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(9) これが世にいうちゃぶ台返しなんですけども

この小説は のらねこに何ができる? の中のシリーズの1つ “のら小説家に何が書ける?”(高クオリティ小説の王道な書き方) の本文内にて設計したものを、実際に小説として書き起こしたものです。

小説の書き方の連載の方も、合わせてご覧ください。

https://project.sylphius.com/columns


   9


 まぁ、時間はまだ少しはあるんだし。

 ――そう思っていた時期が、私にもありました。

「いいかおまえら! おまえらだ! ろくな武器も作れんおまえらに、俺が自ら指揮を取りにきてやったんだから感謝しろ! 全くどいつもこいつも! ただ丸い玉が飛び出すだけのものにいつまでもいつまでも浮かれやがって! いいか、おまえらが作ったのはどうせ下らんもんなのだ! そうだろう!」

 昨日の今日で何の話も進んでいないうちから、そこに町長がいた。

 つまり、屋敷の人達が1日たった今でも熱冷めやらぬ様子で浮かれ続けてくれており、その騒ぎに自分だけ乗れなくて寂しいから相手をしろ、と。

 素敵なニュースをありがとう。分かったからもう帰ってくれないかな。

「あ、いえ、お話は昨日すでにお伺いしてますから、昨日お伺いした件はちゃんと進んでいます」

 午前10時の仕事の鐘が鳴り、開店時間にルーパが何気なく入口を開けると、そこに町長がすでに立っていたのである。

 なんかもう、捨てたはずの呪いの人形が返ってきたごとく、“ここにいたよ”といった風体。

 たまたまドアを開けたのが運の尽き、ルーパは先ほどから5分以上も捕まっており、お客さんだって中に入れなくて困ってるし、正直もう、この人なんのために生きてんだろな。

「ぶ、ぶぶ……ぶわっかもーん! そうじゃない! そういうことじゃないだろう!」

 出た。これぞ正統派、昭和ジジイのぶわっかもん。本人は僕より少し年上なだけのはずなんだけど、言うことがいちいち爺むさい。

「も~。困っちゃう。包丁持ってきた方がいいかしらぁ~?」

「助けに行かないの?」

 ペコラもオルソラも、どうしたらいいか分からなくて右往左往しているだけである。

 といっても、それは僕も同じなんだけど。

 一応、僕もクレーマー対策法をネットで聞きかじっていたはいた。なんせ昨日の今日だから、ちょっとしっかりめに調べたのである。

 だが僕の調べ方もよくなかったのだろうが、正直あまり役に立つ情報は得られなかった。

 クレーマーは、まず目的別の分類として感情をぶつけたい・相手にしてほしい・本当に応援したいの3種類があり、行動パターンから感情型・理論型の2つに大別され、さらに後ろ盾別分類として顧客という立場それ自体の優位性・社会的立場・年齢・自身の肉体的力量があり、背景にある真の目的別の分類に金銭的不安・親族間不和・孤独感があって……えーと、まぁようするに、つまりは存在自体が捉えどころがないのである。

 いろいろ調べてようやく分かったのは、対策記事の大部分が『まずは真摯に相手の話を聞こうね』という無茶ぶりをしているだけということ。そりゃ、それができれば理想的だけど、それはあくまで話が通じることが前提である。

 日本の対策法は、冷静になる方法にしろ相手をヨイショする方法にしろ、後ろに上司や警察がいてくれることを前提とするものが多い。だがなんせこちらは異世界。本来だったらその警察を統べるべき人がクレーマー化していて、しかもこっちだって個人営業店舗だから後ろ盾もない。さすがにこれは日本のノウハウでは手に負えない。

 しょうがない。

 僕は店の商品の中から椅子を2つ取り出すと、

「はい。お話を伺います。なんでしょうか?」

 ルーパの背をポンと叩き、いったん後ろに下がらせた。天使を見たかのような半泣きの笑顔。

 椅子を見せることでじっくりと話を聞く用意があることを示し、

「こちらでお伺いします」

 と、町長を店の裏手に誘導しようとした。

 が。

「何を言ってる! まずは俺の話を聞け! さっきから何度も言ってるだろ! 俺が指揮をとってやろうと言うんだからありがたく思え!」

「はい。その点は了承しています。ですのであちらで詳しい話を――」

「おまえ俺が気づいてないとでも思ってるのか! そうじゃないだろう! さっきからそういうところがダメだと言ってるんだ!」

 なぜか、店の入口から頑なに動こうとしない。

 ――あれ、これってもしかして、嫌がらせが目的のパターン?

 一瞬そうとも思ったが、

「申し訳ありませんが、私はたった今こちらへ参ったばかりでして、改めてお話をお伺いしたいのですが」

「は!? なんだおまえ! さっきと言ってることが違うじゃないか! さっきおまえ、自分が何と言ったか言ってみろ!」

 僕とルーパはたしかに、町長の目の前、鼻の先わずか1メートルの場所でチェンジしたはずなのだが、彼は僕とルーパが入れ替わったことに気づいておらず、僕をルーパだと思い込んだまま会話を続けているようだ。

 ――もしかして……?

