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4.広過ぎる世界③ そして結局ここにいる。

◇ ◇ ◇


「私は優菜。マキは14歳なんだよね?」

「う、うん」

「だったら私の方がひとつお姉さんかな。いっぱい色んなこと教えてあげるから任せて! ここだけの話、ちょっとした悪戯(いたずら)も得意なの。だからふたりでいろいろやったりもしようね――あ、ごめんね長々と。年の近い女の子初めてだからうれしくって。とにかくよろしくね!」

「よろしく……」


 握手したままちぎれんばかりに、ぶんぶんと手を振る少女――優菜の雰囲気に()されるようにして、マキはこくこくとうなずいた。

 病院でしばらくの日数を過ごした後、連れて来られたのは喜楽園とかいう場所だった。

 あのいかつい男の人――大熊先生というらしい――は、本当は喜楽園という、事情のある子どもたちを育てる場所の園長先生らしい。病院は人手が足りなくて、たまに手伝いに行っている関係だとか(うん)(ぬん)

 説明を受けてから、よく分からないと素直に言うと、大熊先生は「マキがよく知っている、待ち人の家とセンセイ。喜楽園や私も同じようなものだと、今は思っていてくれればいい」と答えてくれた。

 大熊先生はこうも言った。


「申し訳ないが、君を待ち人の家に帰すわけにはいかない。酷だとは思うが、これからは喜楽園で暮らしてくれ。できうる限りのことはするつもりだ」


 その言葉に、たぶんマキは怒るべきだったのだろう。しかしマキはなにも言えなかった。待ち人の家に帰りたいのか、自分の気持ちすらよく分からなくて。

 そして結局ここにいる。

 喜楽園にある一室。その部屋の真ん中で大熊先生の紹介のもと、マキは喜楽園の子どもたちと顔合わせをした。

 健太郎に優菜、透。真理子、武、香織と、()(とう)の速さで自己紹介され、マキは誰が誰だか正直頭に入ってこなかった。明日(あした)になっても自信をもって名前を言えるのは、恐らく大地と優菜くらいだ。

 大地はというと、マキを囲う輪から離れるようにして立っている。しかしこちらが気にはなるのか、ちらちらと視線を送ってきてはいた。

 彼とは、病院で目が覚めた日に会って以来だ。半端に関わったまま関係がぶつ切りになっていたため、初対面の子よりもむしろ、彼と話す方が難しく感じてしまう。

 大地とどう接しようか悩んでいると、


「あの、さ。マキ」


 健太郎(たぶん)が、おずおずと話しかけてきた。


「あの時マキを突き飛ばしたの、俺なんだ。ごめん」

「俺も……マキの家をむちゃくちゃにして、ごめん」


 透(恐らく)も健太郎に続き、うなだれるようにして謝ってくる。

 相手への接し方を悩んでいたのは、マキだけではなかったらしい。


「別にいい……ってわけでもないけど。でも事情は聞いたから。センセイの()()ももう治ってるらしいし」


 マキは曖昧に返した。センセイの話をした時、視界の端で大地がぴくりと反応するのが見えた。


「ふたりとも、マキにひどいことしたの?」


 口を挟んできた年少の少女の頭を、優菜がぽんぽんと優しくたたく。


「ちょっとね、大人の話。香織にはまだ早いかな」

「なによぅ。優菜だって子どもじゃん」


 少女――香織が頰を膨らませる。優菜は「ごめんごめん」と軽く流すと、マキの方へと向き直った。


「まあこれで自己紹介(もろ)(もろ)も終わったし。早速マキに、喜楽園を案内してあげなきゃね!」


◇ ◇ ◇

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