【四人用】改版 思ひ出帳。
※この部分をコピペして、ライブ配信される枠のコメントや概要欄などに一般の人が、わかるようにお載せください。
録画を残す際も同様にお願いします。
三津学シリーズ 番外編台本 三本目
【劇タイトル】三津学 番外台本/改版 思ひ出帳。
(もしくは、三津学 幕間。
または、三津学 劇る。というテロップ設定をして表示してくださいませ。)
【作者】瀧月 狩織
【台本】※このページのなろうリンクを貼ってください
三津学シリーズ 番外編台本
劇タイトル『改版:思ひ出帳。』
比率:男声2:女声2の四人用台本 (のつもりです。)
※注釈
当台本は、♀キャラの織山 炯が一人で騒いでるだけです。
それ以外のキャラは、基本的に 織山の行動(奇行) を解説。つまりのナレーションとしての役割ばかりです。
過去作品の演者人数を改めた台本ってだけで。
ツッコミ満載なコメディーかと思いきや、シリアス要素も少しだけある感じで。
大筋の内容に変更はありません。
それでも、いいよ!という演者さんは楽しんでくださいね☆
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【演者サマ 各位】
・台本内に出てくる表記について
《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。
Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。
・ルビについて
キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。
場合によっては、振り直していないこともあります。
(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)
それでは、本編 はじまります。
ようこそ、三津学の世界へ
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☆台本 本編☆
逢沢N「西暦ニ〇七九年の十一月。
冬がやってくるまであと少しの時季。黒軍の校舎内はどうも慌ただしい。」
柳戸「織ちゃん!その荷物、こっち!」
織山「うぅ、おもたぁい!!」
柳戸「ほら!頑張る!!」
織山「レディーにこんな大きな箱を持たせるなんて、信じらんない!!」
柳戸「じゃあ、僕のと変わるー?」
織山「え!かわ……らない!!」
柳戸「ははっ(笑)部隊室まであと少しだ。頑張れ!」
華來N「どうやら今日は黒軍の在校生が一斉に部室を清掃する日のようだ。
騒がしくも荷物を詰めてある箱を抱えて、移動する男女の学徒。」
織山:心の声
《あたしのも結構重いけど、柳戸さんの荷物も重たそうだなぁ……あ、暑いんだ。学ランのホック外してる……》
柳戸:心の声
《織ちゃんのスカート短くないか…?
手伝いをお願いしたのは僕だけど。動くたびにひらひらしてて、気になるんだよなぁ……》
逢沢N「平静を装ってはいるが、彼だって年頃の男子だ。
この気になっている感情に変化はまだ起きない。」
(間)
〜劇中タイトルコール〜
華來「自己解釈 学生戦争 三津ヶ谷学園物語」
逢沢「番外編台本/改版の思ひ出帳。」
(間)
織山「荷物、ここ置いちゃいますからねー。よいせっ…はぁー!やっと着いたぁー……(床に座る)」
柳戸「お疲れー、織ちゃん。ゴメンね、手が空いてるのがキミしか居なくてさ」
織山「せっかくの休みを邪魔されたのは柳戸さんのせいとは思ってないですぅ……、
……もう!隊長とか他の男子は!?」
柳戸「(苦笑して)残念ながら森林公園で特別訓練中だね」
織山「なにぃ!?タイミング、めっちゃ悪いじゃん!!」
柳戸「(から笑い)……前々から部室交換の案は挙がってた。
ただ逢沢……、えっと隊長が拒否しててね。でも、この一斉 清掃の日をタイミングに換わることになったんだ。(会議机を撫でる)」
織山「うーん、と。
確か、交換の理由の一つに小部隊が使うには広すぎるとかあった気が……」
柳戸「そうそう。よく知ってるね(笑)」
織山「あたしの、同期の藤くん が話してましたよ。」
柳戸「あ~…、藤ね。あの子も、噂好きだよなー。(頬を掻く)」
織山「あの思ったんですけど。」
柳戸「ん?どうしたの」
織山「あたしたちの部隊が馬鹿にされてるのと同じじゃないですか!(箱を殴る)」
柳戸「(小声)あーあー、箱が……」
織山「あ、すみません。勢いで……」
柳戸「うぅん。気にしないで」
織山:心の声
《一応、見た目だけは直しておこっと……》
柳戸「…確かにさ。織ちゃんの言うことは間違いじゃないよ。
陽炎は、この部隊は他の部隊から見下されている。
だから先輩たちから受け継いだ部室を換わることになったんだと思う。
……でもさ!住めば都とも言うしさ!新しく、この部室で頑張っていこうよ!ね!」
織山「(ふくれ顔)そういうことじゃないと思うんですよね……。てか、無理に明るく振る舞わないでください」
柳戸「あ、うん…。ゴメンね……」
逢沢N「先輩である柳戸の気持ちを汲み取ることなく吐き捨てる織山。はっきり言うところは彼女の長所であるが短所でもある。
柳戸は言葉に詰まって、頬を掻く。 」
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(※軽快な着信音)
織山「およっ?…あれー、あたしの端末では、ないな~?」
柳戸「あ、僕のか。
(通話に応答)……はい、柳戸です。
あぁ、満潮部隊の…。
はい、はい。あー、わかりました。今、取りに行きます。はい。失礼します。(通話を切断)」
織山「どうしたんですかー」
柳戸「うんと、まだ運びきれてない荷物があったみたい」
織山「そうですか。じゃあ、あたしも一緒に行きますよ。」
柳戸「あ、大丈夫。
話によると僕だけで人手は足りるみたいだし。ついでに隊長たちにも声かけてくるよ」
織山「わかりました。いってらっしゃい、柳戸さん」
柳戸「うん、いってきます。あ、少しずつで良いから荷解き、お願い!」
華來N「パタパタ…と走り去った柳戸の背中を見送る織山。
控えめに手を振って、彼の背中が曲がり角で見えなくなれば部室へと戻った。」
織山「さーて、何から開けていこうかなー。
これは……ゲッ、山路さんのオカルトグッズだ……。
あ、後回し!!(箱を閉じる)」
華來N「織山は面倒なことは基本的に後回しのタイプだ。
箱を一つずつ開き、閉じの繰り返して八箱目を開けた。」
織山:心の声
《あたしが運んできたのは大きい箱ひとつだけ。でも、ここには見かけない箱がある……、早く声かけてくれて良かったのに……。柳戸さんって、変なとこで人の力を借りようとしないんだよなー…》
織山「おっ、これにしよ!」
華來N「やっと、やる気が出るような箱を見つけたようで中身を床に取り出し置いていく。」
織山「やっぱ、棚から見栄え良くするべきだよね~…。
あ、棚。ホコリ被ってるじゃん!