 僕は“ア”で始まって“マー”で終わる病気を思い浮かべていた。貴族なのにここまで1人で来ているという徘徊性、言葉の脈略のなさ、怒りっぽさ。これらを総合的に考えると、その病気である可能性がありそうだ。

 もしそうなら、この人に対する根本的な対処のしようがあるかもしれない。彼が病気であることが証明できれば、それを理由にうまく現場から遠ざけられる。

 僕の予想が正しければ、彼は次の質問に正しく答えられないはずである。

「あ、では、お話をまとめさせていただきますね。まず昨日いただいたご指示は、武器を光り輝くようにする、ということでお間違いないでしょうか?」

 わざと間違ったことを言う。

 もし彼が昨日のやり取りを覚えていないか、またはその場の状況に合わせて適当なことを言ってるだけなら、昨日と違うことを言うはずである。

 その場合、あの病気である可能性が高まる。

 と、思ったのだが。

「はぁぁ!? おまえホント大丈夫か!? 頭ホントおかしいんじゃないのか!? バカなんだろ! そうだろ! 俺は爆発音で権威を示せと言ったんだ! いいか? 爆発音だ! 音だ! ドカーンと爆発するようにしろと、俺はそう言ったんだ! 大きな音こそが権威を示す何よりの証明なのだ!」

 ――あ、あっれれぇぇ~? おっかしーぞ~ぉ!?

 たった1つの質問で何かが決まるわけじゃないが、昨日の出来事を言葉のディテールまではっきり思い出せるとなると、彼の認知機能が低下しているという考えは成り立たないかもしれない。

「そ、そうでしたそうでした! おっしゃる通りです、はい……」

 とするとあとは……。

 僕がうなずくと、彼は少し落ち着いたようだったので、質問を続けた。

「では、1つ質問いいでしょうか。昨日からずっと考えていたんですが、やはり分からないのです。お教えいただけないでしょうか」

 一応、昨日調べた範囲でのクレーマー対策法その1。相手の言葉を誤りだと鵜呑みにしないこと。どんなに愚かで、蒙昧で愚盲な意見であったとしても、その意見の裏には正当な見解や意図があるのではないか、と仮定するということだ。

 世界中の理不尽な言葉が理不尽なのは当たり前のことだが、世界中のどのような理不尽な意見も、信じられないことに“当人の頭の中では筋は通っている”のである。ただ、クレーマーは言葉選びが不得手なケースも多く、巧く伝えられないもどかしいが怒りに繋がっている側面もある。

 クレーマー対策法の中に、反論NGという記載があることがあるのはそのためだ。相手の中で筋が通っていることを理解しないうちから反論すると、こちらの理屈がどんなに正しくても、相手からはトンチンカンなことを言ってるように聞こえるのである。こちらの意見がどんなに正しくても、だ。

 だから、その当人の頭の中でどんな理論が展開されているのか、質問をしてそれを探っていくのも手である。

「は!? おまえ言っていいことと悪いことがあるだろう! てめぇに質問する権利なんざねぇ! おまえは俺に黙って従ってりゃいいんだ! おまえ平民だろ! 平民は貴族の言葉が絶対なんだ! 平民は貴族のために生きてる、いや、貴族に生かしてもらってるものなんだ! それを質問だ? ふざけんなよ、世の中には言っていいことと悪いことがあるだろ! ホントおまえはバカだな!」

 ――うわ。質問すらさせてもらえない……。

 だがさっきの質問には答えてくれたのだ。聞けば返答は返ってくるだろう。

 この質問は、場合によっては相手の鬼門に触れる可能性もある、非常にリスクのある質問だが……。

「あの……その権威を示すというのは、具体的には誰に対してなんでしょうか。爆発音を鳴らすことで、町長は何と戦われるんでしょう?」

 権威とは、権威の概念を理解している相手に示すから意味がある。ネズミを相手に権威を示したところで、ネズミは権威を理解できない。

 さすがにいくら町長でも、それが分からないわけはないだろう。

 それと、これは僕の親戚に患者がいたためたまたま知っていたのだが、先ほど彼が当てはまらなかった病気であるアルツハイマー型認知症には、実は裏の顔とも呼ぶべきもう1つのタイプが存在する。それが、僕の親戚に発症したレビー小体型認知症である。こちらのタイプの最大の特徴は、幻覚を見ることなのだ。

 もし彼が普段から何か大きな敵の姿を幻覚として見ていて、それと戦うつもりなのであれば、彼の言い分に一応の筋は通るのである。

 と、思ったのだが。

「はぁぁぁぁぁあ!? はぁぁぁぁぁ!?  はぁぁぁぁぁ!? おまえは本当に何も分かってないな! 普通聞くかそんなこと!? だから最初から言ってるだろう! ネズミだよ! ネズミ! トポネロと戦うんだ! それ以外ないだろ! いいか、おまえが戦うのはトポネロだ! ト・ポ・ネ・ロ! 分かったか!」

