桃太郎
ピンポーン
鬼「はい」
桃「桃太郎です」
鬼「間に合ってます」
桃「ちょちょちょちょ」
鬼「なんですか」
桃「間に合ってはないでしょう。桃太郎ですよ」
鬼「退治でしょどうせ」
桃「はい?」
鬼「最近多いんですよ。この手の太郎」
桃「この手の太郎」
鬼「金太郎とか浦島太郎とか三年寝太郎とかみんな鬼退治しにくるのみんな」
桃「言うほどそいつら鬼退治しますかね」
鬼「なのでうちはもう太郎は間に合ってるんで帰ってください」
桃「話だけでも聞いてくださいよ」
鬼「そうやって油断させといて玄関開けたら刀でズバッでしょ?もうその手には乗りませんよ」
桃「そんなに野蛮じゃないですよ」
鬼「おととい来た太郎もそうでした。あんまり泣きそうな顔で懇願するから開けてあげたら途端にズバズバ斬られました」
桃「そんな太郎が」
鬼「ええ、あの鬼ぶっ殺し太郎とかいう奴には見事に騙されましたよ」
桃「名前に溢れる殺意で気づきましょうよ。もはや意気込みでしょそれ」
鬼「とにかく、この鬼ヶ島では太郎だけは決して島に上げてはならぬという厳しい掟があるのです」
桃「よくそれでおととい鬼ぶっ殺し太郎上げましたね」
鬼「帰ってください」
桃「そんな。こちらも手ぶらじゃ地元に帰れないんです」
鬼「桃太郎が地元とか言いますかね」
桃「このままじゃ後援会の皆さんに顔向けできない」
鬼「そんな町おこしのノリで鬼退治に来ないでください」
桃「それに600人いる部下達を食わせてやらないと」
鬼「組織広げすぎですよ。よく集まりましたね」
桃「なに、きびだんご食わせりゃあっという間に従順な部下の出来上がりですよ」
鬼「そのだんごなんかヤバいの入ってません?」
桃「お願いです大切な手駒達のためにもどうか金品を奪わせてください!」
鬼「大切なら手駒とか言わないであげてください」
桃「この通りです!」
鬼「この通りって、今ぜんぜん頭下げてませんよね」
桃「あっ」
鬼「うちのインターホンモニター付きなんですよ」
桃「チッ……ちっ、違うんですこれは!」
鬼「最初の『チッ』は完全に舌打ちでしたね今」
桃「お願いします!きびだんごあげますから!」
鬼「しれっと組織広げようとしてません?」
桃「どうしてこの想いが伝わらないんだろう。ただ鬼を襲って金品を奪いたいだけなのに……」
鬼「伝わってるから開けないんです」
桃「わかりました……襲いません。だからせめて話し合いだけでもしてもらえませんか」
鬼「もうだいぶ話しましたがね」
桃「直接お話がしたいんです」
鬼「………わかりました」
桃「本当ですか!ありがとうございます!」スチャッ
鬼「なんで今刀抜いたんですか」
桃「あっ」
鬼「だからモニターで見えてるんですって」
桃「チッ……クッソ……」
鬼「あっ、もう誤魔化さないんだ」
桃「わかりました。鞘を捨てます。ほらもうこれで安全ですよ」
鬼「刀の方を捨ててください」
桃「クッ……」カランカラン
鬼「あとその腰につけてる拳銃も」
桃「クッ……」ガチャン
鬼「あと背負ってる斧も」
桃「クッ……」ガランガラン
鬼「あとポッケのスタンガンも」
桃「クッ……」バチバチ
鬼「なんで一回スイッチ入れたんですか今」
桃「もうこれで丸腰です。開けてください」
鬼「隠れてる部下達にも帰ってもらってください」
桃「クッ……」ザワザワバタバタバッサバッサドゥルルルル
鬼「なんか今めちゃめちゃいた気がするんですが気のせいですか」
桃「さあこれで本当に丸腰です!開けてください!!」
鬼「はぁ、わかりました。今開けます」ガチャッ
桃「オラァ!」ドン
鬼「腹筋鍛えてるので効きません」
桃「あっ」
鬼「すごいですね有無を言わさず腹殴りましたね」
桃「改めまして桃太郎と申します」
鬼「よく殴りかかっといてリスタートできると思えますね」
桃「この度は御鬼の貴重なお時間をいただき」
鬼「そういう建前はいいので」
桃「金品ください」
鬼「本音が早いです」
桃「お願いします!」
鬼「もうめんどくさいのでその辺に有る物なんか適当に一つ持っていってください」
桃「オススメってあります?」
鬼「早く選んでください」
桃「じゃあ裏をかいてこの金の延べ棒で」
鬼「なにが裏なんでしょうか」
桃「よかった……これで病気のおばあちゃんを救えます!」
鬼「ちょっと先に言ってくださいよそれ。もう宝全部持っていっていいですよ」
桃「本当ですか!?ありがとうございます!!あの……よかったらお礼にこれ……貰ってください」
鬼「なんですか」
桃「きびだんごです」
鬼「組織広げようとしてます?」