115話 精霊の空間
小さな種から現れた森の精霊は舞の手から降りると、あっという間に大きくなり舞を見下ろしたのだ。
「舞、私に何か手伝える事があるかもしれませんよ。」
実は森の精霊は、少し前から舞の心情に注意を払っていたのだ。
舞が思い悩んでいる事がわかったので、自分から現れたのだった。
森の精霊は『指輪に宿りし者』を見て、ある事を提案したのだ。
「あなたの兄弟は、ちょうど今は城の外にいるようですよ。
もう一人は閉じ込められているようですが・・・
今ならこの城に私の空間を作りそこに引き入れますよ。
私が支配する空間であれば、彼は私の許可なく何か行動を起こす事は出来ない。
それにしても・・・この地に戻ってきた時に鉱石の光を取り戻していれば、こんな事にはならなかったのでは?」
すると『指輪に宿りし者』は不機嫌な顔をして横を向いたのだ。
「それを言うな!
こんな状態とは知らなかったのだ。
はあ・・・それにしても、片割れは閉じ込められているのか。
・・・なるほど、我々兄弟では意味が無かったが、違う自然から生まれし者の領域ではお互い何も手を出す事は出来ないからな。
良い考えかもしれない。
上手く引き込めればだがな。」
『指輪に宿りし者』は腕を組んで少し考えた後、そう話したのだ。
舞は自分の記憶を取り戻していれば、何か役立つ事が出来たのではと、残念でならなかった。
すると、森の精霊は舞の気持ちをわかっていたかのように、優しく微笑んで舞を見たのだ。
「舞、ここからは君の力が必要だよ。」
その言葉を聞くと、舞の黒い大きな瞳が益々輝いたのだ。
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魔人の国をジルコンと一緒にまわった『闇の鉱石を支配する者』は、苛立ちを隠せなかった。
結局、『指輪に宿りし者』の片割れを探す事が出来なかったのだ。
おかしい・・・
必ずこの世界に来ているはずなのに、探し出す事が出来ない。
やはり閉じ込めた兄弟からどうにか聞くしか無いか・・・
そう思い、城に戻ることにしたのだ。
しかし、城の正門に瞬時に移動すると、少しの違和感を感じたのだ。
その為入ることに躊躇したのだが、すぐに城の中に探していた気配がある事に気付いたのだ。
『くそっ、やっぱり城にいたのか・・・』
城の中に兄弟と言うべき二人の気配を感じる事が出来たのだ。
それも合流しようとしている。
まずい・・・
城に違和感を感じたが、それを気にしている余裕は無かった。
二人が合流する前にどうにか阻止しなければ・・・
急ぎ二人の気配がある場所に移動すると、そこは先程『指輪に宿りし者』と魔人を鉱石で囲んだ場所であった。
そしてその横には久しぶりに会う、もう一人の『指輪に宿りし者』がこちらをじっと見て立っていたのだ。
その兄弟と言うべき者は鋭い視線を向け、すぐにでも何かを仕掛けてくるように感じたのだ。
とは言え、人質とも言える器である魔人や、城の外には閉じ込め時間を止めた魔人達も沢山いるのだ。
それに、まだ合流していないところを見ると、自分の方が力が上であると考えられる。
・・・これなら、問題ない。
『やあ、久しぶりだね。
どこに居たのかな?
僕は国中を探してしまったよ。
いるなら、早く出てきてくれれば良かったのになー』
笑いながらそう言うと、目の前に立っている『指輪に宿りし者』は無表情のまま答えたのだ。
「いったい何をしている?
私の片割れを閉じ込めるとは・・・
お前は鉱山の中にいるはずでは無いか?」
『ああ、そうだったね。
だいぶ長く居たから飽きちゃったんだよ。
だから兄弟、交代の時間を知らせに来たんだよ。
僕の次は誰が入るのかな?』
そう言い、目の前にいる『指輪に宿りし者』を鉱石で囲む為、青い目を光らせたのだ。
しかし・・・先程と違って何度か力を込めても、何も起こらなかったのだ。
おかしい・・・いったい何が起きているのだ。
ふと『指輪に宿りし者』に目を向けると、鋭い目をしながらもニヤリと笑ったのだ。
・・・しまった!
さっき、この城の前に立った時に感じたものがあったのに、合流されては困ると焦ってしまったのだ。
やはり、何か仕掛けてあったのだ。
「どうした、何か困ることでもあったか?」
『指輪に宿りし者』は嬉しそうに話したのだ。