 あ、そっちでしたかー……。

 町長が答える際、戸惑いや何かを隠すような間は見られなかった。えーと、まぁ、つまり幻覚症状は特になし、と。僕は頭の中のカルテにそう書き加えた。

「なるほどなるほど! そうですよね! トポネロに権威を示すことで、我らの勝利を確実にすると!」

「いやおまえなんで……なんでそんなことも分からねぇんだよ! いやもう、ホントいい加減にしろ、なんなのおまえ! 俺をバカにしてるのか! ネズミが権威を理解できるわけないだろ!」

 ――ありゃあ??? じゃあ、誰に権威を示すのかは結局教えてもらえないの?

「はぁ……。すいません」

 もう何と答えたらいいものか訳が分からず、僕はため息ついでに、呟くように誤った。

 だが、その反応がよかったらしい。

「分かればいいんだ分かれば! 今後気をつけるように!」

 ――えっ!? 彼は突然、留飲を下げる気配を見せ始めたのである!

 今の僕の言葉の何がよかったの!?

「分かったらさっさと言われた通りにしろ!」

 もう、わけがわからないよ……。

 弱々しく誤ったのがよかったのか? とりあえず、そう思っておくしかなさそう。

「分かりました。では爆発音が鳴るような工夫を……」

「ちっっっ! 違うだろ! おまえ違うだろ! 違う違う違う! 全然違う! いいか、違うんだ! 違うだろ! なんで隠すんだ! 爆発音はもう鳴るようになってなきゃおかしいだろ! 命令したのは昨日なんだから!」

「え、いや、だって昨日は期限は1週間とおっしゃいましたよね」

「はあぁぁ!? それは俺の1週間だ! じゃあ何か、おまえは俺が1週間と言ったらホントに1週間かけるのか!? そんなやついるわけねぇだろ! 命令されたら一晩で完成させるんだよ! それが下の人間の務めだろ! いいか、おまえが今日作るのは消えない炎だ!」

 言ってることはメチャクチャだが、一応話が前に進んだ。

 ちょっとずつ、ちょっとずつね。スモールステップ、スモールステップ。

 けど、消えない炎ってなんだ?

「あれ、でも今回は油を撒いて燃やすのはダメだったんじゃなかったですか? 許可をとる算段がついたんでしょうか」

「そんなわけがあるかアホ! 油じゃない! 消えない炎だ!! そのくらい理解しろ!」

 …………!?!?

「あの……消えない炎とは一体……?」

「それを考えるのがおまえらの仕事だろ! いいか、指示は伝えたぞ! 分かったらさっさと作れバーカ!」

 町長は相変わらず簡潔すぎて意味の分からない指示だけを伝えると、クルリと背を向け、いつものように逃げるようにその場を去っていった。



 個人的には1時間くらいの体感時間だったが、ところがスマホの時計を見ると、なんとまだ10分しかたっていない。

 一部始終を見ていた人達が三々五々店に入ってきて、散策したり、コボちゃんに慰めの言葉を言ったりするのを聞きながら、僕らは裏手の在庫置き場で方針を話し合った。

「すまなかった! いや、あえてこういわせてくれ、ありがとう!」

 途中で交代したルーパは、僕に深々と頭を下げる。

 後ろではペコラとオルソラがそれぞれ右肩と左肩を揉んでくれていて、結構なVIPな扱いである。こっちに来て早々、変な客に当たっちゃったなとは思ったものの、普通に顧客応対しただけでこんな扱いを受けるなら、この世界も存外悪くない。

「いや、クレーマー対応は僕もこれで多少は慣れてるからね。前の会社でもやってはいたし……」

 以前いた会社では、営業宛てにかかってきた電話の初期応対は開発部の仕事だった。

 そして開発部自体に人間が1人しかいなかったので、必然的に僕が1人でやるしかなく、当然その中には怒りの電話もあったし、僕が営業チームのことを何も知らないことに対して腹を立てる人もいた。

「あ、そういえばあんた、以前からたまにクレーマーがどうとかブツクサ言ってたわよね。それがようするに町長みたいな人よね」

 仕事で本当に腹が立ったとき、家に帰ってからオルソラ(当時はクツシタと呼んでいたが)に愚痴を聞いてもらうこともあった。そのときに何度か、クレーマー野郎って言葉を使ったかもしれない。

「ああ。向こうでは、とりわけ理不尽な類の苦情を言う人をそう呼ぶんだ。でも今回は新しいタイプだったなぁ……。対策法を調べたつもりだったんだけど、全然役に立たなかったよ」

 クレーマーになるタイプはたいがい何か性格に問題を抱えているものだが、病気まで疑ったのは初めてだ。けっきょくそういうわけじゃなかったけど。

「そりゃ、聞くとやるじゃ大違いだからな。けど、知識を持ってくれてただけありがたいよ。俺らじゃどうしようもないからな」

「つまりああいう人はソリタリアにもいるってことね……。あたし、あっちは何もないただ平和なだけの世界と思ってたわ」

 ま、友達もいない場所をただ散歩するだけの暮らしながら、当然そういう印象になるだろうね。汚いものを見ることはないだろうから。でも、ネコは本来そうあるべきなんじゃないかな?

