【分割版】イバヤク(略)/後半部分
番外編 台本四本目/【分割版】後半部分です。
後半部分のみ上演時間/約65分程
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【演者サマ 各位】
・台本内に出てくる表記について
キャラ名の手前に M や N がでてきます。
Mはマインド。心の声セリフです。 《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。
Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。
・ルビについて
キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。
場合によっては、振り直していないこともあります。
(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)
それでは、はじまります。
ようこそ、三津学の番外編 台本の世界へ
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☆本編
▼それから、ひと月半が経過した五月 中頃。
お昼休み開始してから一〇分がすぎた時刻に、食堂へやって来た墓守。
お昼として『かき揚げ えび天 お揚げのせうどん』を白いトレーにのせて、座れそうな席を探していた。
墓守M《おや、あの後ろ姿は……》
▼食堂に三つあるカウンター席の中で、中央の出入り口に近いカウンター席。そこに座っているくすんだ深緑色の軍服を来た男──まあ、小埜路 禅治なのだが──が目についた墓守。
墓守「《とても、お疲れのようだ。周りの人も、両隣りの席を空けてまで空気に当てられたくないと……まあ、ワタシなら気にしませんがね。》……お隣、失礼しますよ」
小埜路「……ああ、どうぞ」
▼隣に座って来た相手などチラ見どころか、気にする素振りもなく応えた小埜路。顔の右半分を、片手で覆って中身をたいらげたカラの丼に視線を落としているようだ。
着席してから墓守は、小埜路に声をかけることもせず。合掌してから昼飯のうどんを口にした。
小埜路「……そろそろ行かなくては……」
▼墓守が中身をたいらげて、ダシのきいたつゆを堪能しているときだ。そう呟いて、小埜路は立ち上がった。
墓守「……行かれるのですか?」
小埜路「ん?え、ああ……誰かと思ったら、貴官か」
墓守「ええ、ワタシですよ。ひと月ぶりですねぇ、小埜路 補佐官」
小埜路「ああ、そうだな」
墓守「あの、だいぶ顔色が優れないようですが?」
小埜路「うん?そうだろうか」
墓守「ええ。今から、人ひとりでも殺しに行くかのような顔つきですねぇ」
▼小埜路は、目を瞬く。
墓守による渾身のジョークなのだが、この人が言うと妙な現実味を帯びる。
墓守「あのー、冗談なのですが?」
小埜路「えっ、ああ。すまん」
墓守「(少し考えてから)……小埜路 補佐官。アナタの、昼休憩の残り時間と午後のお務めの少しをお借りしたいのですが」
小埜路「私を?なぜだ?」
墓守「まあ、そんな顔をされてますと。周りも変に気を使うと思いますから」
▼墓守の思考は、それなりにしっかりしている。それもそのはずだ。ひとり分の人生を投げて、今の墓守があるのだから。
小埜路は、頷くしかなかった。相手の眼差しに負けたとも言える。
(間)
◇共同使用棟 三階フロアの休憩スペース
▼昼飯のあと、墓守の後ろをただ着いて来た小埜路。
ここは、共同棟の三階フロアの休憩スペースだ。
墓守が壁へ固定で備え付けてある木製のベンチに座った。小埜路も続くように隣に座る。
小埜路M《時間を貸してほしいと言われたが…素直に着いてきてよかったのだろうか…。……まあ、今更か。…今の私は、余程。疲れているようだ……》
▼沈黙が流れる。
墓守は、何も言わず自分のしたいことをしていて、カチャカチャと右脚の義足を外しているのだ。
小埜路M《人前で義足や義手を見せるのは恥ずかしいことだったのではないのか…?私は、この状況を突っ込んだほうがいいのだろうか……》
▼小埜路は、ただ悶々と思考をめぐらせた。
すると、二人が居る休憩スペースから少し離れた所から話し声が聞こえてきた。廊下の作りのせいで、全て筒抜けだ。
下士官A「なあ、最近の小埜路さん。ヤバくないか?」
下士官B「いやぁ、ヤバいってもんじゃないって。あんな疲れた顔をしてんの年度末の時くらいだよ。いや、年度末の時より酷いね」
