表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【声劇台本】番外編まとめ【三津学シリーズ】  作者: 瀧月 狩織
三津学シリーズ 番外編台本
4/12

【四人用】改版 思ひ出帳。

※この部分をコピペして、ライブ配信される枠のコメントや概要欄などに一般の人が、わかるようにお載せください。


録画を残す際も同様にお願いします。






三津学シリーズ 番外編台本 三本目

【劇タイトル】三津学 番外台本/改版 思ひ出帳。

(もしくは、三津学 幕間。

または、三津学 劇る。というテロップ設定をして表示してくださいませ。)

【作者】瀧月 狩織

【台本】※このページのなろうリンクを貼ってください


三津学シリーズ 番外編台本


劇タイトル『改版:思ひ出帳。』


比率:男声2:女声2の四人用台本 (のつもりです。)


※注釈

当台本は、♀キャラの織山おりやま けいが一人で騒いでるだけです。

それ以外のキャラは、基本的に 織山の行動(奇行) を解説。つまりのナレーションとしての役割ばかりです。


過去作品の演者人数を改めた台本ってだけで。

ツッコミ満載なコメディーかと思いきや、シリアス要素も少しだけある感じで。

大筋おおすじの内容に変更はありません。

それでも、いいよ!という演者さんは楽しんでくださいね☆


───────────


【演者サマ 各位】

・台本内に出てくる表記について

《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。

Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。


・ルビについて

キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。

場合によっては、振り直していないこともあります。

(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)


それでは、本編 はじまります。

ようこそ、三津学の世界へ



─────────

──────



☆台本 本編☆



逢沢N「西暦ニ〇七九年の十一月。

冬がやってくるまであと少しの時季(じき)黒軍(くろぐん)の校舎内はどうもあわただしい。」



柳戸「おりちゃん!その荷物、こっち!」


織山「うぅ、おもたぁい!!」


柳戸「ほら!頑張る!!」


織山「レディーにこんな大きな箱を持たせるなんて、信じらんない!!」


柳戸「じゃあ、僕のと変わるー?」


織山「え!かわ……らない!!」


柳戸「ははっ(笑)部隊室まであと少しだ。頑張れ!」




華來N「どうやら今日は黒軍くろぐんの在校生が一斉に部室を清掃する日のようだ。

騒がしくも荷物を詰めてある箱をかかえて、移動する男女の学徒。」




織山:心の声

《あたしのも結構重いけど、柳戸やなぎとさんの荷物も重たそうだなぁ……あ、暑いんだ。学ランのホック外してる……》



柳戸:心の声

おりちゃんのスカート短くないか…?

手伝いをお願いしたのは僕だけど。動くたびにひらひらしてて、気になるんだよなぁ……》



逢沢N「平静を装ってはいるが、彼だって年頃の男子だ。

この気になっている感情に変化はまだ起きない。」



(間)



〜劇中タイトルコール〜



華來「自己解釈 学生戦争 三津(みつ)(がや)学園物語」


逢沢「番外編台本/改版(あらためばん)の思ひ出帳。」




(間)



織山「荷物、ここ置いちゃいますからねー。よいせっ…はぁー!やっと着いたぁー……(床に座る)」



柳戸「お疲れー、おりちゃん。ゴメンね、手が空いてるのがキミしか居なくてさ」



織山「せっかくの休みを邪魔されたのは柳戸やなぎとさんのせいとは思ってないですぅ……、

……もう!隊長とか他の男子は!?」



柳戸「(苦笑して)残念ながら森林公園で特別訓練中だね」



織山「なにぃ!?タイミング、めっちゃ悪いじゃん!!」



柳戸「(から笑い)……前々から部室交換の案は挙がってた。

ただ逢沢(あいざわ)……、えっと隊長が拒否しててね。でも、この一斉 清掃の日をタイミングに換わることになったんだ。(会議机を撫でる)」



織山「うーん、と。

確か、交換の理由の一つに小部隊しょうぶたいが使うには広すぎるとかあった気が……」



柳戸「そうそう。よく知ってるね(笑)」



織山「あたしの、同期の(ふじ)くん が話してましたよ。」



柳戸「あ~…、ふじね。あの子も、噂好きだよなー。(頬を掻く)」



織山「あの思ったんですけど。」


柳戸「ん?どうしたの」


織山「あたしたちの部隊が馬鹿にされてるのと同じじゃないですか!(箱を殴る)」



柳戸「(小声)あーあー、箱が……」



織山「あ、すみません。勢いで……」



柳戸「うぅん。気にしないで」



織山:心の声

《一応、見た目だけは直しておこっと……》




柳戸「…確かにさ。おりちゃんの言うことは間違いじゃないよ。

陽炎(かげろう)は、この部隊は他の部隊から見下みくだされている。

だから先輩たちから受け継いだ部室を換わることになったんだと思う。

……でもさ!住めば都とも言うしさ!新しく、この部室で頑張っていこうよ!ね!」



織山「(ふくれ顔)そういうことじゃないと思うんですよね……。てか、無理に明るく振る舞わないでください」


柳戸「あ、うん…。ゴメンね……」




逢沢N「先輩である柳戸やなぎとの気持ちを汲み取ることなく吐き捨てる織山おりやま。はっきり言うところは彼女の長所であるが短所でもある。

柳戸やなぎとは言葉に詰まって、頬をく。 」




───────

─────




(※軽快な着信音)



