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3.ツノ付き童と魔女屋敷⑥ だったら俺の弟も同じだ。

◇ ◇ ◇


 身を包む夜気の冷たさは、過ぎ去ったはずの冬を思い起こさせた。

 月明かりの(もと)、最低限()けた門の隙間をそろそろと抜けながら、大地は前を行くふたりに声をかけた。


「よかったのか? こんなことして」


 こんなこと、というのはもちろん、夜中にこっそりと喜楽園を抜け出していることだった。しかも、不法侵入のための道具まで携えて。


「大地の弟だろ? だったら俺の弟も同じだ」


 透とともに脚立を運ぶ健太郎が、頼もしい調子で返答してくる。


「それに実は、行ってみたかったんだよ。悪魔の屋敷」


 にはっと付け加えたことで、頼もしさは若干下がった。

 完全に門から抜け出ると、大地はそっと門を閉めた。細心の注意を払ったが、それでも門に取りつけられた車輪がガラガラと音を立てるのは防げず、大地の背中はひやひやものだった。

 いったん動きを()め、喜楽園の本棟をじっと見る。電気はひとつもついていない。

 次いで、目をスライドさせて診療所の方へ。こうこうと明かりがついていた。


(クマ先生はいつも通り、診療所で作業か。そのうち見回りが始まるだろうけど……)


 大熊先生は、優菜がなんとかごまかしてくれる()(はず)になっていた。優菜は昔から、悪戯(いたずら)にかけてはプロ顔負け――そんなプロがいたとしてだが――の手腕を発揮する。今回もうまくやってくれるだろう。もしバレても恐らくその時には、大地たちは目的地へと着いているはずだ。


「大地、早く来いよっ」


 透が小声で()かしてくる。大地は慌てて彼らに続いた。

 脚立を運んでくれているふたりに対し、大地の荷物はそんなに重くない。

 長めのロープに、(こん)(ぼう)が3本。どちらも忍者ごっこや荒くれ者ごっこにハマっていた頃の、健太郎の私物だ。ちなみに(こん)(ぼう)の方は発想が乱暴過ぎるとかで、危うく大熊先生に取り上げられそうになったことがあるらしい。

 それらを懐中電灯などと一緒に詰め込んだリュックサックを背負い、大地は夜の道を進んでいた。


(俺は……なにをしようとしてるんだろう)


 怪しい屋敷とはいえ、昔に懲りず他人の敷地に侵入しようとしている。なおかつ、


(お守りだ……これはお守りだ)


 大地はポケットに手を入れ、中に入っている物を握りしめた。工作用のカッターナイフ。ふたりには内緒で持ってきた。

 (こん)(ぼう)と同じで、なにかを傷つけるためではない。もしもの時の自衛手段だ。だって仮にも、悪魔の屋敷に行くのだから。特に健太郎と透は、大地のために同行してくれているのだから、まかり間違っても()()をさせてはならない。

 自分でも頼りない理由にすがり、大地はポケットから手を取り出した。ぐずぐず歩いていると、重い脚立を持ってくれているふたりに申し訳ない。


 林道に入ると、だいぶ緊張もほぐれてきた。喜楽園を気にかけることもなく、ただ歩くことに集中できる。

 屋敷へと続く道は、林道とはいえきちんと整備されたものではない。その上長いこと放置されてもいるようで、獣道と大差ないような状態であった。少なくとも大地が昔侵入した時にはすでに、そういった気遣いとは無縁だったのではないかと思われる。


 夜の冒険に心を躍らせているのか、健太郎と透は林に入ったことでだいぶ(じょう)(ぜつ)になった。歌まで歌いだすので、どうしたものかと思うくらいだ。

 最初は神経質に注意を発していた大地も、ふたりの雰囲気にのまれて次第に口数を増やしていった。

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