111話 闇の鉱石を支配する者
舞とカクは執務室の隣の部屋で待機していたのだ。
ブラックの結界のため、外から舞達を確認することは出来なかったが、中からは外の様子が少しだけ伺えたのだ。
ジルコンとユークレイスが戻って来た事で、ユークレイスの中のラピスに舞が遭遇しないようにと、ブラックが考えたのだ。
舞達は外の様子をそっと伺っていたのだ。
すると、一瞬騒がしくなったが、あっという間に静かになったのだ。
二人は外の様子が気になったが、ブラックが結界を解除するまで待つことにしたのだ。
しかし、しばらく経ってもブラックが現れる事が無かったのだ。
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ブラックや幹部達はジルコンとユークレイスの他に何者かの気配を感じる事が出来た。
それは一瞬の出来事であった。
今はこの国を守るブラックの結界も働いていなかったので、気付いたところで侵入を防ぐ事は出来なかった。
いや、結界があったとしても問題なく入ってくるくらいの強い気配であったのだ。
ブラックはすぐに『指輪に宿りし者』が言っていた者だとわかった。
早く二人を戻すべきだったと後悔したが、すでに遅かったのだ。
執務室の扉がゆっくりと開くと、そこにジルコンとユークレイスが立っていたのだ。
ジルコンの引き攣った顔と対称的に、あのユークレイスが朗らかに笑っていたのだ。
明らかにユークレイスでは無い、そしてラピスでも無い者が入り込んでいたのだ。
『お姉さん、ありがとう。
感謝するよ。
確かに、ここには兄弟達がいるみたいだね。
さあ、僕が会いに来たのだから、出て来てくれよ。
久しぶりの再会じゃ無いか?』
そう子供のように話すユークレイスの姿の者に、ブラックは冷静に話したのだ。
「あなたははるか昔から存在する者ですね。
あの闇の鉱石を支配する者。
そうですよね。
いったいどうして彼の中に・・・」
『よく知ってるね。
そうだよ、兄弟に会いに来ただけだよ。
交代の時間だと伝えにね。
さあ、邪魔しないで。』
そう言って彼の目が青く光ると、執務室にいる魔人達の動きが止まったのだ。
それはジルコンがそうであったように、気絶をする事は無かったが、自由に体を動かしたり声を上げる事は出来なかったのだ。
・・・ただ一人を除いては。
『・・・ああ、そこにいるんだね。
だから、お兄さんは僕の力が及ばないわけだね。』
そう言ってブラックの前に進み出たのだ。
「みんなにいったい何をしたのです。」
ブラックは鋭い目で睨んだのだ。
『ちょっと、じっとしてもらってるだけだよ。
僕が用事があるのは兄弟だよ。
まあ、立場が変わったら、お兄さん達には色々協力してもらおうかと思うけど。
人間では、僕の考えを上手く受け取ってくれないんだよね。
だから、僕にとって彼らはどうでも良い存在なんだよ。
でも、お兄さん達は違うみたいだからね。』
そう言ってブラックに微笑んだのだ。
ブラックは、ジルコンと同じように、普段にこやかに中々しないユークレイスが微笑んでいる事を、とても不快に感じたのだ。
「では、ユークレイスから出てもらえませんか?
今も彼の中にいる必要は無いですよね。」
するとユークレイスの姿の彼は一瞬で冷淡な顔に変わったのだ。
『お兄さん・・・そんな事はどうでも良いんだよ。
さあ、兄弟達出て来て!』
すると、ブラックの指輪から明るい霧状の光が現れたのだ。
その塊は、人型に変わるとブラックの前に降り立ったのだ。
そして、その『指輪に宿りし者』はいつもの調子と違い、とても真剣な顔で彼を見たのだ。
『あれ?
二人一緒じゃ無いの?
おかしいな・・・』
「何しに来た。
君はあの鉱山で眠っていたはずだよね。」
『冷たいな、兄弟。
久しぶりに会ったのに。
交代の時間だと伝えに来たんだよ。
僕はもう自由だ。
今度は兄弟達が鉱山で眠る時間だよ。』
そう言って、『指輪に宿りし者』に笑いかけたのだ。
「僕たち二人に敵うわけがないだろう?
鉱山に戻って眠るのは君だね。」
『指輪に宿りし者』はそう言ったものの、少しだけ動揺していたのだ。
『確かに・・・以前はそうだったね。
でも、今はどうかな?
今は何故か殆どの鉱石の光が失われているね。
何かあったのかな?
それに、僕に危害を与えると言う事は、僕が入っている彼もダメージを受けるって事だよ。
わかっているよね?』
つまりユークレイスは人質に取られているようなものなのだ。
それに幹部達も彼の力で拘束されている。
それを考えると、『指輪に宿りし者』とブラックは簡単に動く事が出来なかったのだ。