織山「およっ?…あれー、あたしの端末では、ないな~?」



柳戸「あ、僕のか。

(通話に応答)……はい、柳戸やなぎとです。

あぁ、満潮(みちしお)部隊の…。

はい、はい。あー、わかりました。今、取りに行きます。はい。失礼します。(通話を切断)」



織山「どうしたんですかー」



柳戸「うんと、まだ運びきれてない荷物があったみたい」



織山「そうですか。じゃあ、あたしも一緒に行きますよ。」



柳戸「あ、大丈夫。

話によると僕だけで人手ひとでは足りるみたいだし。ついでに隊長たちにも声かけてくるよ」


織山「わかりました。いってらっしゃい、柳戸やなぎとさん」



柳戸「うん、いってきます。あ、少しずつで良いから荷解き、お願い!」




華來N「パタパタ…と走り去った柳戸やなきどの背中を見送る織山おりやま

控えめに手を振って、彼の背中が曲がり角で見えなくなれば部室へと戻った。」




織山「さーて、何から開けていこうかなー。

これは……ゲッ、山路(やまじ)さんのオカルトグッズだ……。

あ、後回し!!(箱を閉じる)」




華來N「織山おりやまは面倒なことは基本的に後回しのタイプだ。

箱を一つずつ開き、閉じの繰り返して八箱目を開けた。」




織山:心の声

《あたしが運んできたのは大きい箱ひとつだけ。でも、ここには見かけない箱がある……、早く声かけてくれて良かったのに……。柳戸やなぎとさんって、変なとこで人の力を借りようとしないんだよなー…》




織山「おっ、これにしよ!」




華來N「やっと、やる気が出るような箱を見つけたようで中身を床に取り出し置いていく。」




織山「やっぱ、棚から見栄みばえ良くするべきだよね~…。

あ、棚。ホコリ被ってるじゃん!

誰も掃除してないなー?……まあ、いいや。掃除用具はこの部室の備え付けを使おっとー」




逢沢N「立ち上がる。

ガタガタ……と掃除用具入れの前をふさいでいる机や椅子を退かしていく。

どうやら、この部室は人の出入りはあったようだが。

掃除された形跡がないのが見て取れた。織山おりやまは用具入れの取っ手を握って、手前に引く。」



織山「ん、よっと!ん?んんっっっ……何で!?」



逢沢N「どうやら用具入れの戸は建付けが悪くなっているようで、彼女の力ではビクともしない。

しかし、諦めが悪い織山。」



織山「殴ってやれ!…うぅ、いたぁい…。

いやいや!蹴ってみればどうだ!

……あ゛ぃっ…!!ふぅ~~~~!

……もういい、やめた!!ホントはいたりしたかったけど無理!!」




逢沢N「殴る蹴るをしたが、扉はびくともしない。

一人しかいない部室で喚いて、顎をつたってきた汗をそでで拭った。」




織山「ふぅ…どうしようかなぁー。

…んんー?なんだろ、あれ。

なんか気になる!机動かしたら戻れなくなっちゃたし…。

もう机に乗っちゃお~。よっせ…!

レディーとしては、お行儀悪いけど……

うおっ…バランス、バランス~!」



(間)



織山「よっせ、と。(床に降りる)やっぱり、そうだ!ここ壁紙だけ貼り直されてる!」



華來N「彼女の気になった所は実に些細ささいな事だった。

この交換の作業が始まるまでは遮光しゃこうカーテンで閉め切られていた部室。

彼女が所属する陽炎(かげろう)部隊が使用するのを機に、壁紙を変えたのなら違ってもおかしくない。

しかし、織山おりやまの疑問はそれで終わらない。」



織山「コン、コン~…と。

うん、やっぱ、そうだ……!壁紙の後ろ。音からして、合板(ごうばん)が貼られてる。でも、何でだろ?」




華來N「また小首を傾げて、考える織山おりやま

窓の外を(すずめ)が二羽、飛び去っていくのを眺めてハッ!とひらめいた表情をする。」




織山「……!ミステリ小説とかで、音の違う壁って何か隠されてたりするじゃんー!……そうだ!壊そう!

柳戸やなぎとさんたちが帰ってくるまでに直せば良いんだし!

あたしったらナイスアイディア~♪」




華來N「全くもってナイスな部分はない。

しかし、思いついてしまったからには止められない。

そもそも部室には織山おりやま一人だけ。端からストッパー的な存在は居ないのだ。

織山おりやまは鼻歌まじりに【天童(てんどう)私物しぶつ】の文字がサインペンの太字で書かれた箱を物色した。」




織山「よし!みっーけ!これと、これも借りておこっと」




華來N「箱から取り出して抱え込み、先程の壁の前へと戻る。

ホコリのかぶっている棚の上段を(てのひら)(はら)う。

そして、無断使用されるのは織山おりやまの同期である天童てんどうくんの私物」



織山「じゃっじゃーん!キリィー!」


(青いタヌキのアイテム登場音が流れたような。流れてないような。)



織山「ぶっちゃけキリって、板とかに穴を開けるための道具なのは知ってる。でも、先端細いし行けるっしょ!んで。これを、こう……突き刺す!」



華來N「ガンッ…と合板(ごうばん)はばまれるものの、キリの先端は上手く突き刺さる。

ガリガリとけずれていく音にはんして、振動が手首につたわって痛みを感じる。織山おりやまが予想した結果にはならない。」



織山「チェッ……、手首が痛くなるだけだったなー。

この壁、見かけによらず分厚いなー。あ、これの中にカッターないかな?」



華來N「無断使用される私物・その二は工具セットだ。

一年生の天童(てんどう)景時(かげとき)は、校舎内の備品を直すのを趣味としている。」



───────

─────



柳戸N「織山おりやまが持ち出したのは、手持ち付きの一般的な工具箱だ。

工具箱には施錠(せじょう)などなく、(ふた)を開ければ中身が見える。

織山は『なんだこれー。』『わ、変なのー。』と言いながら、使い方も名称も分からない工具をポイポイ…と棚の上段に並べていく。」



織山「お!見っけ!なんで、一番下に入れとくんだろ。(溜め息)

……ありゃ、これとかどこに入ってたっけ~…まあ、いいや!(ふた)が閉まればいいよね!」



柳戸N「スーパー自由人な織山おりやま

元あった位置に戻すという考えはない。

そもそも、目的の物にしか興味はない。だから、覚えてすらいないのだ。ガチャン、ゴトンッ……と音をたてながら工具箱に戻し。なかば無理やりに(ふた)を閉じる。」




織山「よし!完璧!……まあ、怒られたら謝れば許してくれるでしょ!