誰も掃除してないなー?……まあ、いいや。掃除用具はこの部室の備え付けを使おっとー」
逢沢N「立ち上がる。
ガタガタ……と掃除用具入れの前を塞いでいる机や椅子を退かしていく。
どうやら、この部室は人の出入りはあったようだが。
掃除された形跡がないのが見て取れた。織山は用具入れの取っ手を握って、手前に引く。」
織山「ん、よっと!ん?んんっっっ……何で!?」
逢沢N「どうやら用具入れの戸は建付けが悪くなっているようで、彼女の力ではビクともしない。
しかし、諦めが悪い織山。」
織山「殴ってやれ!…うぅ、いたぁい…。
いやいや!蹴ってみればどうだ!
……あ゛ぃっ…!!ふぅ~~~~!
……もういい、やめた!!ホントは掃いたりしたかったけど無理!!」
逢沢N「殴る蹴るをしたが、扉はびくともしない。
一人しかいない部室で喚いて、顎をつたってきた汗を袖で拭った。」
織山「ふぅ…どうしようかなぁー。
…んんー?なんだろ、あれ。
なんか気になる!机動かしたら戻れなくなっちゃたし…。
もう机に乗っちゃお~。よっせ…!
レディーとしては、お行儀悪いけど……
うおっ…バランス、バランス~!」
(間)
織山「よっせ、と。(床に降りる)やっぱり、そうだ!ここ壁紙だけ貼り直されてる!」
華來N「彼女の気になった所は実に些細な事だった。
この交換の作業が始まるまでは遮光カーテンで閉め切られていた部室。
彼女が所属する陽炎部隊が使用するのを機に、壁紙を変えたのなら違ってもおかしくない。
しかし、織山の疑問はそれで終わらない。」
織山「コン、コン~…と。
うん、やっぱ、そうだ……!壁紙の後ろ。音からして、合板が貼られてる。でも、何でだろ?」
華來N「また小首を傾げて、考える織山。
窓の外を雀が二羽、飛び去っていくのを眺めてハッ!と閃いた表情をする。」
織山「……!ミステリ小説とかで、音の違う壁って何か隠されてたりするじゃんー!……そうだ!壊そう!
柳戸さんたちが帰ってくるまでに直せば良いんだし!
あたしったらナイスアイディア~♪」
華來N「全くもってナイスな部分はない。
しかし、思いついてしまったからには止められない。
そもそも部室には織山一人だけ。端からストッパー的な存在は居ないのだ。
織山は鼻歌まじりに【天童の私物】の文字がサインペンの太字で書かれた箱を物色した。」
織山「よし!みっーけ!これと、これも借りておこっと」
華來N「箱から取り出して抱え込み、先程の壁の前へと戻る。
ホコリの被っている棚の上段を掌で掃う。
そして、無断使用されるのは織山の同期である天童くんの私物」
織山「じゃっじゃーん!キリィー!」
(青いタヌキのアイテム登場音が流れたような。流れてないような。)
織山「ぶっちゃけキリって、板とかに穴を開けるための道具なのは知ってる。でも、先端細いし行けるっしょ!んで。これを、こう……突き刺す!」
華來N「ガンッ…と合板に阻まれるものの、キリの先端は上手く突き刺さる。
ガリガリと削れていく音に反して、振動が手首につたわって痛みを感じる。織山が予想した結果にはならない。」
織山「チェッ……、手首が痛くなるだけだったなー。
この壁、見かけによらず分厚いなー。あ、これの中にカッターないかな?」
華來N「無断使用される私物・その二は工具セットだ。
一年生の天童景時は、校舎内の備品を直すのを趣味としている。」
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柳戸N「織山が持ち出したのは、手持ち付きの一般的な工具箱だ。
工具箱には施錠などなく、蓋を開ければ中身が見える。
織山は『なんだこれー。』『わ、変なのー。』と言いながら、使い方も名称も分からない工具をポイポイ…と棚の上段に並べていく。」
織山「お!見っけ!なんで、一番下に入れとくんだろ。(溜め息)
……ありゃ、これとかどこに入ってたっけ~…まあ、いいや!蓋が閉まればいいよね!」
柳戸N「スーパー自由人な織山。
元あった位置に戻すという考えはない。
そもそも、目的の物にしか興味はない。だから、覚えてすらいないのだ。ガチャン、ゴトンッ……と音をたてながら工具箱に戻し。半ば無理やりに蓋を閉じる。」
織山「よし!完璧!……まあ、怒られたら謝れば許してくれるでしょ!
