感じる事はなく、その者が言っている事を疑う余地など無いように思えたのだ。

 しかし、一人だけその者を表情を変えずにじっと見ている者がいたのだ。

 それはブラックと一緒に来たユークレイスであった。

 彼はずっとその者の考えを読んでいるようだった。

 それを多分ブラックに思念で伝えていたのだと思う。


「ネモ殿。

 あなたの主人とは何者なのですか?」


森の精霊がそう聞くと、一言だけ告げたのだ。

 

「・・・お会いすればわかると思います。」


 少しの沈黙の後、カクが口を開いたのだ。


「私は一人でも行きます。

 正直何があるかわからないですが、それ以上に行ってみたいのです。」


 いつものカクと違い、力強い声で訴えたのだ。


「カク、私も一緒よ。」


 私はそう言ってカクの肩に手を置いたのだ。

 精霊達は、鉱石に映し出された魔法陣から感じる、創造主の気配が気になっていたのだ。

 ブラックは心配しながらも、私が行くなら自分も一緒に行くと言ってくれたのだ。

 もちろん、ブラックが行くところは、ユークレイスも一緒なのだ。

 つまり、一人を除いてだが、皆一緒に別の世界に行く事を決めたのだった。


「僕が行く理由は無いからね。

 行きたいならみんなで行ってきなよ。

 僕は情報提供の代わりに自由さえもらえれば良いんだよ。」


「なるほど。

 では、今のところは、この鉱山で大人しくしてもらおうか。

 自由になれるかどうかは、我らが戻ってからの話にしよう。

 我らが戻るまでに勝手な事をされては困るからな。」


 私の『指輪に宿りし者』は腕を組みながらそう言って、『闇の鉱石を支配する者』を見下ろしたのだ。


「ちょっ、ちょっと、待ってくれ。

 いつ戻ってくるかわからないのに、またここに閉じ込められるのはごめんだね。」


「はは、お前にとっては、ほんの一瞬に過ぎないでは無いか?」


 私の『指輪に宿りし者』はニヤリとしたのだ。


「わかった、わかった。

 ・・・一緒に行くよ。

 一度封じられたら、もう二度と自由にさせてくれないかもしれないからね。

 それだけは絶対に嫌なんだよ。」


『闇の鉱石を支配する者』はため息をついて、そう話したのだ。


『指輪に宿りし者』達は、再度手のひらに作った結界の中に『闇の鉱石を支配する者』を閉じ込めると、私とブラックの指輪に戻ったのだ。

 そして小さくなった森の精霊は、私の肩に乗ったのだ。

 私達は『ネモ』と名乗る者と一緒に優しく光る魔法陣の中に立ち、『ネモ』に注目したのだ。

 

「では、向かいましょう。」


 すると、さっきまで優しく光を発するだけの魔法陣が、中心を取り囲むように風の渦が巻き上がったのだ。

 その為、あっという間に周りが見えなくなったが、すぐに風が止み、私達は既に違う世界に移動していたのだ。


「私たちの世界にようこそ。

 さあ、主の元に案内いたします。」


『ネモ』はそう言って、私達についてくるように話したのだ。

 私は辺りを見回すと、息を呑んだのだ。

 なぜなら、この世界は、私が以前から知っている世界にそっくりだったのだ。

 きっとみんなも同じ事を感じたのだろう。

 それもこの世界は、人間、魔人、翼人の住む場所が混ざっているような世界であったのだ。

 その為どの場所も、見覚えがあるように感じたのだ。

 そしてとても明るく、緑豊かであり、心地の良い風がやさしく吹いていて、素敵な場所に感じたのだ。


『ネモ』の後をキョロキョロ見ながらついていくと、この世界の住民にも遭遇したのだ。

 その人達は『ネモ』と同じように不思議な気配を持っていたが、みんなとても整った姿形をしていて、私達を見る表情はとても朗らかであったのだ。

 とても素敵な場所に、私は何だかワクワクしたのだ。

 ブラックや森の精霊も、私と同じように驚きで周りを見回していたのだ。

 しかし・・・カクとユークレイスは私達と違い、表情を崩す事は無かったのだ。

 この世界には、カクの両親を死に至らしめた何かがあるかもしれないのだ。

 それを知りたいはずなのだ。

 そしてユークレイスは彼らの心を読んでいるに違いない。

 その事で、何か思う事があるのかもしれない。

 彼らを見て、浮かれていた自分を反省したのだ。

 

 少し歩くと、目の前に大きな建物が見えてきたのだ。

 それは、まるで人間のサイレイ国の城であるかのような建物であったのだ。

 その建物の前で『ネモ』が止まったのだ。 

 そして振り向いて私達を見ると、微笑みながら話したのだ。


「こちらで主が待っております。

 どうぞお入りください。』


 静かにその建物の門が開くと、私達は中に進んだのだ。

 入った途端、サイレイ国と全く違う事がすぐにわかったのだ。

 その城のような建物の中は静まり返っていて、住民はおろか、兵士のような類の者も見つける事は出来なかったのだ。


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