103話 舞の帰還
実は、今回舞が精霊に渡したスマホは最近買った物であった。
舞は異世界から帰ってくる時に、今まで使っていたスマホはケイシ家の屋敷に置いてきたのだ。
舞は普段からちょっとした事を、日記のように書いてスマホに保存していた。
だが、あの時の舞はそれを持って自分の生まれた世界に行く気にならなかったのだ。
なぜなら、その中にはブラックとのやり取りも、色々とメモして保存してあったのだ。
舞は異世界での記憶がなくなった後、当たり前ではあるが、自分のスマホを見つける事ができなかった。
しばらくは探していたが、仕方なく新しいスマホを購入する事にしたのだ。
それがちょうど届いたばかりであった為、大事な情報はまだそれほど入れてなかったのだ。
舞はこれを使って過去の自分にメッセージを送る事にしたのだ。
私はこのスマホがもし自分の手元に届くことがあれば、私だけにしか使うことが出来ないと思ったのだ。
父の話や異世界から来た手紙の内容を考えると、どうも今の世界とは全く違い、映画や本の中の不思議な世界のように感じたのだ。
もしその世界に存在しないような物が見つかれば、必ずその国の城に届けられるような気がしたのだ。
自分が魔人の王と親しかったと聞いた事で、城に届けられれば私が目にする機会があるのではと思ったのだ。
だから、パスコードは私がいつも使っている数字にしたのだった。
そして、直接的な言葉を避け、ある言葉をメモに残したのだ。
その効果があったかはわからないが、今ここに光の鉱石の粉末とスマホがあるのだ。
私は異世界に行く準備をした。
父から転移について、知っている事を全て教えてもらったのだ。
私はお気に入りの赤いスーツケースに荷物を詰め込んだのだ。
そして、不思議な薬について書かれている古びた本も入れたのだ。
記憶が無くても、これから覚えればいいだけ。
私は本に書いてある、何種類かの漢方薬を鞄に詰めたのだ。
この古びた本を見て不思議な薬を作る事で、誰かの助けになればと思ったのだ。
以前の私のように・・・
少しだけ怖い気もしたが、それ以上に行かなければと思ったのだ。
向こうでは、私を知っている人達が待っている。
「舞、私がいるから大丈夫ですよ。」
小さな彼はそう言って微笑んだのだ。
私は頷くと、父に言われた訳ではないが、薄水色の白衣を羽織ったのだ。
向こうの世界が大変だと手紙に書いてある事を考えたら、着慣れた白衣で行くのが一番だと思ったのだ。
遊びに行くのではないのだ。
それを見て父は顔を緩めたのだ。
「舞はいつも向こうの世界に行く時は白衣を着ていたんだよ。」
「今も昔も考える事はいつも同じって事ね。」
そう言って、私は父に言われた魔法陣の上に立ったのだ。
初めて異世界に行った時の私は、どんな気持ちだったのだろう・・・
今回は、肩に向こうの世界を知っている小さな彼が一緒であり、大きな不安は無かったのだ。
「じゃあ、行ってくるわ。
落ち着いたら必ず連絡するから。」
そう言うと私は光の鉱石の粉末を頭上に投げたのだ。
綺麗な粉末は部屋中に舞い散るかと思いきや、魔法陣の中心へと引き寄せられ私達を包み込んだのだ。
あっという間に何も見えなくなり少しすると光の霧が消え、私は見覚えのない部屋に立っていたのだ。
足下には同じ模様の魔法陣の布が置いてあった。
そして、そこはまるで薬華異堂薬局の本店の中のような匂いで溢れていたのだ。
それは私の大好きな匂いにとても似ていたのだ。
その時である。
目の前の大きな扉がゆっくりと開いたのだ。
目を向けると、一人の青年が立っていたのだ。
私には記憶は無かったが、きっとこの人が手紙を書いてくれた人なのだとすぐにわかったのだ。
なぜなら、その彼は私を見るなりポロポロと大粒の涙をこぼして、一言だけ言ったのだ。
「・・・舞、おかえり。」
沢山の手紙から感じる優しさと、泣きながら私におかえりと声をかけてくれた彼の優しさは、疑う事なく同じだったのだ。
だから、何もわからないままではあったが、私もつい答えたのだ。
「ただいま・・・」