「それにしてもぉ。さっきあの人なんて言ってたのぉ~? 何かが消えない……とか何とか」

「ああ、消えない炎だね。何のことか分からないんだけど、なんだろう? 最初はナパームのことかと思ったんだけど、違うみたいだ。ナパームというのは、僕らの世界で昔使われていた兵器で、いわゆる水をかけても火が消せない油のことなんだけど、こっちにはそんなものはないんだよね?」

「ん~。少なくともこの町でそんなエグいモン聞いたことねぇなぁ。戦争経験のあるお貴族様とかなら知ってんのかな……??」

「それに、油はダメなんじゃないかって聞いたら、油じゃないとも言ってたよ」

「なら、木材とか布とか……かしらねぇ?」

 オルソラは腕を組んで首をひねる。

「火が消えない素材という意味では、そういうものよりは油の方がまだ現実的な気はするぞ」

 ルーパも同じように、腕を組んで首をひねっていた。

「よねぇ~?」

 ナパーム以外にも、水をかけても消えない炎としては硝酸カリウムなんてものもある。花火の中には、水にゆっくり入れると消えずに燃え続けるヤツがあるが、これは硝酸カリウムが燃えると酸素を発生させるためだ。だがこいつは巧くやれば水の中でも燃えることがあるだけで、横から水をかければ普通は消える。だから消えない炎と形容するのは無理がある。第一、この世界には火薬がまだないことを確認済みだから、火薬の一歩手前の状態である硝酸カリウムがある、と考えるのは現実的ではないだろう。

「なぁキータ。もちろん使えないことを承知で聞くんだが、そのナパームっての、マギアで合成はできねぇかな。組成が分かればできると思うんだが」

「組成か。……えーと、まず主成分のナフサの成分は……と」

 僕はスマホに適当にキーワードを入れて、「エチレン23%、プロピレン15%、ベンゼン、トルエン、キシレンの化合物が――」

「ああああ、俺が悪かった。もう大丈夫だ。なんか無理っぽいと分かっただけで安心した」

 途中でルーパに止められた。よかった。彼が善良なヤツで。

 硝酸カリウムなら組成はシンプルだからマギアで作れそうな気もするが、どっちにしろ町長が言ってるのはナパームでも硝酸カリウムでもなく、油ではないけど火はつく。でも消えない。そういうものだ。

 まさか、中二病設定でありがちなインフィニートカオティックファイヤーみたいな、そういう類のことを言ってるんじゃないだろうな?

「あのあの、消えない炎ってあれじゃないですか?」

 不意に、店の方からコボちゃんがひょっこり顔を出し、「ストリオーネ王の伝説に出てくる地獄の炎。あれも水じゃ消えない設定だったと思います」

「そんな細けぇことよく覚えてんな! 俺、教会じゃいつも寝てたからな……」

 へぇ、教会で神話を教えてるのか。

「もぉ~。そんなんだからシスターに怒られるのよぅ。ストリオーネ王伝説の地獄編は、地獄の番犬セルベールス討伐の話よぉ。地獄軍の先兵となるセルベールス部隊が攻めてくるからぁ、これを食い止めるのぉ。そのときセルベールスが口から吐くのがぁ、地獄の炎よぉ」

 地獄の番犬でセルベールス……。ああ、ケルベロスのことか。そっか、こっちのケルベロスは口から火を吐くんだ。ちな、僕らの世界のは唾液がトリカブト毒である。

「もしそうなら、もうシメェじゃねぇか。そんなんが存在すると思ってる時点で頭おかしいぜ」

 ルーパは、ここ数週間で一番キツい口調で悪態をつき、ため息とともに肩をすくめて見せた。

「といっても、別に町長の言う通りのものを作る必要はない。本人が留飲を下げてくれる程度にごまかせればいいんだから、何か手を考えよう」

 僕はみんなが最低限のやる気すら失わないよう、せめてもの慰めを言った。

「だな……」

「そうね。ようはごまかせればいいんだから」

 どっちにしろ、今回は油を使うことができない。土地の持ち主であるダッコー男爵に止められているからである。

 今トポネロが大量発生して問題になっているのは、ここパパガロの町の北部に広がる聖女の森一帯。そこでは冒険者免許があれば狩猟をすることは許されるが、とはいえ森全体が自然公園であるため、その保護義務を免れるものではない。別に誰かが監視してるわけじゃないので、野営のときなんかは割と気軽に火を使ったりもするらしいのだが、代わりに山火事なんか起こしたときの罰則規定がかなり厳しいとのこと。