景のことだし!」
柳戸N「どこから、それほどまでにポジティブな思考が思いつくのか。
なんてつっこんだが、織山の自由行動は止まらない。」
織山「このカッターで~。壁紙を切りまーす!(カッターを突き立てる)…うーん。
けっこう手首に振動がああああ……」
(間)
織山「おおー!?これは、明らかに後から嵌めましたって感じの板はっけ~ん!」
逢沢N「ワクワクとイタズラを思いついた幼い子供のような無邪気な声をあげる。」
織山「織山炯選手!ここで取り出したのは愛用のハンマーだー!!いぇーい!!」
逢沢N「何故か、自分で実況し盛り上げる奇行を演じる織山。」
柳戸N「このタイミングで他の隊員たちが戻ってきたら黒歴史 間違いなしだろう。
しかし、一番奥の部隊室なだけあって通行人はいない。
副隊長の柳戸は、他の隊員を呼びに外出中。
戻って来るにも時間を要するはずだ。──つまり、この奇妙な展開は続行である。」
織山「織山 炯の一投目!打ちつけましたぁ!!」
華來N「ゴンッ!!と打撃音を響かせて、合板に亀裂を入れていく。」
織山「二投目!」
織山「三!」
(以下略)
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SCENE②
華來N「一方、その頃 森林公園でのこと。」
柳戸「おーい、逢沢〜?」
逢沢「おう!ここに居るぞ!」
柳戸「……え、どこ?」
逢沢「ここだ、ここ!(草むらから出てくる)」
柳戸「あ、そこに隠れていたのか。
全然、わからなかったよ。きみの擬態術はさすがだ」
逢沢「褒めたところで、なにも出んぞ!……それで、なにか用か?」
柳戸「ああ、そう。
いまね、織ちゃんに新しい部隊室の片付けを頼んできたから、きみたちの様子見に」
逢沢「そうだったか。わざわざ、すまんな。……新しい部室はどんな感じだ?」
柳戸「うーん、まあ。前のところに比べたら狭いよ。けど、住めば都っていうでしょ」
逢沢「たしかにそうだが……、しかし、遠くなったな。ここだろ?
場所は、(端末に表示されている構内 見取り図)」
柳戸「(端末を覗いて)……うん、昇降口から部室までは10分はかかる感じかな」
逢沢「ということは、部室から森林公園まで30分かかったわけか」
柳戸「ちょっとした運動と考えれば、前向きに受け入れられるかな。
……何せ。僕は、逢沢たちに比べたら頭脳担当として肉体の訓練は少ないから」
逢沢「まあ、柳戸がそう言うなら 良き場所 と言えるのだろうな」
柳戸「うん、そうだよ」
逢沢「……よし、一旦 集まれ!!これより、訓練内容を変更する!」
柳戸「?なにをするんだい?」
逢沢「にっ…) 柳戸、俺たちと増え隠れ鬼をしよう」
柳戸「え?」
逢沢「俺が鬼 役をしよう!」
柳戸「ちょっ、ちょっと待って?なにその、謎のごちゃ混ぜな遊び……」
逢沢「増え隠れ鬼か?
隠れながらも、鬼に見つかったら 鬼ごっこの要素もあるから 逃げていいし、鬼は捕まえた逃げ役を手下にできるから、増え鬼の要素もある。
……それが、増え隠れ鬼だ!!」
柳戸「いや、えっと、僕は部室の片付けをしに戻って──」
逢沢「やっていくよな?我らが頭脳 担当さん(圧のある笑み)」
柳戸「………あ、はい……」
華來N「無念。柳戸 冬菊の押し負けである。」
(間)
───SCENE③
華來N
「場所は戻って、織山のやりたい放題な部隊室でのこと。
ハンマーで殴ること十数回。
ついに。バギッ…と音を立てて合板は割れて、ポッカリと穴をあけた。」
織山「やっと、壊れた!!ふふん!さーて!何が隠されてるのかな~!
いや、穴の大きさ的にあたしが入れそうなくらい大きい気がする……
ん~……うんにゃ!
そんなことで、諦めないのがあたし!織山 炯なのだ~!せいっ!(穴に手を入れる)」
織山「おっかしいなぁ~…上も、下も、なんも触れなーい。
何でもいいから出てきて欲しいんだけどなー。
希望としては、卒業生の秘蔵の戦略ノートとかあったら最高だよね!」
柳戸N「一旦、腕を抜いて穴の中に頭を突っ込んで覗き込む織山。
しかし、中は暗いのに自分の身体で塞げば見えるものも見えない。首を傾げ続け、やっと灯りで中を照らすことを思いつく。」
織山「そうだよ!あたしの端末ちゃんにライト機能あるじゃん!