下士官A「だよな。自分も、心配だよ」
下士官B「少佐ってさ。下士官の自分らより早く出勤してて、帰寮もほぼ最後だし、朝も早くからジョギングと刀の手入れだろ?……いつ寝てんだろうな」
下士官A「ほんと、少しでも休んでほしいのにさ。仕事が早いから手伝うことも出来ん。……つーかさ。あの人、非番の日とか素振りの稽古してる姿しか見ないよな。まじで、武人って感じだし。下手なこと言えなくてさ」
下士官B「わかるわー。職務中のときも、声かけられて受け答えするだけでも緊張するよな。だから私用の話なんて、尚更。話題にできないよ」
下士官A「本当になぁ」
下士官B「でも、どうにか。あの眉間にシワが割り増しで、恐いオーラが治まってくれればなぁ?」
下士官A「それな。つーか、小埜路さんって酒好きかな」
下士官B「あー、どうなんだろう。呑んでる姿は見たことあるけど、酔ってる姿とか見たことないな」
下士官A「そうなんだよ。だいたい、宴会があっても介抱役だしさ」
下士官B「うーん、あ!今度さ。守衛部隊の奴らも誘って、呑み会でも開こうや」
下士官A「おー、いいねぇ!そしたら、自分ら下士官にも小埜路さんは隙を見せてくれるかもな!」
下士官B「オマエのつぐ酒で、小埜路 少佐が隙を見せるとは思わねーよ。調子のんな!」
下士官A「おいおい、いいだろー?釣れないこと言うなよ!」
下士官B「釣れなくないだろー?まあ、なんだ。呑んで騒ぎたい気持ちは同じだし、大隊長さん達と交流したいし。……よし、そうと決まれば?」
下士官A「有言実行っ!!」
▼いぇーい。
ハイタッチの音が響いて、同時に歩き出す音も聞こえた。休憩スペースから遠のいて行く足音の方向からして室内訓練所を使う予定だったのだろう。
丸聞こえだった話に、小埜路が腰に差している得物へ手を添える。
小埜路「……あーいーつーらぁぁぁ!」
墓守「あー、ストップ。ストップ。何を抜刀しようとされてるんです?落ち着いてくださいな」
小埜路「離してくれっ、私には追いかける権利があるっ!」
墓守「ストップですってば。……でも、良かったですねぇー。補佐官は、部下に愛されてるようで」
小埜路「(タメ息)弛んでいる。昼から酒の話とは!これは、いま一度、鍛え直しを……いや、待てよ。まだ昼休憩だから良いのか……?」
墓守「プッ!ふふふ、あはははっ…」
小埜路「おい、なぜ貴官が笑うのだ」
墓守「いえ、だって…ふふっ…仕事の鬼すぎてっ…」
▼口元を手で覆い隠しつつも、肩を震わせて笑う墓守に小埜路は、とても不服そうにしかめっ面をした。
墓守「は〜〜…今だけで一日分の笑いを、ふふっ…」
小埜路「笑いすぎじゃないか?」
墓守「ああ、失礼。でも、そうですねぇ…」
小埜路「ん?なんだ。私の顔をジロジロと」
▼何かを企むような、イタズラを思いついた幼子のような表情をして墓守が小埜路を見つめてくる。
すわりが悪いのか、小埜路が後ずさろうと手を後ろについた。すると──
墓守「えいっ」
小埜路「えっ、わわっ…!ぐっ……
《硬い。鍛えられた脚だな…》……おい。あんた、これはいったい??」
墓守「なにって、膝枕ですよぉ?まあ、ワタシ。膝から下がないですけども〜」
小埜路「……笑えん冗談だ。だが、どうして私を引っ張って膝に頭を乗せた?」
墓守「どうしてって、アナタの部下も話されてたでしょ?」
小埜路「……いつ、休んでいるのか分からない?」
墓守「ええ、そうです。だから、このアナタから借りた残り一時間と少しの分だけは、お休みくださいな。あ、ついでに上着を脱いじゃいましょう」
▼軍帽もね。
墓守による突飛な行動に突っ込む気も失せた小埜路。
されるがままに、階級の証明でもある上着を脱がされ、中着のシャツの第一ボタンも外され、オマケに軍帽を顔に乗せられた。
疲労が溜まっている小埜路は、口では何となしに否定しつつも、抗う気も起きないようだ。
小埜路M《普段なら、こんなマイペースさにイライラして仕方ないが……なんか、今なら気を緩めても問題ない気がするのは、なぜだろう……》
墓守「さて、これでカモフラージュは完璧ですねぇ」
小埜路「……おい、軍帽を顔に乗せる意味はあるのか?というか、むしろ顔が覆われて息がしにくいのだが」
墓守「おや、お気に召しませんでしたか?でしたら、ワタシのアイマスクをお貸ししましょう」
小埜路「なぜ、そんなものを持ち歩いている」
墓守「ふふふ、ワタシの行動や行為へ律儀に突っ込まれてると疲れますよ〜」
小埜路「それもそうか(軍帽を置き、アイマスクをつける)」
墓守「あら、素直ですねぇー」
▼墓守のお腹のほうへ顔を向ける姿勢になるよう寝返りを打つ。
