122話 新たな魔法陣
私達は人間の国にあるシンピ鉱山に向かった。
そこに行く為には、あの洞窟を通らないと行けないのだ。
魔人の国に行く時は暗かった洞窟の中も、今は光の鉱石により明るく照らされていたのだ。
「鉱石に光が戻っている。
ああ、本当によかった。」
ここが明るく照らされているという事は、人間の世界でも同じように魔鉱石の力が戻っているに違いない。
鉱石の恩恵を受けて生活していた人間達にとっては、とても重要な事であった。
鉱石の力が無くなったことで、人間達の怪我が増えたり、病が蔓延していたのだ。
その事で薬師達が一生懸命対応してはいたが、危機的な状況が続いていたのだった。
しかし、私の『指輪に宿りし者』が元に戻った事で、きっと状況は変わってきているだろう。
これから向かう鉱山での事を考えると、気を抜く事は出来なかったが、少しだけホッとしたのだ。
洞窟を抜けると、明るい世界が現れた。
そして私達は魔人達に掴まり、シンピ鉱山に瞬時に移動したのだ。
私たちが到着するなり指輪から優しい光が現れ、人の形になった『指輪に宿りし者』達が現れたのだ。
その鉱山は、いつの間にかほとんどが闇の鉱石に変化しており、他の鉱石の存在を見つける事が出来なかった。
このままなのだろうか?
そう考えていた時、私の心中を知ってか、私の『指輪に宿りし者』は声をかけてくれたのだ。
「なんて事は無い。
以前と同じ鉱山に戻す事は簡単であるからな。」
そう言って、私を励ましてくれているようだった。
私達は鉱山の採掘場の一番奥まで向かうと、私の『指輪に宿りし者』は、結界の中に捕らえている『闇の鉱石を支配する者』を手の上に現したのだ。
「さあ、ここまで来たからには、ここにいる人間の望むものを見せるのだ。
満足するものであれば、今後のおまえの身の振り方も変わってくるであろう。」
そして捕らえていた結界を、二人の『指輪に宿りし者』が力を込めると、パリンと大きな音を立て破壊されたのだ。
すると結界の中の『闇の鉱石を支配する者』はすぐにカクの少年時代の姿に変わったのだ。
彼は腕を上げて伸びをすると、眠そうにあくびをしたのだ。
「ああ、やっと着いたね。
もはや懐かしい我が家になってしまったな。」
そう言って『闇の鉱石を支配する者』は周りにある闇の鉱石に触れると、大きなキューブ状の塊が生きているように勝手に動き出し、鉱山の奥につながるトンネルを作り出したのだ。
私はその動きに目を離せなかった。
それは私にとって、とても神秘的な作業に見えたのだ。
「さあ、では昔の出来事を覗くとしようか?」
そう言うと、『闇の鉱石を支配する者』はトンネルの中の壁をスクリーンのように使い、鉱山の様子を映し出したのだ。
自然から生まれし者達やブラックはそれを見てもあまり驚く様子がなく、彼らにとっては当たり前にある能力なのだろうと思ったのだ。
流石にカクは驚いているはずと思いカクの顔を見たが、冷静に表情を変えずに見ているだけであった。
そこに映し出された鉱山の様子は、映画を高速の逆回転で見るようなものだった。
採掘場で作業する人間達が消えては現れての繰り返しであったが、『闇の鉱石を支配する者』がある所でパチンと指を鳴らすと、二人の人間が倒れている映像が映し出されたのだ。
その二人がカクの両親である事は、さっきまでの表情と違うカクを見ると明らかであった。
「さあ、この人間達が倒れる前を見てみようか。」
そう言って、時間をもう少し戻したのだ。
そこには、カクの両親である二人が、他の者と会話をしたり鉱山を確認しているような姿が見られたのだ。
他にいた鉱山で仕事をする者達が全て帰った後も、何やら二人は調査をしているようだった。
ひと段落したのか、帰ろうとした時だろう。
急に二人は明るい光に包まれると、その場から一瞬でいなくなったのだ。
私は一体何が起きていたのかわからなかった。
その後何事もなかったように時間が流れたのだ。
そして数日後、二人は急にいなくなった場所に、突然倒れた状態で現れたのだ。
そこで『闇の鉱石を支配する者』は映像を止めたのだ。
「これでは何があったが全くわからないじゃないか?」
それを見たカクは叫んだのだ。
「お前が殺してないとの証拠にはちっともならない。
急に消えて、数日後に動かない状態で現れただけじゃないか。」
「まあ、まて。
再度現れた時はまだ二人とも少しだけ意識があったのだよ。
だから、そこから僕はこの姿を真似たんだよ。
その後、すぐに生き絶えたけどね。
彼らが消えたり現れた時に、実はある事が起きてたんだ。
これを見て。」
そう言って、画像をある方向から見せてくれたのだ。
するとそこには一時的に作られた魔法陣のような物が、鉱石に刻まれていたのだ。
二人が消える前と、再度現れる前に。
「その魔法陣は多分、別の場所へ転移するためのものでは・・・
昔、ハナと色々別の世界に行ける方法を模索していましたからね。
しかし舞が使う魔法陣とも違う・・・何と言うか・・・」
ブラックはそう言って腕を組んだのだ。
すると、ブラックの『指輪に宿りし者』は意外な事を話し出したのだ。
「ブラック、その通りだと思うよ。
ただ、それだけじゃなくて・・・
君にはわからないかもしれないが、僕らはその魔法陣を作った者を知っているかもしれない。
それにはある気配を感じられるんだ。
そう、自然から生まれし者ならみんな感じる事が出来る気配をね。」