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【声劇台本】番外編まとめ【三津学シリーズ】  作者: 瀧月 狩織
三津学シリーズ 番外編台本
6/12

【三人用】赤の軍医は、それでも仲良し。

※この部分をコピペして、ライブ配信される枠のコメントや概要欄などに一般の人が、わかるようにお載せください。

録画を残す際も同様にお願いします。


三津学シリーズ 番外編の台本 三本目です。


【劇タイトル】三津学 番外編⇨赤の軍医は、それでも仲良し。

(もしくは、赤の軍医は。または、三津学 劇る。というテロップ設定をして表示してくださいませ。)

【作者】瀧月 狩織

【台本】※このページのなろうリンクを貼ってください


三津学シリーズ 番外編台本 三本目

劇タイトル『赤の軍医は、それでも仲良し。』


─────────────


【演者サマ 各位】

・台本内に出てくる表記について

キャラ名の手前に M や N がでてきます。

Mはマインド。心の声セリフです。 《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。

Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。


・ルビについて

キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。

場合によっては、振り直していないこともあります。

(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)


それでは、本編 はじまります。

ようこそ、三津学の世界へ


────────────

──────────


☆本編


揚羽乃N「あたたかく、何かに浸かるような感覚がある。

トプンッ…と沈んで、揺蕩(たゆた)う。

溺れるとまでは、行かないが。

意識はかなり(かす)みがかっている。


バタバタと聞こえて、慌ただしい気配を感じる。

何だろうか。何が、起こっているのか。


呼んでいる?呼ばれている気がする。

誰だ。だれが、俺を呼んでいるのか。


ああ、寒い。寒いな。浸かっていたあたたかさが遠のく。


誰だ?俺を引き上げるのは……」


(間)


〜タイトルコール〜


運転手「はじめまして、ワタクシ。運転手です。

今回は出番が少ないので……僭越(せんえつ)ながらタイトルコールを務めさせて頂きます。それでは参ります」


運転手「自己解釈 学生戦争 三津(みつ)(がや)学園物語。

番外編【赤の軍医はそれでも仲良し。】」


運転手「……さて、どうなるのでしょうね」


(間)


揚羽乃「ウェッ……ゲホッ、ゴホッ……」


都築「…あげはの…!アゲハノっ!揚羽乃あげはの少佐しょうさ!!

しっかりしてください!私が分かりますか!?」


揚羽乃「ハァー…ハァー……つ、づき…?」


都築「良かった…!」


揚羽乃M《…息がしづらい…寒い…。完全に、溺れてたか…》


都築「(少し考えて)んー?……いや、良くないな!揚羽乃少佐!私、止めましたよね!?なのに、服を抜き散らかして、いつの間にか浴室に行ってしまったのは、アンタですよね!?」


▼部下の都築(つづき)にお小言を受けながら、室内と体内の温度差にボーっとする揚羽乃あげはの

つまり、彼は浴槽で溺れていた。

溺れた原因は、年末にかけての激務と徹夜が重なったからだ。普段の揚羽乃なら気が動転すると、古い呼称を口にしてしまう都築を指摘するところだが。満身(まんしん)創痍(そうい)

また意識が遠のきつつあった。

浴槽から揚羽乃を引き上げようとするも、完全に脱力されて肉の重さが都築にのしかかる。


揚羽乃「わりぃ……つづき……」


都築「ちょっ、ちょっと!揚羽乃少佐!?ちゃんと意識を保ってくださいよ!ぐぅっ!オ、モ、イッ!!」


(間)


▼現在、二〇七九年の一二月二八日。

学園は一二月二三日から二週間の冬季休暇へと突入。大半の学徒が島から離れて、生家(せいか)へ帰省する期間でもある。

帰省は強制ではない。その為、学園内に残るものには学生戦争…つまりの《実戦》の禁止令が引かれ、冬季休暇が終わるまでは冷戦となる。


(間)


揚羽乃M《俺は……いったい……?たしか、風呂にいたはずなんだが……》


▼特殊治療室に隣接する病棟。

この病棟の四階…つまりの最上階に宿直室は存在する。

宿直用の部屋は三つ。だが、階段に一番近い宿直室を空き部屋として、他の二部屋に常駐軍医である揚羽乃(あげはの)都築(つづき)は生活している。もちろん、学園寮にも余り部屋はある。しかし、職務上。宿直室を個人使用するのが理にかなっているのだ。


