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5.鳥籠の幸せ⑥ もう自分の中でごまかせない。

◇ ◇ ◇


「センセイ」


 ふらふらと、室内に足を運ぶマキ。

 センセイは(すう)()(げつ)見ないうちに、だいぶその様相を変えていた。

 艶のある黒髪はぼさぼさで、何度も目を奪われた色白の肌は、病的な白さへと変わっていた。頰はこけ落ち、慈愛に満ちた目は、時折のぞかせていたもの悲しさ一色に染まってしまっている。


「センセイ、なにがあったの? みんなは? ミーコは?」

「ミーコは2週間前に旅立ったよ。他のみんなももういない。アキラが3日前に旅立って、彼が最後だった」


 半ば覚悟していたものの、その言葉は思った以上にマキの心を殴りつけた。旅立つという言葉の意味を、もう自分の中でごまかせない。


「これでみんな、私の元から旅立った。なんとか間に合ってよかったよ」


 センセイは(あん)()したように息をついた。


「私はね、病気なんだ。もうすぐ死ぬだろう」


 淡々とした調子で告げられた内容に、マキの思考は停止した。頭の中にある考える部分が、ごっそりどこかへ行ってしまったみたいだ。

 数秒置いてようやく戻ってきた思考は、一緒に記憶も引き連れてきた。

 ――次の機会があるなんて保証は、どこにもないんだからな。

 もしかして大熊先生は、マキではなく、センセイのことを言っていたのではないだろうか。


「大熊から聞いたよ。知りたいんだね。だったらマキが望む全てを答えよう。私がいなくなる前に」


 センセイは顔を傾け、マキの後ろへと視線を伸ばした。

 その時初めて、マキは後ろに大地が立っていることに気がついた。右に寄って、大地が入る場所をつくる。


「君はソラのお兄さんだったね。苦しい思いをさせて、すまなかった」


 大地はたぶん、開口一番センセイを糾弾したかったのだろう。でもセンセイの姿を見て、センセイの言葉を聞いて、どうすればよいか分からなくなったようだ。


「いや、俺は……その……殴ったことに関しては、すみません」

「構わないよ、君からすれば当然のことだ」


 動揺して頭を下げる大地に、センセイは首を振って片手を上げた。

 センセイに勧められるままに、マキと大地は、ベッド前にある2脚の丸椅子に腰を下ろした。


「さて。マキはなにを知りたいんだい?」

「……ぜ、全部。全部が知りたい」


 聞きたいことをまとめて、聞き方も頭の中で予行演習したはずなのに、口から出たのは漠然とした言葉だった。


「私たち待ち人はみんな、自分の心臓を持っていなかった。そんなもの、とっくに機械の心臓と入れ替わってた。そうなんだよね、センセイ?」


 仕切り直して聞くと、センセイは無言でこちらを見返してきた。肯定の合図と捉え、マキは続けた。


「私たちにあったのは人工的な心臓で、定期的な充電が必要で……でもそれが『普通』だと、私たちは思ってた。時が来たら待ち人は旅立って、楽園に行く。死という苦しみなど存在しない。そう信じてた……センセイがそう教えてくれたから!」


 ()ぜるように立ち上がる。反動で丸椅子が倒れた。


「なんで!? どうして私たちをだましたの!? 私たちには楽園が、センセイが、この『世界』が全てだった! どうしてそんな(うそ)を教えたの!? 私たちは、なんで機械の心臓を埋め込まれなきゃいけなかったの!?」

「鳥籠の幸せ」


 その言葉は冷水のように、熱した頭へとすっと入ってきた。


「命に限りがあることを知らなければ。自分が捨てられたことを知らなければ。たとえそれが鳥籠の幸せであっても、鳥は幸せでいられる」


 (とう)(とう)と告げると、センセイはマキをじっと見つめた。


「君たちを守りたかったんだ」

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