106話 闇の音
ブラックが舞と再会する少し前、魔人の国でも鉱石の異変にブラックは悩まされていた。
装飾で使用されていた宝石類は輝きがなくなり、黒ずんでいったのだ。
ただ、人間の国とは違い、魔鉱石を使った道具は少なかったので、魔人達の生活が大きく変わることは無かった。
大なり小なり、皆魔法を使うことが出来たからだ。
ブラックは、森の精霊に舞の事を頼んだ後、執務室でネフライトに今回の石の異変について話したのだ。
「ネフライト、石の異変の原因はわかったよ。
さっき、この『指輪に宿し者』から話を聞いたんだ。」
「なるほど、石のことでしたら一番わかっているはずですな。
それでいったい・・・」
ネフライトは頷きながら、私の元に駆け寄ったのだ。
私は『指輪に宿し者』に言われた事と舞の事を話し終わると、大きなため息をついたのだ。
そしてネフライトは話を聞くなり、神妙な顔つきになったのだ。
「とにかく・・・舞殿に戻ってもらわないと困るという事ですね。
舞殿の事は精霊に任せるとして、ユークレイスの事を我々で何とかしなければいけませんね。」
「ああ、そうなんだよ。」
私はラピスがどうしたいかを考えなければならなかった。
舞と会わないことを約束しない限り、舞の記憶が戻る事がないと言われたのだ。
しかし、そうする事は兄弟ともいうべきユークレイスを苦しめる事になるのだ。
なぜそこまで・・・
私はユークレイスともう一度話をする為に、彼を呼び出そうとした時である。
突然、執務室の扉がノックされたのだ。
「ブラック、ちょっと聞いてくれる?」
そう言って、勢いよく扉をバタンと開けて、ジルコンが入って来たのだ。
「騒がしいですね。
扉は静かに開けてください。」
「何のん気なこと言ってるの?
実は気になる話があってね。
人間の世界でも、色々な魔鉱石の力が失われたと聞いているわよね。
だけど、一つだけ効果が変わらないばかりか、採掘量が増えているものがあるって聞いてる?」
ジルコンは得意気に話し始めたのだ。
確かに、そんな話は王からの手紙には無かったはず。
もしそれが本当ならば、おかしな話なのだ。
『指輪に宿し者』の片割れがこの世界からいなくなった事で、宝石や鉱石の光が失われ、魔鉱石の効果も無くなってしまったはずであった。
そうであるなら、一つだけ効果が変わらないとは腑に落ちないのだ。
『指輪に宿し者』は何も言っていなかったが・・・
人間の王がその事に触れなかったのは理解できるのだ。
今までその鉱石は生活に関わる事はなく、軍事的な部分での関わりのみであったからだ。
あえて、こちらの国に伝える事ではないのだろう。
私はさっきとは違い、真面目な顔でジルコンを見たのだ。
「それはもしかして、闇の鉱石の話ですか?」
ジルコンは頷くと、採掘された闇の鉱石の塊を私の前に置いたのだ。
「よく見て・・・」
私はその鉱石をじっと見ていると、何やら音のような物が頭に響いてきたのだ。
今までも何度かこの鉱石を手に取った事はあるし、だいぶ昔ハナの作る薬に含まれており、服用した事もあるのだ。
その時にはそんな事は無かったはずなのだ。
そしてその音のような物が頭に入り込むと、まるで頭の中をかき乱されるような感覚で、とても不快だったのだ。
「これ、人間にはとても問題だと思うのよ。
魔力の弱い魔人でも、注意しなくてはいけないと思うわ。」
この不快な音を長時間聞いていると、自我の弱い者などは我を無くすのではないかと思うほどであった。
私はその鉱石を結界に閉じ込め、外部に有害な音が出ないようにした後、消滅させたのだ。
それは粉々にしただけでは何も状況は変わらず、私の力で消滅するまで、音は聞こえ続けたのだった。
私はその後ユークレイスを執務室に呼ぶ事にした。
扉をノックして入ってきた彼は、いつも以上に青ざめた顔をしていたのだ。
「ユークレイス、大事な仕事があるのですが。
頼まれてくれますか?」
「・・・私に出来る仕事があるのでしょうか?」
「もちろんです。
ユークレイスにしか出来ない仕事ですよ。
ラピスも邪魔する事はないはずですから。」
「そうだと良いのですが・・・」
「実は闇の鉱石について探って欲しいのです。
人間の世界にある鉱山で掘られている物が、何やらおかしいのですよ。
その鉱石から発せられる何かを掴んで欲しいのですよ。
ユークレイス、あなたならそれを読み取る事が出来ると思うのですが。」
ユークレイスは私の話を聞くと、少しだけ口元を緩めて軽く頷いたのだ。
それを見て、私はユークレイスにジルコンと一緒に人間の世界に向かうように指示をしたのだ。
そして私は、再度『指輪に宿し者』から話を聞く為に、指輪を手で優しく包んだのだ。