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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第3章 失われた記憶編
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100話 カクの決断

 森の精霊は自分の力が及ぶ森の中においては、過去を変える事が出来た。

 以前舞を助ける為に、ドラゴンが時間を遡った事があるのだ。

 精霊は呟いたのだ。



「過去に・・・」


 安易にやって良い事では無いのは分かっていたが、私はその手しか考えられなかった。

 ただ前の時と違い、誰かを過去に送るわけでは無い。

 私自身が戻り、舞に今回の事を知らせるつもりだった。

 だが、影響が及ぼせるのは森の中だけ・・・

 どう今回の事を知らせる事が出来るか考えたのだ。

 「指輪に宿りし者」の機嫌をとる事が一番手っ取り早い気がしたが、実は過去へ戻って知らせる事と同じくらいの難題であった。

 彼らは自分が認めた者だけにしか、力を貸さないのだ。

 今は舞の記憶を抜き取った魔人やブラックに怒りの矛先がいっている為、その世界を助ける為に力を貸すつもりは毛頭なかったのだ。


 だとすると、舞に自分の生まれた世界に行かないように伝えるか?

 しかし、森の外では直接的に過去に影響を及ぼす事は出来ない。

 無理に行っても、あの世界の法則に反する事は、自動的に消されてしまうのだ。

 私が伝えに行ったり、舞に届くように手紙を誰かに預けたりする事も出来ないのだ。

 つまり森の外で、未来への変化が確定させるような事を行う事は出来ない。

 ただし、未来が未確定である行動であれば、世界のルールから目をつぶってもらえるはずなのだ。

 せめて、光の鉱石だけでもこの世界に持って帰ってくれば、何とかなるのだが。


 私は舞や舞の父にその事を話すと、色々な物が提案されたのだ。

 世界のルールに反する物が消滅してしまうのであれば、舞の手元に行く可能性がある物をいくつか試す必要があった。

 どれか一つでも手元に行く事が出来れば良いのだ。


「では、秘密の扉を使い、向こうの世界に連絡をとりましょう。」


 私はそう言い、舞に手紙を書くように話したのだ。

 その内容は他言無用であり、扉を通して送られた物はそのまま開封せずに、森の精霊まで届けるようにとだけ書いてもらったのだ。

 受け取るケイシ家にとっては、山ほど聞きたい事があるはずだろう。

 しかし、私はその手紙の指示通り、ケイシ家の人達が私の森まで届けてくれる確信があったのだ。

 何故なら、舞や舞の父が提案した物の中には、以前私が見た事がある物が含まれていたからなのだ。

 


             ○


             ○


             ○



 ケイシ家に舞からの手紙が届く少し前である。

 カクは薬草庫にある秘密の扉の前でため息をついていたのだ。


 私は舞との連絡が取れなくなった後も、毎日秘密の扉の中身を確認していたのだ。

 その中の自分が書いた手紙が入っている袋を見ては、落胆していたのだ。

 手紙が届く為には、舞が今いる世界の扉が開かれなければならない。

 私の手紙があると言う事は、今のところその扉が開かれていない証拠であった。

 舞の考えはわからなかったが、私はどうしても諦める気にはなれなかった。

 だから、この世界の出来事を記した手紙を定期的に書いては、古びた袋に入れて扉の中に入れていたのだ。

 そして私の書いた手紙が、秘密の扉の中で移動する事を祈ったのだ。


 城に向かう前に、薬草庫に寄る事が私の日課になっていた。

 そして秘密の扉を開けては、動いていない袋を見てがっかりしたのだった。

 そんな時、魔人の王よりケイシ家に手紙が届いたのだ。

 それを読むと、舞から連絡が来なかった事に納得出来たのだった。

 良い知らせではなかったが、やはり理由があったのだと少しホッとしたのだ。

 どうも、ある魔人の仕業により記憶を書き換えられ、今はこの世界の記憶を抜き取られた状況だと言う。

 今は魔人の王が何とか元に戻す方法を模索しているらしい。

 私はその話を知ったところで、出来る事は今までのように手紙を書いて、舞を待っているしか無いと思ったのだ。


 しかし、そう思っていた時事態は変わったのだ。

 毎日のように開けていた秘密の扉の中に異変があったのだ。

 私が何枚も書いていた手紙の山が入った袋が消えたのだ。

 何度も扉を開けて中身を見たり、周りに落ちていないかなど確認したのだ。


「やった!

 向こうの扉が開いたんだ。」

 

 私は屋敷に戻ると、すぐに次の手紙を書く事に取り掛かった。

 みんなが心配している事や、舞の様子を聞かせてほしいなど、慣れない文字で書き綴ったのだ。

 私は手紙を書き終わると、急いで薬草庫に向かいすぐに秘密の扉を開いたのだ。

 すると、古びた袋がパンパンな状態で存在していたのだ。

 私は舞からの返事がもう来たのだと、嬉しくなった。

 もしかしたら舞の記憶が戻ったのかも知れない。

 そう思いすぐに袋を開けると、まず一枚の手紙が入っていたのだ。


 そこには数行だけ文字が書かれていた。

 明らかに舞の書いた文字ではあるのだが、その文章からは舞の気持ちを読み取る事が出来なかった。

 私はまだ舞の記憶が戻ってない事を確信したのだ。

 しかし、そこに書かれていた事柄は、とても重要な事なのだろうと想像が出来たのだ。


 正直、私は魔人の世界に行く事が、ずっと怖かったのだ。

 今までも向こうの世界に、仕事や舞に誘われて行く機会があったが、断り続けていたのだ。

 臆病と言えばそれまでなのだが、もともと劣等感を感じやすいたちであり、魔人の世界に行って多くの素晴らしい力を持った彼等と、対等に話す自信がなかったのだ。

 だから、彼等と仲良く出来る舞を羨ましくも思ったが、自分には出来ない事なのだと決めつけていたのかも知れない。

 それに向こうの世界に行く事が無ければ、そんな事を感じる事は無いのだから。


 だが、今回は何故かこの手紙を見た時、いつもと違う気持ちがあったのだ。

 祖父に頼む事も可能ではあったが、何故だか自分が行かなければならないと思ったのだ。

 舞の為というのもあったが、本当は私も舞のようになれるきっかけが欲しかったのかも知れない。

 今行かなければ、きっと嫌な事を避けて一生自分の都合の良い世界でのみ、臆病に過ごしていくのかも知れない。

 そんな自分を想像したくなかったのだ。

 私は舞のように、色々な世界を見て自分に出来る事を探したいと思ったのだ。

 

 そして、私は送られてきた物を大事に取り出すと、魔人の世界に繋がる洞窟に向かったのだ。

 


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