小埜路「なあ、あんた。なにか、話でもしてくれ。私が落ちるまで」
墓守「ええ、喜んで。では、この前の『雑務部の話』をしましょうかねぇ」
▼墓守の指先が、小埜路の髪を優しく梳いた。
(間)
墓守N「学園の記録が覗ける補佐官ならご存知でしょうが。
張 懍珪は『奪魂鬼』と呼ばれていた時分がありました。
親から名付けられた名前が同軍や他軍の学徒から呼ばれることはなく。ただ、オマエやらアンタやら。
……まあ、だいたいが『奪魂鬼』と呼んできました。
そんな『奪魂鬼』は 命じられたことなら何でもやる という反抗的な面などない学徒で。その時分の指令してくる者の言う事を何でも実行してきました。ゆえに、積もりに積もって反感を買っていたのです。
そして、二年生の秋──『奪魂鬼』は見限られたのです。元より、他人に執着をするような質ではありません。
ありませんが、少しばかり胸が痛むのです。
痛む胸をどうにか、治そうと躍起になります。
ですが、一度。手の離された狗を拾うような学徒は身近に存在しませんでした。
そのまま、フラフラとフラフラとしていた 名無しの狗 に『復讐』『仇討ち』と称した暴力が振るわれます。
もちろん、抵抗をしました。できる限りの暗器を用いて抵抗します。ですが、多勢に無勢。数の暴力に敵うはずもなく。
戦闘の昂奮が解けた途端に動けなくなり。名無しの狗は……」
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〈過去の話②〉
▼時は遡り、二〇六三年の初冬。
ピッピッピッピッ…規則正しい電子音と呼吸器の音。
懍珪は、真っ白なベッドの上で横たわっている。同軍の中で起こった派閥争いの『実戦』で、重傷を負ったからだ。発見と処置が早かったお陰で命に別状はない。だが。もし、目を覚ましたところで……といった具合に凄惨な見た目になっている。
軍医「……もうココに来て二ヶ月。意識どころか、眠ったまま。もしかしたら、このままかもしれないね……」
(間)
▼そして、年越しまであと幾日とした師走。
相変わずの規則正しい電子音と呼吸器の音。
だが、懍珪の閉じられていたまぶたがゆっくりと開いた。その光景を目の当たりにした夜勤担当の軍医補佐生は、即座に軍医を呼びに走った。
軍医「張 懍珪くん、目が覚めたのだね」
▼ベッドの柵越しに軍医が声をかける。
懍珪は、コクッ…と頷いた。補佐生が、軍医に書類の挟まっているバインダーを手渡す。
軍医「それじゃあ、説明と質問をさせてもらうよ。きみは、黒の中で起こった内乱に乗じて暴行を受けた。間違いないね?」
▼元より懍珪の性質上、覚えていないことのほうが多い。
だが、事実確認は必要なことなのだろう。いくつかの問答を交わし、軍医がバインダーを補佐生に渡す。
そして、軍医は懍珪に告げる。
軍医「張 懍珪くん、まだ薬が抜けていないから感覚は鈍いと思う。今から、話すことは事実だ。
……きみは大切なものを失ってしまった。片腕と両脚の膝から下の部分だ。我々、軍医がもっとも優先すべきものは患者の命。きみに、生きていく気力がなくても救わなくてはならない。それは、どんなに優秀であろうとなかろうと医者である限り、変わらない心情なんだ」
軍医「理解してほしい」
▼軍医が、真剣な眼差しで告げれば懍珪の目が潤む。
懍珪は、目を静かに閉じてホロホロ…と涙を溢れさせる。
軍医は、やはり、受け入れられなかったか…と懍珪の泣き顔を見て、少しだけ嘆息した。だが、傍らに控えている補佐生には違って見えた。懍珪の涙に『ヨロコビ』を感じとったのだ。
(間)
▼目を覚ましてから三日後。
呼吸器が懍珪から外されたが、まだリハビリの課程にはうつれていない。
一応、この学園のシステムとして。四肢のどこかを欠損した学徒には義手や義足が贈られる。
懍珪M《……何も、ない。利き腕、なくなっちゃった……脚もどっちもなくなっちゃった……。なんか、変だ。布団の中、何もないの変なの……。変なのは、ボクのほうだ……。ボクが、いっぱい、たくさんの人を傷つけたから、もう傷つけられないようにカミサマが持って帰っちゃったんだ……。だから、ボクはもう……。》
▼何もすることもないので、ただ天井を見つめる懍珪。そのとき、個室の自動ドアが開く。
やって来たのは、学ランに白衣の学徒。懍珪が目覚めてから担当になった薬藤ツヅミ。軍医補佐生だ。
ヤクドー「懍珪ー、起きてるかー?カラダを拭く時間だぞー」
懍珪「ヤクドー」
ヤクドー「ほら、ベッド起こすからじっとしててなー。よし、次は服の前をひらいて。胸と首元から拭いていくからな」