都築「えっと、これをこうして…。あと、この書類も…」


▼都築は事務机の前に陣取って、忙しなく動いている。

そんな中で、浴槽で溺れた揚羽乃は首の後ろ側、両脇、鼠径(そけい)部(コマネチ芸をする部分)に保冷剤を布で包んだものを、縛りつけられた状態でソファーベッドへ転がっている。


揚羽乃M《……気持ち良さより、冷た過ぎて寒い…》


▼ゴロッ…と寝返りをうつと背もたれ側から影がかかった。


都築「揚羽乃さん。気が付きましたか?」


揚羽乃「……おう」


都築「(ため息)全く。本当に、勘弁してくださいよ?年末でバタバタしてるってのに死なれても困ります」


揚羽乃「ははっ…、悪かったよ。脳の理解より身体の不調が強かったみたいだ」


都築「そこまで、把握が出来てるなら問題なさそうですね。……はい、目が覚めたならコレでも飲んでください」


揚羽乃「ん?なんだ、これ」


都築「点滴薬」


揚羽乃「え、マジ?」


都築「嘘です。単なる栄養ドリンクですよ」


揚羽乃「え〜、都築ぃ。オメェ、本当は怒ってるっしょ?」


都築「怒られたいのですか?部下である私に?」


揚羽乃「あー、いや…うん。怒られたくはないな」


▼ゆっくりと起き上がり、肘掛けに寄りかかって都築から手渡されたコップの中身を飲む揚羽乃。


揚羽乃「(飲み干す)っくぅ〜……マズッ…」


都築「不味いでしょうね。点滴薬ですから」


揚羽乃「え?」


都築「はい?」


揚羽乃「マジで言ってんの?そのネタは二度目となると、冗談に思えないんだが?」


都築「ははっ、どうでしょうね」


揚羽乃「はっ?おいっ!都築?!」


都築「さーて、アンタも起きたわけですし。私は残ってる書類仕事に戻りますんで。……あ、ちゃんと着替えてから仮眠に入ってくださいね?」


▼助けるが、下着履かせたりとかはしたくなかった。

そう突き放すように告げれば、ソファーベッドから数メートル離れた位置にある事務机の前へと戻って行く。

都築の言葉に揚羽乃は目を(またた)く。


揚羽乃M《あー、なるほどな。ヤケに寒いわけだ》


▼ペラッ…とバスローブの(すそ)(めく)って、苦笑する揚羽乃。これでもかと各部位に巻きつけてある保冷剤たちを手馴れた手つきで外していく。


揚羽乃M《都築のヤツ、熱が溜まりやすい部分を冷やせばいいってもんじゃないだろう。……にしても、保冷剤の溶け具合からして、三〇分は気を失ってたかなー》


▼ジョリッ…と顎を撫でる。その感触に少しだけ眉根をひそめる。

徹夜続きで、普段から気遣っていないヒゲは伸び放題だ。


