116話 協力者
ブラックは自分達を囲む鉱石から出る方法を考えていたが、『指輪に宿りし者』の力に頼るしかないと、ため息をついていた。
舞の様子がわからない事がとても心配だったのだ。
『指輪に宿りし者』は目の前の鉱石をどうにかしようと集中してくれていたが、その変化は大きなものとは言えなかったのだ。
しかし、その時である。
ブラックは急にある気配を感じたのだ。
それは今までも何度か遭遇しているものであったが、以前と比べより大きく、より強くなっていたのだ。
舞を心配して現れたのは明らかであった。
そしてブラックの頭にささやいてくる声があったのだ。
「ブラック・・・聞こえるかい?」
「ああ、聞こえますよ。
来ていたのですね。」
やはり森の精霊に他ならなかった。
「まあね。
舞の事はいつも気にかけているからね。
それより、今からこの城全体を私の作った空間で囲みます。
どう言う意味かわかりますよね?」
「なるほど。
自然から生まれし者の領域に入ったら、その管理者の許しなく勝手な事はできない。
そう言う事ですね。」
もちろん、その空間を作った者も何も行使する事はできない。
だが・・・その中に管理者の許しを得た者がいるのであれば話は違ってくるのだ。
「ブラックの結界から舞の『指輪に宿りし者』が出ると、あっという間に居場所がわかってしまうだろう。
だが、すぐに彼等が合流すれば問題ないはず。
その後は舞に任せようかと思うのですよ。
そうすれば、魔人の彼も助かるはずですから。」
「それでは舞が危険になるのでは・・・
今の舞では記憶も・・・」
私は精霊の言う事に少し不安を感じたのだ。
「私の空間では心配無いですよ。
でもいざとなったら、ブラック、あなたがいるでしょう。」
その言葉の後、精霊の力がこの城全体を包み込むのがわかったのだ。
とにかく、すぐにこちらの『指輪に宿りし者』に精霊の計画を伝えたのだ。
「僕の片割れが来るなら、もう大丈夫だよ。
言っただろ?
僕達のがあいつより上なんだよ。」
自然から生まれし者は楽天的な者が多いと感じたが、それだけ自信があると言う事なのだろう。
私は彼等の計画に委ねることにしたのだ。
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城全体が森の精霊の作る空間と重なると、すぐに舞の『指輪に宿りし者』はブラックの結界を破り、鉱石に囲まれて拘束されているブラックと自分の片割れの近くに移動したのだ。
そして一箇所だけ光の鉱石の様に輝いていた部分がある事を、舞の『指輪に宿りし者』は気付いていたのだ。
舞とカクも執務室に移動すると、身体を動かせない魔人の幹部達の後ろに隠れたのだ。
森の精霊の指示通り、舞の鞄には準備した薬が入っているのだった。
薬についてはカクがいたので、私は難なく作る事は出来たのだ。
もちろん『指輪に宿りし者』が薬に必要な鉱石を生み出してくれたからでもある。
私はカクと一緒に部屋から出て、執務室をそっと覗いたのだ。
すると幹部の人たちが、苦しそうな顔で立っていたのだ。
どうも、身体を動かす事が出来ないらしい。
そんな姿を見たら少し怖い気持ちもあったが、それよりも彼等を早く解放してあげたかった。
そして精霊の指示通り、私とカクは彼らの後ろにそっと隠れたのだ。
少しすると、今度は『闇の鉱石を支配する者』とジルコンが城の執務室に戻ってきたのだった。
実はユークレイスの姿の『闇の鉱石を支配する者』は、とても焦っていた。
『指輪に宿りし者』が合流してしまう事を恐れたのだ。
そして、鉱石の塊が破壊されてない事を見て安堵したのも束の間、自分の力が使えないことに気付いたのだった。
『何故だ!・・・何をした!』
ユークレイスの姿の『闇の鉱石を支配する者』は落ち着いてはいられなかったのだ。
「どうした、まだ気付いてないのか?
では、教えてやろう。
お前は、ある自然から生まれし者の空間に入ったのだよ。
どう言う意味かわかるか?」
舞の『指輪に宿りし者』はそう言って、ニヤリとしたのだ。
『・・・他の者と手を組んだと言うのか?』
『闇の鉱石を支配する者』は驚いたのだ。
この世界の自然から生まれし者達は、本来お互いを干渉することなく存在しているのだ。
つまり敵対も協力もしない。
もちろん、全てと言うわけでは無く例外もあるのだが。
何故今回は協力しているのか・・・
そう考えている時である。
目の前に優しい光の塊が現れたのだ。
そしてすぐに人型に変わると、『闇の鉱石を支配する者』の前にゆっくりと降り立ったのだ。
『協力者か・・・』
『闇の鉱石を支配する者』はそう呟き、じっと森の精霊を見たのだ。