「ごまかすだけでいいんだったらぁ……幻視の魔法とか使えないかしらぁ? そこに炎があるように見えるけど、実はホントはない、みたいなぁ?」

 ペコラが、今までとは違った路線のアイデアを出してくる。こういうことを言える人が1人いると、議論は面白い方向に進みやすくなるのだ。

「幻視系か……油を持ってって直接撒くよりかぁ遥かにマシな案だな。検討の余地はあると思うが……」

 だがルーパは耳の後ろをポリポリと掻き、歯切れの悪い言い方をする。

「そういうマギアはないのか?」

 僕は聞いてみた。

「いや、あるにはある。マギアそれ自体は、光を操って虚構の映像を作り出すのは割と得意なんだ。魔力消費もさほどじゃない。だが炎ってのは不定形の物体だからな。それを自然に燃えているように見せかけるのが難しいんだ」

 あ、なるほど。そのあたりはコンピューターと同じ問題を抱えているわけだ。

 3Dゲームでも、固形のオブジェクトに比べて、水や炎などの不定形物体を自然に見せるのは難しい。MMORPGなどで水の動きを自然に描写できる3D技術が確立したのは、ポリゴン技術が最初に一般化してから実に30年もあとのこと。なぜなら、その動きがあまりに複雑すぎるからである。マギアはコンピューターに比べて演算をあまり得意としないので、余計に難しいのだろう。

「それよりは、仮想物質を燃やした方が現実的だろうな」

「仮想物質か……。でも炎が周囲に延焼したら終わりだからなぁ」

「それについては俺もキータと同感だ。だからその案も、まだまだ現実的じゃあない」

 仮想物質とは、マギアが作り出す架空の物体のこと。魔力が注がれている間だけ存在でき、実際にそこに物質があるかのような反応をする。

 僕が初めてこの世界にきたとき、金属の板を摩擦させて熱を発生させるマギアに触ったがが、そのときに現れた金属板が架空物質だ。実際にはそこに金属などなかったのだが、マギアで物質を再生させたのである。再生された金属板はこすり合わせることで熱も発生させたし、そのあと魔法紙を焦がしもした。だが魔力が尽きた瞬間に、完全にその場から消え失せた。

 この技術を使うと、魔力が注がれている間だけ存在する油、なんてものも作れる。だがこの案の場合、問題は延焼だ。仮想物質それ自体は燃えてしまっても魔力を絶てば炎は消え失せるが、その炎が草木に燃え移った場合、その炎は魔力を絶っても消えない。なので仮想物質で油を発生させても、それは油を買って持っていくのと変わらないのである。

 第一、敵の攻撃にも使えるような可燃性の高い油は種類が限られており、油と名がつけば何でもいいわけじゃない。たとえばサラダ油やロウのような安全性の高い油の場合、撒いて直接火をつけても燃焼はしない。火がついてしまった場合に、それを消えにくくする程度である。これは、これらの油が空気と混じり合おうとする力が弱いせいだ。

 対してガソリンのような空気と混じり合う力の強い油は火を放てばあっという間に燃え上がる。だがそのような油は危険なため、日本に限らずこちらの世界でも使用は規制されている。入手には特別な手続きを踏む必要があり、その手続きの過程でダッコー男爵の許可はいるだろうから、その時点でストップがかかるのは必至である。

「どうしたもんかなぁ……」

 その日僕は、夕の鐘が鳴り、家に帰ってオルソラにご飯を食べさせ、歯を磨いてネトフリ見てゲームしてお風呂に入って最後に寝るまで、ずっと消えない炎について考えていた。

 だが、燃えているように見えて水をかけても消えず、かつ延焼もしない炎がどうすれば作れるのか。またはどうすればそういうふうに見せかけることができるのか。

 アイデアは全く思いつかなかった。

 そもそも、仮に消えない炎のアイデアが思いついたとしても、そのあとには爆発音をどうやって再現するかの課題も残されているのである。

 しかもそれらは、解決しても今回の作戦にとって何の役にも立たず無駄になる。それが分かってるわけだから、自分自身のやる気だってどんどん減っていく。

 正直、ちょっと疲れてきた。



 それからしばらくの間は、町長が突撃してくることもなく平和な日々が続いた。

 だが平和といっても、銃本体を作ってくれる工房からも問い合わせは来る。どちらかといえばそっちからの問い合わせの方が重要なことが多いので、爆発音だの消えない炎だの、ワケの分からない追加仕様にばかりかかずらっていることはできないのだ。

「ほれ、見てみろ。試作してみた自動排出機構つきの弾入れ。先頭の1発が発射されると、バネの力で次の弾が自動的に装填される」

「うわスッゲ! マガジンじゃないですか!」

 今日は、工房の長であるオヤッサン本人が直々に訪ねてきてくれている。

 年の頃なら60といった初老で、髪は若かりし頃の色が全く想像できないほどの真っ白。だがその目だけは爛々と輝いていて、放っておくと1日中でも金属施工の話ばかりしている。そんな職人気質の人だ。