揚羽乃「あれ、俺。髭剃り忘れてたか?……なぁ、都築ー!カミソリ知らん?」


都築「カミソリ?……あー、浴室に持って行ってましたよ」


揚羽乃「えー、風呂に持って行くか?フツー」


都築「知りませんよ。意識が離れかかってるアンタのする事なんて、普段より異常でしょうが。」


揚羽乃「うっへー…、都築ったら辛辣だなー」


都築「はいはい。上司に対する態度ではないと分かってますよ。で・す・が。私はまだ終わってないんで、終わった人は大人しくしててください」


▼ツンケンとした態度の都築。

この軍医自身も、揚羽乃と同じくらいに徹夜続きで書類仕事をしている。だが、若者いびりとでも言うのか。事務机に並べられた処理すべき案件の数は一〇を越えているようだ。


揚羽乃M《うっへー、機嫌悪いったらありゃしねーわ》


▼追撃を受ける前にソファーベッドから立ち上がる。

そそくさと共同の仕事部屋から出て、廊下の斜め向かいの脱衣場へと入る。


揚羽乃「ほーん、床を雑に拭いた形跡はあるなー。んで、俺の着替えの服は……」


▼キョロッ…と見渡せば、雑に脱衣カゴへと突っ込まれたワイシャツとチノパンは見つかった。だが、着替えの服はなさげだ。


揚羽乃「……普段より異常、ね」


▼そう納得したように呟く揚羽乃。着替えの服のことは、諦めたようで。三つ折り式のすりガラス戸を押し開く。五畳ほどの浴室が視界に飛び込む。


揚羽乃「おー、あった。あった」


▼軽い動作で、壁に備え付けのステンレス製のカゴに引っ掛けてあるカミソリを取った。


揚羽乃「……俺、マジで溺れかけたんだよな?大浴場の広い湯舟ならまだしも、こんな膝を折り曲げなきゃ肩まで浸かれんような湯舟でか?」


▼余程、自分が溺れたことに納得いかない様子の揚羽乃。しかし、元より深く考えるのは得意ではない。すぐに長い溜め息を吐いて、頭を掻きつつ、浴室をあとにした。


(間)


◇共同 仕事部屋◇


都築「これは、年明けまで大丈夫…。これとこれに関しては…」


揚羽乃M《おー、眉間にしわ寄せちまって…。なんか、目が冴えるような飲み物でも飲ますか》


▼共同の仕事部屋へと戻った揚羽乃。

バスローブでうろつくのは裸同然で、いつ急患が来るか分からない深夜というのもあり。おっさんスタイルと言われそうだが、上下セットの白と濃い灰色の縦ラインが入ったトレナーとジャージへと着替えて戻ってきた。そして、やっかみを受けないように都築の視野の外で動く。部下である都築とは一〇年来の仲だ。その間に死地(しち)を駆け巡ぐり、腹の底もかって知ったる分、互いに口悪くも良好な関係だ。


