3.ツノ付き童と魔女屋敷② ようこそ喜楽園へ。
◇ ◇ ◇
「ねえねえ。あなた、名前はなんていうの?」
「…………」
「なんだよ、無視かよ」
「クマせんせー。こいつ、自分の名前分からないの?」
「大地というらしい。今、彼はとても傷ついてるんだ。優しくしてやってくれ」
「そうだよケンタロウ、ひどいよ。なんでそんなに冷たいのっ?」
「俺は別に……」
「気にしないでね大地君! 私はユウナって名前だよ。よろしくね!」
きゃいきゃいと自分を囲んで騒ぐ子どもたちがうるさくて、大地は耳を塞ぎたかった。
みんなそうだ。けらけらと笑いながら、大地を見下して馬鹿にする。
頭の中でこだまする笑い声に翻弄され、体がふらつく。それに構わず子どもたちは寄ってくる。大地より年下と思われる子から、年上と思われる子まで。
「ねえねえ、なんで帽子かぶってるの?」
「部屋の中では、帽子取らなきゃいけないんだよー」
ユウナとか名乗った女の子が、大地の頭へと手を伸ばしてくる。
大地はハッとして、女の子の手をはたいた。
「触るなっ!」
「きゃっ」
「大地君、大丈夫だ」
なだめるように言ってきたのは、子どもたちの後ろに立つ、大人の男だった。とても大きく髭もじゃで、声もガラガラとしている。子どもたちが呼ぶ通り、まさに熊という感じだ。だけど不思議と、怖い感じはしない。
「お前たち。私がいつも言ってること、覚えてるよな?」
クマ先生の言葉に、ユウナが大きくうなずいた。
「うんっ。違ってるから面白い。分からないから、知る歓びがある。全て知ってちゃつまらない!」
クマ先生は満足そうに笑うと、大地に語りかけてきた。
「大地君。ここのみんなは大丈夫だ。帽子を取ってみないかい?」
そんなこと、できるわけがない。
(馬鹿にされたら、また母さんが悲しむ)
そう考えたら、ずきりと心が痛んだ。
(母さんはもういない……)
死んだわけじゃない。でももう、きっと会えない。
(だって僕は……捨てられたから)
悲しい解放感に包まれて、大地は全てがどうでもよくなった。
そっぽを向いて帽子を取る。
「わっ!?」
予想通りの声に顔を向けると、子どもたちはびっくりしたように、皆一様に大口を開けていた。
(どうせ馬鹿にして笑ったり、怖がったりするんだ)
口をへの字に曲げる大地。
が、続く反応は思っていたのと少し違った。
「ツノだー!」
「それ本当に生えてるの?」
「なんで?」
「クマ先生、なんでダイチ君はツノがあるの?」
「大地君は、頭の形が少し変わってるんだ。それだけだよ」
「へえー。すごいっ」
「かっこいい!」
「強そう!」
子どもたちは確かに笑っていたが、大地の心を散々痛めつけた、馬鹿にするような笑いではなかった。
すごい、面白いと、単純に興味をもって大地のアレを見ている。怖がる子など誰一人としていなかった。
うれしかった。
大地は鼻をすすり、クマ先生を見上げた。
クマ先生は「な? 大丈夫だろ?」と、つぶらな目をくりくりと光らせて、たくましい両腕を広げた。
「ようこそ喜楽園へ。今日から君は、私たちの家族だ」
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