 工房は僕らの店から西に2ブロックほど行ったパパガロ川沿いにあり、30人近い従業員を抱える大所帯なところである。

 今は、店のすぐ隣にある喫茶店で、2人で技術的な相談をしているところだった。

「ほう。マガジンってのか。取っ手の中身が空洞なのが気になっていてな、ここに弾が入れられれば楽になると思ったんだが」

「おっしゃる通りです。僕らの世界の銃も同じように取っ手の部分に予備を入れる仕組みになっていて、1発撃つごとに自動的に次の弾が装填される仕組みになっています。今回は納期が短いので注文しなかったんですが、まさか手ずから作ってきてくれるとは思いませんでしたよ」

 存在自体を知らなかったはずのオヤッサンのマガジンは、だが僕が知っているものとそんなに大きくは違わなかった。

 四角い筒状の入れ物の中に最大20発のパチンコ玉を入れることができ、これを銃の取っグリップに下から差し込むことで発射準備が整う。かつ、引き金を絞ると連動して次弾が1発だけ飛び出す、という仕組みもついていた。

 僕が考案した方の銃は1発撃つごとに後ろからパチンコ玉を手で突っ込む方式だから、マガジンがあるのとないのとでは使い勝手がかなり大きく違うだろう。

「けど、今日はそのことで相談があってな。マガジンの構造の関係で、おまえさんの銃より穴が狭くなっちまうんだ。3回に1回くらい、発射に失敗しやがる。穴が多少狭くても撃てるように、マギア側を調整しちゃくんねぇか」

「なるほど……」

「難しいか?」

「無理ではないと思うんですが……。僕の銃は弾を発射したあとも命中まで誘導し続けるために、弾を仮想物質で包み込む仕組みにしてあるんです。だから穴の大きさが弾より多少大きいことが前提になってるんですよ」

「ははぁ、たまに巧く撃てねぇのはそのせいか。穴が狭くなったから、仮想物質の生成に失敗するんだな。そいつぁ困ったな……」

「……あ、でもこれ、穴が狭くなってるのって、弾が反対方向に逆流しないようにするためですよね?」

「その通りだ。後ろから指で突っ込む分には問題ないんだが、下から弾が飛び出す仕組みだとたまに逆流するからな。その状態で発射すると自分に向かって飛んできちまう」

 たしかに、そんなことになったら物凄く危ない。

「あ! じゃあこうしましょう。だったら後方の穴は埋めちゃってください。代わりに、弾が飛び出したあと少し前方に落ちるように工夫してもらえれば、仮想物質の生成位置を少し前方にずらせますから」

「ははぁ、そいつぁいい! そうし――」

「き、きさまー! そんなところに隠れるとは卑怯だろうがぁ!」

 唐突に。

 耳をつんざくような怒鳴り声が聞こえてきた。あまりの声に、僕は一瞬、椅子から転げ落ちそうになった。

 見るとオヤッサンのみならず、周囲のお客さんも通りすがりの人々も、みんなが声の方を見てキョトンとしている。

 ――うわぁ。町長だ。

 そしてその顔はこっちに向けられていた。それだけで、なんだか胃がキリキリ痛むような気がする。

「何の話です?」

 仕方なく。本当にもう、どうしようもないのでしょうがなく、僕は答えた。

「まさかこんなところにいるとは思わないだろう! 俺が話があるときはいつでも連絡できるようにしておかんとダメだろう!」

「こんなところって、別にいつも僕がいる店の隣ですが?」

「いつもの店にいないと気づかないだろう!」

 ――いや気づけよ。

 今いるこのお店は、ルピシア魔道具店のすぐ左隣にあるバル・リビエラ。しかも2つしかないテラス席の1つである。

「あの、ちなみに言っておきますけど――」

「世の中というものは常に信頼関係でなりたっているのだ! 部下というものは常に上司の命令を――」

「ちなみに言っておきますけど!!!」

 町長が、僕の言葉を遮って話を続けようとするので、僕は我慢できず、とうとう大声を出した。

「――聞くために常に身構えておくべきなのだ。だいたいな、おまえみたいなヤツはうぇわらげぼあばらべるぼからあほろべぼごのよろはらがばばでげらがぼびば――」

 だが、それでも町長は言葉を止めようとしない。どうやら今日はかなり興奮状態のようである。


   バン!!!!