揚羽乃「つーづーきー(背後に忍び寄り)」


都築「うわっ!!な、なんですか!?あ、アンタな!そーやって、影薄めて近寄らんでくださいよ!!戦場じゃないんですから!!」


揚羽乃「《毛ぇ逆立てて、猫みてぇ…》

ははっ、わりぃー、わりぃー。怒らせたいわけじゃねーのよ。だから、ほれ。これを渡そうかと」


都築「なっ…揚羽乃さんの特製、気まぐれパスタスープ!」


揚羽乃「おう。懐かしいだろ?」


都築「はい!私、地味に好きなんですよ。ん〜、いい香りっ!……これ、振舞ってくれるのっていつぶりです?」


揚羽乃「あー、いつぶりだっけなー?学園(ここ)に来てからは、食べさせた覚えないわな」


都築「じゃあ、かなり前ですね。……イタダキマス」


揚羽乃「おう。召し上がれ」


▼徹夜続きで、だいぶ血色の悪かった都築。

事務机の角に軽く寄り掛かりつつ、揚羽乃から渡されたマグカップで食べられるパスタスープを満足気に口にしていく。


揚羽乃「(独り言)……あん時は、今以上に劣悪だったのに。慣れって恐ろしいもんだよな」


都築「(スープを啜り飲む)ん?何がです?」


揚羽乃「いいや。お互いに事務作業が板についたなって話だよ」


都築「まあ、確かに。もう着任からニ年ですっけ」


揚羽乃「たぶん、そんくらいだよな。正也(まさなり)さんとも再会できたし。かなり硝煙(しょうえん)の景色から離れた気がするわ」


都築「硝煙って言い方ですよ…。ああ、波月(はづき)大佐ですか」


揚羽乃「コラァ、都築。あの人、軍から退(しりぞ)いてるから階級呼びは止めたほうがいいぞー」


都築「でも、苗字にさん付けだと…あの子と被りませんか?」


揚羽乃「甥っ子か」


都築「そうです」


揚羽乃「いや、まあ。確かになー」


▼ふむ…と考える揚羽乃。何か、妙案でもあるのか。

その間も、都築はパスタスープを食べ続ける。


揚羽乃「もう、いっそ。オマエも俺みたいに名前で呼ぶことにしたら?そしたら被んないだろ」


都築「えっ、いや、それはさすがに……」


揚羽乃「なんで?」


都築「なんでって言われても…、私はやっぱり前線でのあの(かた)の活躍ばかり見てたわけですし…。畏れ多いというか…」


揚羽乃「それは俺だって同じだろうよ」


都築「あとは階級の差ですかね」


揚羽乃「いや、だから。正也(まさなり)さんは退役してるんだってば」


都築「それでも!無理です!!」


揚羽乃「オメェ、変なとこで頑固なのやめろよな!?」


都築「そんなこと言われても、畏れ多いことに変わりないんですよ!!未だにアンタのことだって、階級で呼んじゃうんですから!!」


揚羽乃「あー、それ気にしてたのか」


都築「そりゃそうですよ!というか、長年のクセで口に出ちゃうんですから!!」


揚羽乃「まあ、うん。分からんでもないな。俺も、正也さんと再会した日。つい、階級を口にしたしなー」


▼ケタケタと都築のクセを自分の失敗談へと重ねて、笑い飛ばす揚羽乃。結局、自分たちの元・上司にあたる男についての呼び名の最終案は決まらず。本人に会った時に、訊くことで話が落ち着いた。


(間)


揚羽乃「それで。あと、なんの案件が残ってんの?」


▼気まぐれの(まかな)いを馳走し終わり、部屋に備え付けのシンクでマグカップを洗っている都築を他所(よそ)に事務机の上に並べられている書類を見やる。


都築「あー、えっと一番大きいやつは…。あった。一〇月に特隊生(とくたいせい)(おこな)った健康診断の結果書類を確認して、例の軍病院へ再送する案件ですね。」


揚羽乃「それかー。なんか目立った点とか再診の項目とかありそうか?」


都築「軽く読み流した感じ、目立った点はなかったですね」


揚羽乃「じゃあ、(うち)の特隊生は一六人。問題なしってことか」


都築「あ、でも。強いて言うなら、この特隊生…、」


揚羽乃「ん?あー…、この学徒か。本人は手術を受ける気はないんだろ?」


都築「ええ。本人もそれをわかって、拒否し続けていますね。……正直に言って、どんなに専門知識や執刀率の高い医師でもこの病症を摘出(てきしゅつ)するのは困難かと…」


揚羽乃「なら、単なる駐在軍医の俺たちが出る幕じゃないだろ」


都築「ですが、まだ私より若いんですよ?」


揚羽乃「(ため息)…つーづーきー」


都築「な、なんですか?」


揚羽乃「テメェの悪い癖だぞ、そういうの。前線にいた時も似たようなことで俺と言い合っただろ。覚えてねーか?」


都築「(思い出す)あっ……(顔を俯かせ)…それでも…私は……。」


揚羽乃「わかるぜ。俺だって、助けられんなら救ってやりたいとは思うさ。けどな。本人が断ってんなら出る幕はないんだよ」


都築「そう、ですよね……」


揚羽乃「(ため息)くれぇ顔すんなや。こっちにうつんだろって!(デコピン)」


都築「へっ……いッ〜〜!!」


揚羽乃「余命を診断されても、それ以上に長く生きるやつだっている。医者が決めたことだけが運命(さだめ)じゃない。本人が体内に爆弾を抱えてても生きていくつもりなら見守ってやるのも俺たちの仕事だろ?」


