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1.待ち人の家④ 永遠の命に感謝します。

◇ ◇ ◇


 食事は全員そろってというのが、ここ待ち人の家の決まりだ。

 長テーブルを前に、センセイを含めた14人の家族が並んで座り、食前の祈りを(ささ)げる。


(しゅ)よ、全ての命に感謝します。永遠(とわ)の命に感謝します」

「感謝します」


 センセイの声に続いてみんなで復唱すると、マキは閉じていた目を(ひら)いた。

 目の前のテーブルに置かれているのは、パンとサラダとシチュー皿。

 シチューはマキの好物だ。漂う香りがマキに「食べて食べて」と訴えてきて、白状するとお祈りだって、匂いに()かれて気もそぞろだった。そんなこと、口が裂けてもセンセイには言えないけれど。


「いただきまぁす」


 スプーンを手に取り、シチュー皿に手を添えたところで、


「あ」


 小さな羽虫が飛んできて、シチューの表面に着地した。

 羽虫はばたばたもがいていたが、どろっとしたシチューにのまれて、すぐに動かなくなった。


「センセェ……」


 助けを求めるように、左隣のセンセイを見る。

 センセイは一部始終を見ていたらしく、スプーンで周りのシチューごと羽虫をすくい取り、小皿へと移した。


「かわいそうに、死んでしまったね。安らかに眠れるよう、祈ってあげなさい」

「はい」


 言われた通り、マキは手を組み祈りを(ささ)げた。あっけなく散ってしまった命に。


「ねえセンセイ。死ぬのって痛いの?」


 斜め正面でパンにかじりついていたミーコが、きょとんと顔を傾ける。

 センセイは、少し困ったように笑みを浮かべた。


「そうだね、少しばかり痛いかな」

「かわいそう。死んだら楽園にも行けないんだよね?」


 幼いミーコは、マキたちの命と、それ以外の命の違いをまだ分かっていない。

 眉をハの字に嘆くミーコの頭を、隣のリサが優しくなでる。


「虫や鳥は死んだ後、私たちと同じ存在に生まれ変わるの。だからいずれは待ち人となり、楽園に行くわ」

「そっか。よかったあ」


 安心したのか、ミーコは再びパンにかじりつくのに没頭し始めた。

 その(ほほ)()ましい姿をしばし眺めてから、マキも自分の食事へと戻った。

 かちゃかちゃと食器の触れ合う音に、たわいない会話が交じり、いつも通り穏やかに食事が進む中。

 口に出そうとしていたわけでもなく、自分で意識していたわけでもなく、本当にぽつりと、それはマキの口から漏れいでた。


「私たちは、死なないのかな」

「死なないよ」


 すぐさまセンセイが否定する。


「祝福を受けた君たちは、限りない愛に囲まれて、永遠に生き続けるんだ。だから君たちは決して死なない」


 優しく包み込むようなその言葉は――なぜそう思ったのかは分からないが――マキの疑問を閉じ込めようとしているようにも感じられた。


◇ ◇ ◇

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