表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/49

5.鳥籠の幸せ① 『世界』を壊してしまうことが怖かった。

◇ ◇ ◇


 声が届く。幾重にも重なって。

 ――裏切り者。

 ――楽園で会おうって約束したのに。

 ――裏切り者、裏切り者、裏切り者!


「違うよ……私、違うよ」


 (わい)(きょく)した天井を見上げながら、マキは涙を拭った。


「うーん……」


 寝言ともうめきともつかぬ声が耳に届き、隣のベッドへと目をやる。ルームメイトの優菜が、もそもそと寝返りを打っていた。

 窓から差し込む日の光が、もう朝だと告げている。しかし目覚まし時計が鳴っていないということは、起床にはまだ早いということだ。

 マキは寝直そうと目を閉じたが、やけに頭が()えて眠れない。

 仕方なく半身を起こして、なすがままに思いをはせる。


(みんなどうしてるかな)


 喜楽園に来てから、(すう)()(げつ)が過ぎようとしていた。

 知らなきゃいけないことが多過ぎて、はじめは心が張り詰めていて、全てに対していっぱいいっぱいだった。

 だけど喜楽園のみんなは、そんなマキを辛抱強く迎え入れてくれた。今は少しだけ、考える余裕ができてきている。


(ジュンペイもミーコも、きっともう行っちゃった)


 本当はジュンペイたちが旅立つ前に、一目会いたかった。ひとり、またひとりと旅人を送るセンセイを、たぶん()めるべきだった。だけどマキが行くことでミーコたちの『世界』を壊してしまうことが怖かった。

 だからマキは、せめて彼らが安らかに旅立てることを祈って、宿舎に近寄らないことを決めたのだ。真実を受け入れる強さも、虚構に逃げ込む思い切りももてない自分には、そうするしか(すべ)がなかった。


(みんな旅立ってる。私は旅立つはずだったのに、ここにいる)


 そっと胸に手を当てる。伝わるのは、どくんどくんと音を立てる、心臓の鼓動。この感覚にいまだ慣れない自分がいる。

 もっと身近に感じようと鼓動に集中するうち、無意識に耳もそばだてていた。窓の外のどこか遠くから『……ジー、ジジジジー』と、油を揚げているような音が聞こえてくる。


(あ、セミ)


 ここに来てから初めての夏がやって来た。


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