 僕は町長を止めたい一心で、テーブルを強く叩いた。

「…………」

 それで彼はようやく静かになる。まさか反論されるとは思ってもいなかった、といった驚いた顔。

「ちなみに、僕はあなたの部下じゃないし、命令系統上はマエストロ・メガテラの配下にいる下請け業者の1つという位置づけです。仕事は開発担当ですので、あなたとの連絡は業務範囲に含まれません。僕に話があるときはマエストロ・メガテラを通していただけませんか。第一、あなたがここにいることをマエストロ・メガテラは知ってるんでしょうか? 昨日もそうでしたけど、まさか無断で黙って来たなんてことはないでしょうね」

 人間関係図を理解させるために、セリフの中でマエストロ・メガテラという言葉をあえて3回繰り返した。

「そんなことより貴様なんで黙っていたんだ! 貴様のせいで俺は恥をかいたんだぞ! なんであんな大事なことを隠してたんだ!」

 だが、彼はこちらの話に不自然なほど全く耳を貸さず、何も言われなかったかのように会話を続行した。

「なぁ町長さんよぉ。あんたナニ考えて――」

 見かねたオヤッサンが口を挟もうとしてくれたが、

「そもそもそんなことは基本的な連絡の範疇だろう! そんなことだからいつまでたってもダメなんだ! そもそも1日中机に座ってるだけの仕事の癖に生意気なんだよ!」

 根本的に町長はオヤッサンの方を全く見ていなかった。

 まるで、最初から誰もいないかのように完全に無視している。

「……??」

 その摩訶不思議な行動に、僕とオヤッサンは思わず目を見合わせた。テーブルを叩いたら黙ったのだから音が聞こえていないわけではなさそうだが、人間の声には反応しない様子。

 ――なんだこりゃ??

 僕らはそのようなことを、互いにアイコンタクトしあった。

 だがそれが気に食わなかったようで、

「人の話を聞け!!!」

 今日で一番大きな声を出した。

 通りすがりの人々は、おっかなびっくりと言った感じでこちらを見ている。バル・リビエラの店主も、心配そうにガラス越しに視線を向けてくれていた。何人かは、町長がいつ暴れ出してもいいように、取り押さえる準備をしてくれているようにも見える。

「まずとにかく、なんであんな大事なことを黙っていたか答えろ! まず答えろ! 今すぐだ!」

「何のことだか分かりませんし、僕は何も隠していません」

「あくまで白を切る気だな! つまり知られたらマズいから黙ってたんだろ! “走りながら撃つと当たらない”なんて、武器としては欠陥品だものな!」

「………は?」

「……なんだと!?」

 あまりにぶっ飛んだ指摘に、僕もオヤッサンも、自分達の怒りすら忘れてポカンと呆けてしまった。

「は、走りながら……?」

 前の会社でエンジニアをやっていたときも常々感じていたが、そもそも素人というのはとんでもないことをやらかす生き物だ。おそらく、生物学的な本能なのだろう。

 注意書きを無視して削除キーを押すくらいは序の口で、キーボードのKキーが物理的に壊れたのをアプリのせいにしたり、別のアプリに買い換えたら画面が変わったどうしてくれると騒いだり、またあるときは「開発に中国人を使うな」という謎の苦情を受けたので何事かと思ったら、文章中に知らない単語がたまたま1つ混じっていた、という理由だった。(作者注:ちな全部実話)

 素人のこのような言動は、ジャンルを問わず見られるというもの。

 サバゲーに慣れたFPSネイティブ世代のユーザーには信じられない者もいるかもしれないが、弓矢や銃火器の類は、本来走りながら撃つことはできない。上手下手の問題ではなく、本質的に不可能なのである。達人級になれば馬に乗ったまま弓で的を射ることくらいならできるが、あれにしたって馬は一定速度で走っていて方向転換もしないという、現実の戦闘ではありえない条件が必要だ。少なくとも素人が適当に走りながら撃って的に当てるなど、絶対にできるはずがない。

 だから僕の銃も一般的な銃火器や弓矢と同じように、射撃時は立ち止まったまま静止していることを前提としている。そしてそのような前提があることは、とりたてて説明するまでもないはずのことだった。武器という概念が日常に入り込んでいるこちらの世界の人々にとって、弓矢が走りながら撃てないのは常識中の常識として一般に知れ渡っているからだ。

 とはいえ、そこは常識など通用しないこの町長のこと。

 おそらくだが、前回訪問した際に執事さんに渡しておいたサンプルを見つけ、撃ってみたのだろう。使い方が分からず当てずっぽうに使ってみたものの、想像通りの動きをしなかったからそれで腹を立てたのだ。

 こんなことならサンプルなど置いてくるんじゃなかった。傭兵さん達に是非にと乞われ、渡さざるをえなかったのである。

「いいか! 戦いは常に攻めの姿勢が重要なのだ! 立ち止まっていたらたちどころに攻められて殺されてしまう! おまえのような無知なものは知らないだろうが、戦いとは常々そういうものなのだ! 走りながら撃てるようにするのは当然のことだ! このような致命的な欠陥はすぐに修正されなければならない! 今週末までに修正しろ! あとこれは言うまでもないが、重すぎる! 重すぎて使い物にならん! もっと軽くしろ!」

