3.ツノ付き童と魔女屋敷⑨ 悪いやつでいい。
◇ ◇ ◇
ここからは当事者の責任というか意地というか、大地が先頭で動くことになっていた。大地、透、健太郎の順で、縦1列になって進んでいく。
足音を忍ばせながら正面玄関へと回り込むと、大地は扉の取っ手に手を触れた。下に下ろし、そっと扉を引いてみる。鍵がかかっているらしく、扉は開かなかった。
が、これは想定ずみだ。
(鍵が開いてるのが一番だったけど……)
開かないならば仕方ない。
すでに不法侵入はしているのだ。ソラを助けるためなら、無法者になる覚悟は決めてきた。
大地は玄関横にある、窓の前へと移動した。念のため窓に手を掛け引いてみるが、やはり開かない。拳で軽く小突くと、カタカタと音がした。
(これなら壊せそうだ)
大地はリュックサックから棍棒と懐中電灯を取り出すと、健太郎と透にワンセットずつ渡した。暗くて分かりづらいのに、ふたりが生唾を飲むのが伝わってきた気がした。それは大地自身がそうだったからだろう。
武器を持って、窓を割って侵入する行為。完全に悪いやつの振る舞いだ。
大地は棍棒を振り上げた。
(いいさ、言い訳はしない。悪いやつでいい。そう決めただろ)
自分を鼓舞し、窓に向かって棍棒をたたきつける。
窓ガラスが割れる音は、思っていたよりも小さく、だけど体感的には鐘が鳴り響くくらい大きく感じられた。
割れた範囲は広く、2度目の振り下ろしをしなくて済んだことに、心の片隅でほっとする。
大地はガラスの破片で切らないよう気をつけながら、窓をくぐって屋内へと入った。
家捜しの分担は、ざっくりとではあるが決めてある。
複数階あるなら、大地は最上階から。健太郎と透はふたり半々で、1階から見ていくと。
入ってすぐに階段を見つけたので、大地は振り向きもせず駆けだした。ここからは見つけるまでが勝負だ。
そう勢い勇んだものの、すぐに制止をかけられた。
階段の入り口は鉄格子がはめてあり、どうあっても通れないようになっていた。
懐中電灯で奥を照らすと、階段は埃をかぶっており、長いこと誰も通っていないようだった。
肩透かしを食らった気分だが、考えてみれば、これで探す場所が大きく絞れたことになる。
1階はすでに、健太郎と透が左右に分かれて部屋の確認に入っていた。
(だったら俺は奥から行く!)
大地は切り替え、1階奥をめざして駆けだした。
ばたばたと鳴る足音に、各部屋が騒がしくなる。
なにか手ごわいもの――強そうな見張りだとか武装したあの男とか、そんなもの――が出てくる前に、大地はなんとか奥へとたどり着けた。
突き当たりの扉の前で、深呼吸。
(誰かがいたら、傷つけるつもりはないと言って、ソラを探す。武器はあまり見せつけない。反撃されると困るから)
頭の中で手順を何度も確認し、扉を開ける。
が、またしても肩透かし。
室内は無人であるどころか、家具もろくにそろっていない空き部屋だった。その代わり、部屋の隅には雑多に物が置いてある。
(なんだ、ただの物置かよ)
扉を閉めようとして、気づく。部屋中央の床に、扉があることに。
(床下収納? それとも……)
大地は室内に入ると、床の扉へと手を伸ばした。
 