(かげ)のことだし!」




柳戸N「どこから、それほどまでにポジティブな思考が思いつくのか。

なんてつっこんだが、織山おりやまの自由行動は止まらない。」




織山「このカッターで~。壁紙を切りまーす!(カッターを突き立てる)…うーん。

けっこう手首に振動がああああ……」




(間)




織山「おおー!?これは、あきらかに後から()めましたって感じの板はっけ~ん!」




逢沢N「ワクワクとイタズラを思いついた幼い子供のような無邪気な声をあげる。」




織山「織山(おりやま)(けい)選手!ここで取り出したのは愛用のハンマーだー!!いぇーい!!」




逢沢N「何故か、自分で実況し盛り上げる奇行きこうを演じる織山おりやま。」



柳戸N「このタイミングで他の隊員たちが戻ってきたら黒歴史 間違いなしだろう。

しかし、一番奥の部隊室なだけあって通行人はいない。

副隊長の柳戸やなぎとは、他の隊員を呼びに外出中。

戻って来るにも時間を要するはずだ。──つまり、この奇妙な展開は続行である。」




織山「織山おりやま けいの一投目!打ちつけましたぁ!!」




華來N「ゴンッ!!と打撃音を響かせて、合板(ごうばん)亀裂(きれつ)を入れていく。」




織山「二投目!」


織山「三!」



(以下略)



──────


SCENE②



華來N「一方、その頃 森林公園でのこと。」




柳戸「おーい、逢沢あいざわ〜?」



逢沢「おう!ここに居るぞ!」



柳戸「……え、どこ?」



逢沢「ここだ、ここ!(草むらから出てくる)」



柳戸「あ、そこに隠れていたのか。

全然、わからなかったよ。きみの擬態術ぎたいじゅつはさすがだ」



逢沢「褒めたところで、なにも出んぞ!……それで、なにか用か?」



柳戸「ああ、そう。

いまね、おりちゃんに新しい部隊室の片付けを頼んできたから、きみたちの様子見に」



逢沢「そうだったか。わざわざ、すまんな。……新しい部室はどんな感じだ?」



柳戸「うーん、まあ。前のところに比べたら狭いよ。けど、住めば都っていうでしょ」



逢沢「たしかにそうだが……、しかし、遠くなったな。ここだろ?

場所は、(端末に表示されている構内 見取り図)」



柳戸「(端末を覗いて)……うん、昇降口しょうこうぐちから部室までは10分はかかる感じかな」



逢沢「ということは、部室から森林公園こ こまで30分かかったわけか」



柳戸「ちょっとした運動と考えれば、前向きに受け入れられるかな。

……何せ。僕は、逢沢あいざわたちにくらべたら頭脳担当として肉体の訓練は少ないから」



逢沢「まあ、柳戸やなぎとがそう言うなら 良き場所 と言えるのだろうな」



柳戸「うん、そうだよ」



逢沢「……よし、一旦 集まれ!!これより、訓練内容を変更する!」



柳戸「?なにをするんだい?」



逢沢「にっ…) 柳戸やなぎと、俺たちと増え隠れ鬼をしよう」



柳戸「え?」



逢沢「俺が鬼 役をしよう!」



柳戸「ちょっ、ちょっと待って?なにその、謎のごちゃ混ぜな遊び……」



逢沢「増え隠れ鬼か?

隠れながらも、鬼に見つかったら 鬼ごっこの要素もあるから 逃げていいし、鬼は捕まえた逃げ役を手下てしたにできるから、増え鬼の要素もある。

……それが、増え隠れ鬼だ!!」



柳戸「いや、えっと、僕は部室の片付けをしに戻って──」



逢沢「やっていくよな?我らが頭脳 担当さん(圧のある笑み)」



柳戸「………あ、はい……」




華來N「無念。柳戸やなぎと 冬菊ふゆきの押し負けである。」




(間)




───SCENE③


華來N

「場所は戻って、織山おりやまのやりたい放題な部隊室でのこと。

ハンマーで殴ること十数回。

ついに。バギッ…と音を立てて合板は割れて、ポッカリと穴をあけた。」




織山「やっと、壊れた!!ふふん!さーて!何が隠されてるのかな~!

いや、穴の大きさ的にあたしが入れそうなくらい大きい気がする……

ん~……うんにゃ!

そんなことで、諦めないのがあたし!織山(おりやま) (けい)なのだ~!せいっ!(穴に手を入れる)」




織山「おっかしいなぁ~…上も、下も、なんも触れなーい。

何でもいいから出てきて欲しいんだけどなー。

希望としては、卒業生の秘蔵の戦略ノートとかあったら最高だよね!」




柳戸N「一旦、腕を抜いて穴の中に頭を突っ込んで覗き込む織山おりやま

しかし、中は暗いのに自分の身体で塞げば見えるものも見えない。首を傾げ続け、やっとあかりで中を照らすことを思いつく。」




織山「そうだよ!あたしの端末ちゃんにライト機能あるじゃん!

これを、こうしてぺぺぺー!とすれば〜

……うわっ、まぶしいっ……

んにゃ!ではでは再開!!

……うーん、下にはないかー。じゃあ、上かなー?