これを、こうしてぺぺぺー!とすれば〜
……うわっ、眩しいっ……
んにゃ!ではでは再開!!
……うーん、下にはないかー。じゃあ、上かなー?
これまた、レディーとしては減点だけど、棚の上に乗っちゃえ!よっと……!うーん?上はどんな感じー?っ!?…あ、いったぁ…!!」
逢沢N「体勢を変えようと身体をくねらせたとき、額に何やら硬いものが当たった。
痛がりつつもライトでその部分を照らす。
そこにはコンクリートの壁に打ち込まれた釘に巾着袋が掛けられていたのだ。」
織山「ぶつけないように~。ぶつからないように~。
…ふぅ~…。うーん。なんか、ちょいヤバめな袋、発見かも……」
柳戸N「先程まで奇妙な行動を繰り返していた人物と……、
同じ人物とは思えない神妙な面持ちで巾着袋をまじまじ見つめた。」
織山「こんなの持ち歩いてる人、見たことないけどなぁ…。あ、ちゃんと黒のなんだ。」
逢沢N「巾着袋の大きさは、三十センチはあるだろうか。
例えるなら給食の白衣入れの巾着くらいの大きさだ。
布は黒色で、黒軍の象徴である円を描くように交差している二振りの刀と真ん中に羽ばたく烏が一羽。
そんな模様が刺繡されている。裏には名札らしき部分があるが、書かれていない。」
織山「これは見つけたもん勝ちってことで……えいっ!」
柳戸N「やはり、我慢の限界だったようだ。
ちょうちょ結びにされている太い紐をシュルリ…と解く。
織山が開けようと力を込める。
しかし隠されているくらいだ。巾着の締まりは固い。」
織山「うぐぐ…!ん、もぅ!!今日、めっちゃ チカラ使う日じゃん!!」
逢沢N「中身を見るな、という巾着からの願いかもしれない。
だが、スーパー自由人・織山。
彼女の脳内に『放置する』という選択肢は存在しない。」
織山「そうだ!キリで穴を広げよう!…こう、刺してー。うりゃ、うりゃ、うりゃ…。なんか、変な音がキリからしてるけど気にしないでおこう。うん。」
(間)
織山「ふぃ~…ここまで開いたら、あたしの指の力でもいけるでしょ!
ではでは、改めて~…しつれいしまーす!せいっ!!」
柳戸N「ついに締まりが開かれる。
巾着の中を恐る恐る覗き込んで、中身を確認する織山。」
織山「んー?これ、参謀部の人たちが使ってるノートじゃん。
橙色と薄水色の二冊かー。
……たしか、色によって前期と後期に分かれて使う……って話を聞いたことあるようなぁー?
まあ、いいや。
……で、こっちは……写真立て、ですなぁ……」
織山「ノートは後にするとして…。やっぱ、気になる写真からで!」
逢沢N「楽しみこそ、最初に。
それが織山だ。
写真立ては木製で、手彫りだ。もちろん、職人が作ったものではなさそうだ。
模様は蔦と葉っぱが数枚。左右に彫られている。」
柳戸N「床にペタン…と正座した。
写真立てを裏返し、四隅の板止めをずらす。」
織山「せっ…!(板を外す)んー?…おわぁっ…何、この人…。すごい美人さんだ…。」
逢沢N「織山の眼に飛び込んでくる写真は、現在の黒軍では見かけたことのない女子の横顔だった。
背景は学園内の温室だろうか。
ピンとが外れてはいるものの、植物に囲まれ、赤紫を濃くしたような色──黒にも見えるチューリップを摘んだ瞬間を、切り取られていた。」
柳戸N「直接、触れて眺めようとし、写真立てから中身を出そうとした織山。
だが、そんな女子学徒の写真以外にももう一枚、入っていたようだ。」
織山「わわっ、なんだよ~。もう一枚入ってんの?
……んんー?これは墓地の写真…?
あ、美人さんの写真。汚れないように伏せとこー。さてさて、これはー。
西洋の墓石とニホンの墓石だ……
誰のお墓なんだろう。墓石に名前は彫られてないな……
写真の裏面になんか書いて……あ、あった。
二〇六七年、十一月。海の丘にて……。そんな場所、この島の中にあったかな?」
柳戸N「写真は今から十ニ年前に撮られたものだと判明した。
手書きで書かれた日付と場所のメモ。筆跡からして、男性だろうと思った織山。」
織山「あたしが生まれて三歳かー。でも、墓地の写真を撮るって変な趣味だなー…。まあ、元に戻しておこっと。
レディーらしく~優しく~、ソフトに~。
さてさーて!今度はノートを見ちゃお!うーん、やっぱ参謀部と同じなんだよねぇ…。何年も、デザイン変えてないんだなー。」
逢沢N「橙色と薄水 色の二冊ある。
何となくの気分で、橙色のノートから開いた。」
織山「足疲れちゃった。正座やめよっと……」
(間)
織山「うん、なになに?