懍珪「……ヤクドー」
ヤクドー「なんだー?」
懍珪「ボク、腕と脚はどうすればいい……?」
ヤクドー「そうだなぁ、技術部が製作に当たってくれてるけど時間はかかるだろうね。何せ、作ったからって関節に合うように調整したりするし」
懍珪「そっか……そうだよね……」
ヤクドー「心配するなって。この島の技術部は優秀らしいし、ちゃんとしたのができるよ。んで、カラダ拭くだけじゃなくて風呂も入れるようになるからさ」
懍珪「うん、お風呂……入りたい……」
ヤクドー「よし、気をしっかりな。……次、背中を拭くからなカラダの向きを──」
懍珪「ヤクドー、ごめんね」
ヤクドー「どうした、謝ったりして(手の動きを止める)」
懍珪「……ボク、人殺した。『たくさん殺した』。たぶん、そのなかにヤクドーの『大切な人』…いた……」
ヤクドー「誰から、そんなの聞いたんだ?」
懍珪「ここ、掃除にきてくれる人……」
ヤクドーM《あいつらァ、患者の前で余計な話を!ぜってぇ、とっちめてやる》
懍珪「だから、ごめん……、ごめんなさい……」
ヤクドー「懍珪。こっち向け」
懍珪「うーん、うーん。ヤクドー、ゆるしてくれない。顔みれない」
ヤクドー「いいから、俺を見な」
懍珪「ヤクドー…?」
ヤクドー「(困ったように笑う)……たしかに。俺は、暗部の『奪魂鬼』に妹を殺されたよ。妹は、この島を抜け出して普通に本土で暮らす女の子になりたいって言ってた。そして、逃げ出した。
《妹は、可哀想なやつだ。行く場所がないから、この島に来たのに、耐えられなかった……。》
運が悪かったんだ。一緒に逃げ出すことを選んだ相手もな。でも、『奪魂鬼』は死んだんだ。手綱がちぎれたことで。
だから、オマエはただの懍珪だ」
懍珪「ボク……?」
ヤクドー「そうだ。恨みつらみで、人が救えるもんか。妹を殺されたのを理由に恨んでたら、オマエが眠ってる間に毒を盛ってる。それをしなかった」
懍珪「寝てて、毒殺なら痛くないね…。どうして…しなかったの…?」
ヤクドー「どうしてって?
そんなの、オマエが、小さかったからだ。年齢こそ俺と変わらない…とは思う。
けど、処置のために覆面を外した途端に思った。
ああ、コイツは小さいって。自分の意思なんてなかったんだろうなって。……オマエの目が覚めてからさ。短い時間だけど言葉を交わしてきたろ?それで、気づいたんだ。こんな空っぽな人間を恨んでどうするって。恨んだって虚しいだけだろうって」
懍珪「ボク、ちいさい?からっぽ?」
ヤクドー「おう、小さいよ。これから、いろんなことを知って、培うことで成長して大きくなれ。その整った顔もさ。ちゃんと手入れしたら、もっと見栄え良くなるぜ?」
懍珪「みばえよく…。ねぇ…ヤクドー、ダッコンキはキミにゆるされたいの…。だから、ゆるして。ボクとダッコンキを、ゆるして」
ヤクドー「ははっ、おう。……俺はオマエを許すよ。懍珪」
▼薬藤の声音は、懍珪の心に温もりを生み出した。そして、流れるような動作で薬品で荒れた指先が懍珪の短く刈り上げられた髪を撫でる。
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◇現代(2080年)──共同使用棟 3階フロアの休憩スペース
▼激務と心労が祟って、人相が悪くなった総司令長の補佐官である小埜路を気遣い──いや、マイペースで圧倒して──仮眠の膝枕役を買って出た墓守。
墓守「……それから、張 懍珪の学園での新しい過ごし方が始まったのです」
小埜路「たしか。学園の創設当時は、欠損部分を補う機器……いや、義手や義足に慣れるまでは学園に滞在して良い決まりだったな」
墓守「ええ、そうです。だから、懍珪も最初こそ痛みに耐えきれずに、癇癪を起こしてヤクドーに八つ当たりしたものです」
小埜路M《義手や義足か…。前線を知らない私は、お陰で五体満足だ。それが、生身ではない作り物での生活…。想像の域を出ないな…》
墓守「補佐官。そろそろ、話をやめて静かにしましょうか?」
小埜路「いや、やめないでくれ。……貴官の声は何だか、落ち着いて聞いて居られる。私は横になって目をつぶっているだけでも楽になれるからな」
墓守「そうですか。わかりました。……あ、ちょっと水分補給をしたいので離席しても?」
小埜路「む?ああ、そうか。すまん。貴官の脚の上だったな。つい、声と同じく馴染んでしまった」
墓守「あぁ、起きられなくても結構ですよぉ?」
小埜路「いや、痺れてしまったのだろう?人ひとりの頭だから重かったろ、すまんかったな」
