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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第3章 失われた記憶編
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119話 ラピスの消失

 『闇の鉱石を支配する者』がユークレイスの身体から追い出された後、すぐにユークレイスが立ち上がったのだ。

 その表情はとても落ち着いており、動揺のカケラも感じられなかった。

 立ち上がって、一瞬だけ『闇の鉱石を支配する者』に目を落としたが、すぐにブラックと舞の方に向かって歩き出し、片膝をついたのだ。


「ブラック様、舞殿、この度は申し訳ありませんでした。

 全てはラピスから教えてもらいました。

 謝罪してもしきれません。

 しかし、ラピスがもう現れる事はありません。

 彼女は・・・私の中に。」


 そう言ってユークレイスは自分の胸に手を当てたのだ。



 少し前までユークレイスは、ラピスに意識の奥底に閉じ込められていた。

 ユークレイスは夢心地の中、外では何が起きているかがわからない状況だった。

 ただ、ラピスの気配がだんだんと小さくなっていることだけは分かっていた。

 そんな中、ユークレイスを呼びかける声がしたのだ。

 

「ねえ、ユークレイス。

 あなたとは長い付き合いだったわね。

 私がいなくても、大丈夫?

 あなたが辛い時、もう私は守ってあげれなくなったわ。」


 ラピスの意識がユークレイスに語りかけたものだった。

 

「ラピス・・・私は一人で大丈夫だ。」


「そうだったわね。

 だから私は焦ってしまったんだったわ。

 あなたを守りたかったの。

 私を必要としてもらいたかったの。

 もう少しだけ・・・ユークレイスと一緒にいたかったの。

 いずれは消える予定だったけど、少し早まったみたい。

 今度からは自分の中に助けを求めないで、あなたの仲間と言うべき人達に助けてもらうのよ。

 さあ・・・目覚めたら全てがうまく行くわ。」


 それを最後に、ユークレイスはラピスの声を聞く事は出来なかった。

 その後、ラピスが見ていた『闇の鉱石を支配する者』の行動の記憶が、ユークレイスの意識に一気に流れてきた。

 いつものユークレイスであれば、自分が乗っ取られた事で起きた全ての事への罪悪感に苛まれただろう。

 しかし、今のユークレイスは、その先に自分ができる事は何かを考える事に集中出来たのだ。

 きっとラピスが一緒に罪悪感を背負ってくれたに違いない。

 ユークレイスはそう考えると、前を向く事が出来たのだった。

 そして夢心地な状態から、やっと目覚めたのだ。



             ◯


             ◯


             ◯


「ユークレイス・・・大丈夫かい?」


 ブラックが心配そうに声をかけると、ユークレイスはいつもの冷静な表情で力強く答えたのだ。


「問題ありません。」


 ブラックがそれを聞いてホッとした時、倒れていた『闇の鉱石を支配する者』が起き上がったのだ。

 そして少年のような姿ではあるが、誰が見ても全身が怒りのオーラで包まれている事がわかったのだ。


「いったいどう言う事なんだ!

 くそっ、何で追い出される事になったんだ!」


「さあ、お前はまた鉱山に戻るんだ。

 ここではお前は何の力も発揮できない。

 大人しく言う事を聞くんだな。」


 舞の『指輪に宿りし者』は、ニヤリとして話したのだ。

 そして二人の『指輪に宿りし者』は手を挙げて、目の前の少年を結界に閉じ込めようとしたのだ。

 その時である。


「待って!

 それでは何の解決にもならないと思うわ。

 またいつか、鉱山から出るために同じ事が繰り返されるわ。」


 舞がそう叫んだのだ。


「舞、其奴を可哀想と思う必要はないぞ。

 今まで我らが何度となく、言ってきたことをわかろうとはしなかったのだ。

 自分の欲のために、別の生命を軽んじてはいけないのだ。

 野放しにすれば、これからも人間や魔人が犠牲になるのが目に見えているのだぞ。

 わかるだろう?」

 

「どうしたら良いかはわからないけれど、闇の鉱石が必要なように、彼も存在する事に意味があると思うの。

 だから、閉じ込る事が正解ではないと思う。」


「しかし野放しにすれば、次々と器になる者を犠牲にしていくのだぞ。

 それで良いのか、舞?」


 そう舞の『指輪に宿りし者』が言った時、後ろの方から声が上がったのだ。


「そうだ、その者は二度と出て来れないように、鉱山に閉じ込めるべきだ。」


 その声の持ち主は意外な人物であった。

 そこには怒りを抑えられないカクの姿があったのだ。


「カク、あなたがそんな事を言うなんて・・・

 いったい・・・」


 舞が驚いてそう言うと、今まで見た事が無いような冷たい表情をしたのだ。


「舞、その者の姿・・・誰かわかるかい?

 僕はわかるんだよ。

 だって・・・その姿、僕の子供の頃そのままなんだよ。

 どうしてなんだろうね・・・」



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