113話 閉じ込められた者
ブラックと『指輪に宿りし者』は透明な鉱石に閉じ込められると、徐々に周りが黒ずみだし、外の様子がわからなくなったのだ。
ユークレイスの身体を傷つける事は出来ないと思い攻撃を躊躇した事で、あっという間に閉じ込められてしまったのだ。
「・・・困りましたね。
私の力ではどうにもなりませんね。」
私は周りを囲んでいる鉱石を壊そうと、左手を向けて黒い衝撃波を放った。
しかし、その力は鉱石の中に吸い取られてしまい、全くといってびくともしなかったのだ。
「ブラック無理だよ。
僕なら何とかなるけど、少し時間がかかりそうだよ。
まあ、あいつの力が強くなったといっても、僕たち二人の力には及ばないよ。
僕の相棒と合流できればあっという間なんだけどね。
待つしかないかなー
まあとりあえずやってみるよ。」
『指輪に宿りし者』はそう言いながら、囲まれた鉱石をどうにかするためなのか、座り込んで目を閉じたのだ。
ここから出れない事も問題ではあったが、私は舞が心配だった。
近くの部屋にいる舞達が見つからなければ良いと思ったのだ。
元々はユークレイス達に認識されないようにと結界で部屋を囲んだのだが、今はあの『闇の鉱石を支配する者』にもわからないままでいてほしかった。
もしも舞が、私と同じように鉱石に閉じ込められたらと思うと、心配で居ても立ってもいられなかった。
横を見ると、目を閉じたままの『指輪に宿りし者』は静かにすわっているだけにしか見えなかった。
「一体、どうすれば良いんだ・・・」
私は何度か黒ずんだ鉱石に向けて力を込めるが、やはり全てのエネルギーが吸収されてしまい、傷一つ付けることが出来なかった。
「ブラック、静かにしてくれるかな?」
『指輪に宿りし者』は片目を開けながら、ゆっくりと私に言ったのだ。
私はため息をついて『指輪に宿りし者』を見ると、彼の目の前の鉱石に異変がある事に気付いたのだ。
よく見ると黒ずんだ石が、少しずつ透明となり光り出したのだ。
それはまるで闇の鉱石から光の鉱石に変化していくように見えたのだ。
だが、『指輪に宿りし者』の言う通り、その変化はゆっくりなものであった。
相棒と合流出来れば問題ないと話していたが、では合流する前に、舞の『指輪に宿りし者』が捕えられてしまった場合はどうなるのだろうか。
何も安心出来る状況では無かったのだ。
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シンピ鉱山でユークレイスが意識を失った後は、ずっと夢の中にいる気分だった。
実はユークレイス自身の意識はあったが、それが表に出る事は無かったのだ。
そう、あの瞬間、私とラピスは入れ替わったのだ。
私自身の人格は、自分の力で表に出る事は出来なくなっていた。
まるで鍵を掛けられた部屋にいるようなものであった。
だがそうなる直前、自分の中に異物と感じる物が入り込んできた事に気付いたのだ。
今まで兄弟と言うべきいくつかの人格が存在した時も、異物という感覚は全く無かった。
しかし今回は違うのだ。
嫌悪感を感じるほどの何かが、自分の身体に入ってきた事がわかったのだ。
それはあの鉱山で見た者である事は、明らかであったのだ。
そして、自然から生まれし者には到底対抗できないこともわかっていた。
だが、私はその異物と対峙する事は無かった。
私はラピスの意図により、私自身の奥底に追いやられたのだ。
そして、表では何が起きているかを知る事は出来なかったし、ラピスの考えもわからなかった。
しかし・・・一つだけ、自分の中のラピスの存在が少しずつ薄れている事はわかっていたのだ。
それは『闇の鉱石を支配する者』の影響であるのかもしれない。
だとしても、私に出来る事は無かった。
今まではラピスの存在が疎ましいと感じる事が多かったのに、今は何故か心配であったのだ。
少なくとも何者かわからない者に、ラピスを消滅させられることが純粋に嫌だったのだ。
ラピスはユークレイスと違い、表に出ていない時も、外の状況を伺う事が出来たのだ。
だから、自由にユークレイスの身体を使う事が出来た。
ユークレイスが城に戻ってからはラピスが表に出る事は無かった。
舞が自分の世界に帰っていた事もあるが、本当はブラックに言われた事を気にしていたのだ。
ラピス自身の行動がユークレイスを苦しめていた事は確かだったからだ。
ラピスはユークレイスがハナや舞の優しさに触れる事で、心を開いていく事を恐れたのだ。
どんな時でも冷静で、誰とでもある程度の距離を取るユークレイスのままでいてほしかったのだ。
そうでなければ、いずれまた傷つく事になる。
それを避けたかったのだ。