都築「ッ…わかりますよ。……わかりますけど!アンタ、イイこと言ってんのに乱暴なんだよ!良さが半減してますよ!!」


揚羽乃「ははっ、いいんだよー。俺には半減したくらいが気楽だし。何より俺らしいだろ?」


都築「俺らしいって…(長い溜息)…あーっと、それでですね。残りの年末までに片付けなきゃ行けないのがこの案件なんですけど」


▼揚羽乃によるあっけらかんとした態度に胃痛を感じる都築。

他にもある書類に目を通しつつ、何かの紙の束を揚羽乃へと傾けた。


揚羽乃「ん?なにこれ」


都築「え、何がです?」


揚羽乃「都築。これ、どういうこと?」


都築「いや、どいうことって。それは管理委員会へ、今期での特殊治療室の利用者がどんな負傷で来ていたのかグラフにして……」


揚羽乃「いやいや。これ、どう見ても宴会の招待文じゃね?」


都築「はっ?そんなの混ざって……え、本当だ……」


揚羽乃「つーか、これ。今夜開催のやつだな」


都築「えっ、マジですか?」


揚羽乃「おう。しかも、主催者は三之院(さんのいん)の家だな」


都築「それって、ほぼ強制参加の(もよお)しでは?」


揚羽乃「だな。一応、欠席希望の欄もあるけど…うん、ムリだな。開催日の一週間前に提出すべきだったみたいだ」


都築「はぁっ〜〜!!ガッテムッ!!」


▼謎の単語を口にして、顔を覆う都築。

招待状が同封されている紙の束を捲りつつ、揚羽乃は楽しげだ。

嬉々としている理由は、すでに彼の年末職務が終わっているから来る。

気持ちの余裕だろ。


都築「…とりあえず、グラフ作成の案件だけ時間を()きます…」


揚羽乃「そうか。なら、俺はなにを手伝ったらいいんだ」


都築「そうですね。じゃあ、揚羽乃さんの印鑑が必要になる書類の束があるんで。これをお願いします」


揚羽乃「おっけ。それに目を通して、印鑑すればいいんだな。内容は要約したのをメモしておくからよ」


都築「助かります。それじゃあ、頑張りましょう!」


揚羽乃「おう」


▼各々の事務机へと移動し、業務を開始する軍医二人。


(間)


▼揚羽乃は、ベランダの手すりに身体を預けながら喫煙していたら、背後のガラス戸が開く。


都築「あっ!またサボって!ちゃんと手伝ってくださいよ!」


揚羽乃「何だよー。気付くの早いなァ?」


都築「人の気配の有無くらい分かるでしょうが。特にアンタとは長年の付き合いなんですから!」


揚羽乃「ははっ、さすがだなぁ?でもよ、息抜きくらいさせろって (煙草を吸って、吐く)」


都築「あれ、また紙タバコに戻したんですか」


揚羽乃「うん。ああ、まぁな。やっぱ電子は味気がないんだわ。……つーか、紙のほうが吸ってる気がするって言うより生き抜いた実感が湧くつーか」


都築「……確かに、戦場ではいつ命が散るか分からない状況でしたし。普段、吸わない人も吸ってましたもんね」


揚羽乃「そうだな。……紙タバコってのはやっぱ思い入れが強くなっちまうよな。線香の代わりだーとか、どっかの軍曹が言ってたか?」


都築「また懐かしい話を持ち出しましたね」


揚羽乃「ははっ、だろ?」


都築「はい。あの人も……やっぱり、何でもないです。揚羽乃(あげはの)さん、それ吸い終わったら作業に戻ってくださいよ?」


揚羽乃「おうおう、わかりましたよー」


▼都築は、長い溜息を残して室内へと引っ込んだ。

煙草のケムリが寒空へとのぼっていく。そんな空がキレイな深夜だ。


(間)


▼それから五時間後。

カーテンの隙間から朝日が射し込み。

外からチュンッチュンッ…と小鳥の鳴き声が聞こえている。


揚羽乃「……都築ぃ…いきてるか…?」


都築「…………。」


揚羽乃「え…、死んだ?」


▼散らばった参考資料の紙束の上で、生き埋もれている部下に寄る揚羽乃。ノソノソ…と近寄り、うつ伏せの部下の呼吸を確かめた。静かに、耳を澄ませなきゃ聞き逃しそうな寝息が聴こえる。