……このノートを親愛なる後輩たちに託す。
二〇六七の水無月……長谷川、華?來?違う気がする……。
ううんー?えっと、なんて読むんだろ…。」
柳戸N「人名の読み違いはよくある。
正しくは【長谷川 華來】
この名の学徒が橙色のノートの持ち主だ。
ノートの内容は、日記帳のようだが、記録帳ともとれる内容が含まれていた。織山の読む視線と手は徐々に早まっていく。」
織山「二〇六五年の水無月。私は……」
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─────
※ここからノートの内容。
華來「私は長谷川 華來。
この学園に推薦枠として入り、二か月が経った。
もう、そろそろ頃合いかと考えている。
既に私には幹部の人と会って、物申しても問題ない地位はある。
今まで、耐え抜いてきた。変える為ならば、と。
『悪癖』は絶たなければいけない。
仮にも学び舎である学園内で『悪癖』があっては島の外で前線に赴いたときに間違いが生じてしまう。
女だと、見限られるのも。
女だから、疎まれるのも。
甚だ、迷惑だ。
女だからこそ、出来ることが考え付くことが在るのだと知ってもらおう。」
──────────
織山:心の声
《…『悪癖』って何だろ…。
でも、察するに男女での扱いの差があった…って、いうことだよね……》
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華來「水無月の30日。
決行の日。正午過ぎから総司令官の方と会える。
私の思い、考えをぶつけられるだけぶつけよう。」
華來「同日・就寝前にこれだけは記しておく。
結果としては試された。
しかし、私の考えは無下にされることなく済みそうだ。
ただ。問題はこれからだ、というのは云わなくとも対話している間にも感じた。
……古張 匡司さん。貴方には絶対に屈しない。」
─────────
織山:心の声
《長谷川さん、凄い…。こんな人と同じ軍なんて信じられないかも…。》
柳戸N「織山は長谷川 華來の視点で進む事実なのか。
それとも創作なのかも判らない内容に惹き込まれていった。
部室の中が、織山の中途半端な作業で放置されているのも忘れて。」
(間)
織山「あれ、ここも数ページ切り取られてる…。内容に納得いかなくて、ちぎったとか?でも日記帳ならちぎる必要ない気がするんだけど…。」
逢沢N「その部分というのが、長谷川 華來が一人で奮起を続ける日々に。起こった変化を記していた部分だ。
切り取られている部分の手前の記載がコレだ。」
─────────
華來「葉月十八日。
妖島にも台風が直撃した。
教員からのお達しで、全学徒の外での任務が禁止となった。
でも、今日はヤケに周囲の視線が冷たい気がする。
否。気のせいではないのだろう。
就寝前に記す。
ついに、私の考えに理解を示してくれる学徒が現れた。
これならば、小部隊を結成できる。
副長の職は時尽 雄栄に任せよう。
【悪癖】を終わらせて、女子学徒が過ごしやすい学園つくる。
私のような学徒に協力しては、彼の──時尽の生活が危ぶまれそうだ。
でも、後悔はさせない。私の最善を尽くしていこう。」
柳戸N「新しく部隊を結成する。
副長の職を、名前から察するに男子学徒に任せる。という記載だった。
そこから葉月。
つまり、八月の内容がまるまる切り取られている。明らかに故意的になくなっていたのだ。しかし。織山は些細な事だ、と割り切って読み続けることにした。」
華來「長月二十一日。
遊撃部隊に所属することになって、一ヶ月。
八重桜からもじって【八桜】なんて大層な部隊名にしてしまったが、私としては気に入っている。
それと、怪我していた時尽が復帰した。
彼を襲撃した相手の目星はついている。
大丈夫。いつか、その相手と全面対決になるだろうけど。
私は部隊の皆を信じている。」
────────
織山:心の声
《えっ…!一ヶ月の間に何があったの??…やっぱ、八月の部分も探すべきかなぁ…。いや、見つかる気がしないよ……》
逢沢N「その記載から数日分は一言だけで終わっており、次のページに織山が食い入った。」
──────────
華來「長月三十日。
三日連続で雨が降っている。
それでも、敵軍からの開戦の合図を受ければ応えないわけが無い。
さて、戦果を挙げようか。
───私は隊長、失格だ。
あんな状況でなら、私のせいではないと返されるだろう。
それでも、私のせいだ。
古張匡司…。
私は貴方を許さない。」
────────
柳戸N「だいたいの記載はボールペンで統一されていたノート。
しかし、その日は濃いめの鉛筆で殴り書きのようにも見て取れる力強い筆跡で書かれていた。」
逢沢N「長谷川 華來が開戦中にどの様な屈辱を受けたのか。
それは特に記載されておらず。
織山は、ただ目を見張った。」
織山:心の声
《いったい、なにがあったんだろう……
もし、後悔するような事があったら。柳戸さんや隊長も自分の名乗ってる職を失格だって思うのかな……?》
逢沢N「それから流し目で内容を読み進め。
次に目を止めたのは霜月……十一月の内容だ。」
────────
華來「霜月の二十日。
やはり、後ろ髪がないのは落ち着かない。
そろそろ切り揃えようとは考えていたが、まさか奇襲のさなかに切られるとは予想していなかった。
命の代わりと言えば、聞こえはいいが。
危なかったことに変わりない。
時尽の表情。実に申し訳ない。
私の考えに賛同してくれる学徒も目に見えて増えた。
そうであっても、古張 匡司が特隊生の職に就いている限りは私の命も狙われ続けるのだろう。
実に忌忌しいことしてくれる。
……長月の時期のこと、私は許していない。」
────────
織山「うそっ…。レディーの髪を切るなんて最低な奴…!