「いや、普通に無理――」

「攻めながら撃てるようにし、より軽くすることは、攻めながら攻めると言ってるようなものだ! 攻めることが攻めることなのは当たり前のことだ! そんなことも分からんアホが!」

 町長はもはや、こちらの話に耳を傾ける素振りすら見せなかった。

「それとな、威力も全然足りん! あれじゃあネズミ1匹殺すのがやっとじゃないか!」

 そりゃあネズミを殺すために開発した銃なんだから、当たり前だろう。やはり当初の想像通り、町長には何かネズミ以外で殺したいものが何かあるようである。

「いいか! 威力も上げるんだ! 2倍……いや、5倍……いやもっとだ10倍だ! 10倍にしろ! できれば100倍だ! そもそも貴様の考え方が軟弱だから武器も軟弱になるのだ! 武器は強いのが当たり前のことだろう!」

 だがその瞬間、僕は表情を意図的に変えた。

 町長に手のひらを向けて話しを遮り、

「お断りします!」

 さっきよりもさらに声を大きくして、僕は全力で断った。

「銃の威力だけは絶対に上げません! 現在の威力はなるだけ人が死なないよう、ネズミだけが死ぬギリギリの威力になるように意図的に設定してあります。僕自身の職人としての誇りにかけて、それ以上は上げられません」

「は!? 何を言っている! 俺の命令が聞けんのか!」

「はい、聞けません! 僕の銃はモンストロだけを殺すものです。僕の銃で人は殺させません! 絶対にです」

 そこだけは譲れなかった。

 そもそも開発時間の半分以上は、人が死なないように威力を調整する時間だったのだ。つまり半分が優しさで出来ていると言い換えてもいいくらいだ。

 ネズミと一緒に人間がバカスカ死んでいいんだったら、今回わざわざ新しい銃を開発する必要すらなかった。山に猛毒ガスでもばら撒いてしまえばよかったし、仮に武器でなければならないにしても大砲を使う手だってあった。

 だからこそ、僕は銃の威力をギリギリまで下げたのである。

 それでも十分に危険なので、実際に使ってもらうときは可能な限りフルプレートアーマーとの併用をお願いしたいところだ。

「何をおかしなことを言ってる! この町では俺の命令が絶対なんだ! 俺がやれと言ったことは絶対やれ!」

「威力は絶対に上げません! 第一、仮に威力だけ上げても銃本体が威力に耐えられません」

「うるさいうるさいうるさい!! 俺がやれと言ったことは全部できなければいけないのだ! 来週末、近隣の町長を招いての発表会が行われる! 俺が華々しい雄姿を見せつけられるよう、それまでに準備するんだ! いいな!」

「やりませんよ。発表会のことなんてそもそも聞いてませんが、でも発表できるモノはすでに用意できています。これ以上、改修する必要はありません」

「貴様! それは不敬罪になることを承知での発言か!? 俺の命令に逆らうのは不敬罪にあたると承知で言ってるんだな!?」

「……はあ!?」

 ちょっと……いや、正直かなりドキッとはした。今どき不敬罪という言葉はファンタジーならではの罪だが、まさか自分がその当事者になるとは思っていなかったからだ。

 とはいえ、今の僕の発言は別に不敬ではないだろう。不敬罪とは、貴族や王族などに失礼な行為を行う罪のことだ。そもそも不可能な命令を遂行できないことは失礼なことではないだろう。

「あんた不敬罪を持ち出すんだったら、俺にも考えがあるぜ。今後うちからあんたの屋敷に武器の供給を一切行わない。すでに提供済みのものも、貸し出し扱いのものは全て引き上げさせてもらう。いいんだな?」

 オヤッサンは残念ながら、口論の類はあまり得意な人ではないようだったが、それでも頑張ってそれだけ言ってくれた。

 彼の工房はあちこちのマギア魔術師から本体の製造を請け負っているが、それだけでなく町長の屋敷に対しても武器を供給していると聞いた。

「あっ! き、貴様! それとこれとは関係ないだろう!」

「関係ないわけあるかアホゥ! この坊主はな、この町一番のマギア魔術師ルーパの相棒だ! それはつまり、この町で一番の魔術師ってことにもなる! そんなヤツを敵に回して、この町の武器産業が立ちいくわけねぇだろ!」

 や、まぁ、実際には町に来て1ヶ月ちょっとの新人ですけどね……。

「う、うるさいうるさいうるさい!! やれったらやれ! 発表会が失敗したらおまえら全員不敬罪だからな!」

 町長はそう言い残すと、いつものようにクルリと身を翻して逃げるようにその場を去っていった。

「分かっ%$! 俺の命#$&%#絶対だ&%$%#%$#*+やる! グアイアテ!」

 最後に、僕らからだいぶ離れてからもう1度振り返りって何かを叫んだが、その声は半分くらいしか聞き取れなかった。

 毎日毎日叫び続けてはいても、声量自体はさほどない人なのである。


つづく


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