揚羽乃「なんだァ、気絶するみたいに寝ただけかよー。ん、ちゃんと終わってるみたいだな。えらい、えらい」


▼徹夜続きで、風呂さへも(ろく)に入れていない状況が続いていたが、揚羽乃の撫でた都築の髪はベタつきもなく。サラッとした感触で指からすり抜けた。


揚羽乃「よし、上書き保存っと。あとは、委員会の本部の宛先へデータを……」


都築「……うぅ…んっ……」


▼ゴロッ…と寝返りを打って、ノートパソコンを操作していた揚羽乃の足元へと丸くなった都築。目の下にはくっきりと濃い(くま)があり、少しやつれたのが見てとれた。


揚羽乃「都築ぃ、いったん起きろー。おーい」


都築「……んっ…んーー…」


▼トントン…と肩を軽く叩く揚羽乃。

都築が子供みたいにクシクシ…と目をこすって、薄らと開く。

普段は力強い金色の瞳が、どこか(うつ)ろでハチミツのように柔らかい色合いをして見つめてくる。


揚羽乃「起きたか?」


ツヅキ「あげ、はの…さん…」


揚羽乃「おう。手ぇ貸してやるから起きな」


ツヅキ「んー……やだ……。このまま……」


揚羽乃「こらぁ、都築。テメェは電池切れっと駄々っ子になるの止めろよなぁ」


ツヅキ「うぅん…もぅ、ねむいっ……」


揚羽乃「起きろー!布団で寝ろー!」


ツヅキ「……おんぶ…」


揚羽乃「あ?」


ツヅキ「おふとん、まで…、はこんでくだしゃい…」


▼ダラッ…と両腕を揚羽乃へと差し出す部下。

この電池切れの状態の部下は ツヅキ という一種の別人格のようなものらしい。激務のあとに満足するまで眠り、起きる頃にはこの(なま)けと甘えた発言の全てを忘れてしまう。

頭をガシガシと掻く揚羽乃。


揚羽乃「(大きな溜め息)」


ツヅキ「あげはの…さん…?」


揚羽乃M《可愛いなんて思うなよ、俺。コイツはあの都築だ。物珍しいだけで、起きたら忘れちまうような状態なんだ。そう、これは異常状態であって、健常じゃねぇ…勘違いだけは起こすな…。

コイツは都築。そう、あの生真面目で口うるさい都築だ。しかも、俺とさほど年変わらん奴だ。久方ぶりにこの異常状態に(おちい)っただけ、動揺するな俺。》


ツヅキ「ねっ…あげはのさん…おねがいっ…」


揚羽乃「ふぐぅッ!(←呼吸止まりかける)

……いやいやっ!ドキッてなんだ俺!ちげぇ!!俺も寝れてないし、風呂で溺れたから頭がおかしいんだ!!そうだ!!それに違いねぇ!!深呼吸!!……スゥー!ハァー!」


ツヅキ「……うるさぁ……」


▼揚羽乃自身も徹夜続きで、思考が正常ではないことを補足しておく。


揚羽乃「……よし、わかった。運んでやっから、起き上がることだけは協力しろよな」


ツヅキ「へへ~…うゆ、ありがとですっ…」


揚羽乃M《本気で、部下が可愛くみえる…。眼科医に相談しようかな……》


▼この時、揚羽乃は真面目に眼科に行くかを考えたそうな。

揚羽乃より小柄な部下は軽々と抱き上げられ、背中へとおぶられた。床に散らばった紙を一部だけ踏みつけながらも仕事部屋の左側にある個室へと入って行った。


(間)