あ。じゃあ、あの写真っていつのだったんだろ…。」
柳戸N「織山はチラッ…と写真立てを軽く見て、首を傾げる。
日常のつづりが続く中。
ついに師走…十二月の記載になった。」
──────────
華來「師走十日。
めっきりと寒さが増した。
指定の制服だけでは、寒さを防げない。
寒い。と独り言のつもりが時尽がおかしな事をしてきた。
──私が自分の息を吹きかけて、少しでも暖をとろうとしていたら両の手を握ってきたのだ。
あの時は感情が追いつかなくて、素っ気なく返してしまった。
他人の体温というのはあれ程にも暖かいのだろうか…。
それとも、時尽が特別。
体温が高いのか…。
慌てたような表情の時尽も面白くて悪くない。」
────────
織山:心の声
《おやおや~…!これは、心境の変化ってやつだよね??
確実に、時尽って人。
長谷川さんに気があるよね??
じゃなきゃ、レディーの手を無断で触れるなんてこと……》
織山「ふふっ~、イイなぁ。こういうの……!」
逢沢N「ごろっ…と床に寝そべって、ノートを顔の上にあげる。
織山は、淡々と綴られているのにも関わらず、突然の色恋のような内容にニマニマと表情を緩めた。」
──────
華來「師走十六日。
何やら、隊員たちの動きが怪しい。
隊長である私に隠し事をしているのか。
これは問い詰めるべきだろうか…。
──驚かされた。
上層生の会議から戻ってみれば、隊員の皆からクラッカーを鳴らされて。
一斉に おめでとう と言われた。
そうか。今日は私の誕生日だったか。
日々、奮起し続け。
自分の生まれた日なんか気にかけていなかった。プレゼントを貰った。手編みのマフラーだ。
丁寧に編まれていたり、そうじゃなかったり……
隊員の皆がそれぞれ編んでくれたのだろうか。
首に巻いてみれば、温かい。
大切に扱っていこう。」
織山M《マフラーか~…。
陽炎のみんな、それぞれ持ってるしなー。てか、あたし。なにか編んだりすんの得意じゃないんだよなぁ…》
逢沢N「ノートをめくって、長谷川 華來が過ごした時を辿っていく織山。
ついに年明けの内容になり。
しかし、年明けても黒軍内で起こる問題は続いていたようだ。」
華來「二〇六七年の睦月二十三日。
償えない。
失ってしまった者は還ってこない。
××も、△△も…どちらも、もう会えない……
私が殺したのと同じだ。
もう、今なら誰かに殺されてもいい。」
───────
織山:心の声
《誰かが、死んだんだ…。名前は消されてる…。
いったい、誰だったんだろ…。》
────────
華來「如月三日。
何やら、古張 匡司に対する不穏な噂が出回っている。
白に寝返るだの。
今の参謀長を暗殺する計画を企てているだの。
確かに、裏のある男だとは思ってはいる。
しかし、あの冷淡で。
黒という組織の礎のような男がわざわざ。
組織の崩壊になりそうなことをするのだろうか。
私の志にだって、武力衝突をしているような男が。
何かが、おかしい。」
────────
織山:心の声
《自分の命を狙ってきたような人に気をかけるの……?
ライバルとして認めてるってことなのかな……》
────────
華來「如月二十九日
長々と間をあけてしまった。
こうやって、この記録帳に向かう時間などなかったからだ。
この数日間であったことを記すなら。
古張 匡司が黒軍の全部隊を敵に回したこと。
十人の同軍の学徒を人質にとって、孤軍奮闘。
どういう訳か、私もその人質の一人だった。
私が古張 匡司の立てこもる部屋へと連れられた時に、人質の数を瞬時に数えた。
そしたら、その人数だった。
捕えられそうな人材で十人なのか。
それともなにか意味があったのか。
水だけはあるのか、定期的に与えられる。
二日間なら絶食でも過ごせるが、その倍になると意識も朦朧としていた。
どのくらいの時間が経った?
どれほどの日が過ぎた?
外からの怒号と、
窓際に立つ古張 匡司の姿。
それだけが、鮮明で。
その後の記憶はひどく曖昧だ。
結論から言うなら。
彼は打刀の特隊生ではあった。
けれど、一騎当千の武力はなかった。
参謀長の頭脳による戦略にもしばらくは耐えていたようだが、のちに陥落。
私やほかの人質は、すぐに救護班に保護された。
この監禁状態によって、外傷などはないが、精神面で病むものが多かった。
六日間と半日。
この期間で、私は彼の存在を酷く意識した。けれど、そのあいだに覚えた感情はとても正常とは言い難く。
異常で片すのも偲びない。
──古張 匡司は突入してきた同じ特隊生の学徒に身柄を拘束された。
……彼は今、学園内のどこかにある牢獄の中だ。」
────────
織山「…同じ軍の人を敵に回すってどんな気持ちだったんだろ……」
────────
華來「弥生二日。
今日、部隊に復帰した。
部室に入った途端に後輩のサクラに抱きつかれて、腰を抜かすところだった。
皆に、それぞれ心配をかけてしまった。
私の姿を見れば、時尽がぼろぼろと涙を零したのは驚いた。
時尽は、簡単に泣くような男ではない。
だからこそ、意外で申し訳なさで胸がいっぱいになった。
私は何も言えず。それでも、時尽の肩に手を置いた。
すると、また泣き出して後輩たちにまでからかわれる始末だ。
こんな、平穏が続けばいいのに。」
────────
織山「平穏、か。あたしも何気なく過ごしてるけど…。
実戦が始まったら、みんな傷ついたりするんだよね。
……嫌だな、とか言ってみたり……」
柳戸N「ポツリと呟いて、次のページをめくると見開きで絵が描かれていた。
所属の隊員たちの似顔絵だろうか。
お世辞にも上手いとは言えないが、だいたいの特徴が見て取れた。」
織山:心の声
《これ、描いたのって長谷川さんなのかな…。結構、美術苦手??》
織山「──あれっ、終わりなのかな?五ページ分も空いてる。んー?……あ、何か書いてある。」
──────────
華來「皐月の七日。晴天。
風の噂で古張 匡司が死んだと聞いた。
しかし、誰も遺体を見たわけでもないので憶測が飛び交った。
退学者に施される記憶操作で島から追放された、とか。
研究施設に送還されて実験体になっている、とか。
どれもこれも信ぴょう性がない。
そもそも、彼の死を誰しも信じていないようだ。
何せ、あの騒動を起こした理由が解明されていないからだ。
でも、私は聞かされた。
選りに選って、時尽からだ。
時尽と二人っきりで書類作成していた。
そしたら。
徐ろに古張 匡司の死を話題にしてきたのだ。
信じられるか?
