121話 鉱山へ
結局、私は『指輪に宿りし者』に『闇の鉱石を支配する者』を以前のように封印しないで欲しいと懇願したのだ。
カクの両親の死の真実も知りたかった事もあったが、実はそれだけではなかった。
彼の存在する意味が知りたかったのだ。
何故なら、彼は闇の薬を作る為に必要な鉱石を支配しているのだ。
私はその存在意義を理解したかったのだ。
今更ながら、秘密の薬について書かれている古びた書物の中には、闇の薬の作り方も載っているのだ。
実はずっと疑問に思っていた事がある。
ハナさんが本当に必要ないと思ったならば、それらを記す必要が無かったはず。
しかし、その薬がしっかりと載っていると言う事は、それも後世に伝えたかったという事。
ハナさんが二度と作りたく無いと言った薬・・・
私もそう思った薬。
彼を知る事で、何かわかる事があるのではと思ったのだ。
「舞がどうしてもというのなら、考えなくは無いが。
ただ、あいつは舞の思う者では無いぞ。」
私は黙って自分の『指輪に宿りし者』の顔を見たのだ。
「・・・はあ。
では、鉱山に着くまでは結界で囲む事にする。
そこでのあいつの態度次第で封印するか自由を与えるかを決める事にする。
それで良いか?」
「ええ、それで大丈夫よ。
ありがとう。」
私とカクはそれを聞いて少しだけ安堵したのだ。
だが、森の精霊やブラック達は納得のいかない顔をしていたのだ。
「行く前に、私の部下達を元に戻してもらおうか。」
ブラックがそう言うと、続けてジルコンも叫んだのだ。
「他の魔人達も閉じ込められているのよ。
それを元に戻して!」
その声を聞くと、『闇の鉱石を支配する者』はパチンと指を鳴らして、この城にいる動きを封じられている魔人達を解放したのだ。
「ああ、ここにいる魔人についてはすぐに元に戻したよ。
だけど、外の住民を囲んだ鉱石は今の僕には無理だね。
僕が器に入らないと、それを解除する力は無いから。
まあ、兄弟達なら少し時間はかかるけど、どうにかしてくれるだろう。
それとも、誰か僕の器になってくれるかな?」
『闇の鉱石を支配する者』はそう言ってニヤリとしたのだ。
「・・・住民については、後で僕たちが何とかするよ。
誰もあいつの器になんてなる必要はないからね。」
ブラックの『指輪に宿りし者』はそう言って、いつもと違い真剣な顔をしたのだ。
ブラックはジルコンにこの国に残り、他の幹部と共に国の状況を把握するように伝えたのだ。
魔人の王として、国の様子が心配なのは当たり前なのだ。
ユークレイスはブラックと一緒に向かうらしい。
カクはと言えば、『闇の鉱石を支配する者』の姿を見てから表情を緩める事は無かった。
あの優しく臆病だったカクが・・・
私はそれが一番心配だったのだ。
森の精霊は小さくなって私の肩に座り、警戒を解く事は無かった。
二人の『指輪に宿りし者』はいつもの調子であり、『闇の鉱石を支配する者』は争う事なく結界の中に捕らえられ、沈黙したのだった。
しかしカクの子供時代の姿の彼もまた、色々考えているに違いない。
鉱山に着いて結界から出れた途端、彼は裏切るかもしれない。
もちろん、皆そうなった時を想定しているのだろうが。
私ももちろん油断をするつもりはなかった。
皆、色々な思いのまま、人間の住む世界にあるシンピ鉱山に向かう事になったのだった。