これまた、レディーとしては減点だけど、棚の上に乗っちゃえ!よっと……!うーん?上はどんな感じー?っ!?…あ、いったぁ…!!」




逢沢N「体勢を変えようと身体をくねらせたとき、額に何やら硬いものが当たった。

痛がりつつもライトでその部分を照らす。

そこにはコンクリートの壁に打ち込まれた釘に巾着袋きんちゃくぶくろが掛けられていたのだ。」



織山「ぶつけないように~。ぶつからないように~。

…ふぅ~…。うーん。なんか、ちょいヤバめな袋、発見かも……」




柳戸N「先程まで奇妙な行動を繰り返していた人物と……、

同じ人物とは思えない神妙な面持ちで巾着袋をまじまじ見つめた。」

 



織山「こんなの持ち歩いてる人、見たことないけどなぁ…。あ、ちゃんと黒のなんだ。」




逢沢N「巾着袋きんちゃくぶくろの大きさは、三十センチはあるだろうか。

例えるなら給食の白衣入れの巾着きんちゃくくらいの大きさだ。

布は黒色で、黒軍(くろぐん)の象徴である円を描くように交差こうさしている二振りのかたなと真ん中に羽ばたく(からす)が一羽。

そんな模様が刺繡(ししゅう)されている。裏には名札らしき部分があるが、書かれていない。」




織山「これは見つけたもん勝ちってことで……えいっ!」




柳戸N「やはり、我慢の限界だったようだ。

ちょうちょ結びにされている太いひもをシュルリ…とく。

織山おりやまが開けようと力を込める。

しかし隠されているくらいだ。巾着きんちゃくまりは固い。」




織山「うぐぐ…!ん、もぅ!!今日、めっちゃ チカラ使う日じゃん!!」




逢沢N「中身を見るな、という巾着からの願いかもしれない。

だが、スーパー自由人・織山(おりやま)

彼女の脳内に『放置する』という選択肢は存在しない。」




織山「そうだ!キリで穴を広げよう!…こう、刺してー。うりゃ、うりゃ、うりゃ…。なんか、変な音がキリからしてるけど気にしないでおこう。うん。」



(間)



織山「ふぃ~…ここまでひらいたら、あたしの指の力でもいけるでしょ!

ではでは、改めて~…しつれいしまーす!せいっ!!」




柳戸N「ついに締まりが開かれる。

巾着の中を恐る恐る覗き込んで、中身を確認する織山おりやま。」



織山「んー?これ、参謀部の人たちが使ってるノートじゃん。

橙色(だいだいいろ)薄水色(うすみずいろ)の二冊かー。

……たしか、色によって前期と後期に分かれて使う……って話を聞いたことあるようなぁー?

まあ、いいや。

……で、こっちは……写真立て、ですなぁ……」



織山「ノートは後にするとして…。やっぱ、気になる写真からで!」




逢沢N「楽しみこそ、最初に。

それが織山おりやまだ。

写真立ては木製で、手彫てぼりだ。もちろん、職人が作ったものではなさそうだ。

模様は(つた)と葉っぱが数枚。左右に彫られている。」



柳戸N「床にペタン…と正座した。

写真立てを裏返し、四隅よすみの板止めをずらす。」




織山「せっ…!(板を外す)んー?…おわぁっ…何、この人…。すごい美人さんだ…。」




逢沢N「織山おりやまに飛び込んでくる写真は、現在の黒軍くろぐんでは見かけたことのない女子の横顔だった。

背景は学園内の温室だろうか。

ピンとがれてはいるものの、植物に囲まれ、赤紫あかむらさきを濃くしたような色──黒にも見えるチューリップを摘んだ瞬間を、切り取られていた。」




柳戸N「直接、触れて眺めようとし、写真立てから中身を出そうとした織山おりやま

だが、そんな女子学徒の写真以外にももう一枚、入っていたようだ。」




織山「わわっ、なんだよ~。もう一枚入ってんの?

……んんー?これは墓地の写真…?

あ、美人さんの写真。汚れないようにせとこー。さてさて、これはー。

西洋の墓石とニホンの墓石だ……

誰のお墓なんだろう。墓石に名前はられてないな……

写真の裏面になんか書いて……あ、あった。

二〇六七年、十一月。海の丘にて……。そんな場所、この島の中にあったかな?」



柳戸N「写真は今から十ニ年前に撮られたものだと判明した。

手書きで書かれた日付と場所のメモ。筆跡からして、男性だろうと思った織山。」




織山「あたしが生まれて三歳かー。でも、墓地の写真を撮るって変な趣味だなー…。まあ、元に戻しておこっと。

レディーらしく~優しく~、ソフトに~。

さてさーて!今度はノートを見ちゃお!うーん、やっぱ参謀部と同じなんだよねぇ…。何年も、デザイン変えてないんだなー。」




逢沢N「橙色だいだいいろと薄水 うすみずいろの二冊ある。

何となくの気分で、橙色のノートから開いた。」



織山「足疲れちゃった。正座やめよっと……」




(間)




織山「うん、なになに?

……このノートを親愛なる後輩たちにたくす。

二〇六七の水無月みなづき……長谷川はせがわ(はな)(らい)?違う気がする……。

ううんー?えっと、なんて読むんだろ…。」




柳戸N「人名の読み違いはよくある。

正しくは【長谷川(はせがわ) 華來(からい)

この名の学徒が橙色だいだいいろのノートの持ち主だ。

ノートの内容は、日記帳のようだが、記録帳ともとれる内容が含まれていた。織山おりやまの読む視線と手は徐々に早まっていく。」




織山「二〇六五年の水無月みなづき。私は……」



───────

─────



※ここからノートの内容。



華來「私は長谷川(はせがわ) 華來(からい)