否、信じたくない。
私の中での彼の、時尽 雄栄の存在が揺らぐ瞬間だった。
──何故、君でなければいけなかったんだ?」
(間)
※逢沢か柳戸の役の人が読んでください。思ひ出帳には載っていない回想。
時尽『ぼくが殺したよ。
上の、参謀部の命令でね。
きみは知らないだろうけどさ。
ぼくは、元々、暗部なわけだし。
場所を特定するのも朝飯前、あとは忍び込んで殺すだけ。
命じられたら、人形は動かなきゃいけない。
でも、本当に残念なやつだよね。
自分の初恋の相手の、オモカゲを自分の手で傷つけちゃったんだから。
同情?憐れみ?違うよ。
これは、軽蔑だよ』
(間)
逢沢N「二ヶ月も記載を飛ばした記録帳には淡々と記されていた。
一人の学徒の【死】を対価に交わされた思いが書かれていた。」
織山「嘘…。あ、あれ?
なんだか、霞んで読めなっ……
(涙が溢れる)…ふぅぅ…、うぇっ…うぅぅ…!!」
(間)
SCENE④
柳戸「すっかり日が暮れちゃったよ。ほんと、容赦ないよね。おかげで、普段 使わない筋肉が悲鳴あげてる」
逢沢「とか言って、おまえも楽しんでいただろ?」
柳戸「まあ、楽しかったけどさぁ」
逢沢「お、ここが俺たちの新しい部室か」
柳戸「うん、そうだよ。やっぱ、部屋の大きさは狭くなっちゃったけど。窓から射す夕陽は綺麗だと思うんだよね」
華來N「部室の窓から夕陽が射し込み出す刻。
廊下が話し声で騒がしくなり、三回のノックで扉が開かれた。」
柳戸「織ちゃんー、戻った……よぉぉぉ?!」
逢沢「おい、どした。って、何だこりゃ!盗っ人でも入ったのか?!」
柳戸「うーん、と…。これはどういう状況?
たしか、僕。出て行く前に『片付けておいて』って お願いしたはずなんだけどな……?」
逢沢「いやぁ、逆によくここまで散らかしたなー?(奥に進む)」
柳戸「んー、ひどい。
僕は、ちゃんとお願いしたはず。なんでか、動かした机は戻されてないし、壁には大きな穴が空いてるのかなぁ……」
逢沢「おい、柳戸!織山が倒れてるぞ!」
柳戸「えっ、本当。どういう状況?」
逢沢「外傷はないな。…というか。寝てるぞ」
柳戸「ね、寝てる?本当だ、寝てる……」
逢沢「爆睡だな…。掃除された様子がないから床は、お世辞にもキレイとは言えないが……」
柳戸「起こそう」
逢沢「お、おう。めずらしく本気な声だな」
柳戸「当たり前でしょ。僕はやりっぱが一番嫌いなんだよ。……こら!織ちゃん、起きなさい!」
華來N「柳戸はゆさゆさと織山の肩を揺する」
織山「うぅん……。(寝返りをして、むにゃむにゃ。)」
逢沢「おっ…」
逢沢:心の声
《スカートがめくれてて下着が見えそうで見えないが、寝ていると可愛いな……》
柳戸「……あ・い・ざ・わ。(黒く笑む)」
逢沢「ば、バカ者!起こすなら早く起こせ!(顔を背ける)」
柳戸「はいはい。言われなくても、ね!」
逢沢「なっ!おい、何する!?」
華來N「柳戸は静かに手を上げて、振り下ろす。
ぺちぃん!!と音をたてて、織山のオデコを叩いた。
織山の瞳が大きく見開き、飛び起きた。
記録帳が床に落ちる。
飛び起きた織山を、逢沢もとっさに避けた。」
織山「いったぁぁぁい!!」
柳戸「おはよう、織ちゃん。(威圧的に笑う)」
織山「あ、ありゃ?夕暮れ……、あ、柳戸さん。……あたし、寝てた……?」
柳戸「うん、それはもうぐっすり、ね。」
織山「(サーッと青くなり)ご、ご、ごめんなさい!!」
逢沢「やれやれ、だな。
柳戸、織山のことを任せたからな。
……おーい、藤、山路、天童ー。一旦だな──(立ち去る)」
(間)
柳戸「うんうん。ちゃんと謝れて良い子だね。
それで、この状況に対しての言い訳があるなら訊いてあげるよ」
織山「えっと、あの…。」
華來N「『普段、優しい人を怒らしてはいけない。』
織山の中で今後の教訓となる言葉だ。
必死にかくかくしかじか…
ありきたりな割愛の仕方ではあるが、洗い浚い話した。
柳戸はただ静かに相槌を打った。」
織山「っていうことです……」
柳戸「そう。……はぁぁぁ……(長い溜息)」