墓守「はは〜、さすが目敏いですねぇ」
▼小埜路はカラダを起こし、アイマスクをベンチの座面へ置いて立ち上がる。そして、休憩スペースに設置してある自販機の前に立つ。
小埜路「なにがいい?世話になってる礼だ」
墓守「では、ブラックコ(ーヒー)」
小埜路「(被せて)カフェオレだな。貴官、ニガいのは苦手なのだろ?」
墓守「おや、もう覚えられたのですか」
小埜路「さすがにな。貴官が生い立ちの話をしているときに、コーヒーに砂糖と粉ミルクの瓶で味を変えていただろ?」
墓守「ふふふ…さすがですねぇ。……本当は、見栄ですよ。三十路もこえた大人がブラックコーヒーが苦手とは言えないもので」
小埜路「別に、いくつになろうと好き嫌いはあるだろ。……なぜ、ブラックコーヒーを飲もうとする?」
墓守「……ただ、慣れようとしているだけですよ」
小埜路「そうか。ほら、まずは水を飲んでから甘いのをとったほうがいい」
墓守「おや、水まで。ありがとうございます」
▼小埜路は、墓守から拳ひとつ分だけ離れて座る。
さすがに二度寝をする気になれないのか、アイマスクも墓守へ返した。そして、焙じ茶の缶をあおる。
小埜路「思ったのだが、話にでてきたヤクドーというのは黒軍にいる駐在軍医の……」
墓守「ええ、あってます。ヤクドーは、黒の軍医をされてる薬藤ツヅミ中佐です」
小埜路「だが、貴官と薬藤中佐は……」
墓守「はい、知ってのとおり。ワタシと薬藤軍医は仲違いをしています。……というより、ワタシが一方的に避けているのです。お恥ずかしい話。過去に何より囚われてるのはワタシのほうだ」
小埜路「……なぜ、仲違いをしたのか訊いてもいいか」
墓守「構いませんよ。……言ってしまうなら。
ヤクドーは、ワタシにとっての太陽だったのですよ」
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〈過去の話③〉
▼二〇六四年の如月。
懍珪は傷も癒えた時点で、病棟を退院した。
その後は、欠損部分を補う機具に慣れるリハビリで、どんなに拗ねようと怒り散らそうと受け止めてくれる薬藤が傍に居た。そんな、無償で与えられる 温もり に最初こそ戸惑い。意味がわからないと喚き散らすこともままあった。
だが、互いに時間を共にすることで懍珪から心を開いていった。
ヤクドー「知っているか、懍珪」
懍珪「なに?」
ヤクドー「俺と、懍珪が仲良いのが羨ましいと思う奴らがいるそうだ」
懍珪「……なんでかな」
ヤクドー「なんでだろうな」
懍珪「でも、ボクはヤクドーと居られて、うれしいよ?」
ヤクドー「ははっ、俺もさ」
◇とある日/野外 訓練場
ヤクドー「懍珪!俺のとこまで走ってみろっ!」
懍珪「はいっ…!……ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!はっえっ、わぁっ!!」
ヤクドー「おっとっと!(懍珪を受け止めて)ははっ、こけちまったな。まあ、でも走って来れたしな。エラいぞ。(撫でる)」
懍珪「うゆっ……えへへっ…」
ヤクドー「よし、あと歩行訓練を三セットしたら、指先の訓練に戻るぞ」
懍珪「はいっ」
▼懍珪が退院してからは、薬藤の日程が空いてる日や時間に二人きりでリハビリを続けている。
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墓守N「懍珪とヤクドーは、実のキョウダイに見間違えるほどに仲良くなりました。ヤクドーが時間の合う日には必ずと言って、懍珪のリハビリの補助役を買って出たのも仲良くなる理由の一つでした。時間が二人を近づけさせたのです。
ですが、懍珪のリハビリ課程の残り数が少なくなっていく度に。
懍珪が駄々を捏ねたり、癇癪を起こすことが増えていきました。そして、ヤクドーもリハビリの残り数が少なくなっていくと態度が変わっていきました。暗い表情をして、タメ息が増え、どこか上の空なことが多くなりました。
さすがに、他者への興味が薄い懍珪でも気が付きます。
ついに、訊ねました。ヤクドーと過ごせるリハビリの課程が残り五回となった頃合いにです。
どうしたのかと、なにか隠しているのかと。
休憩がてらベンチに二人で腰をかけて、他愛ない話をしている流れで訊ねました。ヤクドーが、何かを困ったような表情で懍珪の肩まで伸びた髪に触れて、言うのです。」
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〈過去の話④〉