この学園に推薦すいせんわくとして入り、二か月が経った。

もう、そろそろ頃合いかと考えている。

既に私には幹部の人と会って、物申しても問題ない地位はある。


今まで、耐え抜いてきた。変える為ならば、と。


『悪癖』はたなければいけない。

仮にもまなである学園内で『悪癖』があっては島の外で前線におもむいたときに間違いがしょうじてしまう。


女だと、見限みかぎられるのも。

女だから、うとまれるのも。


はなはだ、迷惑だ。

女だからこそ、出来ることが考え付くことが在るのだと知ってもらおう。」



──────────


織山:心の声

《…『悪癖』って何だろ…。

でも、察するに男女での扱いの差があった…って、いうことだよね……》


──────────



華來「水無月(みなづき)の30日。

決行の日。正午過ぎから総司令官の方と会える。

私の思い、考えをぶつけられるだけぶつけよう。」



華來「同日・就寝前しゅうしんまえにこれだけはしるしておく。

結果としては試された。

しかし、私の考えは無下むげにされることなく済みそうだ。

ただ。問題はこれからだ、というのは云わなくとも対話している間にも感じた。

……古張(こばり 匡司きょうじ)さん。貴方には絶対にくっしない。」



─────────


織山:心の声

《長谷川さん、凄い…。こんな人と同じ軍なんて信じられないかも…。》




柳戸N「織山おりやま長谷川はせがわ 華來からいの視点で進む事実なのか。

それとも創作なのかもわからない内容にまれていった。

部室の中が、織山おりやま中途ちゅうと半端はんぱな作業で放置されているのも忘れて。」



(間)



織山「あれ、ここも数ページ切り取られてる…。内容に納得いかなくて、ちぎったとか?でも日記帳ならちぎる必要ない気がするんだけど…。」




逢沢N「その部分というのが、長谷川はせがわ 華來からいが一人で奮起を続ける日々に。起こった変化を記していた部分だ。

切り取られている部分の手前の記載がコレだ。」



─────────



華來「葉月(はづき)十八日。

妖島ようじまにも台風が直撃した。

教員からのお達しで、全学徒の外での任務が禁止となった。

でも、今日はヤケに周囲の視線が冷たい気がする。

否。気のせいではないのだろう。


就寝前に記す。

ついに、私の考えに理解を示してくれる学徒が現れた。

これならば、小部隊しょうぶたいを結成できる。

副長の職は時尽ときつく 雄栄ゆうえい)に任せよう。


悪癖アクヘキ】を終わらせて、女子学徒が過ごしやすい学園つくる。


私のような学徒がくとに協力しては、彼の──時尽ときつくの生活が危ぶまれそうだ。

でも、後悔はさせない。私の最善をくしていこう。」



柳戸N「新しく部隊を結成する。

副長の職を、名前からさっするに男子学徒に任せる。という記載だった。

そこから葉月はづき

つまり、八月の内容がまるまる切り取られている。あきらかに故意的こいてきになくなっていたのだ。しかし。織山おりやま些細ささいな事だ、と割り切って読み続けることにした。」



華來「長月(ながつき)二十一日。

遊撃部隊ゆうげきぶたいに所属することになって、一ヶ月。

八重桜やえざくらからもじって【八桜(やおう)】なんて大層な部隊名にしてしまったが、私としては気に入っている。


それと、怪我していた時尽ときつくが復帰した。

彼を襲撃した相手の目星はついている。

大丈夫。いつか、その相手と全面対決になるだろうけど。

私は部隊の皆を信じている。」



────────


織山:心の声

《えっ…!一ヶ月の間に何があったの??…やっぱ、八月の部分も探すべきかなぁ…。いや、見つかる気がしないよ……》



逢沢N「その記載から数日分は一言だけで終わっており、次のページに織山おりやまが食い入った。」



──────────



華來「長月ながつき三十日。

三日連続で雨が降っている。

それでも、敵軍てきぐんからの開戦の合図を受ければ応えないわけが無い。

さて、戦果をげようか。



───私は隊長、失格だ。

あんな状況でなら、私のせいではないと返されるだろう。

それでも、私のせいだ。

古張(こばり)匡司(きょうじ)…。

私は貴方を許さない。」



────────


柳戸N「だいたいの記載はボールペンで統一されていたノート。

しかし、その日は濃いめの鉛筆えんぴつで殴り書きのようにも見て取れる力強い筆跡ひっせきで書かれていた。」



逢沢N「長谷川はせがわ 華來からいが開戦中にどの様な屈辱くつじょくを受けたのか。

それは特に記載されておらず。

織山おりやまは、ただ目を見張った。」



織山:心の声

《いったい、なにがあったんだろう……

もし、後悔するような事があったら。柳戸やなぎとさんや隊長も自分の名乗ってる職を失格だって思うのかな……?》




逢沢N「それから流し目で内容を読み進め。

次に目を止めたのは霜月しもつき……十一月の内容だ。」



────────



華來「霜月(しもつき)の二十日。

やはり、後ろ髪がないのは落ち着かない。

そろそろ切り揃えようとは考えていたが、まさか奇襲のさなかに切られるとは予想していなかった。

命の代わりと言えば、聞こえはいいが。

危なかったことに変わりない。

時尽ときつくの表情。実に申し訳ない。


私の考えに賛同してくれる学徒も目に見えて増えた。

そうであっても、古張こばり 匡司きょうじ特隊生(とくたいせい)の職にいている限りは私の命もねらわれ続けるのだろう。

実に忌忌いまいましいことしてくれる。

……長月ながつきの時期のこと、私は許していない。」



────────



織山「うそっ…。レディーの髪を切るなんて最低な奴…!