織山「ひょえっ…」
織山:心の声
《ま、まだ怒ってるよね……。怖いー!!》
柳戸「あ、えっと。うん、織ちゃん、ヨシヨシ…(撫でる)」
織山「わわっ…。えっと…柳戸、さん…?」
柳戸「あのね、織ちゃん。
いくら気になっても雑な壊し方をしてはダメだよ。わかったかい?」
織山「許してくれるんですか…?」
柳戸「まあね。織ちゃん自身も反省しているようだし。
あぁ。もちろん、先生たちには報告するけど」
織山「っ!柳戸さん…!!」
柳戸「え。…どわぁ!!…な、何するのさ!突然、抱き着くなんて危ないだろ?!」
織山「後で、壁直すの手伝ってください!!道具とかは景の借りて!」
柳戸「えぇっ…?!僕、いいように使われてる…??」
織山「ねっ!!(満面の笑み)」
柳戸「あ、はい……」
逢沢「プッ、ハハハッ!まんまと流されたな~、柳戸。おまえの負けだよ」
柳戸「ほんと、織ちゃんはずるいよぉ……」
織山「えー!あたし、なんも悪くないですよー!」
柳戸「あー、うん。まあ、いいや。ほら、僕から降りて織ちゃん。」
織山「あ、はーい。ごめんなさーい。(柳戸から離れる)」
逢沢「うーん?もう、終業時刻だな。……どうする?柳戸。」
織山:心の声
《終業時刻!?…あちゃー、あたし。すっごい寝てたんだなぁ……》
柳戸「そうだね。
本当なら、今日のうちに終わりたかったけど無理だし。寮の夕食の時間もあるしなー」
逢沢「とりあえず。見回りの先生にお叱りを受けない程度に片すか?」
柳戸「うん、そうしようか。」
織山「おっけーです!よーし!頑張りましょー!
……!景くん!藤!
机戻すの手伝ってー!ちゃちゃっと終わらせちゃうぞ~!
あ、山路さんは、そこらへんにある箱を黒板側に動かしといてー!」
柳戸「(溜息)もう、織ちゃんはこういう時だけ調子がいいよなぁ」
逢沢「まっ、それが織山のムードメーカーたる所以だろ?」
柳戸「まあ、そうだね」
華來N「織山は問題児でもあるが、ムードメーカーだ。
彼女の鶴の一声に周りが動かされる。
結ばれる絆は強い。
これが、黒軍にある陽炎進撃小隊の日常の一幕である。」
(間)
SCENE⑤/エピローグ
柳戸N
「陽炎小部隊の紅一点──織山 炯が見つけた二冊のノート。
続きを見るかと訊いたが、首を横に振ったので僕らで預かった。
そして、教員にことの顛末を報告する前に逢沢と内容を確認した。」
逢沢N「織山 炯の言う通り。
橙色のノートは、日記帳ようで記録帳。
──つまりの【思ひ出帳】」
柳戸N
「織山 炯が未読の薄水色のノート。
どうやら、橙色のノートの手記であった長谷川 華來。
彼女の後輩にあたる学徒が綴ったものだと確認できた。」
逢沢N
「橙色で古張匡司が死に。
薄水色が記していたのは、長谷川 華來の最期と。
そして、その支持者とも言える青年・時尽 雄栄の死。
彼女が目指した志は受け継がれた…ということだった。
いったい、彼女と彼の死に様とはどんなのだったのか。
残念ながら はっきりとは記されていなかった。」
柳戸N
「けれども、今は存在しない八桜部隊が始めた志は確実に受け継がれている。
その証拠に、僕たちの部隊には織山 炯が居るのだから。
……その後は責任を持って、教員へと事のいきさつを報告し巾着袋ごとノートを渡した。」
逢沢N
「その巾着袋を見た津島先生と南條先生。
俺たちの配属でもある進撃部隊の監督教官 二人のバツの悪そうで、どこか寂しげな驚いた顔は忘れられそうにない。」
(間)
織山「ホント。キレイな人だなぁ、長谷川華來さん…。」
華來N「第二校舎の屋上で落下防止フェンスに寄りかかりながら、彼女は呟いた。
手にはあの巾着袋に入っていた写真立てを持っている。」
織山「あの時、とっさに柳戸さんたちから隠しちゃったけど……イイよね?」
華來N「額におさめられている黒髪の女子学徒の横顔。
その写真に見惚れ、蕩けた眼差しで見つめる。
二枚の写真や写真立ての存在を知るのは織山 炯。
──彼女一人だけ。」
【改版】 幕間・参⇒思ひ出帳。
おしまい