1.待ち人の家⑤ 平べったくて小さいよ。
◇ ◇ ◇
「宝物、どーこだっ」
秋の晴れ空に、ミーコの元気な声が響き渡る。
定番の宝探しゲームだ。今回は、8人のハンター対ミーコ。ハンターのマキは、ミーコの隠した宝物を見つけなければならない。
宿舎を囲む広場には、シーソーやベンチなど、所々に物が点在している。そういった物は、隠し場所として真っ先に疑われる場所だ。どうせすぐに見つかるだろうと、みんなで順繰りに見ていくが、これがなかなか見つからない。
「ミーコ、まさか草の中に置いたんじゃないだろうな?」
ルール違反はしていないかと、ジュンペイがミーコに問う。
ジュンペイはセンセイ、リサ、マキの次に年齢が高い。その割に年上としての自覚がないというか、遊びに関してすぐむきになる傾向があった。
「違うよぉ、ミーコずるしないもん。ジュンペイが探すの下手なんだよ」
頰を膨らませて、ミーコ。
「でも本当に見つからないね」
マキも正直お手上げだった。
「ミーコ、なにかヒントをくれないかしら。宝物はどんな形?」
リサがしゃがみ込み、目線を合わせてミーコに頼む。
ミーコは拳を口元に当て、むふふと笑みをこぼした。宝物を誰も見つけられないことに、得意になっているのだろう。
ひとしきり優越感を堪能してから、ミーコが言葉を探すように空を仰いだ。
「んーっとねえ。平べったくて小さいよ。あとね、蓋で見えなくしてある」
「蓋ぁ? 全っ然分かんねー」
「……あ、もしかして」
ジュンペイがますます疑問符を増やす一方で、思い当たる節があったマキは、さっと身を転じた。以前宿舎の一角に、ミーコとふたりで見つけたことがあったのだ。
宿舎の壁沿いに下を向き、目を凝らして歩く。リサたちもついてきた。
「確かこの辺りに……あった!」
宿舎はだいぶ昔に建てられたとのことで、所々老朽化が進んでいた。マキが見つけたのはそのうちの1カ所――レンガが剝がれかけている壁だった。
立ったままでは分かりにくいので、四つん這いになってレンガと壁の隙間をのぞき込む。
「あったあった、なにか入ってるよ。って……ミーコ、これ隠したのっ?」
マキは驚いて、隙間に入っていた物を取り出した。
白い厚紙と透明のテープで保護された、シロツメクサの押し花。
それを見たリサが、ぱっと血相を変える。
「駄目じゃないミーコ! 標を持ち歩くどころか、こんな所に隠すなんて!」
「え、だって宝探しでしょ。この前センセイが『ミーコの大事な物だよ』って、くれたんだ。これがあれば楽園に行けるんだよって」
リサはきょとんと返すミーコの両肩をつかみ、
「そうよ。これがあれば楽園に行ける。つまり、もしなくしてしまったら、あなたは楽園に行けないの」
脅すように、ミーコへと顔を寄せる。
「私たちと楽園で会うことも、できなくなるのよ?」
その可能性に初めて気づいたのか、途端にミーコの顔がくしゃくしゃにゆがんだ。
「やだ……そんなのやだよぉっ」
「じゃあ二度と標を、こんなふうに扱っちゃ駄目よ?」
言い聞かせるリサに、ミーコが半べそでうなずく。
そんなふたりのやり取りを、ジュンペイたちと一緒に見届けながら。
(ああ、やっぱり)
マキは悟った。
自分をごまかすことができない。
みんな、楽園に行くことを当然だと思っている。楽園に行くのは喜びで、先に行く者をうらやみこそすれ、引きとどめたいとはつゆほどにも思わない。家族が楽園に思いをはせる時、その顔は憧憬に満ちている。
(でも私は違う)
みんなと違う考えはもちたくなくて、ずっと心の奥底にしまっていたけれど。
(私はまだ、リサに行ってほしくない)
たとえまた楽園で会えると、約束されているのだとしても。一度離れたらもう会えないのではないかと、どこかで不安をささやく自分がいる。
(私やだよ。寂しいよ。リサと離れたくない……)
口に出すことはできない思いを、マキは心の中にぶちまけた。
◇ ◇ ◇