あ。じゃあ、あの写真っていつのだったんだろ…。」



柳戸N「織山おりやまはチラッ…と写真立てを軽く見て、首を傾げる。

日常のつづりが続く中。

ついに師走しわす…十二月の記載になった。」



──────────



華來「師走(しわす)十日。

めっきりと寒さが増した。

指定の制服だけでは、寒さをふせげない。

寒い。と独り言のつもりが時尽ときつくがおかしな事をしてきた。

──私が自分の息を吹きかけて、少しでもだんをとろうとしていたら両の手を握ってきたのだ。

あの時は感情が追いつかなくて、素っ気なく返してしまった。

他人の体温というのはあれ程にも暖かいのだろうか…。


それとも、時尽ときつくが特別。

体温が高いのか…。


あわてたような表情の時尽ときつくも面白くて悪くない。」



────────



織山:心の声

《おやおや~…!これは、心境の変化ってやつだよね??

確実に、時尽ときつくって人。

長谷川はせがわさんに気があるよね??

じゃなきゃ、レディーの手を無断で触れるなんてこと……》




織山「ふふっ~、イイなぁ。こういうの……!」



逢沢N「ごろっ…と床に寝そべって、ノートを顔の上にあげる。

織山おりやまは、淡々とつづられているのにも関わらず、突然の色恋のような内容にニマニマと表情をゆるめた。」



──────


華來「師走しわす十六日。

何やら、隊員たちの動きが怪しい。

隊長である私に隠し事をしているのか。

これは問い詰めるべきだろうか…。


──驚かされた。

上層生じょうそうせいの会議から戻ってみれば、隊員の皆からクラッカーを鳴らされて。

一斉に おめでとう と言われた。

そうか。今日は私の誕生日だったか。


日々、奮起ふんきし続け。

自分の生まれた日なんか気にかけていなかった。プレゼントを貰った。手編みのマフラーだ。


丁寧に編まれていたり、そうじゃなかったり……

隊員の皆がそれぞれ編んでくれたのだろうか。

首に巻いてみれば、温かい。


大切にあつかっていこう。」



織山M《マフラーか~…。

陽炎のみんな、それぞれ持ってるしなー。てか、あたし。なにか編んだりすんの得意じゃないんだよなぁ…》




逢沢N「ノートをめくって、長谷川はせがわ 華來からいが過ごした時を辿たどっていく織山おりやま

ついに年明けの内容になり。

しかし、年明けても黒軍(くろぐん)内で起こる問題は続いていたようだ。」




華來「二〇六七年の睦月(むつき)二十三日。

つぐなえない。

失ってしまった者はかえってこない。

××も、△△も…どちらも、もう会えない……


私が殺したのと同じだ。

もう、今なら誰かに殺されてもいい。」



───────


織山:心の声

《誰かが、死んだんだ…。名前は消されてる…。

いったい、誰だったんだろ…。》


────────



華來「如月(きさらぎ)三日。

何やら、古張こばり 匡司きょうじに対する不穏な噂が出回っている。

白に寝返るだの。

今の参謀長さんぼうちょうを暗殺する計画をくわだてているだの。


確かに、裏のある男だとは思ってはいる。

しかし、あの冷淡で。

黒という組織の(いしずえ)のような男がわざわざ。

組織の崩壊になりそうなことをするのだろうか。

私の志にだって、武力衝突ぶりょくしょうとつをしているような男が。


何かが、おかしい。」



────────


織山:心の声

《自分の命をねらってきたような人に気をかけるの……?

ライバルとして認めてるってことなのかな……》


────────



華來「如月きさらぎ二十九日

長々と間をあけてしまった。

こうやって、この記録帳に向かう時間などなかったからだ。

この数日間であったことをしるすなら。


古張こばり 匡司きょうじ黒軍(くろぐん)の全部隊を敵に回したこと。

十人の同軍の学徒を人質にとって、孤軍奮闘こぐんふんとう

どういう訳か、私もその人質の一人だった。

私が古張こばり 匡司きょうじの立てこもる部屋へと連れられた時に、人質の数を瞬時に数えた。


そしたら、その人数だった。

捕えられそうな人材で十人なのか。

それともなにか意味があったのか。


水だけはあるのか、定期的にあたえられる。

二日間なら絶食でもごせるが、その倍になると意識も朦朧(もうろう)としていた。


どのくらいの時間が経った?

どれほどの日が過ぎた?