ヤクドー「なあ、懍珪。もし、もしな。この島に残れるといったらどうする?……もちろん、オマエが望むならだ」
懍珪「この島に、いたら、ヤクドーはいてくれる?」
ヤクドー「……いや。俺は一度、離れなきゃ行けない。ただ、この島に戻って来たときに、知り合いが居ないんじゃつまらないとは思う」
懍珪「《つまらない…それは、さびしい…。》
……じゃあ、ボクは残るよ。ヤクドーが島に帰ってきたときに、真っ先に オカエリ って言ってあげたいから」
ヤクドー「懍珪…。でも、いつになるか分からないぞ?」
懍珪「いいよ、それでも。ボク、どうせ島を出ても本土に居場所なんてない。オカエリって言ってくれる人なんていない」
ヤクドー「ハハッ…!オマエには、敵わないなぁ…」
懍珪「えっ?なにが?」
ヤクドー「何でもないさ。……よし!じゃあ、残りのリハビリは真面目にやろうな。本当にキツくなったら駄々を捏ねたっていい」
懍珪「それは、ごめんなさい…。
リハビリが終わったら、島から出なきゃ行けなかったから…。そうしたら、ヤクドーとも会えなくなちゃうのイヤだったから…」
ヤクドー「俺もさ。
この島にオマエが残るって言わなきゃ軍医からの頼み事は忘れるつもりだったんだ」
懍珪「頼みごとってなーに?」
ヤクドー「懍珪。オマエが、この島に残る条件。それは……」
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墓守N「『実戦』への復帰が困難と判断された学徒には、退学の二文字しか選択がありません。そして、懍珪もリハビリの課程が修了したら、島から出なきゃ行けない。それが、通例でした。
ヤクドーは、ヤクドーで悩んでいました。
ヤクドーは第一期生でありつつも、入学の時点で年齢が高かった為に救護班からすぐに軍医補佐生としての職務を行ってきました。つまり、高等部の課程が修了後。二〇六四年の卯月には島から離れることが決まっていたのです。
彼の悩みは至極、簡単でした。
手放すにしては、自立精神がまだ低すぎる懍珪を見放せない。
そんなヤクドーの悩みを理解した当時の軍医は、頼み事をしたのです。
当時の軍医からの頼み事を、ヤクドーは懍珪に島へ永住する条件として教えました。それが『雑務部』の前身となる集まりなのです。
基礎となる土台を作ることが大変でした。
周囲からの偏見と抑圧に耐えなきゃいけない日々に心が折れそうでした。ですが、ヤクドーが島を離れる日に約束したのです」
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懍珪「やだっ、やだよっ……ヤクドー…!」
ヤクドー「泣くな、懍珪。オマエに泣かれると決心が鈍るだろ?」
懍珪「でも、やっぱり!ボク、ヤクドーとはなれたくないっ!」
ヤクドー「懍珪……」
懍珪「いかないでっ…ヤクドー…」
ヤクドー「懍珪、約束してくれただろ?俺が戻ってきたときに、迎えてくれるって。」
懍珪「うぅ……そうだよ…。約束、した…」
ヤクドー「だろ?だから、泣くな。せっかくの美人が台無しだ」
懍珪「ヤクドー……ギューして」
ヤクドー「おう。いくらでもしてやる。ほら、おいで」
懍珪「うんっ」
ヤクドー「なあ、懍珪。俺、ちゃんと戻ってくる。戻ってくるからさ。そんときには、オマエが立派になっている姿を見せてくれ。
そんで、オカエリって言ってくれるんだろ?なあ、懍珪」
懍珪「うんっ、うん…!ちゃんと、言う!だからっ!」
ヤクドー「おう」
懍珪「いまは、いってらっしゃい…!」
ヤクドー「ははっ、ありがとう。……行ってくる」
▼薬藤の大きな掌が、懍珪の頭をぐわしっぐわしっ…と少しだけ乱暴に撫でた。懍珪の涙が止まって、精一杯の笑みへ変わっていた。
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墓守N「太陽を思わせる眩しい笑顔。
ヤクドーとの日々を思い出すだけで、心が 温もり に溢れて、折れずに済みました。
周囲に『雑務』を担当するものの必要性を理解させるのに、二年の歳月を要しました。ですが、そんな辛い日々があったからこそ、今の『雑務部』があるのです。
本土に居場所がない、帰る場所なんてない。『実戦』への復帰が不可能とされた者たちの終着点。それが『雑務部』です」
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〈過去の話⑤〉
▼薬藤ツヅミが、島を離れてから六年目。
二〇七〇年の卯月。
懍珪を 懍珪 と呼ぶものは、居なくなっており『墓石彫りの人』『火葬担当』『棺運びさん』などと呼ばれており。
