112話 正体
『闇の鉱石を支配する者』は、ユークレイスの姿で笑いながら、青い目を光らせたのだ。
すると手のひらから、硝子のような綺麗な鉱石をいくつも作り出し、それをブラック達に向かわせたのだ。
そして手出しができなかったブラックと『指輪に宿りし者』を、攻撃するのではなくその綺麗な鉱石で囲み出し、その中に閉じ込めてしまったのだ。
そしてブラック達を閉じ込めた塊は内側が黒ずみだし、見た目は闇の鉱石と同じようになってしまい、中を伺う事が出来なくなったのだ。
『ああ、傑作が出来たね。
今の兄弟では僕には勝てないよ。
僕らは全く同じ強さを持って生まれたのに、二人が力を合わせて僕だけを閉じ込めたんだよ。
でもね、あの頃とは僕は違うんだ。
兄弟一人だったら、僕のが強いはずだよ。
長い年月、鉱山の中で力を蓄えていたからね。
ああ、自由っていいね。
さあ、後一人だね。』
そう、ジルコンに向かって笑いかけたのだ。
ジルコンは動く事も話す事も出来ない状態であり、ユークレイスの姿の『闇の鉱石を支配する者』を睨むことしか出来なかった。
それに幹部達を見ても同じ状況の為、魔人の自分達ではどうにもならない事はわかったのだ。
後は舞の『指輪に宿りし者』がどう出るか・・・
『さあお姉さん、後一人はどこにいるのかな?
さっきまでは気配があったのに。
まだこの城にいるはずだよね。
一緒に探しに行こうよ。』
ユークレイスの姿の彼はそう言って、ジルコンに笑いかけると、ジルコンは体の自由を取り戻したのだ。
だが、ブラックや幹部達、目の前の状況を考えると、彼に従うしか無かったのだ。
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舞とカクは外の様子が気になったが、もう少し様子を見ることにしたのだ。
しかし、あまりにも静かすぎるのが、舞はとても心配だった。
舞は自分の記憶がはっきりしなくても、横にいるカクやブラック達が自分にとって大事な存在である事はわかっていたのだ。
だから、舞は心配と不安が入り混じった気持ちで、これ以上大人しくこの場所に留まる事が出来無かったのだ。
何だか嫌な事が起きている気がする・・・何故か私は昔からそういう事には敏感だった。
「カク、もう少ししたら見に行きましょう。
何だか胸騒ぎがするわ。」
私がそう言うと、カクは少し不安そうな顔をして答えたのだ。
「でも、魔人の王に待つように言われたし・・・勝手に行ってはどうなんだろう・・・」
「でも・・・」
私はどうしようかと思案していると、私の右手にある指輪が優しく光ったのだ。
霧状の光の塊が現れると、すぐに美しい女性の姿の『指輪に宿りし者』が現れたのだ。
その者はとても美しく威厳があり、私とカクは息を飲んだのだ。
「舞、今はだめだ。
計画を立てなければ、あいつの思うままだ。」
現れた『指輪に宿りし者』はそう言って、私をまっすぐに見たのだ。
「あいつって・・・さっき話を聞いた『闇の鉱石を支配する者』が来ているの?」
「その通りだ。
多分どちらかの魔人が器にされているのだろう。
そうでなければ、ここまで来る事は出来ないはずなのだ。
まあ今は、ブラックの結界の中にいるので、あいつにここを探す事は出来ない。
ちょうど良かったのだがな。
ただ、こちらからもあまり向こうの状況がわからないのだ。
しばらく経ってもブラックが現れないと言う事は、何かあったのだろう。
この結界を破って外に出る事は簡単だが、こちらも策を考えないとまずいのだ。」
「でも、その者はいったい何しにここに来たのかしら?」
今まで長い間、鉱山の中にいた者が、何のためにこの世界に現れたのか?
私はその者の考えがわからなかった。
「我らに会いに来たのだろう・・・」
『指輪に宿りし者』はそう言うとため息をついたのだ。
そして昔話を始めたのだ。
「あいつは我らを恨んでいるのだよ。
あの鉱山に閉じ込めたのは、我ら二人なのだからな。
もちろん、理由なく閉じ込めたわけではないぞ。
あいつは我等と違い、器になるべき者がいないと自由に行動したり、力を上手く使う事が出来ないのだ。
我ら自然から生まれし者は、何かしらの制約というものが必ずあるのだ。
魔人達よりも強い力を持っているかもしれないが、完全ではないのだ。
だが、あいつはそれを受け入れる事が出来なかった。
自分の器となれる者を見つけると、その者の身体を乗っ取り、自分の欲望のままに行動していたのだ。
やがてその器の自我を破壊し、飽きるとまた別の器を探して同じ事を繰り返す・・・
あいつにとっては、全てが遊びだったのだ。
壊れたら新しい物を探す・・・
我らは自分の兄弟とも言えるあいつが、そんな行動を繰り返している事が許せなかったのだ。
・・・だから二人であいつを閉じ込めたのだ。」
「では、また閉じ込めるしか無いのですか?」
私はまた同じように閉じ込める事が、最良とは思えなかった。
かと言って、良い考えが浮かぶわけでも無かったのだ。
「・・・多分、無理だろう。
私の片割れが一緒で無ければ、抑える事は出来ない。
だから、よく考えなければいけないのだ。」
すると、黙って話を聞いていたカクが口を開いたのだ。
「あの・・・舞の薬なら器となっている者から追い出す事が出来るのでは?
以前も同じように使った事があるはず。
追い出す事が出来れば、大きな力を使う事が出来ないのですよね?」
今の私にはカクの言う事がわからなかったが、あの古びた本に書かれている薬の中に、そんな効果のものがあったのかもしれない。
「でも、今は魔鉱石の光が失われているから・・・」
私はそう言って『指輪に宿りし者』を見上げたのだ。
「・・・わかった、わかった。
不本意だが、光を取り戻してやろう。
だが、その瞬間に、我々の場所が向こうにバレるからな。」
『指輪に宿りし者』はそう言って、ため息をついたのだ。
とにかく私達は、やれる事を考えたのだ。