外からの怒号どごうと、

窓際に立つ古張こばり 匡司きょうじの姿。


それだけが、鮮明で。

その後の記憶はひどく曖昧あいまいだ。


結論から言うなら。

彼は打刀うちがたな特隊生(とくたいせい)ではあった。

けれど、一騎当千いっきとうせんの武力はなかった。

参謀長さんぼうちょうの頭脳による戦略にもしばらくはえていたようだが、のちに陥落かんらく


私やほかの人質は、すぐに救護班に保護ほごされた。

この監禁状態によって、外傷などはないが、精神面でむものが多かった。

六日間と半日。

この期間で、私は彼の存在を酷く意識した。けれど、そのあいだに覚えた感情はとても正常とは言い難く。

異常で片すのもしのびない。


──古張こばり 匡司きょうじは突入してきた同じ特隊生とくたいせいの学徒に身柄みがら拘束こうそくされた。


……彼は今、学園内のどこかにある牢獄ろうごくの中だ。」



────────


織山「…同じ軍の人を敵に回すってどんな気持ちだったんだろ……」


────────



華來「弥生(やよい)二日。

今日、部隊に復帰した。

部室に入った途端に後輩のサクラに抱きつかれて、腰を抜かすところだった。

皆に、それぞれ心配をかけてしまった。

私の姿を見れば、時尽ときつくがぼろぼろと涙を零したのは驚いた。

時尽ときつくは、簡単に泣くような男ではない。

だからこそ、意外で申し訳なさで胸がいっぱいになった。


私は何も言えず。それでも、時尽ときつくの肩に手を置いた。

すると、また泣き出して後輩たちにまでからかわれる始末だ。


こんな、平穏が続けばいいのに。」



────────


織山「平穏、か。あたしも何気なく過ごしてるけど…。

実戦が始まったら、みんな傷ついたりするんだよね。

……嫌だな、とか言ってみたり……」



柳戸N「ポツリとつぶやいて、次のページをめくると見開きで絵が描かれていた。

所属の隊員たちの似顔絵だろうか。

お世辞にも上手いとは言えないが、だいたいの特徴が見て取れた。」



織山:心の声

《これ、描いたのって長谷川さんなのかな…。結構、美術苦手??》



織山「──あれっ、終わりなのかな?五ページ分も空いてる。んー?……あ、何か書いてある。」



──────────



華來「皐月(さつき)の七日。晴天。

風の噂で古張こばり 匡司きょうじが死んだと聞いた。

しかし、誰も遺体を見たわけでもないので憶測が飛び交った。


退学者にほどこされる記憶操作で島から追放された、とか。

研究施設に送還そうかんされて実験体になっている、とか。


どれもこれも信ぴょう性がない。

そもそも、彼の死を誰しも信じていないようだ。

何せ、あの騒動を起こした理由が解明されていないからだ。


でも、私は聞かされた。

りにって、時尽ときつくからだ。

時尽ときつくと二人っきりで書類作成していた。

そしたら。

おもむろに古張こばり 匡司きょうじの死を話題にしてきたのだ。


信じられるか?

否、信じたくない。


私の中での彼の、時尽ときつく 雄栄ゆうえいの存在が揺らぐ瞬間だった。


──何故、君でなければいけなかったんだ?」



(間)



※逢沢か柳戸の役の人が読んでください。思ひ出帳には載っていない回想。



時尽『ぼくが殺したよ。

上の、参謀部さんぼうぶの命令でね。

きみは知らないだろうけどさ。

ぼくは、元々、暗部あんぶなわけだし。

場所を特定するのも朝飯前、あとは忍び込んで殺すだけ。


命じられたら、人形は動かなきゃいけない。


でも、本当に残念なやつだよね。

自分の初恋の相手の、オモカゲを自分の手で傷つけちゃったんだから。


同情?あわれみ?違うよ。

これは、軽蔑けいべつだよ』



(間)



逢沢N「二ヶ月も記載を飛ばした記録帳には淡々と記されていた。

一人の学徒の【死】を対価にわされた思いが書かれていた。」




織山「嘘…。あ、あれ?

なんだか、(かす)んで読めなっ……

(涙が溢れる)…ふぅぅ…、うぇっ…うぅぅ…!!」



(間)



SCENE④



柳戸「すっかり日が暮れちゃったよ。ほんと、容赦ないよね。おかげで、普段 使わない筋肉が悲鳴あげてる」



逢沢「とか言って、おまえも楽しんでいただろ?」



柳戸「まあ、楽しかったけどさぁ」



逢沢「お、ここが俺たちの新しい部室か」



柳戸「うん、そうだよ。やっぱ、部屋の大きさは狭くなっちゃったけど。窓から射す夕陽は綺麗だと思うんだよね」




華來N「部室の窓から夕陽が射し込み出す(とき)

廊下が話し声で騒がしくなり、三回のノックで扉が開かれた。」




柳戸「おりちゃんー、戻った……よぉぉぉ?!」



逢沢「おい、どした。って、何だこりゃ!ぬすでも入ったのか?!」



柳戸「うーん、と…。これはどういう状況?

たしか、僕。出て行く前に『片付けておいて』って お願いしたはずなんだけどな……?」



逢沢「いやぁ、逆によくここまでらかしたなー?(奥に進む)」



柳戸「んー、ひどい。

僕は、ちゃんとお願いしたはず。なんでか、動かした机は戻されてないし、壁には大きな穴が空いてるのかなぁ……」



逢沢「おい、柳戸やなぎと織山おりやまが倒れてるぞ!」



柳戸「えっ、本当。どういう状況?」



逢沢「外傷はないな。…というか。寝てるぞ」



柳戸「ね、寝てる?本当だ、寝てる……」



逢沢「爆睡だな…。掃除された様子がないから床は、お世辞にもキレイとは言えないが……」



柳戸「起こそう」



逢沢「お、おう。めずらしく本気(まじ)な声だな」



柳戸「当たり前でしょ。僕はやりっぱが一番嫌いなんだよ。……こら!おりちゃん、起きなさい!」




華來N「柳戸やなぎとはゆさゆさと織山おりやまの肩を揺する」



織山「うぅん……。(寝返りをして、むにゃむにゃ。)」



逢沢「おっ…」




逢沢:心の声

《スカートがめくれてて下着が見えそうで見えないが、寝ていると可愛いな……》



柳戸「……あ・い・ざ・わ。(黒く笑む)」


逢沢「ば、バカ者!起こすなら早く起こせ!(顔を背ける)」


柳戸「はいはい。言われなくても、ね!」


逢沢「なっ!おい、何する!?」




華來N「柳戸やなぎとは静かに手を上げて、振り下ろす。

ぺちぃん!!と音をたてて、織山おりやまのオデコを叩いた。

織山おりやまの瞳が大きく見開き、飛び起きた。

記録帳が床に落ちる。

飛び起きた織山おりやまを、逢沢あいざわもとっさにけた。」




織山「いったぁぁぁい!!」


柳戸「おはよう、おりちゃん。(威圧的に笑う)」



織山「あ、ありゃ?夕暮れ……、あ、柳戸やなぎとさん。……あたし、寝てた……?」



柳戸「うん、それはもうぐっすり、ね。」



織山「(サーッと青くなり)ご、ご、ごめんなさい!!」




逢沢「やれやれ、だな。

柳戸やなぎと織山おりやまのことを任せたからな。

……おーい、(ふじ)山路(やまじ)天童(てんどう)ー。一旦だな──(立ち去る)」



(間)



