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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第3章 失われた記憶編
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104話 戻った世界

 カクは目の前に舞がいる事の喜びを隠す事が出来なかった。


 私の前で泣いている青年は、私が『ただいま』と答えると、勢いよく抱きついてきたのだ。

 きっとこの人がカクね・・・

 私はとても驚いたけれど、嫌な気分では無かったのだ。

 ただ、肩に乗っていた小さな彼は呆れたような顔をして、苦笑いをしていたのだ。


「カク、舞が戸惑っておるぞ、もう離れなさい。

 舞、おかえり。

 ・・・この世界の記憶が無いと聞いたが、本当なのかい?」


 抱きついてきた彼の後ろから声が聞こえてきたのだ。

 その声は、亡くなったおじいちゃんを思い出させてくれる、ゆっくりとした優しい口調であった。

 そして、一見頑固そうに見える老人を見ると、今度は私の涙が止まらなくなったのだ。

 何故だかわからないが、まるで亡くなったおじいちゃんに会えたような気持ちになったのだ。


「ごめんなさい。

 まだ何も・・・でもこの場所もあなた達も初めてという気がしないのは確かなの。

 私、何だかとても嬉しいの。

 だから・・・きっと大丈夫。」


 私はそう言って、涙を拭きながら二人を見たのだ。


 私は扉を開けて外に出ると、目の前にはレンガの様な物で作られた、立派なお屋敷があったのだ。

 庭には色々な植物が栽培されていたが、何故か元気がないように思えたのだ。

 お屋敷の中は中世のヨーロッパを思わせる、素敵な住まいであった。

 しかし、思ったより暗く、ひんやりした空気が流れていたのだ。

 何だろう・・・

 このお屋敷というより、この世界自体が何だが重苦しい雰囲気に感じたのだ。

 

 そして私達は二階に上がると、私が今まで使っていた部屋を教えてくれたのだ。

 そっとドアを開けると、驚く事に私のお気に入りの物がそこにはたくさんあったのだ。

 どこかに無くしてしまったのだろうかと、考え込んだ時期もあった。

 だが、ここに全て持って来ていた事がわかり、納得できたのだ。

 この部屋を見回すと、当時の私がここで生活していく事を決めていたのは明らかだった。


 一階に降りると、私が辺りをキョロキョロしと見ている事に気付いたのか、祖父くらいの年齢のヨクが私に教えてくれたのだ。

 

「この世界に存在する不思議な鉱石の恩恵を受けて、我々人間は生活をしていたのだよ。

 だが今、全ての鉱石の力がほとんど無くなり、正直人間にとっては危機というべき状況なのだよ。

 生活の質が下がったばかりか、そのせいで病が蔓延している状態でのう。」


 その話を聞いて、送られてきた手紙の話を思い出したのだ。


「手紙でも書いてありましたね。

 全ては私が指輪を持ったまま、自分の世界に戻った事が原因だったんです。

 ごめんなさい・・・」


 私がそう謝ると、肩に乗っていた小さな彼が二人に説明してくれたのだ。


「舞のせいではありませんよ。

 さあ、指輪に宿りし者よ。

 もう出てきて、この世界を元に戻してはどうですか?」


 小さな彼がそう言うと、私の右手にある指輪が温かくなったのだ。

 そして、霧状の明るい光が指輪から出て来たのだ。

 その霧状のものはあっという間に人の形となり、美しい女性が現れたのだ。 

 この指輪から出ていた声の持ち主が、こんな風貌である事に驚いたのだ。


「なるほど、なんとか舞を連れて戻ってきたわけだな。

 森の精霊よ、それだけでは納得がいかないのだよ。

 わかるかい?」


「ああ、舞の記憶ですね。」


「そうだ、舞の記憶を取り戻さない限り無理な話だな。

 私が認めた者を陥れるような奴は許す事が出来ないのだよ。」


 そう言うと、また霧状となって指輪に吸い込まれるように消えてしまったのだ。

 その後、小さな彼が呼びかけても返事が無かったのだ。


「困りましたね。

 ブラックの元にいる魔人に会いに行くしかないですね。」


 小さな彼は私の肩に乗りながら、そう言ったのだ。


 ブラック・・・私はその名前を聞くと、何だか胸が苦しくなったのだ。

 でも、私は早く会ってみたいとも思ったのだ。

 そして、私の記憶を抜き取った魔人にも会って、早く記憶を戻してもらわなければと思ったのだ。

 指輪から出てきた者に、早くこの世界を戻してもらいたかったのだ。

 人間の世界に病が蔓延している状況を、どうにか改善するためにも・・・


 

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