1 悪役令嬢だと気づいた日
美しい金髪。煌めく水面みたいな色の瞳。そして、困ったように胸の前で手を組む仕草。
間違いない、この子、ヒロインだーーー……!
そう思った瞬間、体の奥がカッと熱くなって……
(わ、わたくし……もしかして悪役令嬢っ……)
「…ッ!?シャルロッテ様ッ」
何処か遠くで使用人が呼ぶ声が聞こえた。
シャルロッテ・ウィドリア
薔薇を連想させるような紅色の毛先がくるんとした巻毛に、カナリアイエローの瞳を持つアーベント王国の公爵令嬢。
幼い頃から待遇の良い生活をしてきたがために、かなりワガママな性格をしている。
権力で王太子殿下の婚約者になった少女。
権力という盾がなければただの美しい、特に秀でたところがない少女だ。
なぜここで 【シャルロッテ・ウィドリア】を紹介したのか疑問に思うものもいるだろう。
なぜなら、私が悪役令嬢シャルロッテ・ウィドリアに転生してしまったからである。
前世の私はブラック企業に勤めていた。
入社当初は先輩たちも笑顔で、「これ、やっててあげるから先上がっていいよ」と言ってくれ、かなり充実した生活を送っていたと思う。……そう,最初は。
入社一ヶ月あたりだっただろうか、先輩たちは人が変わったかのように私に仕事を押し付け合い始めた。
毎日夜遅くまで残業をして、それでも終わらなかったら徹夜で頑張ることもしばしば。
だけど、そんな私の唯一の楽しみが乙女ゲームだった。
『少女は今宵,花芽吹く』
平民から貴族になったヒロインが,その才能を開花させながらイケメン貴族子息と恋愛をしていく至って従来の乙女ゲーム。
だけど、ゲーム内容の濃さ イラストの美麗さ かつ、豪華声優陣ということで私はどっぷりと『少女は今宵,花芽吹く』ーーー通称、『コヨハナ』にハマった、全クリしたり,追加コンテンツも課金したほどである。
(シャルロッテに転生したってことは、前世のわたしは死んだ…のかな)
心の中に悲しみ、いや、虚しさが広がる。
「…痛っ」
思わず爪をたててしまったようだ、うっすらと腕には赤い跡がつく。
(でも、もう前世の私じゃない。わたしはシャルロッテ・ウィドリアだ。そして、『コヨハナ』の世界は、ヒロイン至上主義で どのエンディングでも、シャルロッテ・ウィドリアという人物は死ぬ、はずだ……)
怖い,また死んでしまうことが怖い。
ここはゲームじゃない、現実だ。
当然、痛みだってあるし一度起こったことは取り消せない。
今日はゲームの始まりである入学式だ。ヒロインも、攻略対象も存在している。
断罪の卒業式まで,あと三年。
私は死にたくない。
ならー…これからどうする?
答えは、死亡フラグを叩き割ること。
貴族社会に居られなくてもいい、わたしは絶対ヒロイン至上主義のこの世界で生き残ってやる!!