柳戸「うんうん。ちゃんと謝れて良い子だね。

それで、この状況に対しての言い訳があるなら訊いてあげるよ」



織山「えっと、あの…。」



華來N「『普段、優しい人を怒らしてはいけない。』

織山おりやまの中で今後の教訓となる言葉だ。

必死にかくかくしかじか…

ありきたりな割愛の仕方ではあるが、洗い(ざら)い話した。

柳戸やなぎとはただ静かに相槌あいづちを打った。」



織山「っていうことです……」



柳戸「そう。……はぁぁぁ……(長い溜息)」




織山「ひょえっ…」


織山:心の声

《ま、まだ怒ってるよね……。怖いー!!》




柳戸「あ、えっと。うん、おりちゃん、ヨシヨシ…(撫でる)」



織山「わわっ…。えっと…柳戸やなぎと、さん…?」



柳戸「あのね、おりちゃん。

いくら気になっても雑な壊し方をしてはダメだよ。わかったかい?」



織山「許してくれるんですか…?」



柳戸「まあね。おりちゃん自身も反省しているようだし。

あぁ。もちろん、先生たちには報告するけど」



織山「っ!柳戸やなぎとさん…!!」



柳戸「え。…どわぁ!!…な、何するのさ!突然、抱き着くなんて危ないだろ?!」



織山「後で、壁直すの手伝ってください!!道具とかは(かげ)の借りて!」



柳戸「えぇっ…?!僕、いいように使われてる…??」



織山「ねっ!!(満面の笑み)」



柳戸「あ、はい……」



逢沢「プッ、ハハハッ!まんまと流されたな~、柳戸やなぎと。おまえの負けだよ」



柳戸「ほんと、おりちゃんはずるいよぉ……」



織山「えー!あたし、なんも悪くないですよー!」



柳戸「あー、うん。まあ、いいや。ほら、僕からりておりちゃん。」



織山「あ、はーい。ごめんなさーい。(柳戸から離れる)」




逢沢「うーん?もう、終業時刻だな。……どうする?柳戸やなぎと。」




織山:心の声

《終業時刻!?…あちゃー、あたし。すっごい寝てたんだなぁ……》




柳戸「そうだね。

本当なら、今日のうちに終わりたかったけど無理だし。寮の夕食の時間もあるしなー」



逢沢「とりあえず。見回りの先生におしかりを受けない程度にかたすか?」



柳戸「うん、そうしようか。」




織山「おっけーです!よーし!頑張りましょー!

……!かげくん!(ふじ)

机戻すの手伝ってー!ちゃちゃっと終わらせちゃうぞ~!

あ、山路(やまじ)さんは、そこらへんにある箱を黒板側に動かしといてー!」




柳戸「(溜息)もう、おりちゃんはこういう時だけ調子がいいよなぁ」


逢沢「まっ、それが織山おりやまのムードメーカーたる所以ゆえんだろ?」


柳戸「まあ、そうだね」




華來N「織山おりやまは問題児でもあるが、ムードメーカーだ。

彼女の鶴の一声に周りが動かされる。

結ばれる絆は強い。

これが、黒軍(くろぐん)にある陽炎(かげろう)進撃しんげき小隊しょうたいの日常の一幕ひとまくである。」




(間)



SCENE⑤/エピローグ



柳戸N

陽炎小部隊かげろうしょうぶたい紅一点こういってん──織山おりやま けいが見つけた二冊のノート。

続きを見るかといたが、首を横に振ったので僕らで預かった。

そして、教員にことの顛末てんまつを報告する前に逢沢あいざわと内容を確認した。」



逢沢N「織山おりやま けいの言う通り。

橙色だいだいいろのノートは、日記帳ようで記録帳。

──つまりの【思ひ出帳】」




柳戸N

織山おりやま けい未読みどく薄水色うすみずいろのノート。

どうやら、橙色だいだいいろのノートの手記であった長谷川(はせがわ) 華來(からい)

彼女の後輩にあたる学徒がつづったものだと確認できた。」




逢沢N

橙色だいだいいろ古張(こばり)匡司(きょうじ)が死に。

薄水色が記していたのは、長谷川(はせがわ) 華來(からい)最期さいごと。

そして、その支持者とも言える青年・時尽(ときつく) 雄栄(ゆうえい)の死。


彼女が目指したこころざしは受けがれた…ということだった。


いったい、彼女と彼の死に様とはどんなのだったのか。

残念ながら はっきりとはしるされていなかった。」



柳戸N

「けれども、今は存在しない八桜(やおう)部隊が始めたこころざしは確実に受け継がれている。

その証拠に、僕たちの部隊には織山おりやま けいが居るのだから。

……その後は責任を持って、教員へと事のいきさつを報告し巾着袋ごとノートを渡した。」



逢沢N

「その巾着袋を見た津島(つしま)先生と南條(みなしの)先生。

俺たちの配属でもある進撃部隊しんげきぶたいの監督教官 二人のバツの悪そうで、どこか寂しげな驚いた顔は忘れられそうにない。」




(間)




織山「ホント。キレイな人だなぁ、長谷川(はせがわ)華來(からい)さん…。」




華來N「第二校舎の屋上で落下防止フェンスに寄りかかりながら、彼女はつぶやいた。

手にはあの巾着袋きんちゃくぶくろに入っていた写真立てを持っている。」




織山「あの時、とっさに柳戸やなぎとさんたちから隠しちゃったけど……イイよね?」




華來N「(がく)におさめられている黒髪の女子学徒の横顔。

その写真に見惚みほれ、とろけた眼差しで見つめる。

二枚の写真や写真立ての存在を知るのは織山おりやま (けい)

──彼女一人だけ。」





改版(あらためばん)】 幕間・参⇒思ひ出帳。 



おしまい


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