123話 使者
私達はブラックの『指輪に宿りし者』の言葉に注目したのだ。
「それはね、僕達、いやこの世界の創造主である『光』『大地』『闇』だよ。
はるか昔にこの気配を感じる事は出来なくなっていた。
もう、存在しないのではと思うくらいだったよ。
・・・お前はそれを知っていたのだな。」
そう言って、『闇の鉱石を支配する者』を睨んだのだ。
「ああ、そうだよ。
もちろんこの時に僕も知ったけどね。
正直、向こうから何か言って来ない限り、僕は沈黙を続けるつもりだったよ。
ちゃんと存在しているのなら、彼らは僕達をいつでも見ているはず。
そして、とても崇めるべき存在。
まあ、閉じ込められていたのだから、今回まで誰にも話す事も出来なかったけどね。」
そう言って『闇の鉱石を支配する者』は冷ややかに笑ったのだ。
もし二人が言っている事が確かだとするなら、この世界を作った存在が、カクの両親を死に至らしめたと言う事?
そんな偉大な存在が、平凡な二人の人間に関わる事があるのだろうか?
私は理解出来なかった。
横にいるカクの表情を見ると、私と同じ考えに違いなかった。
「その魔法陣を作り出し、両親が連れて行かれた世界に行く事は出来ないだろうか?
本当はこの世界の創造主は関係ないかもしれない。
繋がった別の世界の何者かによって殺されたかもしれないじゃないか?
皆さん、どうにか行く術があったら教えてください。
お願いします。」
カクはそう言って、自然から生まれし者達にひざまずいて、頭を下げたのだ。
しかし、誰もすぐに言葉をかける事が出来なかった。
もしも、創造主が関係しているとしたら、それに従うのが暗黙のルールなのだろう。
争う事が出来る存在ではないのだろう。
勝手に同じ魔法陣を作り出す事自体も、許される事なのかがわからないはず。
この世界を3つに分ける事ができた存在なのだ。
彼らの意に背く事にならないかと、誰もが思ったのだろう。
しかし・・・
「私からもお願いしたいの。
正直これでは、何もわからないまま。
みんなだって、何が起きているか知りたいとは思わない?
私は知らないフリをしてずっと過ごす事は出来ない。
それに、創造主が行った事なら、ちゃんとした理由があるのかもしれない。
それを知る事が、彼らの意思に背く事になるとは思わないわ。」
私は一気に話したのだ。
すると、森の精霊はため息をついた後、微笑んで話したのだ。
「舞ならそう言うと思いましたよ。
・・・わかりました。
私が先ほどの魔法陣を作ってみましょう。
ただ、それがちゃんと動くかどうかはわかりませんよ。」
「ちょっと、待ってくれ。
舞、どんな所かもわからない場所に行くなんて、危険すぎる。」
ブラックは焦って話を遮ったのだ。
「わかってる。
でもね、私はカクの力になりたいの。
カクはこの世界での、私の家族なのよ。
だから、ブラックがなんと言おうが、カクの両親のことがわかるのであれば行ってみたい。」
ブラックが心配してくれる気持ちは、良くわかるのだ。
でも、今はいつも私の事を思ってくれているカクの味方になりたかったのだ。
「まあ、とにかくこの鉱山の記憶を元にして、作ってみるが良いだろう。
話はそれからだ。」
そう私の『指輪に宿りし者』が話すと、みんなの見守る中、森の精霊が先ほどの記憶の映像を元に、綺麗な光るラインを手から放ち、魔法陣を作り出したのだ。
そこには見たこともない文字や模様のようなものが沢山使われており、とても神々しく感じたのだ。
しかし、記憶の映像を真似た魔法陣は沈黙のままであり、動き出す気配は無かった。
何かが必要なのかもしれないが、みんな思いつく物は無かったのだ。
「向こうに行く事は無理なんじゃないの?
僕は初めから乗り気じゃないからね。
今回の事が無ければ、そもそも話すつもりなかったんだよ。
さあ、もう終わりにして。
約束通り僕は話したんだから、自由との引き換えをね。」
そう『闇の鉱石を支配する者』がニヤリとしながら話した時である。
森の精霊が作った魔法陣が光りだし、急に動き出したのだ。
すると、中心から風が舞い上がり渦を巻き始め、人と思われる者が現れたのだ。
そして、輝きと風が落ち着くと、はっきりと見る事ができたのだ。
そこには姿形は人と変わらないのだが、気配が全く違ったのだ。
それは人間である私ですら感じる事であった。
人間なのか、魔人なのか、もしくは精霊の類なのか全くわからない存在であった。
もしかしたら、これが創造主?
しかし、そうではない事がすぐに分かったのだ。
「私はネモと申します。
我主から、皆さんを私たちの世界に招待するように、仰せつかりました。」