いつも通り
「で、結局何がしたいんだ?」
まだ桜が残る4月の終わりに、俺と担任は放課後の教室で二者面談を行っていた。
「正直言うと、これといったことはないです。まあ、“それなり”に給料がもらえて休みの日に多少は好きなことができるならそれで」
「はあ、わかった。お前はそこそこ出来るからあんまり文句も言えないしな...ただ、他のやつも成績を上げてきているんだ。このままじゃあ、お前の言う“それなり”は無理だぞ。それじゃあ今日は終わりだ、もう帰れ」
「分かってますよ。じゃあ、失礼しました」
時刻は17時を過ぎたところ。
かれこれ30分以上もたいした内容のない話をしていた。
次の電車までもあまり時間がない。
少し離れたところで活動をしている吹奏楽部の演奏が校舎内に響き渡る中、俺はひとり昇降口まで足を進めた。
靴を履き替え外に出ると、この時期らしい夕方の少し冷たい空気をまとった強い風がいきなり吹き付けてくる。
「寒いな...」
イヤホンでお気に入りの曲を聴きながら、この日の学校生活が終わっていった。
翌日、ゴールデンウィークの初日を迎えた。
たった3年間という短い高校生活の1年目が終了し、はやくも4月すら終わりかけている。
(今日もフルタイムか・・・)
高校に入学してすぐにコンビニでバイトを始めて、丁度1年が経とうとしていた。
始めたころは慣れないながらも頑張っていたが、最近は人手不足による負担増加とバイトに対して少し飽きが生まれてしまったことにより、出勤する朝のこの時間がとても憂鬱なものとなってしまった。
文句を言いながらも休むわけにもいかず、通り慣れた道を素早く自転車で通り過ぎる。
自宅からバイト先までは自転車で約10分程度で、比較的近い方である。
近いのは朝ギリギリまで家で過ごせるので楽なのだが、たまに急に休む人がいると店まで近いため店長からヘルプを頼まれてしまうこともある。
バイト先に着くと、いつも端のほうにある駐輪場の奥側に止める。
しかし、今日は見慣れない可愛らしいピンクのロードバイクが止められていた。
「この時間に自転車のお客さんは珍しいな。仕方ない、隣でいいか…」
自転車を止めてスマホを見ると、画面には《8:47》と映し出されている。
前の人の仕事の引き継ぎや本部やオーナーからの業務連絡を確認するためにいつも始業10分前には来るようにしている。
始業5分前に来る人もいるが、たまによくわからないキャンペーンが知らないうちに始まっていたりするので余裕がないと大変なこともある。
店内に行こうと入り口まで行くと、駐輪場と反対の駐輪場の端に珍しい車が止まっていた。
「オーナーも来てるのか。今日なんかあったかな?」
オーナーは基本的に決まった日の夜にしか来ないので、この時間まで残っているのはあまり見ない。
この時間まで残っているとしたら理由は一つ…
(朝までオーナーがいるとしたら寝てる以外ないんだよな…起こすの面倒だな…)
ゴールデンウィーク初日のバイトがいつも以上の憂鬱で始まることを理解し、少し重めの足取りで店内のスタッフルームまで進む。
「おはようございまーす。オーナー、起きて下さ…あれ?起きてる?」
「おはよー。そんないつも寝てるみたいに言わないでくれるかな」
この時間帯でオーナーが起きてるのを初めて見たかもしれない…
これは驚くべきことだが、俺は他に気になることがあった。
「オーナー、その人は?」
「ああ、この子は『浅野 みらい』さん。新しい子だよ」
オーナーの隣には、少し背が小さめで可愛らしい女の子が立っていた。
「浅野 みらいと言います。よろしくお願いします」
彼女は、少し低めのトーンで俺に挨拶をくれた。
この日から、俺の"いつも通り"で"それなり"な日常が変化していった…
皆さんこんにちは!Montyです。
今までの作品を改め、今回からこの作品で頑張っていきます。
少しずつですが、やりたいこと書きたいことをやっていくのでよろしくお願いします!
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