いつしか 墓を作っているし、手入れしてくれているから墓守先生 と呼ぼう。そう、誰かが言い出したことをきっかけに。
墓守は、墓守と呼ばれるようになっていた。次第に、教職としての籍と管理職としての立場も手に入れ。
技術者として認められた墓守の階級は大尉になっていた。そんな桜が舞う時季。
下士官C「なあ、聞いたか?」
下士官D「聞いた。『イワテ戦線の英雄』と謳われた軍医が、黒軍の常駐軍医として着任するんだろ」
下士官C「そうそう。軍医にしては、傷持ちだけど。あれこそ、男の証。えっと……たしか、名前が薬藤ツヅミ中佐……」
墓守「本当ですか!!」
下士官D「うわっ、墓守先生っ」
下士官C「墓守先生。薬藤ツヅミ中佐と、お知り合いなのですか?」
墓守「ええ!その話が本当なら、ワタシの旧知の人だと思うのです!」
下士官D「ああ、それはめでたい」
下士官C「薬藤ツヅミ中佐は、正門広場の管理棟で手続きを受けているかと思われますよ?」
墓守「わかりました!ありがとうございます!(走り去る)」
下士官C「はぇー…すっげぇ…。あんな嬉しそうな墓守先生は、初めて見た」
下士官D「ああ。愛想笑いじゃないと尚更、別嬪なのが分かるな」
▼墓守は、走って走って正門広場へ辿り着く。
そして、辺りを見渡す。
お目当ての相手は、すぐに見つかった。満開に咲き誇る桜の大木の下。別れた日より落ち着いた雰囲気を纏って頬に、大きめな縦傷を残した薬藤がタバコを吸いながら立っていた。
墓守「あっ……!ヤクドー!ヤクドー、おかえりっ!!」
▼嬉しさの余り、走り寄る墓守。
走って、勢いを持ったまま薬藤へ抱きついたのだ。
満面の笑みで、薬藤の見上げる墓守。だが……
ヤクドウ「はっ?おい、なんだよ。離れろ。(墓守を押し退ける)」
墓守「えっ……?」
ヤクドウ「え、じゃないだろ。オマエ、誰だよ」
墓守「や、ヤクドー?なんの、冗談だ?」
ヤクドウ「冗談ってなんだよ。オマエ、ここの教職か?何なんだ、その態度。初対面に向かってす──」
▼乾いた音が正門広場に響く。
墓守は、唇を噛み締めて強く、強く思いを込めた平手打ちをお見舞した。
ヤクドウ「オマエッ!何してくれんだっ!!」
墓守「何してくれんだってのは、ワタシのセリフだ!!なに、忘れてんだよっ!!人が、どれほど待ちわびてたかっ!!」
ヤクドウ「待ちわびてたって……」
▼口の端から血を流しながら薬藤は、目を白黒させる。墓守も、泣いたら負けだと分かっている。
分かっているからこそ、声を張り上げて胸の内を告げる。
墓守「待っていたのだ…。ワタシは、待っていたのですよ…。ヤクドー…!」
ヤクドウ「(ため息)オマエ。大丈夫か?記憶が混合しているなら、相談にのるぞ?」
墓守「ッ!?このっ、ヤクドーの大馬鹿モノっ!!(腹部へ膝蹴り)」
ヤクドウ「ァガッ……!」
墓守「約束した相手に向かって、いうことがそれか!!十年経ったら昔のことだと笑えるさ!けど、まだ六年だ!それでも、六年待った!あの約束を忘れるような薄情者は!この島から出てけっ!!……このっ!肺が、まっくろくろすけ!!」
ヤクドウ「あ、待てっ…オマエッ、顔っ、覚えたからなっ!」
▼墓守は、子供じみた捨て台詞を残して走り去った。
墓守にとって、最悪な再会であったし。薬藤にとって、初対面のやつに向かって、なんて狼藉を働くやつだ…という食い違い。
このあと、桜の大木の下で、動けなくなっている薬藤を構内巡回していた下士官たちが見つけ、助けられたとか。
墓守の薬藤に対する暴力行為は、赴任早々の騒ぎとして一時期、学園内で話題だったのは言うまでもない。
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◇現代(2080年)──共同使用棟 3階フロア
▼休憩スペースで、時間を共にしている墓守と小埜路。
小埜路は、墓守から打ち明けられた過去の話になんとも言えない感情に襲われ、焙じ茶をすすり飲んだ。
墓守「と、まあ。ワタシも、若かったですから」
小埜路「ああ、まあ。そうだな。どちらが悪いとも言えない話だったな」
墓守「ええ、そうなんです。だって、薬藤軍医は、故意に忘れたわけではなくて不慮だったのですから」
小埜路「……不慮ね。たしか、私が見た記録だと。
『乗艦中に防衛行動開始、迅速な行動で負傷者を救助するものの、飛来物に接触、脳に深刻なダメージを受けた』……だったよな?」
墓守「よくご存知ですね。正解です。