都築「うわぁぁぁぁ!!」


揚羽乃「…んん…なんだぁ……?」


▼遮光カーテンが引かれている真っ暗な室内。

ベッドヘッドに置かれたデジタル時計が正午過ぎを示している。

セミダブルサイズのベッドの端っこに座りつつ、都築の悲鳴というか絶叫が響いた。


都築「うわぁ、起きた!!」


揚羽乃「……うるせぇ……」


都築「うるさいじゃなくて!なんで!!アンタと一緒の布団で寝てんの!?」


揚羽乃「なぁ、うるせぇって……」


都築「掛け布団に戻るな!!説明をください!!」


揚羽乃「あー?……だからァ、説明もくそもねーよ。…気絶するみたいに寝落ちたオマエをオマエの自室に運ぶのは面倒だから…(アクビ)……俺の部屋に運んだだけだよ…」


▼そう説明をすれば、再び掛け布団に頭さへも覆うように被る揚羽乃。甘えモードのツヅキに関しては一言も触れずに、疲れていた自分の行動分を減らしたと暗に告げた。

しかし、納得していないのか。都築の口は開いたままだ。


都築「いや、だからって!同じ布団で寝ますか!?」


揚羽乃「…あー…くっそ、なんなんだよ…キャンキャン吠えんな…」


都築「吠えたくなるでしょう!」


揚羽乃「うるせぇよ…さっきまで、ぐぅすか眠っといて文句いうなっ!」


都築「どわぁぁぁ!」


揚羽乃「二度寝だ、二度寝ー。オマエもまだ寝たりねーだろ?」


都築「コラッ!私を抱き枕にするなー!」


揚羽乃「はい、はい。二度寝から起きたら文句聞いて……」


都築「うぐっ!く、苦しっ…!」


▼揚羽乃は、おぼろげな意識で答えていたようで、言葉の途中で意識を手放して寝息を立て出す。完全に覆い被されて、逃げ道がなくなった都築。


都築M《今や、ただのモサッとした人だけど…。整えれば見栄えはかなりいい顔してんだよなぁ…》


▼他に考えることがないのか。

規則的な寝息を立てている揚羽乃の顔を見れば、天井を見つめ。見つめ飽きたら揚羽乃の顔を見るを繰り返した。

そうして。いつの間にか脱力し、(まぶた)も閉じきって眠りに落ちたのだった。


(間)


▼ジッリリリリン…黒電話のような音が聞こえる。

揚羽乃はノソッ…と布団から起き上がって(うなじ)を掻きつつ仕事部屋へと出る。

既に日が沈んでいる部屋の中は、少しひんやりとしており。薄型端末の明かりだけが目立った。あくびを噛み殺しつつ、通話に応答する。


揚羽乃「…はい、もしもし」


運転手「お電話失礼します。わたくし、交通課のササキと申します。常駐軍医の揚羽乃サマのご連絡先で間違いございませんでしょうか?」


揚羽乃「あー、はい。あってます。えっと、交通課の方が何の御用でしょう」


運転手「今夜、三之院サマ主催の宴会があるのはご存知ですよね?」


揚羽乃「ええ、まあ。《本当は欠席届け出し損ねただけだが…》」


運転手「ワタクシ、三之院サマからのご指示によりご参加くださる方をお迎えに上がっておりまして。揚羽乃サマは現在、どちらにいらっしゃいますか?」


揚羽乃「えっと、自分は仕事場…えっと、赤の病棟のほうにおりますが」


運転手「では、揚羽乃サマの部下でいらっしゃる都築サマもご一緒ですか?」


揚羽乃「ああ、はい。居ますね。《寝ってけどな…》」


運転手「わかりました。あと四〇分程で学園の正門までお迎えにあがります。ご準備の程を宜しくお願いします」


揚羽乃「えっ、よんじゅっ……あ、通話終わってる」


▼伝えることを伝えるだけで通話を切断した相手側に、少しだけモヤッとした感情を芽生えさせる揚羽乃。しかし、迷っている時間はない。仕事部屋の電気をつけて、明るさに目を慣れさせる。

何度か、瞬きをしてから伸びをする。その行動だけで意識が覚醒したようだ。それから、ベッドで眠りこけている部下を起こしに向かう。


揚羽乃「都築ぃー、時間だぞー。おーい」


▼布団から出ている肩を揺する。だが、案の定。起きない。


揚羽乃「だよな、起きるわけないよな。仕方ねぇ、アレ使うか」


▼アレとはなんなのか。

揚羽乃は頭を掻きつつ、部屋の備え付けクローゼットをあさる。

アレと言ったものを手にすれば、扉のほうへと移動して身体だけ仕事部屋へ出て、手にしたものの先端だけを室内へと差し込み──吹いた。


──プゥ…、パァァァァ!!


