言葉は自然と
両親の離婚。
世の中では割とよくあることだが、自分の両親は周りに見られると少し恥ずかしくなるほど仲がいいので、離婚する関係というのが具体的にはよくわからない。
ただ、子供としてその光景を直接見て、様々なことを決めないといけないのは辛いことだと思う。
浅野 みらいの両親が『数年前に離婚』となると本人が小学5、6年生、または中学1年生の頃である可能性が高い。
離婚の原因が分からないのでなんとも言えないが、心が大人に向けて成長し始めた頃に離婚となると、どうしてよいかなんて簡単には決められないと思う。
もっと小さい時に離婚された方が深く考えることも無いだろうから楽かもしれない。
大人が決めたことに子供は抗えても最後は従うしかない。
みらいが最善を選んでいたとしても、その先にあるのが付いて行った母親の病による入院。
高校1年でこれだけ経験していて、こうして表には一切見せずに生活している彼女は、彼女の心は、どうなってしまっているのだろう。
トントントン…
「失礼しまーす」
現在時刻は13時01分。
今日は珍しく13時前に昼ラッシュが落ち着いたので休憩に入っていた。
いつも通りお昼ご飯にカップ麺を食べていたが、いつのまにか箸を止めて考え事をしてしまっていた。
「どうぞ」
ノックの音でどこかに飛んでいっていた魂が戻ってきた気がする。
俺は、すぐにそのノックに短く一言で返した。
「休憩中すいません」
スタッフルームに入ってきたのは先ほどまで考えていた、浅野 みらいさんだった。
「今日はもう上がり?」
「あ、はい」
「そっか、お疲れ様。退勤のやり方はわかる?」
「最初にオーナーに教えてもらいました」
「じゃ、どうぞ」
うちの出退勤記録は全てスタッフルームにあるパソコンでとっている。
アルバイトとはいえ1年前のオープン当時から働いているためか、俺は簡単な仕事を任せられることがある。
今日も休憩ついでにパソコン作業をしていた俺は、出退勤記録入力画面を表示して少し横にずれた。
俺の横に来た浅野さんは、慣れない手つきで操作を始める。
(なんか…懐かしくていい香りだな…)
浅野さんから漂ってきて匂いは、やさしくてどこか懐かしさを感じられた。
「よし…。賀古先輩、わざわざ避けてもらってすいません」
「あぁ、いいのいいの。それより、初日はどうだった?わかんないことあったら気にせず聞いてね」
「先輩…優しいですね…」
また、あの目をしていた。
どこか虚な目を…
「さすがに慣れない事だらけですけど、仕事ですから頑張ります」
「仕事ですから」…俺みたいなことを言うんだな。
この言葉は、いつも俺が自分を切り替えるときによく使う。
やっぱり、昔どこかで会って話でもしたのだろうか。どうにも思い出せない。
「じゃあ、お先失礼します。明日もよろしくお願いします」
帰り支度を終えた彼女は、小さなカバンをもってこちらに軽く礼をしてくれた。
「うん、お疲れ様。帰り、多分自転車だよね?気をつけてね」
「あ、はい。ありがとうございます…」
やはり、彼女は虚な目をしている。
スタッフルームが彼女が出ようとした途端、心のどこかで俺にダメだと語りかける声が聞こえた気がする。
彼女は、放っておいてはダメだと。
女子と話すのはとても苦手だが、この時はスッと声が出た。
「そうだ、浅野さん。もしよかったら、LINE交換してもらっていい?」
「え…あ…は、はい。いいですよ」
俺から言われると思っていなかったのか、すこし抜けた可愛らしい顔をしていた。
「はい、コードです」
「ありがとね」
画面には愛らしいくまのぬいぐるみのアイコンと「mirai」の名前が映っていた。
正直言うと、家族以外の女子のLINEなんて初めてだから泣きそうです。
「じゃ、お疲れ様です」
俺が感傷に浸っていると浅野さんはすぐに帰ってしまった。
「…ピロリン!」
耳に通知音が届き再び画面を見ると、浅野さんから「よろしく!」とかわいいスタンプが届いていた。
俺も短く返事をすると、またパソコンに向かった。
後日、この日の俺は今までに無いぐらいの笑顔で接客をしていたと聞き恥ずかしくなるのだった…
今回もお読みいただきありがとうございます!
前回の更新からまた空いてしまいましたが、次もこのくらいになるかもなんでお許しを!
この作品は自分のリアルに妄想をぶっ込んだものなんで、リアルでなんかあればめっちゃ進むんすよね。
まあ、気長に次話をお楽しみに!
そんで、良ければTwitterのフォローをよろしくお願いします!
ID:Monty20030131