……だから、その事実を知ったあと、すぐに謝りに行こうとしたのですよ。ですが、薬藤は あんな乱暴者の謝罪なんかいるか! と怒鳴ってて」
小埜路「あー…、発言が荒々しいな…。薬藤中佐もお若かったんだな……」
墓守「ワタシも、ヤクドーが拗ねたら面倒なタイプだと理解していた分、もう潮時なのだろうと察して……それっきりですねぇ」
小埜路「でも、たしか。ここ一年半の間で、薬藤中佐のほうからアクションがあったのだろう?」
墓守「補佐官。あれは、アクションなのではなくて、ストーカー行為というのですよ。そして、軍務の妨害です」
小埜路「あー、そうか。すまん。そんな、あからさまに嫌な顔をするとは思っていなかった」
墓守「……一度、ケジメをつけたからには、ワタシとしては薬藤軍医と仲良くする必要もないのですよ。彼の、記憶が戻ったにせよ、戻ってないにせよ」
小埜路「墓守大尉…」
墓守「さあ!しんみりしてしまいました!暗い話はここまでとしましょう」
小埜路「ああ。貴重な話をありがとうな」
墓守「いいえ。ワタシも、お時間をお借りできてよかったですよ」
▼墓守は、ニコッ…と微笑んで右足に義足をつけ直す作業に入る。小埜路も、缶に残っている焙じ茶を飲みきった。
小埜路「……よしっ、午後の職務に戻るかなっ」
墓守「ふふふ、少しだけですが。目つきがよくなってますよ」
小埜路「おお、そうか。墓守大尉、世話になった」
墓守「いいえ。お気になさらず。……あ、そういえば」
小埜路「ん?なんだ」
墓守「小埜路補佐官が、お昼に食べれてた丼って……」
小埜路「ああ、あれか?あれは、大食いの奴らには大人気メニューの『特盛!トントン豚丼』だ」
墓守「トントン豚丼?」
小埜路「おう。豚肉のステーキ焼きのトンテキ、玉ねぎと豚肉のしょうが焼き、卵とじにされた豚カツの豚肉を使った三品を贅沢に乗せた丼だ」
墓守「oh……、内容を聞いただけなのに胃もたれが…」
小埜路「む?食わず嫌いは感心しないな」
墓守「ワタシ、やっぱりウドンでことが足りますね」
小埜路「そうか。まあ、また時間が合うときにでも相席をしてくれ」
墓守「ええ、それはワタシのほうからもお願いします」
小埜路「ああ、それじゃあ。またな」
墓守「はい、また。いずれ」
▼墓守の優しげな笑みに見送られて、小埜路から休憩スペースを立ち去って行った。
墓守は、まだ義足のつけ直しが終わっていないのかベンチに再び座った。
墓守「ふふふ、若々しいですねぇ…補佐官は…」
薬藤「よう、随分と補佐官クンと仲睦まじかったな」
墓守「なっ……、薬藤軍医…。……失礼。ワタシは、このへんで──」
薬藤「おっと、逃げんなよ」
墓守「逃げる?誰がですか(キッ…と睨む)」
薬藤「《美人が睨んできても、見栄えがいいだけなんだよな》……逃げるってのは語弊だったな」
墓守「薬藤軍医。アナタ、何をおっしゃりたいのですか?」
薬藤「何でもねーよ。……つーかよ。別に、オマエを取って食おうなんざ思っちゃいねーわ。ちょっとくらい相席させろ」
墓守「(タメ息)わざわざ、共同棟の休憩スペースにいらっしゃるとは。余程、暇なんですねぇ?」
薬藤「ハハッ、相変わらずか突っかかってくるなぁ?俺が、暇してるってことは平和と同義よ」
墓守「ふん、そうですか…。
《息が詰まる。なんで、ワタシはこうも素直になれないでしょうか…》」
薬藤M《ああ、コイツは今日もキレイだ。一目見たときからキレイだと思ってる。……せっかく探して、ここまで休憩しに来たってのに、まったくと言っていいほどに落ち着かねぇ……。》
▼向かい側に腰を下ろした薬藤に対して、墓守の態度はツンケンと素っ気ない。薬藤が、自販機から買った缶のブラックコーヒーを飲み出す。休憩スペースの中に漂う芳ばしく苦い香り。
墓守は、少しだけ寂しさを滲ませた。
小埜路に見栄だと言ったが、ブラックコーヒーを飲めるようになりたいのは、薬藤の存在をなぞっている。
そんな事実、墓守は口が裂けても言えない。
休憩スペースに沈黙が漂う。今日も、薬藤と墓守のひらいてしまった溝が埋まることはない…。
(間)
小埜路M《あれ、そういえば入れ違いで、薬藤中佐がいらっしゃってたな。挨拶せずに過ぎてしまったが……墓守大尉は平気だっただろうか?》
小埜路「というか、今日の業務はあの甘草隠岐の襲来もなく終わったな。……薬に頼らなくて済んだのは、墓守大尉のお陰か…?」
▼ひとりっきりの執務室で、書類の束を前にボヤく。
仕事の鬼であり、苦労人の小埜路 禅治。
彼の受難は今後も続いていく。
がんばれ、若き補佐官!
『イバショとヤクソクゴト。』【分割版】後半部分
〜おしまい〜