都築「き、起床!?(敬礼し)ハッ!」


▼室内に響いた音。

都築は布団から飛び起きて、手本のような敬礼をしてベッドの側へ立った。


揚羽乃「よし、起きたな」


都築「んなっ!揚羽乃さんっ!それ使いましたね!?」


揚羽乃「おう。やっぱ、効果は充分だな」


都築「くっ!兵舎の中でもないのに…ラッパ使うなんてっ…!」


揚羽乃「悪いなー。これが一番、手っ取り早い起こし方だったんだよ」


▼まったくもって、悪びれた態度ではない揚羽乃。

都築は呆れた様子で、肩を落とした。

そう。兵舎暮らしが長かった二人からすると起床の合図と言えば ラッパの音 なのだ。ゆえに、だいたいの寝付きなら音を聞いただけで自然と身体が動く。


都築「それで。なんで、起こしたんですか?」


揚羽乃「あ?んなの、宴会の仕度するからだろー」


都築「えっ!今、何時っ…んなっ!遅刻じゃないですか!!」


揚羽乃「遅刻?遅刻じゃねーよ。まだな」


都築「部屋着で寝癖も直してなきゃ、髭も剃ってないアンタに言われたくないわっ!!」


揚羽乃「あー?別にイイだろ。起こしてやったんだし。」


都築「起こしてやったぁ!?自分の仕度が整ってるならなに言われたって文句ないっすよ!?ないけど!これから仕度するって間に合わせる気ないでしょ!」


揚羽乃「うるせぇって。別に宴会の手引きには 正装 としか書かれてないだろー?」


都築「えっ、正装ですか…。うーん、私たちの正装ってなんです?」


揚羽乃「まあ、主催は三之院だし。一応、俺らは軍属だし」


都築「ということは…」


揚羽乃「軍服だな」


都築「揚羽乃さん、着れます?」


揚羽乃「オメェ、俺が体格が変わったとでも言いたいのか?」


都築「いえ。別に」


揚羽乃「はっ…(笑)まぁイイさ。あと二〇分だ。兵舎時代の気持ちを思い出して準備しろー」


都築「すっげぇ、他人事っ!!」


▼なんやかんや言いつつ、仕度を始める二人。

揚羽乃が(ひげ)や髪を整えるのに洗面所を使う(あいだ)、物置から揚羽乃の軍服を引っ張り出す都築。

都築自身のは、本土にある軍病院に(おもむ)く際に軍服を着るため、すぐに取り出せる。


(間)


▼再び、黒電話のような着信音が鳴り響く。

軽いタッチで通話に応答した揚羽乃。


運転手「お電話、再び失礼します。揚羽乃サマ。お伝えした通り、正門のほうでお待ちしております」


揚羽乃「ありがとうございます。今、向かいます」


▼礼を告げて、電話を切断する。


揚羽乃「さーて、都築。行くかァ」


都築「はい、揚羽乃さん」


▼シワなんぞ寄せ付けないような布質で、白手袋をする二人。

深緑(しんりょく)袖章(そでしょう)肩章(かたしょう)が特徴的な軍服。この色合いこそ軍医としての目印だ。

揚羽乃は、かなり複雑な模様が縫われている袖章をしており一目で佐官(さかん)(わか)るようになっている。

部下の都築は、黄色のラインに濃紺の一本線が走った軍帽を被った。一本線が尉官(いかん)(あかし)だ。


揚羽乃「あ~、久方に着るから肩こるわー」


都築「まだ着たばっかでしょうが。……今度、本土に赴く任務はアンタに行ってもらいましょうかね?」


揚羽乃「あ?なんでよ。都築が行けるなら都築行けよなー」


都築「アンタな!部下の私をぱしらせてると本土の人達にとやかく言われるんですからね!?」


揚羽乃「はいはーい。ご心配どうもー」


都築「流すなっ!!

《……たくっ、そうやって整った格好すれば階級とおりのオーラになる癖に…。もったいない人だよなぁ…》」


揚羽乃「三之院が主催だし、それなりの質の酒が呑めそうだなー」


都築「アンタ、絡み酒になるんですから限度を考えて呑んでくださいよ?」


揚羽乃「わかってるよ。オメェは俺のオカンか」


都築「誰がオカンだ!」


揚羽乃「ははっ、そうカッカすんなよー」


都築「アンタがキレさせてるんだろうが!アホ上司!!」


▼冬の夜六時過ぎ。

キャイキャイと騒ぎつつ、白い息が空へと消えていく。揚羽乃と都築はグラウンドを横切って、正門の広場へと歩く。

二人は、言い合いつつも適度な距離を持ち日々を過ごす。

……参加する宴会で色んな顔ぶれと対面し、彼らの過去が垣間見えるのは……また別の話。





三津学 番外編⇒赤の軍医はそれでも仲良し。


おしまい。



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